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「野生動物の保全と管理の最前線」2025年度兵庫県森林動物研究センターシンポジウムに兵庫県立大学自然・環境科学研究所の教員が登壇しました

2月22日(日)、オンラインで兵庫県森林動物研究センター主催・本学共催の「2025年度兵庫県森林動物研究センターシンポジウム 野生動物の保全と管理の最前線」が開催されました。

 

人と野生動物の調和した世界の実現をめざして-兵庫県森林動物研究センター

兵庫県森林動物研究センター(兵庫県丹波市)は、シカやイノシシ、サルなどの野生動物による農林業被害や、ツキノワグマによる人身事故の発生不安などの生活被害を解消し、地域の実情に合致した実現可能性の高い方策を開発するとともに、地域個体群の遺伝的多様性が損なわれている場合には、保全の方策も明らかにするなどして、人と野生動物が調和した世界を実現することを目的に、霊長類学の世界的権威である故・河合雅雄先生を初代所長として2007年に兵庫県により設立されました。
兵庫県では、同センター設立以来、科学的な調査研究に基づいて、「個体数管理」「生息地管理」「被害管理」の3つのアプローチにより、野生動物の保全と管理(ワイルドライフ・マネジメント)を推進しており、兵庫県立大学自然・環境科学研究所(森林動物系)に所属する教員が同センターの研究員を兼務して、野生動物の生態や獣害対策に関する調査・研究をはじめ、調査・研究の成果や現場対応の実績に基づいた行政の施策立案支援、被害発生現場での対応、人材育成、普及活動等を行っています。

 

野生動物と人の軋轢問題や共存のあり方を考える

本シンポジウムでは、兵庫県におけるクマ・シカ・サルなどの野生動物の管理にまつわる最新の科学的知見を取り上げつつ、近年分布拡大・密度増加している野生動物に関する各種問題点と、問題解決に向けた今後の挑戦について提示するなど、専門分野が異なる4名の研究員がさまざまな角度から話題提供しました。

はじめに、東京農工大学名誉教授で同センターの梶光一所長から、開会の挨拶と趣旨説明がありました。梶所長は「昨年度のシンポジウムの申込者数は410名で過去最高だった。今年度は、3連休の中日であるにも関わらず、さらに上回る440名の方にお申し込みいただいた。昨今、クマの居住地への侵入や人身被害が頻発し、連日のようにマスコミで報道され、野生動物と人の軋轢問題や共存の在り方について関心が高まったことが背景にあるように思う。また、海外でも、日本でのクマによる人身事故について、高い関心を持たれているようである。このシンポジウムが、里山や人里に加え、居住地にまで拡大した野生動物と人との軋轢の軽減や共存に向けて、皆様の参考となることを願っている」と述べました。

 

「都市に侵出する野生動物たち」

研究発表では、まず、景観生態学を専門とし、主に外来哺乳類の農業や在来生態系への影響等に関する研究をしている自然・環境科学研究所准教授で同センターの栗山武夫主任研究員が「都市に侵出する野生動物たち」と題し、都市部に侵出しているイノシシ・アライグマ・シカの現状について紹介しました。
栗山主任研究員は、「野生動物の市街地出没については、当センターではこれまで主に六甲山周辺に生息するイノシシへの餌付けや市街地出没による人身事故などの問題を扱ってきた。しかし、六甲山周辺地域にイノシシだけでなく、アライグマやシカなどの哺乳類が定着する状態になってきた。さらに、六甲山周辺以外の地域の市街地にも、これらの哺乳類が出没する状況になっている。その中で、何の動物が、どこに、どの程度出没しているのかの変化が整理されていなかったので、経年的な傾向を把握するために2011年から2023年にかけて年1回、約4000の都市部の集落代表者を対象に、イノシシ・アライグマ・シカの都市地域の分布・出没に関するアンケート調査を実施した。それにより、市街地周辺で哺乳類が12年の間にどのように増えてきたのか。また、その対策がどのように進展してきたのか、あるいは進展しないのか等が見えてきた」と話しました。

アンケート調査の結果および考察については、「イノシシは3割以上の集落で出没、シカはイノシシよりやや少ない3割弱、アライグマについては半数以上の集落で出没が確認されており、相当なペースで分布拡大が進んでいる。最近の研究からは、都市内で行われている緑地創出・エコロジカルネットワークの取組によって生物多様性が高められた結果、皮肉なことに外来種や大型哺乳類も都市周辺あるいは内部まで入ってきていることが確認されている。また、哺乳類の侵出を防ぐための防護柵の設置、出没時の捕獲などの対策は、年々増加傾向ではあるが、改善の余地がある。加えて、野生動物が増えると、動物由来感染症や人身・交通事故の増加が懸念され、すでにこうしたことが起きている地域もあり、今後、十分に注意しなければならない課題であると思っている。一方で、一部の地域では防護柵の設置が進み、出没が徐々に減少している地域もあるので、今後、どのくらい捕獲しているのかについて調査し、モデル地域にしていきたいと考えている」などと話しました。

 

「野生動物オスの長距離移動-バイオロギングGPSで見えた長距離移動」

続いて、野生動物医学を専門とし、主に個体群の健全性診断や保全対策に関する研究をしている自然・環境科学研究所准教授で同センターの森光由樹主任研究員が「野生動物オスの長距離移動-バイオロギングGPSで見えた長距離移動」と題し、ニホンザル・ツキノワグマ・二ホンジカの長距離の移動実例と、その生態的な意味および個体管理数について紹介しました。
はじめに森光主任研究員は、自身が行った研究方法とその結果について取り上げ、「ニホンザル・ツキノワグマ・二ホンジカのオスの実際の移動ルートと距離を、バイオロギングGPSを使用して検証・解析した。サル12個体、クマ12個体、シカ4個体の首の下に、これらの動物用に開発・製作した超小型カメラ付きのGPSを装着した。その結果、ニホンザルの移動距離は最大105.3km、最小2.7km、平均24.5km、ツキノワグマは最大52.3km、最小15.7km、平均20.5km、二ホンジカは最大32.3km、最小5.7km、平均15.8km(いずれも直線距離)であった」と説明しました。

※バイオロギングGPS…陸や海の野生動物の行動生態を把握するために、野生動物に取り付けてデータを記録・取得するGPS機能付きの小型の発信機。

これらの成獣オスが移動する理由について、「まず1つめには『個体群をつなぐこと』、2つめに『遺伝的交流・多様性の保持』が考えられている。移動は、個体群をつなぐための自然のメカニズムであると理解できる。成獣オスが移動した結果、どうなったのかを調査するツールとしてDNAがある。DNAを調べることで、ある程度、その集団間での移動を把握することができる。DNA調査の結果、兵庫県内の二ホンザルについては交流が進んでいると考えられる。ツキノワグマについては、詳細な検証が今後必要だが、オスの移動が多様性の維持に関与している可能性が示唆される。二ホンジカは分析しておらず、オスの移動による影響かどうなのかも追い切れていないが、過去の先行研究によると、兵庫県の場合は遺伝的交流・多様性は高いと考えられる」とし、「移動は野生動物の自然な行動であるが、これは市街地出没などの被害につながり、さまざまな弊害が生じることになるので、野生動物の移動に関する管理も重要になると考えている。そのため、科学的なデータに基づき、『どこまでを1つの個体群として扱うのか』について検討が必要である。オスの移動は、管理を難しくする現象ではなく、管理をさらに進める基盤情報であると理解している」と述べました。

※個体群…ある地域における同種の生物個体の集団の群れのこと。生態学上、最も重要な基礎単位とされている。

 

「クマは繁殖力が弱いってホント?」

野生動物保護管理学を専門とし、主に個体群の栄養生理やリスク・マネジメントに関する研究をしている自然・環境科学研究所教授で同センターの横山真弓研究部長は「クマは繁殖力が弱いってホント?」と題し、通説ではシカやイノシシとは異なって繁殖力が弱いとされていたツキノワグマが持つ「着床遅延」という繁殖特性をはじめ、最近明らかになった繁殖実態について紹介しました。
横山研究部長は、ツキノワグマの繁殖サイクルと繁殖特性について、「クマは初夏にかけて交尾する。この時点で受精卵が作られるわけだが、クマの場合は受精卵がそのまま着床せずに、5か月ほど生きた状態で子宮内を浮遊する『着床遅延』という非常にユニークな繁殖特性を持っており、冬眠入りのタイミングで条件が揃えば着床する。妊娠期間は2か月と言われ、冬眠中に出産して、飲まず食わずで授乳すると言われている。子グマが満1歳(数えの2歳)になった段階で、大体5・6月に『子別れ』をし、子グマが離れた段階で次の繁殖が可能になると言われている。そのため、出没のピークの1つに、この子別れ直後、あるいは交尾行動をとるオスが非常に大きく動き回る6月以降に出没が増える現象がある。さらにメスは、冬眠して自分が生き残るためと、出産・授乳をするために多くのエネルギーを体脂肪として蓄積する必要があるため、ホルモンの影響も加わって、通常期とは全く異なるレベルの食欲が秋季に起こる。そのため、秋にクマが大量に出没する現象が発生する」と説明しました。

また、クマの個体数と繁殖の関係については、「兵庫県ではツキノワグマの生息数が700頭から800頭程度に保てるよう個体数管理を行っており、モニタリングデータをもとに毎年生息数や増加率を推定している。増加率は、毎年大体15%と算出されているので、仮に700頭生息しているとしたら毎年大体105頭増えているという試算が出る」と説明し、「本日、『クマの繁殖力が弱いというのは本当なのか』ということでお話ししてきたが、個体数が少なく、生息環境が回復していなかった時代は、メスのコンディションが整わずに出産にこぎつけるのが難しかった。ただし、今は個体数が増加し、オスとメスが出会う機会も増加している。森林飽和と呼ばれる令和の時代では、食物資源が良好な年には繁殖に成功する個体が多いと考えた方が良いのではないかと思っている。環境によって繁殖を調整する能力があるので、現状では増えやすい状況にあり、今のクマは決して繁殖力が弱くないとの結論を持っている」と話しました。

 

「クマの出没対応体制のちがい・その影響」

農村計画学、被害管理を専門とし、主に被害対策や捕獲手法に関する実証的研究をしている自然・環境科学研究所教授で同センターの山端直人主任研究員は「クマの出没対応体制のちがい・その影響~市町村へのインタビューと質的分析による政策の評価~」と題し、クマ出没時の対応体制について、クマの出没が多い6府県のクマ対応部局担当者と、その基礎自治体である15の市町村のクマ対応担当者にインタビュー調査を実施し、各府県のクマに対する体制や人材配置が、市町村にどのような影響を与えているかを調べ、その結果に基づいて、専門的人材配置や体制整備の重要性について紹介しました。
山端主任研究員は冒頭で、「昨今報道されているように、クマの出没とそれによる人身事故が増加しており、社会問題化している。こうした背景から、『クマ対策のための人材を』との議論が各地で起こっており、特に、広域自治体である都道府県に人材を配置するべきとの議論がなされている。これはクマに限らず、他の野生動物問題にも当てはまると思う。現在、日本ではクマ出没時にきちんと対応できる人材が配置されている都道府県とそうでないところがある」と説明しました。

※基礎自治体…地域住民に直接接し、身近な行政サービスを提供している市町村のこと。都道府県は国と市町村の中間に位置し、市町村の区域を越える事務等を所管する広域自治体としての役割を担っている。

さらに、山端主任研究員は「兵庫県ではクマが出没した際の対応として、市街地や住宅街への出没、捕獲、そして、そのときの現場の処理だけでなく、住民対応や市町村の支援も実施している。私自身はこうした業務を担っていないが、県の担当者の方々の仕事の様子を傍から見ていて感じることは、困難が伴う仕事である割に評価がされにくいのではないかと思っている」と指摘した上で、「インタビュー調査の結果、『都道府県のクマ対応専門人材の配置』に対する基礎自治体の評価の差は非常に大きいものがある。都道府県に人材配置がある市町村では、都道府県への信頼が向上している一方で、人材配置がないところでは、基礎自治体の担当者の中で孤立感や不安感が大きくなっており、結果的に都道府県への信頼を喪失しているので、やはり、専門的人材の配置は非常に重要な政策として今後強く推進していかないといけないのではないかと思っている。加えて、配置する人材については、クマの調査や研究だけでなく、現場対応や市町村職員の支援といった社会教育の能力も求められており、こうした人材を配置する政策に舵を切るべきではないか」と提言しました。

 

4件の研究発表後に行われた質疑応答では、参加者の方々から「ツキノワグマが現在よりもさらに兵庫県南部の方まで南下してくる恐れはないか」「クマ対応の専門的人材の配置の必要性は全国の自治体で認知されているのか」など、多くの質問やコメントが寄せられました。

 

最後に、国立科学博物館顧問で同センターの林良博名誉所長が講評およびコメントし、「マスコミは、野生動物の出没について報道する際に、人身事故に特化する傾向があるが、本日のシンポジウムでは、国内の野生動物たちがどのような行動をし、どのような習性を持っているのか。また、野生動物たちの分布拡大をどのように食い止めていくのか等について、参加者の方々にお伝えできたのではないかと期待している」と述べ、シンポジウムを締めくくりました。

 

本記事でご紹介しました2025年度兵庫県森林動物研究センターシンポジウム「野生動物の保全と管理の最前線」のアーカイブ配信を下記のリンク先にてご覧いただけます。

https://www.youtube.com/live/K8eGYYcPzWs

 

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