記事検索

  • 学部・組織・所属

  • 記事のテーマ

  • 記事のタイプ

公益社団法人ひょうご観光本部×環境人間学部 自然と文化のインタープリテーションプログラム成果報告会が開催されました

環境人間学部では、自然のメカニズムや地域の文化・歴史等について専門的に学びますが、これからの時代はその魅力や価値を他者に分かりやすく伝える力も重要で、このような力をインタープリテーション・スキルといいます。このたび、本学部の4研究室が公益社団法人ひょうご観光本部(以下、ひょうご観光本部)と連携し、インタープリテーション・スキルを養う「自然と文化のインタープリテーションプログラム」を構築して、4研究室約20名の学生が半年かけて活動を行ってきました。
その成果を報告する機会として、1月24日(金)、兵庫県立ひょうご女性交流会館(神戸市中央区)において、ひょうご観光本部主催で「自然と文化のインタープリテーション成果報告会」が開催され、プログラムに参加した学生が活動報告を行いました。

 

自然や文化の魅力・価値を、一般の方々に伝える力・インタープリテーションを育成

自然と文化のインタープリテーションプログラムは、ひょうご観光本部が兵庫県在住・在学の大学生を対象に観光人材を育成する「令和6年度中核観光人材育成事業」の一環で今年度初めて実施されたものです。インタープリテーションとは、自然や歴史、文化について、その魅力や価値を一方的に押し付けるのではなく、受け手の興味・知識のレベルや方向性に沿いながら、背景やストーリーを含めて紹介することを指します。
本プログラムには、環境人間学部の井関崇博教授、宇野康司教授、柳楽有里准教授、水上優教授のゼミに所属する計5チームの学生が参加しました。チームごとに兵庫県の観光振興に寄与できるような以下のテーマを設定して、合同研修を受講したり、テーマに応じたフィールドワーク(事例調査)を行うなど、1年を通してインタープリテーションを学ぶため様々な活動を行ってきました。

 

井関ゼミ①:旧制姫路高校の魅力・価値を伝える
井関ゼミ②:兵庫県のアニメ聖地巡礼の可能性と課題
宇野ゼミ:岡山県赤磐市における自然学習団体から学ぶ
柳楽ゼミ:観光地における日本語と英語のパンフレット
水上ゼミ:現存十二天守模型を活用した姫路城の紹介

 

合同研修の様子

10月27日(日)に明石市立天文科学館において、同館館長で学芸員の井上毅氏からインタープリテーション実践に向けてのレクチャーが行われました。

 

フィールドワークの様子

9月から12月にかけて、ゼミ毎に実施されました。

あがたの森文化会館(重要文化財旧松本高等学校)へのヒアリング(井関ゼミ(旧制姫高班))

 

地球史研究所(岡山県赤磐市)視察時の様子(宇野ゼミ)

 

天龍寺にて(柳楽ゼミ)

 

彦根城にて(水上ゼミ)

 

成果報告会は、活動の取組成果を発表するとともに、兵庫県の観光振興や観光政策に携わる方々に学生目線から提案する場として開催され、当日は環境人間学部の5チームの学生・教員をはじめ、明石市立天文科学館館長の井上氏、兵庫県及びひょうご観光本部の方々が参加されました。

 

当日の様子

はじめに、ひょうご観光本部の蓑島拓也氏から兵庫県産業労働部観光局観光振興課と同法人の組織概要や職務内容について説明がありました。

 

続いて、ひょうご観光本部の佐伯公宏専務理事から挨拶がありました。佐伯専務理事は、兵庫県への来訪者数は全体的に右肩上がりで、多くの方々が訪れている一方、訪日外国人旅行者の宿泊が少ないことについて言及され、「学生のみなさんには今回、中核観光人材育成事業ということでフィールドワーク等に取り組んでいただいた。みなさんの発表がどのような形になるのか、今日の報告会を楽しみにしていた。インタープリテーションというのは、観光ガイドの方自身が、相手の興味や知識を短時間のうちにある程度察知して、その方に応じた案内をするということで、観光客の方々により深く知っていただくことが大事であると思っている。今日は、みなさんの発表を兵庫県職員の方々に聞いていただき、様々なやりとりをしていただきたいと思う」と話されました。

 

成果報告

成果報告では、各チームからプレゼンテーション13分と質疑応答7分による発表がありました。

 

水上ゼミ

まず、水上教授のゼミに所属する3年生の4名が、「現存十二天守の模型を活用した姫路城紹介コンテンツの作成」と題して発表しました。これは、姫路城(世界文化遺産・国宝)を見学した方やこれから訪れる方が、兵庫県立歴史博物館に展示されている同縮尺の現存十二天守の模型を見ながらクイズに取り組むことで、日本の城への理解を深め、日本の歴史や文化を学ぶ機会にするというものです。
発表では、クイズの作成過程や、子ども(小中学生)・外国人・一般のカテゴリーごとにクイズを作成したこと、また、実際に作成したクイズを紹介するなどしました。
※兵庫県立歴史博物館…1983年に開館した歴史系博物館で姫路城から北側へ徒歩10分のところに位置する。
※現存十二天守…日本の城の天守のうち、江戸時代までに建てられ、修復されながら現在まで残っている天守を指す。松本城(長野県)、犬山城(愛知県)、彦根城(滋賀県)、姫路城(兵庫県)、松江城(島根県)(以上、国宝5城)、弘前城(青森県)、丸岡城(福井県)、備中松山城(岡山県)、丸亀城(香川県)、松山城(愛媛県)、宇和島城(愛媛県)、高知城(高知県)(以上、重要文化財7城)

 

柳楽ゼミ「嵐山・天龍寺と姫路城のパンフレット比較調査」

次に、柳楽准教授のゼミに所属する3年生の4名が、「嵐山・天龍寺と姫路城のパンフレット比較調査」と題して発表しました。チームのメンバーは、アメリカ文学や英語について研究するゼミに所属していることからテーマを英語に絞り、国内でも特に訪日外国人旅行者の来訪が多いと考えられる京都の嵐山にある天龍寺と姫路城のパンフレットの英語版と日本語版をそれぞれ比較し、姫路城のパンフレットに必要な要素について検討を進めてきました。
発表では、調査方法やパンフレットの比較方法、比較した結果などを紹介し、パンフレットの表面にはマップや写真といった簡潔な情報を、裏面には年表や歴史などの詳細な情報を掲載することや、パンフレットのデジタル化を提案するなどしました。

 

宇野ゼミ

続いて行われた宇野ゼミの発表では、チームメンバー5名を代表して宇野教授が登壇し、「先進地視察:地球史研究所」と題して発表しました。宇野教授の専門は地質学であることから自然学習に注目し、自然体験や解説ガイドプログラムを提供する際のポイントを把握するために、主に市内で自然学習プログラムを提供している地球史研究所(岡山県赤磐(あかいわ)市)を訪問視察し、自然の営みを紹介する方法について考察してきました。
発表では、同研究所の所長へのインタビュー内容をはじめ、2020年に国際地質科学連合から約77万年~12万9000年前の時代を『チバ二アン(千葉時代)』と命名されるきっかけとなった千葉県市原市で発見された地層や、NHKの紀行番組『ブラタモリ』の事例を取り上げ、「多くの方々に地質を身近な学問と思ってもらえる機会があっても、一般の方にはなかなか分かりづらい。伝える側がシナリオをつくって伝えることが大切」と指摘しました。

 

井関ゼミ(旧制姫高班)

井関ゼミからは2つの班による発表がありました。
まず、3年生の5名が「旧制姫路高校学舎活用プロジェクト」と題して発表しました。5名は1年を通して、姫路環境人間キャンパスにある旧制姫路高等学校(略称:姫高)の校舎・ゆりのき会館と講堂の建物の価値や魅力を一般の方に向けて紹介・発信するプロジェクトを行ってきました。
発表では、学内の教職員や学生、地域の方を対象に開催したイベントや、ゆりのき会館と講堂の建物の歴史的価値と精神的価値を伝えることを目的に作成したパンフレットを紹介し、「観光人材として価値を伝えるために大切なことは、常に伝えたいことを明確にし、言語化することである。価値を伝えることの軸をずらさずに進められる」などと説明しました。

 

井関ゼミ(聖地巡礼班)

井関ゼミに所属する中国人留学生の2名は、「京アニ聖地巡礼マップ(関西版)の試作」と題して発表しました。2人は、京都アニメーションが制作したアニメの中に実際に登場する場所(聖地)について調査し、アニメが好きな中国人観光客を対象とした『兵庫県、京都府、滋賀県にあるアニメ聖地を2泊3日で巡る聖地巡礼マップ』の作成に取り組んできました。
発表では、中国人聖地巡礼者のニーズをはじめ、マップを作成するにあたって工夫したポイントや課題などについて発表し、「アニメの中に実際に登場する聖地と聖地食を体験する過程は、その作品への愛情を深め、これらの地域への理解が深まるのではないか」などと述べました。

 

続いて、井関ゼミに所属する4年生の学生が「アニメの聖地~舞台になる前・なった後~」と題して発表しました。学生は、自身が兵庫県職員としてアニメの聖地にまつわる仕事をすることになったと想定して、アニメの舞台に選ばれる前と後で、それぞれどのように取り組むべきかという視点を持ち、昨年4月から6月にかけて放映されたアニメ『ガールズバンドクライ』の舞台となった神奈川県川崎市を参考事例に調査してきました。
発表では、川崎市内で映像作品の撮影希望者と地域をつなぐ活動をしている特定非営利活動法人(フィルムコミッション)へのヒアリング内容をはじめ、アニメ制作のプロジェクトがどのような経過で進められたのかについてや、実際の街の様子などを紹介し、街側から「現在どんな文脈を持った街か」をクリエイターに向けて発信することや、アニメの舞台になると決まったときのための窓口や聖地巡礼者の受け皿となる場を整えておくことなどを提案しました。

 

各グループの発表後には質疑応答の時間が設けられ、ひょうご観光本部や兵庫県職員の方々から質問が寄せられ、学生たちは質問に対して真摯に回答していました。

 

講評

各グループによる成果報告後、明石市立天文科学館の井上氏と、兵庫県産業労働部観光局観光振興課長の藤原大輔氏から講評をいただきました。

井上氏は「今回、インタープリテーション『翻訳する』ということに力を入れて取り組まれたことは、素晴らしいことだと感じている。様々なバックグラウンドがある中で、それらに初めて接する人がどう受け止めるのかに配慮して適切に『翻訳する』には、そのバッググラウンドを知っておかないといけない。そして、それらをどう噛み砕いて伝えるかというのは、みなさん様々な視点で取り組まれたと感じた。最終的には人とのコミュニケーションにつながるという部分を意識することが大事ではないか」と話され、各グループの発表に対して、良かった点や改善点についてコメントをいただきました。

 

藤原氏は「4つのゼミ・6つの発表をいただいたが、いずれも兵庫県の観光政策、観光行政が今抱えている課題について、それぞれアプローチしていただいたと思う。われわれにとっても勉強になった。兵庫県観光の現状は、全体的にはプラスに見えているが、来訪先の集中などの課題もあるので、今回調べていただいたことを参考に、政策を進めていきたいと考えている」と話され、各グループに向けてコメントをいただきました。

 

最後に、本プログラムの学部側のコーディネートを担当した井関教授がコメントし、「本プログラムの中核観光人材育成事業の『中核』とは何かと考えたとき、1つは営利活動としての観光ビジネスというものがある。また、最近は、観光地全体を見渡し、マネジメントすることも中核と言われる。しかし、もう1つ、地域を訪れる観光客(ゲスト)と地域を魅せる側(ホスト)が出会う場、つまり、観光の最前線も中核といえるのではないか。今回は、まさにこの意味での中核を担う人材のノウハウや考え方等について学ぶことができたと思う。そして、そのときに、観光というのは生活者側から見れば1つのエンターテイメントである。今やYouTubeに代表される様々なエンターテイメントが世の中に溢れており、われわれが観光客に向き合うときには、それぐらいのエンターテイメント性が求められるようになってきているという意味では、非常にやりがいのあるチャレンジだと思う」と話しました。

関連リンク

 

COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.