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スパコン「富岳」で新型コロナの経済打撃を予測  国内160万社の取引データ基に

新型コロナウィルスの感染拡大に伴う経済への打撃を、次世代スーパーコンピューター「富岳」を活用して予測する研究が進められています。理化学研究所などと共同で研究を主導するのが、大学院シミュレーション学研究科の井上寛康准教授です。富岳は2021年度から供用が開始される予定でしたが、新型コロナウィルス対策に貢献する研究や開発に対し、一部が優先的に提供されているのです。井上准教授は過去にも、富岳の前身のスパコン「京」を用いて、南海トラフ地震による経済被害予測などに挑んできました。

首都封鎖2週間で、東日本大震災時に匹敵するダメージ

新型コロナウィルスが猛威を振るい、米国や欧州の主要都市が「ロックダウン」に踏み切った今年3月、井上准教授は仮に東京が封鎖された場合の経済への影響を試算しました。これによると、最悪の場合、2週間の首都封鎖で東日本大震災に匹敵する経済損失をもたらすことが明らかになりました。

試算に用いたのが、東日本大震災を機に作り上げた国内企業の取引関係モデルです。東日本大震災では、被災地の企業が生産を停止したために部材の供給が滞り、被災地外の企業も生産を縮小するケースがありました。そこで、信用調査会社から提供を受けた国内企業160万社分の取引データや震災後のGDPの変化などを基に、仕入れ先が供給を停止した場合に日本のサプライチェーン(商品の原材料調達から製造、販売に至るまでの工程)にどのような影響が生じるかという経済モデルを作り上げたのです。これには膨大な計算が必要で、井上准教授は富岳の前身の「京」を用いて何千回もの調整を行い、日本経済の実態に即したモデルを完成させました。このモデルを用いて、東京にある企業のうち、生活必需産業(卸売り、小売り、電気・ガス・水道、輸送、通信、医療、福祉関係)を除く企業が経済活動を停止した場合、全国の生産活動にどの程度の影響を及ぼすかを推計したのです。

地方の生産減少、東京の2倍に 首都封鎖1か月でGDP5.3%減

東京23区で生活必需産業以外の企業が経済活動を停止させた場合、東京23区の生産額は1か月で9.3兆円減少すると試算されました。しかし東京23区以外の地域ではその2倍の、18.5兆円の減少が予測されたのです。これは東京で部材の供給が途絶えたり、需要が減ったりすれば、サプライチェーンで繋がる地方企業の生産も縮小されるためです。

◆H.Inoue,and Y.Todo,Covid Economics,Issue 2,pp.43-59(2020)◆

この動画は、東京を2週間封鎖した場合に生産減少が地方へどのように波及するかを示したものです。東京の経済活動停止から2週間後には、生産減少が全国に広がることが分かります。減少額は一か月で27.8兆円となり、GDPを5.3%押し下げると試算されました。

 

富岳を用いたシミュレーションでは、緊急事態宣言による経済活動の自粛が今後の日本経済全体に与える影響について、地域や産業ごとに予測し、収束へのシナリオを探ります。井上准教授は「リスクを正確に推計することによって、社会に貢献したい」と話しています。

井上寛康(いのうえ・ひろやす) 大学院シミュレーション学研究科准教授

「これまでに誰も取り組んだことがないようなスケールの大きなことがやりたい」と、スーパーコンピューターを用いた経済予測に挑む。京を用いて企業の取引関係モデルを作り上げる作業には、現実に限りなく近づけるべく調整に一年以上を費やした。

専門はネットワーク科学。例えば、人々をあっと驚かせるような発明は個人の能力によるものと捉えるのではなく、その人を取り巻く人と人とのつながり(チーム)が生み出した成果と捉え、特許データを基に「どのようなチームがより大きな発見を生み出す可能性があるか」を解き明かす。サッカーの位置情報データを基に、チームが体現している戦略を機械的に明らかにしようとする研究にも取り組むが、いつか試合中の個々の選手の動きをシミュレーションして、仮想的に対戦させてみたいと考えている。

 

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