本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。
11月17日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、地域資源マネジメント研究科の矢ケ﨑 太洋(やがさき たいよう)講師です。
今回のテーマは、「地域を歩き、地図を描き、地域を科学する」
矢ケ﨑講師の専門は、「人文地理学」です。
地域資源を活用して地域を盛り上げる
矢ケ﨑講師は、2021年4月から兵庫県北部・但馬地域の豊岡市に位置する豊岡ジオ・コウノトリキャンパス内にある地域資源マネジメント研究科で教育・研究を行っています。
豊岡市は、北は日本海に接し、中央部には一級河川の円山川が流れています。山々に囲まれ、豊岡盆地に広がる田園の上空には国の特別天然記念物及び絶滅危惧種に指定されているコウノトリが舞っています。本研究科はこうした恵まれた地形や地質、自然環境を有する但馬地域を主な教育・研究活動のフィールドとしています。
豊岡盆地に広がる豊岡市街地と水田
海水面が現在よりも高い時代では豊岡盆地に海水が侵入する大きな入江でした。その際にできた平地に水田や都市が広がります。山と海が織りなす豊岡盆地で教員や大学院生は研究や調査に取り組んでいます。(2023年11月22日撮影)
大学院地域資源マネジメント研究科のある豊岡市三江地区の風景
写真左の建物がコウノトリの郷公園の関連施設と大学院の建物です。大学院の目の前に広がる水田ではコウノトリが巣をかけ、「コウノトリ育む農法」が展開します。(2021年9月29日撮影)
矢ケ﨑講師は「本研究科がある豊岡ジオ・コウノトリキャンパスは、本研究科の名称にもある地域資源、『地域にある何か』というものを上手く活用して、地域を盛り立てていこうというキャンパスです。具体的にはコウノトリが有名で、コウノトリの野生復帰の取組をしている先生方が多いです。コウノトリも地域資源の1つで、例えば観光に活用したり、最近では農業にも『コウノトリ育む農法』という形で上手く使われていたりします。コウノトリ以外には、豊岡市は山陰海岸ジオパークのエリアでもあり、貴重な地形や地質遺産があり、面白いものがたくさんあります。一番有名なものは『玄武洞』です。地質学的なものも含めて、地域資源の持続可能な形での活用により、地域社会の発展に貢献する教育・研究活動を行っています」と紹介しました。
また矢ケ﨑講師は、本研究科の定員が博士前期課程12名、博士後期課程2名、専任教員10名という少人数であることから、教員と学生の距離感が近いことや、リスキリング(学び直し)を目的に入学される社会人が増えていることも紹介しました。
出石城下町における地域社会フィールドワークの様子
地域資源マネジメント研究科では、地域資源の背景にある仕組みを捉える実践的な授業を展開しています。写真は出石城下町における地域資源を捉え直し、ツアーを企画した際の様子のもの。(2023年11月19日撮影)
人間の恐怖に対する好奇心と場所の関係を探る-ゴーストツーリズムの研究
矢ケ﨑講師は、地域資源の活用や地域の課題について、地理学や地域計画学の視点から研究を行っており、様々な地域をフィールドワークしたり、その結果を地図に描いたりしながら教育や研究を展開しているといいます。矢ケ﨑講師が専門としている人文地理学は地理学の一分野で、社会や文化、歴史、経済など、地球上における人間の活動と地域や環境の関係について着目し、探究する学問です。
そのなかで、矢ケ﨑講師は人文地理学の学問分野の1つに挙げられるゴーストツーリズムに関する研究を行っています。ゴーストツーリズムとは、その名称のとおり「怖いことを楽しむ観光」のことを指し、矢ケ﨑講師は、ゴーストツアーや心霊スポットを対象にして、夜の場所に対する人間の恐怖と、その恐怖に対する好奇心を動機としたツーリズムを分析することで、人間が感じる恐怖と場所の関係性などについて探究しています。「ゴーストツーリズムの発祥はイギリスで、ゴーストツーリズムが文化として根付いています。イギリスというと、ゴーストがたくさん登場するJ.K.ローリングの『ハリーポッター』シリーズが有名ですが、ゴーストといったものがとても受け入れられていて、幽霊が出るといわれる洋館のホテルにわざわざ泊まってみるというような幽霊ツアーが古くから楽しまれています」。
エディンバラにおいてゴーストツアーで使われるバス
イギリスではゴーストツーリズムは有名なツアーです。ゴーストツアーを通して、スコットランドの文化や歴史を楽しみます。(2024年9月9日撮影)
これから発展していく可能性を秘めている分野
怪談や都市伝説を『娯楽として消費するもの』と位置づけ、ゴーストツーリズムが産業として成立しているイギリスやアメリカ、スコットランドなどと比較して、日本ではそれほど多くはないといいます。矢ケ﨑講師は、「神奈川県横浜市でタクシー会社の企画により、タクシーで心霊スポットを巡るというツアーが行われています。コロナ禍前から実施されていて、結構人気があり、倍率も高く、タクシーの運転手の方が行く道中や行った先で怪談話をしてくれます。例えば、神社や踏切、トンネルに行くなど、『ちょっとゾッとする感覚を楽しむツーリズム』ということをされています。また、京都でもこうしたツアーが実施されています。今一番ホットなものは島根県松江市にあり、小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン,1850-1904)の怪談をテーマにしたもので、民俗学者で曾孫にあたられる小泉凡氏が監修を務められたゴーストツアーが実施されています」と紹介しました。
日本で妖怪や幽霊というと、『アニメや小説の中に出てくるもの』というイメージが根強くあったり、柳田國男をはじめとする民俗学を中心に据えた研究が多かったりする一方で、トラブルの発生や安全性、倫理面などに配慮しながら、心霊現象や心霊スポットを地域資源あるいは観光資源と捉え、地域に観光客を呼び込むための材料にしていくことができるのではないかと矢ケ﨑講師は語ります。
「いかに良い方に展開できるか」という観点で
また、矢ケ﨑講師はスキー場における雪の活用に関する研究にも取り組んでおり、現在は、兵庫県北部・養父市に位置するハチ高原(鉢伏高原)を対象とした研究を行っています。ハチ高原は、兵庫県最高峰の山・氷ノ山(ひょうのせん:標高1,510m)と稜線で続いている鉢伏山(はちぶせやま:標高1,221m)の南側中腹800m~900mに広がる高原です。夏季は小学校等の林間学校・自然学校をはじめ、大学や高校の音楽・文化系部活動の合宿などで利用されています。また、冬季はスキー場として知られており、小・中学校等のスキー実習をはじめ、京阪神周辺からスキー客が訪れています。
冬のハチ高原スキー場の風景
ハチ高原にとって雪は重要な資源です。ただし、最近ではスキーブームの衰退や地球温暖化の影響で観光客は減りつつあります。(2023年2月27日撮影)
「雪は、正直なところ『邪魔もの』『負の資源』です。雪が降ってきたら雪かきをしないといけない。昔は雪のおかげで日本酒がつくれるなどの良い面もありましたが、現代では暖房もあり、雪が人間の生活の中で役に立つ機会がありません。しかし、雪が降るのを眺めながら嫌な気持ちになっていても地域は良くならないので、『雪は降るもの』と捉えて、『どのように雪を使えば、地域経済を上手く回すことができるのか』というような、『対策』というよりも『共生する』『いかに良い方に展開できるか』という観点で研究を進めています。雪を上手く使う、つまり、地域経済の発展のために活用しようとしたときに、雪がよく降る地域では昔からスキー場の経営が行われてきました。また、1980年から1993年にかけての第二次スキーブームの中で、1987年に上映された映画『私をスキーに連れてって』がブームに拍車をかけ、スキー場はスキー客で大変な賑わいを見せました。そのときにハチ高原も利用客が大幅に増えましたが、ブームの終焉とともに減っていきました。当時、但馬地域にはハチ高原以外にもスキー場がたくさんありましたが、それらがどんどん潰れていき、そこで頑張って残ってきた場所というのがハチ高原になります」と矢ケ﨑講師は解説します。
豊岡ジオ・コウノトリキャンパスの冬景色
豊岡ジオ・コウノトリキャンパスでは、冬季に雪が降り、授業が休講になることもあります。雪は邪魔モノとされますが、どのように共生すればいいのでしょうか。(2021年12月26日撮影)
地域資源の持続可能な活用方法を求めて
さらに近年、ハチ高原をはじめとしたスキー場は、周囲を取り巻く環境の変化により様々な課題を抱えるようになっています。矢ケ﨑講師は「1つは、近年の新型コロナウイルス感染症拡大による影響です。コロナ禍では、感染防止の観点から人の動きや流れが抑制されて、観光客が大幅に減少し、経営難に陥ったホテルや旅館、民宿が日本各地の観光地で相次ぎ、地域経済にも大きな影響を及ぼしましたが、ハチ高原も影響を受けた地域の1つです。もしくは、ハチ高原は小学校等の『教育旅行』という形で活用されてきており、冬にはスキー実習のために利用する小学校が数多くありましたが、2020年度の学習指導要領の改訂により授業時間の確保が難しくなるなどしたためスキー実習が取りやめられるなど、教育旅行の在り方の変化もみられます」と話します。
出石城下町の永楽館における大学院生による市民向け発表会の様子
本研究科では、毎年2月に大学院生が但馬地域の方々に向けて報告会を実施しています。ハチ高原に関する研究も2024年に発表しました。(2024年2月25日撮影)
加えて、地球温暖化による雪不足もスキー場の経営に影響を与えている要因の1つになっており、スキー場のオープン時期が遅れたり、気温の上昇で雪解けが速くなって営業日数が短縮されるなどの問題が起こっています。この問題は、ハチ高原よりも豊岡市日高町にある神鍋高原の方が影響を受けていると矢ケ﨑講師は指摘します。「神鍋高原には3つのスキー場がありますが、ハチ高原よりも標高が低く、温暖化による問題がより顕著になっています。昨年は1か月程度しか稼働できなかったのではないでしょうか。また、気温が上昇すると、水気を含んだようなベタベタした雪になります。このような雪ではスキーヤーも来てくれないということで、神鍋高原では住民の方々が、どのように温暖化に挑めば良いのかをテーマとする会議をしたり、温暖化対策に関連したイベントを開催されるなどしています。あるいは、温暖化の問題を逆手にとって、地域の活性化に上手くつなげられるような取組を始めている地域もあります」と地域における取組を紹介しました。
神鍋高原における万場スキー場と奥神鍋スキー場の風景
神鍋高原はアクセスのしやすいスキー場として発展してきました。ただし、標高が低いことから地球温暖化の影響を受けやすく、降雪の減少が大きな課題となっています。(2024年11月14日撮影)
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