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「AIとDXと知識工学と」情報科学研究科・社会情報科学部 笹嶋宗彦教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

2月16日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、情報科学研究科・社会情報科学部の笹嶋 宗彦(ささじま むねひこ)教授です。

 

今回のテーマは、「AIとDXと知識工学と」
笹嶋教授の専門は、「知識工学」です。

 

データサイエンスを教育・研究する学部として国内で3番目に開設-社会情報科学部

笹嶋教授は、神戸商科キャンパス内にある社会情報科学部と、神戸市中央区のポートアイランドに位置する神戸情報科学キャンパスと神戸商科キャンパスの2か所に拠点を置く情報科学研究科を兼任し、知識工学の理論から実応用まで幅広く研究しています。情報科学研究科は、データ科学と計算科学の知識と技能を駆使し、企業や行政などのデータ利活用の現場で活躍できる人材や、企画・経営、政策・立案、健康・医療、情報セキュリティなど、多様な分野で新たな社会価値の創造に貢献できる人材を育成しています。社会情報科学部は、2019年4月にデータサイエンスを教育・研究する学部としては国内で3番目に開設された学部で、経済活動や日常生活で日々生み出される膨大なデータ、いわゆるビッグデータをAI(人工知能)を駆使して解析し、「価値ある情報」を引き出して社会や組織が抱える課題解決に応用することのできるデータサイエンティストの人材育成に取り組んでいます。データサイエンティストに求められる、データの分析を行うために必要なプログラミングを含むIT系スキルや、現実世界をモデル化するときに必要となる確率・統計や微積分など数学をはじめとした数理情報の知識、データを活用して企業活動を改善する際に必要となる経済学や経営学もカバーしたカリキュラムを組み、技術力・社会実装力・ビジネス力を兼ね備えた人材の育成を目指しています。笹嶋教授は本学部に設立構想時から携わっており、2019年4月の開設からはデータサイエンス人材育成に関する研究も行っています。

 

コンピューターとゲームと人とのコミュニケーションが好き

今では組織や企業、家庭において個人が所有して使用することのできる「パソコン(パーソナルコンピュータ)」が広く普及し、ごく当たり前に使われていますが、コンピューターというと、元々は一般の人たちにとって当たり前に使うことのできるものではありませんでした。笹嶋教授は「私が大学生だった1980年代・1990年代にパソコンと呼ばれるコンピューターが出始めて、ようやく一般の人が買えるようになり、1990年代後半から末頃にかけて急速に普及が進みました。その頃から国も情報工学・コンピュータサイエンスというものに力を入れ始めたのではないかと思いますが、それから約30年が経った2019年には内閣府により『AI戦略2019』が策定されるなど、IT人材を増やしていこうとしており、その中で、AIと呼ばれている人工知能が今非常に話題になっています」と説明しました。

 

笹嶋教授が人工知能の研究者の道に進んだきっかけについて、「私はコンピューターとゲームが大好きで、『コンピューターかゲームに関わる仕事ができたら良いな』という気持ちでコンピューターの道に入りました。以降、学生時代から、文字や数字などの記号で書かれたものしか処理できないコンピューターが、人間の様々な形の無い知識を処理できるようにするための、知識の記号化に取り組む『知識工学』の研究を始めました。それから、いろいろなご縁があり、大学院に進学することになりました。さらに、大学院に進学してから出会った先生に誘われて博士課程まで進むことになりました。『研究者として食べていこう』と思ったのは20歳をだいぶ過ぎてから、大学院に進んでからでした」と語ります。

大学院修了後間もない頃の、民間企業時代の笹嶋教授

 

「コンピューターと人間が情報についてコミュニケーションする際の境目に関する研究分野のことを『ヒューマンインターフェイス』というのですが、大学院に進学した際に配属された研究室の教授が面白い方で、研究室に入ったときに『君、あんまりインターフェイス壊れていないね』と教授に言われ、『どういうことですか』と聞いたら、『研究室の先輩たちを見たら分かるよ』と言われました。全然何も知らずに偶然入った研究室でしたが、先輩方にはコンピューターに非常に長けた方がいらっしゃって、それこそプログラミング等に一生懸命すぎて、人とのコミュニケーションもそこそこに黙々とコンピューターに向かっていました。どちらかと言うと、私はコンピューターを使ってするゲームを通じて、人とコミュニケーションすることが好きでした。最近は、みなさん当たり前にスマートフォンなどでネットワークにつないでいろいろな人たちとゲームをしていますが、2、30年前は回線をつなぐことは当たり前ではありませんでした。実は、その頃からネットワークにつないでチームを組んで戦うゲームといったものをしていましたし、すごく楽しかったです」と笹嶋教授は学生時代のエピソードを紹介しました。

民間企業での勤務を経て、再び大学へ転職した頃の笹嶋教授

 

ベテラン人材の流出とともに失われるノウハウを継承する

大学生の頃から知識工学の研究に取り組んできた笹嶋教授は、現在、「人のノウハウを伝承する研究」を行っています。「コンピューターに人のような知的な処理を行わせるということでは、学生の頃からしていることと変わらないのですが、少子高齢化が進む昨今、組織や企業の様々な現場で、専門知識や熟練した技術を持つベテランの方が退職されるなどしたとたんに、その会社の製品の品質が落ちるということが結構起きています。社内の誰の仕事が自社の製品の品質に効いているのかということが、実は会社の経営をされている方々にはあまり見えていない。社内のごく一部の方が、とんでもないノウハウを持っておられて、機械の設定1つにしても、例えば『この時期にこうしないと、こうならない』といったちょっとしたノウハウは本人から聞けば分かる話ですが、ノウハウを持った方が退職されて、その技術も失われてしまって、なんだかクレームが出始めたと。それで慌ててその人を雇い直すというようなケースを、兵庫県立大学に入る前に、いろいろな会社を対象にノウハウを保存するための技術や業務を分析する技術を販売するというベンチャーをしていた頃に結構見てきました。『人が大事』『安易に辞めさせてはいけない』ということは分かりましたが、『じゃあ、次はどのようにしてそれらのノウハウや知恵を保存したら良いのかが分からない』という問題があります。ノウハウを持った人が作業する様子を撮影しておいて、それを保存しておけば次の後任者が勉強できるかというと、そうでもありません。これまでに私が取材させていただいた現場で、1つの作業が短いもので数10分で済むものもあれば、7時間かかる作業もありました。現場を取材して、『ここがポイントです』『これがこの人のノウハウです』といった個人的な経験や直感によって形成されてきた暗黙知も含めたマニュアルにまとめ、さらに、コンピューターの言語で分かりやすく書いてあげて未来に残していけるようにもし、それらを使って非専門家やその現場の初学者に教育してもらうということをしています」と笹嶋教授は紹介しました。

現場のノウハウをマニュアル化するイメージ

 

自動車の故障診断

 

間違いがあってはならない分野がある

笹嶋教授は、人工知能システムの研究を進めるうえでの問題点についても言及し、「コンピューターの学習というのは、『これが良い作業です』『これは悪い作業です』というふうに正解を与えてやらないといけません。良い製品・不良品といった具合に単純なことなら良いのですが、例えば、『介護する』ということになると、同じ1つの動作でも介護をされる人によって受け取り方は様々ですし、やり方も人によって違ってきます。コンピューターは、そもそも『正解が出せないもの』は学習できません。こうした場合、ChatGPTのように『こうじゃないかな』とコンピューターが確率で答えを出し、それに対してみなさんが『そうだよ』と思えば正解ということになりますし、『少し違う』『もっと違う答えを出してみて』と指示を出せば、それは間違っていたことになります。コンピューターが自分で試行錯誤しながら答えを出し、また、人間の指示や反応を受けながら学習することを強化学習といいますが、結局は人間が判断するか、人間が判断するようにコンピューターに試行錯誤させるしかありません。ただ、医療や介護をはじめ、製造業などかなり高価なものを製造する現場などでは、コンピューターに試行錯誤されると困ります。間違いがないようにしないといけない分野については、知識のモデルにしても、何をコンピューターに教えるかなどを手作りしないといけません。コンピューターが答えを出せないような問題の答えを人間が出して教えてあげないといけないし、その答えも、つくる人によって変わってきます。ですので、現場に行ってベテランの方に『あなたの仕事の仕方を教えてください』と聞いても、知識やノウハウの引き出しが非常に多くあり、部外者の研究者に教えている時間はないと言われたこともありますし、マニュアルとして書き残されてもいないので、伝わっていきません」と説明しました。

 

これからAIに求められるもの

AIの将来の可能性について笹嶋教授は「AIは、世界中にある様々な知識、誰かが書いた新聞、雑誌、ブログの記事でも何でもそうですが、そういうものだけから学習している分には、そのレベルの知識しか身につきません。そうではなく、例えば、正確さが求められるような医療に関する知識や、会社や組織の中で非常に秘密にしておきたいような知識といったものを上手に学習して、その会社や組織の専用のものとして、それぞれの目的に応じたより正確な知識、精密な知識を有するAIというものが、今後求められていくのではないかと考えています」と話しました。

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