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「人間だからこそできる、相手の気持ちを汲み取るという行為」芸術文化観光専門職大学 平田オリザ学長による看護学部特別講義

1月27日(金)、明石看護キャンパスにおいて、劇作家・演出家で芸術文化観光専門職大学の平田オリザ学長を講師にお招きしての特別講義が行われました。

 

「保健室の先生」養護教諭を養成

本講義は、養護教諭一種免許状の取得を目指す看護学部の3年生を対象に開講している「養護概説」の授業時間を利用して行われました。養護教諭とは、小・中・高校で児童・生徒等の健康の保持増進を専門とする教育職員のことで、いわゆる「保健室の先生」を指します。本学の看護学部では、養護教諭一種免許状を取得するための養護教諭養成課程(選択制)を設置しており、本免許状を取得できる兵庫県内唯一の国公立大学として、養護教諭を輩出しています。「養護概説」では、養護教諭の職務と役割について理解を深め、子どもたちの心身の健康課題を解決するための知識や技能を身につけることを目標に、養護活動の概念やそれらを取り巻く課題について論究し、また、養護教諭として学校保健活動の中核的役割を担い、推進していけるよう実践力を培うこととしています。

 

平田学長は、本学と同様に兵庫県公立大学法人が運営し、2021年4月に兵庫県豊岡市に開学した芸術文化観光専門職大学の初代学長に就任され、本業である劇作家・演出家として活動されながら、教育活動にも力を入れられています。

 

ワークショップを通して実体験する

本講義は、講義の合間にゲームなどを挟んだワークショップ形式で行われました。平田学長はワークショップについて、「みなさんもこれから保健室の先生として教育の現場に入っていくことになるが、ワークショップは、これからの教育の現場で必須になっていくと思う。ワークショップには、双方向型や参加型など、いろいろな定義があるが、私が気に入っている定義の1つに『参加者の履歴を大切にする』というものがある。ワークショップを行う場が幼稚園であっても、5歳児には5年間生きてきたなりの歴史があり、それを尊重するということである」と話されました。また、ファシリテーターに一番求められることとしては、柔軟性を挙げられ、「例えば、声の小さい人がいた場合、演劇教室であれば、声を大きくしてあげることが講師の役割かも知れないが、ワークショップでは『声が小さいですね』から始まって、『いつも小さい声ですか』『大きな声が出るときは、どのようなときですか』といった対話をして、最終的に『それでは、今日は皆で小さな声で演劇をつくってみましょうか』とすることができるような柔軟性が求められる」と解説されました。続けて平田学長は、演劇教育の強みは居場所がつくりやすいことにあるといい、「声が小さい子は、『声が小さい子の役』をやらせたら一番上手です。普段の学習発表では大きな声で発表できなくても、演劇であれば、『声が小さい子という役』として参加できる。そこが演劇の強みである」と言葉に力を込められました。

 

 

アメリカの医療機関などで手術を行う10人前後の医師や看護師のチームが手術の直前に行っていることもあるという、自分の体を相手に全面的に委ねることを体感するワークも行われました。

 

カードを使って認識のズレを体感するゲームでは、同じ日本語を使っていても、皆それぞれ異なったイメージを持っている状態で言葉を操作していることを体感した学生や教員から驚嘆の声が沸き上がっていました。平田学長は、「ビジネスの現場のように時間が限られていたり、医療の現場でパニック状態が起きたりしているような中で、表面的な情報収集に走ってしまい、コミュニケーション不全が起きる。相手がどのような意図を持ってその言葉を使っているのかを探ることが大切である」と話されました。

 

寸劇の実習も行われ、各国の文化の違いや異文化コミュニケーション能力について考察する機会となりました。平田学長は、文学や戯曲の解釈でも、それぞれの人が持つ文化的な背景が異なると、全く異なる解釈が起こるが、その解釈の1つひとつは、作者の意図とは違ったものであっても、論理性があれば一概に頭ごなしに否定してはいけないというのが多文化共生型社会の教育の基本であるといい、「異文化コミュニケーション能力というのは、世界で活躍するために身につけないといけない能力ではなく、『違いを楽しめるかどうか』というような、君たちの人生を豊かにするための能力というふうに思ってもらったら良いと思う」と学生に向けてアドバイスされました。

 

最後に平田学長は、「看護の仕事は、やりがいもあるが忙しい。でも、もう1つ大切なことは、自分の人生を豊かにすることである。大学時代にいろいろなところに行き、一生の趣味を持つことも大事だと思う。勉強も忙しいと思うが、何でも良いので、好きなものをたくさんつくって欲しい」と学生にメッセージを送られました。

相手の言葉の裏側から本心を汲み取り、寄り添う場面の多い現場に出ていくことになる学生にとって、今回の講義でご指導いただいたことは、卒業後の職業生活やその他のシーンにおいても道しるべとなるのではないでしょうか。

 

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