写真左から、乾 美紀 学長特別補佐、太田 勲 学長、坂下 玲子 副学長
「兵庫県立大学が目指すダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)」をテーマに座談会を行い、本学の太田勲学長、坂下玲子副学長、乾美紀学長特別補佐にそれぞれの思いを語ってもらいました。
乾 : 本日の座談会テーマは、「兵庫県立大学が目指すD&I」です。今関心が高まっている話題ですので、太田学長、坂下副学長にお話をお伺いしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
夏のオリンピックでは、「多様性と調和」が一つのコンセプトにされており、大坂なおみ選手が聖火の最終ランナーを務めたり、歌手のMISHAさんがLGBTQ+を象徴する虹色のドレスを着て国歌を歌ったりしたことが印象に残りました。パラリンピックでは、参加者の素晴らしいパフォーマンスと物事を前に動かす力に感動しました。太田学長と坂下副学長はどのように感じられましたか。
太田 : 今大坂なおみ選手の話が出ましたが、かつて兵庫県には県下の大学生約500名が豪華客船に乗って勉強しながら、一か月間中国から東南アジア、オーストラリアなどを訪問する「大学洋上セミナーひょうご」というものがありました。2000年当時の姫路工業大学が当番校となり、たまたま私はその時学生部長をしていたので、教務主任として1か月学生と一緒に船に乗った経験があります。オーストラリアのパースでは、カーティン工科大学(今はカーティン大学)に学生と訪れ、先住民のアボリジニの方々に会いました。伝統の踊りを披露してくださり、今まで大切にしてきた文化や迫害の歴史などについてお話いただきました。日本には、確か9月10日に船で帰国したのですが、その年の9月15日に開幕されたシドニーオリンピックにて、最終聖火ランナーとして点火したのはキャシー・フリーマンというアボリジニの女性で、400メートルで金メダルを獲った選手でした。船で一緒に回った学生も、アボリジニの歴史などを認識した上で、日本でオリンピックを見て色々と思うところがあったのではと思います。今回の大会では、一番肝となっていることを具現化したのではないでしょうか。パラリンピックについては、障害があったとしても、様々な可能性があり、色々な力を発揮できることが示され、とても感動しました。
乾 : シドニーオリンピックの時と比較すると、今はLGBTQ+の方々が主張をするようになったこと、また、昔は自分の背景や特性を隠す場合もありましたが、それがなくなったことは大きな変化だと感じます。
坂下 : 今までパラリンピックは、健常者の競技レベルに追い付けという形に見えましたが、一皮むけて、今回は義足のアスリートたちもかっこよかったし、アートとテクノロジーの力を上手く活用しており、ありのままでかっこいい方に振り切れた大会だったと思います。義足のファッションモデルも多く出てきており、その姿自体がかっこいいという印象です。テクノロジーの力をどんどん展開していく可能性を見せてもらえた大会だと感じました。また、SDGsとインクルーシブは繋がっていますが、色々なところでSDGsが取り上げられるようになっているので、D&Iにさらに注目が集まってきていると思います。自分たちの生きている環境を大切にしようという気持ちとともに、仲間を大切にしようという気持ちも高まっていると嬉しいなと思います。現在大学では色々な活動をしているため、そこに根ざして新しい世代が育ってくれることを期待します。
乾 : 環境人間学部でも今年度、学部パンフレットにおいてSDGsに関連する教員の取組を掲載しました。
坂下 : 私は明石市のSDGs推進審議会の委員長を務めています。議論を行う中で、当事者に参加していただき、工夫をすることで市民にも伝えやすくなる、それこそ、インクルージョンだと思っています。当事者の方に参画していただき、意見を聞かないとインクルージョンは難しいです。
乾 : オリンピック・パラリンピックでは多様性の縮図を見ることができましたが、大学の中はいかがでしょうか。大学も社会の縮図で、留学生がいますし性別に違和感を持つ学生や障害のある学生もいることに気づきます。
本学も昨年から「D&I」を推進することになりましたが、大学で「D&I」を推進しようとされた動機は何だったのでしょうか。
私は、1990年代にアメリカの高校で日本語教師として教えていた時に、同じクラスの中でも、空爆を受けて目や耳が不自由になった難民の子や移民の子など、色んな子がいたのですが、自然に溶け込んでおり、クラスメートも自然に接して、違ってみんな当たり前という雰囲気があったことが非常に印象的でした。
太田学長いかがですか。
太田 : もともとは男女共同参画を推進し、性差による問題を解決しないといけないと考えていました。日本の社会は一色で歴史的に民族の多様性は少ないのですが、昔は統治のために作られた差別意識が常にあるような社会があったと思います。また、私は戦後の混乱期に幼少時代を過ごしましたが、中国大陸出身者や朝鮮半島出身者などに対する差別意識が色濃くあったように思います。歴史的な事実だけを見たら分からないですが、もともとあった差別に加えて、戦後日本に残ってしまった他の国の方々への差別がありました。
先程アボリジニの話をしましたが、ほんの50年程前までオーストラリアでは、白豪主義によりアボリジニへの迫害が続いており、人間としてすら扱われないような時代もありました。(私には)差別するという考えがどうも馴染まないという思いはもともとあったのです。
男女共同参画を進めていく中で、ダイバーシティ&インクルージョンが世間で言われるようになってきました。本学は多くの留学生を受け入れています。多様性の中でないと新しい文化の創造や創造的な学問の発展はなかなか難しいと考えていることもあって、国際商経学部GBC(グローバルビジネスコース)の留学生も世界中の様々な国(約20か国)から受け入れており、将来それが必ず生きてくると思っています。性的少数者や障害を持った方々など、それぞれ個性があって、その中で自分の力を発揮できる、そういうお互いを認めあえるような文化でないといけません。
太田 : 以前から、学内で男女共同参画は今の時代古いため、ダイバーシティに移行しないといけないという話があり、昨年度末に改めて協議した際に、インクルージョンも入れないといけない、やはりみんなを包摂する、それぞれを尊重することが大切であるという話になりました。そこで、そのような思いがある人を学長特別補佐に任命しようということになり、環境人間学部の乾先生にお願いしたんです。宣言もなかなかいいものができたと思っています。
まず、意識啓発。そのような問題が世界にあるということをしっかり意識することが大切。二つ目は人材育成。インクルージョンマインドを醸成する必要があります。どういう活動をしたらよいか、自分はどう考えたらよいか、他人にどのようにその考えを伝えたらよいか、そういう意識を持った人がどんどん増えていけば全体がそのような文化になります。そういう教育は非常に重要、どのように人材を育成するか、方法としては、学生グループを作るほか、教養教育をしっかりやっていかないといけないと思っています。歴史等、正面から見たものを、先生が真実とともに色々な考え方を学生に教えていくことが重要。教養教育が結局はそこに行きつくのではないかと思っています。そういうことをやってくださる先生を増やしていかないといけないですね。
三つ目は、研究資金。今年度も研究活動表彰を行い、最優秀研究活動賞を二人の外国人教員に贈りました。不利な立場にある先生の支援、例えば女性研究者支援等を視野に入れて進めていくほか、障害のある方が研究をやっている場合も支援をしていかないといけないと考えています。研究者支援に連動するものが教育・研究と日常生活を相互に活かすシナジー。色々なライフワークがありますが、そういうものも上手くモチベーションにして研究に生かしていけるような状況にし、余裕を持てるような環境の保証を考えないといけないと思っています。多くの人がそういう考えを持っていけば、議論が深まるのではないでしょうか。意識を啓蒙するという意味でも、外から見て見えるような、何かシンボリックなことをやっていった方がよいですね。
坂下 : 大学がD&Iに力を入れていることを伝えるためには、目に見えるところで変わっていくことが重要ではないでしょうか。
太田 : 工学部は、女子学生が少ないため、既に女子学生に向けた特別推薦を行っています。
乾 :そもそも理系の女性研究者が少ないですよね。
坂下 : 育てていくという方が現実的なのかなと思います。外から探してこようとするとどうしても無理をしてしまうため、今いる方に育っていただく方向性がよい、そのための支援制度に取り組んでいるところです。
乾 : 今後、大学としてD&Iをどう推進していこうか、というのは先程学長もおっしゃったとおり、教養教育というのが良いと思います。
坂下 : 「Diversity&Equity&Inclusion」という、みんなが平等に含まれていくという考え方は普遍的ですし、学生が身につけてほしい、それこそ国境を越えていくためには理解してもらうことが大切です。そういった科目等をたてられたらいいですね。
乾 : 現在、学生が主体となって、学生のインクルーシブマインドを育成し、ダイバーシティ推進を実施していく取り組みを進めつつあります。例えば女子学生のキャリア形成や育児と仕事の両立につながるワークショップ(赤ちゃん先生)、LGBTQ+の当事者を大学に呼んで座談会をしようと考えているところです。そのほか、現在は教育を受けた後、仕事を続けている女性が多いですので、男子学生の意識も変えていかないといけない、結婚した時にどうやって家事や育児をシェアしていくかを考えてもらうワークショップを11月と12月に開催する予定です。学生のインクルーシブマインドを作っていければと思っています。
坂下 :同じ人間であるということを実感できることが一番大切ですね。
乾 :そうですね。学長は、どのような取組が良いと思われますか。
太田 : 先程も言ったように教養教育をしっかりしないといけないと思います。そうするとひとりでにダイバーシティ&インクルージョンという意識が染みつきます。こういうテーマに色濃く関連する講義を作っていけたら。
坂下 : 将来的には、該当する科目等を履修した、何かしらの証明が出ると、就職の際に有利になり、学生の学ぶインセンティブが高まるかと思います。
乾 : ダイバーシティの意識が浸透すればするほど、きっと大学の雰囲気も変わってくるのではないでしょうか。
坂下 :ダイバーシティがない組織は発展しないですよね。
乾 :学生も社会に出たときに人の多様性というのは避けられないかと思います。
坂下 : やはりそういうことを身につけられているかどうかで、人生も大きく変わってくるのではないでしょうか。世界を渡っていくパスポートと思います。
太田 : D&Iをどんどん広げていかないと。本学で一定の成果があがってきたら、高校へ行って一度高校生にも話をしないといけないと思っています。
乾 : 上手く体系化して、教育カリキュラムにも取り込んでいけたらいいですね。
COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.