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「小さな化石の大きな発見」 自然・環境科学研究所 池田忠広准教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

2月1日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、自然・環境科学研究所の池田 忠広(いけだ ただひろ)准教授です。

 

今回のテーマは、「小さな化石の大きな発見」

池田准教授の専門は、「古爬虫両棲類学」です。

 

「偶然」が今につながっている

池田准教授は、本学の附置研究所である自然・環境科学研究所に所属する教員として教育活動を行いながら、兵庫県三田市にある兵庫県立人と自然の博物館主任研究員として、小型爬虫両生類、カエル・トカゲ・ヘビ類の化石や骨の研究をしています。また、各地で技術指導や調査協力、講演を行うなど、教育普及・地域振興活動も積極的に行っています。

2008年 丹波の恐竜発掘風景

 

池田准教授は鹿児島県出身で、緑豊かな山々と海に面した雄大な自然環境の中で過ごしてきました。子どもの頃から自然に興味があり、よく山や川で遊んでいたといい、当時NHKで放映されていた番組「生命 40億年はるかな旅」に感化され、その頃から漠然と「古い生物というのは、おもしろそうだな」と思っていたことが、現在の研究活動につながっているといいます。大学では、古脊椎動物である恐竜の研究をしたいと考え、鹿児島大学理学部地球環境科学科に進学しましたが、いざ研究室の門を叩いた際、当時の教授に恐竜の研究をしたいと申し出たところ、「できない」と怒られたそうです。池田准教授が大学生だった頃は、まだ日本国内で恐竜の化石が発見されておらず、「資料」となる化石がありませんでした。「『本当に恐竜の研究をしたいのなら、アメリカに行きなさい』と言われて、そんなお金も能力もないし、どうしようかなと思って、先生に『何の研究であればできますか』と聞きました。先生は当時、鹿などの大型の哺乳動物の化石の研究をされていて、鹿の化石と一緒にカメやヘビなどの化石が出てきていましたが、それらは研究されていませんでした。先生から『私は長いものが嫌いだから、君は長いものを研究しなさい』と言われて、ヘビの化石の研究をすることになった。ヘビの化石の研究の経験があったから、今があるのかなと思う」と池田准教授は当時を振り返ります。

研究を始めた頃 2003年 調査・北京にて

 

化石が証拠となるもの

鹿児島大学大学院卒業後は、琉球大学の研究室で鹿児島大学時代にしていた沖縄のヘビの化石の研究を続けていました。ヘビの化石は、沖縄全土、北は徳之島から沖縄本島、南は与那国島、石垣島、宮古島と、いろいろなところから出てくるといいます。「沖縄は、生息する生物が本州とは全く異なっており、私の化石の研究は、『現在の琉球列島の特異な生物相(動植物の種類構成)がどのように作られたのか』ということを探るための1つのアプローチになります。今、いわゆる遺伝子の研究で確度の高い様々なことが研究されていますが、それらを裏づける証拠として化石は大事で、その化石が『一体何なのか』ということが分かると、『どの時代に、どの島に、何がいたのか』ということを明確に示す根拠になる。私は、そのための研究をしています。琉球列島は、今の島々になる前に、島がつながったり、浮かんだり、沈んだりという様々な過程を経ており、その間に生物が移動したり、絶滅しているわけです。『どういう過程を経たのか』ということは、われわれの研究のテーマであり、生物相の変遷、その構築の過程を調べるための1つのアプローチとして化石は大事ということになる」と池田准教授は話します。

沖縄島前期更新世ハブ属の椎骨化石(胴椎、各面から)スケール=2mm

 

研究者としてアドレナリンが出る瞬間

池田准教授は、国内屈指の化石産地である篠山層群での調査・研究にも取り組んでいます。篠山層群は、丹波市・丹波篠山市に分布している中生代白亜紀前期・約1憶1000万年前の地層で、2006年8月に丹波竜の化石が初めて発見され、現在も継続的に様々な化石が発見されています。池田准教授は、この篠山層群で2019年に実施した発掘調査でオオトカゲ類に属するモンスターサウリア類(現生種では北中米に生息しているドクトカゲ類)の化石を発見し、「モロハサウルス・カミタキエンシス」と命名して、2021年に発表しました。この化石は、モンスターサウリア類の中では世界最古となります。「北米で発見された約1憶年前のものがこれまで世界最古とされていたので、産出記録が約1000万年さかのぼることになる。篠山層群から出てきて、新種として報告しましたが、その生き物がどういうふうに進化していったのか、どういうふうに分散したのかというものが考えられる1つの資料になっています。発見した化石は、2cm程度の下顎の一部ですから非常に小さなものですが、きちんと研究すると、新しいことが分かります」「現場で化石を見つけた瞬間に『これはいける』と思いました。見た瞬間にその化石がどのグループのものか大体分かります。『もし、そのグループのものだとしたら、たぶんこれ、世界最古級だよな』と。それから詳しく調べて、きちんとそうだということを学問的に補完していきました。『これはいける』という感覚があって、それがまさにそうだと分かったとき、研究者として一番アドレナリンが出ます」と池田准教授は目を輝かせます。

恐竜類卵・トカゲ化石(モロハサウルス)発掘の様子

 

モロハサウルスの化石(右歯骨)

 

数ミリの化石が世界的発見に

池田准教授が最近進めている研究に、アルバネルぺトンという未知の絶滅両生類に関する研究があります。昨今、篠山層群から数ミリ程の化石が見つかりました。調査を進める中で、中生代中期ジュラ紀から新生代前期更新世(約1憶6700万年前~200万年前)にかけて生息した絶滅両生類のアルバネルぺトン類のものであることが分かったといい、東アジアで2例目となる発見でした。池田准教授は、この化石を初めて見たときにひらめくものがあったといいます。「これまでに、研究に関する様々な文献や化石の絵を見てきており、それらが頭の中にイメージとして残っています。『これ、どこかで見たことあるな』と。そこから『あ、これだ』となって、さらにきちんと調べて『やっぱりこれだ』となっていく。調べていくと、どのような学問的意義があるのかということが分かってきます。大きな恐竜ではないですが、数ミリのものでも世界的な発見につながるので、私は、この研究をおもしろいと思っている」と池田准教授は生き生きと話しました。

 

番組の最後に池田准教授は、次世代の人材育成が課題になっていることを挙げました。池田准教授が扱うカエルやトカゲ、ヘビ類の化石は大きくても3cmほどのとても小さなもので、地味なイメージを持たれてしまいがちですが、まだまだ研究されていない未開拓の部分が多く、その先には新しい未知の世界が広がっているといいます。池田准教授は「新しい発見や大きな発見などのチャンスがある分野であり、『おもしろいことがたくさんあるよ』と伝えたい」と学生に向けて呼びかけました。

子ども向けセミナーの様子

 

ボランティア参画の石割調査風景

関連リンク

教員出演 ラジオ音源 ←放送内容はこちらからお聴きいただけます

兵庫県立大学自然・環境科学研究所

兵庫県立人と自然の博物館

 

池田准教授が所属している兵庫県立人と自然の博物館では、化石の発掘ボランティアや化石のクリーニング作業に関わる化石剖出(ぼうしゅつ)ボランティアを定期的に募集しています。ボランティアについてお知りになりたい方は、当博物館のホームページをご覧ください。(トップページ > 博物館について > 館からのお知らせ に過去の募集要項等があります)

 

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