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「臨床現場・生活の場に直接届くことを意識した研究を」兵庫県立大学先端医療工学研究所 第22回医療工学連携セミナーを開催しました

7月29日(水)、オンラインおよび兵庫県立大学先端医療工学研究所(AMERI)において、第22回医療工学連携セミナーを開催しました。

本研究所は、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの開院に合わせて2022年4月に同センターの敷地内に開設して以来、臨床現場に隣接した環境を活かし、医師をはじめとした医療従事者の方々のニーズと、本学が有する工学、理学、看護学、環境人間学、情報科学の分野の知見・技術シーズを結び付け、医産学連携による医療関連機器やデジタルヘルスなどの研究開発等を推進してきました。そして、開設5年目を迎えた今年4月から、研究所の体制をより明確化し、機動性を向上させることを目的に3部門制から専門領域に応じた5部門制(医療システム工学部門、バイオ分析部門、医療AI部門、看護介護部門、食栄養部門)に再編しました。

先端医療工学研究所は、兵庫県立はりま姫路総合医療センター教育研修棟内にある

 

また、本研究所では、開設当初から兵庫県立はりま姫路総合医療センターおよび一般社団法人日本医工ものづくりコモンズとの共催で、医療工学連携セミナーを開催してきました。22回目の開催となる今回は、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの医療従事者の方々をはじめ、医療関連企業や工学関連企業、医療・看護系大学の関係者など一般の方々も対象として開催され、本研究所5部門のシーズ紹介と見学会が行われました。

 

セミナーの様子

はじめに、今年4月に本研究所の所長に就任した本研究所教授の藤田孝之所長が開会の挨拶をしました。藤田所長は「先端医療工学研究所は、兵庫県立はりま姫路総合医療センターと同時にできた研究所で、今年度から5年目に入った。この4年間は小橋昌司前所長のもと、本学の各学部から医療ヘルスケア機器や看護介護、食栄養の分野といったさまざまな分野の教員に参加いただいて、いろいろな取組が行われてきた。その中で、本研究所は同センターと共同研究をさせていただいており、4年間でのべ20件行われ、現在も新規を含めて7件が継続中である」とこれまでの取組を紹介した上で、「今期からは専門性と機動性を一層向上させるために、また、外部から見たときに『何をしているのか』が分かりやすくなるように医療ヘルスケア機器の分野を細分化して5部門制にした。本日は、新たに部門長に就任した教員から各部門が持つシーズを紹介させていただく。われわれとしては、臨床現場のみなさんからニーズをいただいたら、解決に向けてのアイデアを何らかの形でご提供できると考えている。研究所には30名程度の教員が所属しているが、専属という形では随時2名の教員がいるので、いつでもご相談いただきたい」と述べました。

 

ソフトとハードを融合し臨床現場の実用的解決へ-医療システム工学部門

まず、工学研究科教授で本研究所副所長兼医療システム工学部門の長宗高樹部門長が医療システム工学部門について紹介しました。長宗部門長は「本部門では臨床現場が有する課題の実用的解決をめざし、ソフトとハードを融合させて臨床で使えるシステムや医療機器の開発を行っている。設計・安全性評価・臨床検証までを一貫して実施し、組込みハードや機械設計、センサ技術、リアルタイム制御、機械学習を横断的に統合して実証することから、機械工学分野の教員が多く配置されており、それ以外にも、センサを扱う電気電子分野や情報を扱う知能情報分野の教員が参画している」と紹介しました。また、シーズの具体例としては、5件の研究を取り上げて紹介し、「技術を『現場のみなさんの声』で磨き、実証から社会実装につなげることで、患者と医療者の負担を減らす未来を企業と共創するとともに、QOL向上と持続可能な医療体制の実現をめざしたい」と述べました。
※QOL(Quality of Life)…「生活の質」「人生の質」を意味し、個々人が生きる上でどれほど満足感・充実感を得られているかを示す指標または認識のこと。

 

セミナー内で紹介したシーズ例
・画像による手術器械の自動同定システムの開発(長宗高樹部門長)
・データ駆動によるパーソナライズ運動制御システム(佐藤孝雄教授)
・新型医療用マスク開発(高垣直尚教授・石橋衣理氏・上田敦也氏・本田逸郎特任教授・河南治教授)
・膝蓋骨骨折に対するひまわり法の有効性の評価(比嘉昌教授)
・静電容量式アレイセンサによる自己抜去検知システム(藤田孝之所長・小橋昌司教授)

 

細胞をベースに、治療に貢献できるものづくり-バイオ分析部門

次に、理学研究科准教授で本研究所バイオ分析部門の鈴木雅登部門長がバイオ分析部門について紹介しました。鈴木部門長は「私たちの研究の主なターゲットは細胞である。健康の大元となるものは細胞で、病気は細胞や細胞を構成するタンパク質の不調から始まると考えられている。また、私たちの体には270から300種類の約40兆弱の細胞がいると言われており、この300種類の細胞の中から病気の元となる細胞や、逆に医薬品を作れるような細胞を効率的に見つけるなど、臨床現場への実装を考えながら研究を行っている。本部門は大きく3つのグループから構成され、細胞のどの部分を扱うかにより分かれている。細胞を構成する設計図であるDNAの網羅的な分析技術を有し、情報学的アプローチから研究を行う郷康広教授のグループ、細胞の構造を超精密に見ることのできる電子顕微鏡等を所有し、『形や構造を研究する』というアプローチから細胞の分析を行っている宮澤淳夫教授と西野有里准教授らのグループ、そして、細胞の情報や構造からどのような機能、例えば、医薬品の元となるタンパク質を分泌する、あるいは、がん細胞を死滅させるといった機能を発現させるための方法を高感度かつ簡単迅速に分析する方法をつくる研究を行っている安川智之教授と私と磯崎勇志助教の3人からなるグループがある」などと述べ、各グループで行っている研究内容を紹介しました。

 

セミナー内で紹介したシーズ例
・抗体産生細胞の非破壊分析と回収・培養(鈴木雅登部門長)
・クライオSEM/TEMを使った含水試料の観察(宮澤淳夫教授・西野有里准教授)
・バイオデータ駆動型の精神神経疾患研究(郷康広教授)

 

病を克服しようとしている患者の力に-医療AI部門

続いて、本研究所准教授で医療AI部門の八木直美部門長が医療AI部門について紹介しました。八木部門長は「本部門の最大のミッションは医療工学とAIを融合させて、安心で質の高い医療ヘルスケアシステムを社会実装することであると考えている。私たちが開発しているものは単なる『実験室レベルのもの』ではなく、AIを駆使した革新的な診断技術であり、その技術を臨床現場で実際に使える形へと展開していくことをめざしている。そのためには、企業と病院との強固なパートナーシップが不可欠である。大学側が持つ最先端のAI技術や研究の知見を、企業が持つ製品化のノウハウと掛け合わせることによって臨床現場が抱える複雑な課題を解決し、未来のヘルスケア産業の発展をともに牽引していきたい」と述べ、シーズの具体例として10件の研究を取り上げて紹介しました。
最後に八木部門長は「私たちが開発しているAI技術は、研究所の中だけで完成するものではない。真にその価値を生む場所は臨床現場である。しかし、それを実現するには社会実装の力が必要である。皆様には、臨床現場の課題解決をはじめ、病を克服しようとしている患者のみなさんの元気の向上という究極の目標の実現をともにめざすパートナーとして、お力添えをいただきたい」と呼びかけました。

 

セミナー内で紹介したシーズ例
・iNPH(特発性正常圧水頭症)VS PSP(進行性核上性麻痺)鑑別診断~AIで“治療できる認知症”を見逃さない~(小橋昌司教授)
・超早産児BPD(気管支肺異形成症)の早期リスク層別化~胸部X線を用いた画像ベース予測~(小橋昌司教授)
・下顎智歯埋伏の自動角度計測~パノラマX線によるWinter分類の定量化~(小橋昌司教授)
・持続性心房細動治療支援(原口亮教授)
・画像からレポートまでAIが繋ぐ脳卒中救急(ラシド イサム教授)
・脳腫瘍MRI診断の自動レポート生成(ラシド イサム教授)
・個別化経頭蓋磁気刺激のための統合型深層学習モデル(ラシド イサム教授)
・分散型医療環境における効率的かつプライバシーを保護するLMMモデル(ラシド イサム教授)
・3つの客観的指標による簡易フレイル評価 心臓手術後の中期予後予測(八木直美准教授・小橋昌司教授)
・AIによる卵細胞の高精度セグメンテーション 不妊治療の客観的評価基盤の構築(入江穂乃香助教・八木直美准教授)

 

臨床実践と工学技術の橋渡しをする役割-看護介護部門

続いて、看護学部准教授で看護介護部門の小野博史部門長が看護介護部門について紹介しました。小野部門長は「本部門は、医療工学の観点からいくと医療従事者側に立つ部門になる。医療というものは、臨床現場で生じる人と人との関係性の中で完結するようなものが多く、例えば、工学的なもの、あるいは客観的な指標がその中に入って、メカニカルに物事を分析したり判断するといったことは、これまであまり行われてこなかったところがある。看護師の熟練した経験や判断、価値といった数値化が難しい事象を可視化・構造化して分析できる形にし、その上でICTやAI技術と結びつけてプログラムへと変換して現場に還元する形で社会実装していきたいと考えている」と説明しました。また、シーズの具体例として6件の研究を取り上げて紹介し、「多分野連携の形で発揮できる本部門の強みについては、1つは臨床現場で生じる問題を研究課題へと変換することと、2つ目に人的な営みとしての文脈や背景を研究設計に反映させること、3つ目に臨床的に意味のある研究アウトカム(結果)を設定することにあると考えており、これらの強みを活かして、臨床実践と工学技術の橋渡しを行っていきたいと考えている」と述べました。

 

セミナー内で紹介したシーズ例
・ICTを活用した看護実践モデル開発(坂下玲子副学長・撫養真紀子教授)
・看護実践に必要な看護叙述記録の明確化と自動抽出・自動構造化システムの開発(新居学准教授・坂下玲子副学長・中西永子講師)
・がん患者の意思決定構造に応じた情報提供システムの開発(川崎優子教授)
・肥満児童、高齢者の介護予防、障害者福祉に関する研究(内田勇人副学長)
・小児医療人材育成プログラムの開発(本田順子教授・忍頂寺毅史氏 他)
・臨床看護師を対象とした対話的リフレクション現任教育プログラムの実装と効果検証(小野博史准教授・本田順子教授)

 

健康増進、疾病予防に欠かせない食・栄養面から医療に貢献-食栄養部門

環境人間学部教授で食栄養部門の伊藤美紀子部門長が食栄養部門について紹介しました。伊藤部門長は「本部門では、代謝物の網羅的解析や生体モニタリングなどの最新技術を使用したプレシジョン栄養学(個別化栄養学)による、新しい栄養療法につながるエビデンスの蓄積と実践をはじめ、食品の物性やテクスチャーなどの科学的な解析および咀嚼状況の評価を合わせることで、新しい食の開発や食支援プログラムの開発を行っている。メンバーは医師や管理栄養士の免許を有する教員で構成されており、栄養学の観点から医療に貢献したいとの思いを持つさまざまな研究分野の教員が集っている。大きく2つのグループからなり、食品の開発に関する研究をしている教員と、栄養に関する研究をしている教員に分かれる」と説明しました。併せて、シーズの具体例として7件の研究内容を紹介し、「興味のある研究があれば、ぜひご連絡をいただきたい」と参加者に向けて呼びかけました。
※プレシジョン栄養学…個々人のその時々の状態に応じて、AI技術により最適な栄養やプログラムを解析し提案するもの。

 

セミナー内で紹介したシーズ例
・オーラルフレイル予防を目指した食品の開発(吉村美紀教授・島田良子助教)
・生活習慣病予防を目的としたレジスタントスターチ混合系食品の開発(島田良子助教・吉村美紀教授)
・フレイルやサルコペニアの予防に役立つ間食の開発(坂本薫教授)
・朝食摂取習慣がない女子大学生における朝食摂取が自覚症状および知的作業能力に及ぼす影響(中出麻紀子教授)
・代謝物を用いた新規栄養療法の開発(吉田優教授)
・リフィーディングシンドローム発症メカニズムの解明と新規栄養療法の開発(田中更沙助教・伊藤美紀子教授)
・疾患の予防と改善を目指した栄養学的基礎研究、調査、介入研究(伊藤美紀子教授・田中更沙助教)

 

見学会

シーズ紹介後には見学会が行われ、参加者の方々は医療システム工学部門やバイオ分析部門の実験室をはじめ、医産学看の連携を推進し、メディカル・ヘルスケア領域の創出をめざすイノベーションサロンなどを見学しました。

 

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