11月3日(月・祝)、減災復興政策研究科の協定校である兵庫県立長田高等学校(神戸市長田区)が、兵庫県教育委員会と兵庫県内のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校により運営されている五国SSH連携プログラム(「兵庫咲いテク」事業)の担当校として開催された「第3回高校生のための減災復興学フォーラム」に、本学大学院減災復興政策研究科長の永野康行教授と、永野教授の研究室に所属する大学院生および学生(環境人間学部 荘所研究室)らが参加しました。

探究活動に減災復興学の視点を取り入れ、活動のさらなる深化と継続性を実現
兵庫県立長田高等学校は、阪神・淡路大震災を経験した神戸市長田区に位置することから、元来、文理を問わず防災教育に取り組まれていました。さらに、2022年に文部科学省からSSHの指定を受け、理数教育を核とした文理融合の探究活動に取り組まれる中で、減災・防災に関わるプログラムも実施されており、その一環で永野教授や本研究科の青田良介教授が同校の生徒に研究指導や講義を行うなどしていたことから、2024年3月に教育研究交流に関する連携協定を締結し、以降、教育及び学術研究において、より活発な交流を図っています。
このたび開催された「高校生のための減災復興学フォーラム」は、「防災・減災について関心があり、何かをしてみたい」「防災・減災に関する活動に取り組んでいる」という高校生を対象に、防災を学問として減災復興学の観点から体系的にとらえ、自身の活動を広げる方法を考えることや、さまざまな立場から防災に関わる高校生が集い、その活動を発信したりアイデアを共有したりすることを通じて、各自の取組をさらに面白いものにするための交流の場を提供することを目的に行われており、今回で3回目の開催となります。

本フォーラムが行われた兵庫県立長田高等学校 神撫100周年記念会館(Astra Hall)前にて 参加した永野教授と学生たち
当日の様子
はじめに、兵庫県立長田高等学校の藤原生也校長が挨拶されました。藤原校長は「本フォーラムの開催にあたっては、永野教授にいつもお世話になっている。また、大学院生等のみなさんにも毎回助けていただいており、高校生たちが身近なところで先輩方とふれあい、お話しできるのは、私たちのような大人と情報共有するのとはまた違った面があり、とてもありがたく思っている」とし、「私はこれまで『防災』という言葉しか使ってこなかったが、このフォーラムで永野先生とお会いする中で『減災復興学』という言葉を初めて耳にした。来たる南海トラフ地震のこともあり、災害は私たちの生活から避けて通れないものと思うが、その中でどのようにして生きていくのか。やはり、未来を担っていくみなさんが、一度このことについて集中して話をしたり、情報を共有し合う機会を持つというのは、とても良いことであると思う。今日はしっかり話を聞いたり発表したりして、何かを掴んで帰ってもらいたい」と開会の挨拶をされました。
全体を一体的に捉えて俯瞰する「減災復興学」-講義
続いて永野教授が登壇し、「減災復興学という学問の概要と減災・防災に取り組む高校生に期待すること」と題して、減災復興学の概要や地震発生のメカニズムをはじめ、建築構造物の耐震設計や都市災害の軽減に向けてのシミュレーションなど、永野教授がこれまで取り組んできた研究内容等について講義を行いました。
講義の冒頭で永野教授は「減災復興政策研究科では、減災復興学という新しい学問体系を打ち立て、教育・研究を進めているところである。本フォーラムはこの減災復興学に基づくものなので、午後のみなさんの活動発表においても、『減災復興学という視点に立てばどうなるのか』という部分も含めて議論していただきたい」とし、「減災復興学とは、『減災の総合化』という視点から減災と復興を一体的に捉えて、安全で安心できる社会の持続的発展を目指すための学問体系である。大きな地震が起きると、多くの場合は災害が発生するので、災害そのものや発生後の復興・復旧のフェーズのことも考えないといけないが、今までの縦割りの研究概念では、耐震の研究者は耐震、地震の研究者は地震、復旧の研究者は復旧といった具合に、分野ごとに各専門の研究をしていた。減災復興学では、鳥が空から見下ろすように、災害前、被災、復興・復旧の全体を俯瞰することを特徴としている。みなさんが取り組んでいる研究は、おそらくどこか1点にフォーカスしているものと思う。もちろん1点を突き詰めることも大切だが、ぜひそれを『減災復興学の視点』でもって、俯瞰してみてほしい。『こういう視点に立ったとき、今していることはもっとこうなるのか』というようなところにつながり、議論が深まると思う」と説明しました。

また、地震波の発生源である断層運動のことを指す『地震』と、地震波が伝わってきたある時点での地面や地中の揺れを指す『地震動』の違いについて説明する際には、「この2つの言葉について、同じような言葉に聞こえていると思うが、違いを厳密に定義しておきたい」と述べた上で、「言葉はすごく大切なもので、『この言葉があるときはこういう意味になるが、この場合には同じ言葉でも異なった意味になる』といった具合に意味が変化すると、論じるときに上手く会話にならないし、論点や論理が成立しなくなる。みなさんが科学技術論文を書く際には、同じ意味のものは同じ言葉を用いるようにし、全ての人に対して分かりやすくきちんと正しく伝えられるように、言葉の定義というものを大切にしていただきたい」と話しました。
さらに、永野教授は自身が行っている研究について「日本は地震国であり、地震をはじめとした災害に強い建物をつくらないといけないというのが私の原点である」とし、兵庫県内における耐震性の不足する建物抽出およびその耐震性の確保に関する調査研究や、兵庫県南あわじ市阿万中西地区における共助行動を考慮した津波避難シミュレーションに関する調査研究、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により大きな被害を受けた生田神社(神戸市中央区)の拝殿再建に携わった際に当時世界最大強度のコンクリートを充填した鋼管コンクリート柱を採用した事例等を紹介しました。

「地震とは何か」を学習することのできる永野教授考案「大地震体操」をしている様子
「阪神・淡路大震災30年の教訓」-トークセッション
トークセッションでは、兵庫県立長田高等学校の吉井謙太郎教諭の司会・進行のもと、永野教授と神戸市消防局長田消防署消防防災課 消防司令の木ノ下晃氏が登壇し、「阪神・淡路大震災30年の教訓」をテーマに、それぞれの立場から阪神・淡路大震災の経験や今後に向けた教訓等について話を展開しました。

まず、「阪神・淡路大震災にまつわる自身の経験と、それらの経験が自身の現在の活動にどのような影響を及ぼしているか」について永野教授は、「地震発生時に自宅にいたのは私だけで、普段と異なる場所で寝ていたが、いつも寝ている場所にブラウン管のテレビが落ちてきていた。もし、いつもの場所で寝ていたら、今ここでみなさんに講義できていなかったかも知れない。人生の約3分の1は睡眠が占めており、物などが倒れてきてはいけないと常々考えており、今のところ睡眠空間には何も置いていない。住宅だけでなく、日々の暮らしの中でも耐震のことをすごく考えている。もう1つは、生田神社の復興プロジェクトのように、木造の精神を大切にしながら最新の技術を融合することにより、耐震の大切さを伝えるということがある。地震が発生しなくなるなど静穏期に入ると、『いつ来るか分からない地震のために、耐震にお金はかけられない』という考えの人が出てくる。災害を本当に経験したことのない人に耐震の大切さを分かってもらうことが大切ではないかと感じている」と話しました。
木ノ下氏は、消防士になった契機が東日本大震災だったとし「私は一旦働き始めて5年過ごしてから消防士になっている。東日本大震災の際に現地の様子をテレビで見ていたが、何もできない自分がいる一方で、テレビの中で活躍している消防士の姿を見て、『もっと直接的に人助けをしたい』と思い、消防士になろうと決意した。将来の仕事を選ぶ際には『自分がしたい』と思うことや、『もっとこうしたい』というような探究心を持ち続けることができる仕事を選ぶことが大事だと思う」と話されました。

また、「阪神・淡路大震災から30年後の現在の社会と防災・減災の取組を踏まえて、高校生のみなさんに考えて欲しいことや期待する役割」について、永野教授は「阪神・淡路大震災発生時の30年前はスマートフォンもAIもなかったが、今では生活に欠かせないものになってきている。一方で、人間の本質というものは、古典の授業で学習されていると思うが、吉田兼好の『徒然草』などを読んでも分かるように現代とほとんど変わっていない。したがって、今の高校生のみなさんには、そのあたりの新旧をバランスよく、『技術一辺倒にならずに、人間らしさを忘れずに考える』ということを叶えていただきたいと思う。今は非常に便利になっているが、その便利さがゆえに『本当は人間が学ばないといけないところ』が退化していくのではないかと私は危惧している。みなさんが今後、社会人になっていく中でおそらく社会は激変していく。そのときに、そういうことを考えられる人であっていただきたいと思う」と話しました。
木ノ下氏は、「みなさんが大学生、社会人になり、地域の一員になった際に『自分たちも防災に関わっている一員である』という意識を持って欲しいというのが1つと、他人事にはならずに地域の一員として地域の防災のことを考え、また、地域のリーダーとして防災の取組を広げられるような形で活動に携わってほしいと思う」と話されました。

なお、トークセッションでは、質疑応答の時間も設けられ、高校生からの「仕事をする中で、どのようなときに『人の命に携わる仕事をしている』あるいは『地震の被害をより減らすことに貢献できている』と感じるか」との質問に対し、永野教授は「建物の設計技術者という側面から見ると、耐震設計は『縁の下の力持ち』であり、今、何かその耐震で役立っているわけでもない。地震が起こって建物が潰れたりすると都合が悪いが、何もなくて当たり前であり、そういう意味では感謝されることもない。しかし、『大きな地震にも耐えうる建物をきちんと設計するんだ』という使命感とともに日常を過ごしている。一方、大学教員という側面から見ると、学生や院生に『耐震性を確保するにはどうしたら良いのか』、あるいは、実際に目には見えないが『耐震をしていなかったら地震が起こった際にこういうことになる』ということを伝えている。また、建築基準法は地球の動きに関係なく人間が勝手につくったものなので、『法が定めた耐震基準を満足していれば、それで良いのか』という問題を大学で扱っており、社会提言もしている。それが施策に取り入れられ、今後の法改正にもつながっていくというところでやりがいを感じている」と述べました。
ポスター発表・交流
トークセッション後にはポスター発表・交流が行われ、参加高校生らが防災・減災に関する活動成果や自然科学系の活動成果を発表したほか、本学からは永野教授の研究室に所属する本研究科博士前期課程2年生の三田凜也さんと昨年度の副専攻ゼミナール生で環境人間学部4年生(荘所直哉准教授の研究室に所属)の河村咲季さんが発表しました。
※副専攻ゼミナール…副専攻「防災リーダー教育プログラム」において2024年度から開講しているもので、地域防災参画型と減災復興政策研究科への進学を視野に入れた少人数型ゼミがある。

高校生(兵庫県立長田高等学校2年生)による発表の様子「マツの木の枝で水を浄化する」

三田さんの発表の様子「複数回の地震動に対する鋼構造建築物の梁端部損傷を反映したシミュレーションによる構造被害の検討」

河村さんの発表の様子「ボーリングデータを用いた中層建築物の地震応答解析~地盤の評価が地震時の建物挙動に与える影響~」
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