記事検索

  • 学部・組織・所属

  • 記事のテーマ

「野生のサクラ」自然・環境科学研究所 石田 弘明教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

3月16日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、自然・環境科学研究所の石田 弘明(いしだ ひろあき)教授です。

 

今回のテーマは、「野生とサクラ」
石田教授の専門は、「植物生態学、保全生態学、植生学」です。

 

自然・環境科学研究所と兵庫県立人と自然の博物館

石田教授は、本学の附置研究所である自然・環境科学研究所に所属する教員として教育活動を行いながら、兵庫県三田市にある兵庫県立人と自然の博物館副館長及び自然・環境再生研究部長を兼任しています。
自然・環境科学研究所は、自然環境系・地域資源マネジメント系・森林動物系・宇宙天文系・景観園芸系の5つの系が、三田市・豊岡市・丹波市・佐用町・淡路市の5つの地域において、生物多様性の保全、恐竜をはじめとした動物化石の発掘、コウノトリの野生復帰、緑環境の創出、野生動物の管理、天体観測など、大学教員が兵庫の基幹プロジェクトを担う県内の社会教育施設や研究機関の研究員を兼務して、実務と研究を結びつけた取組を行っています。このスタイルは、1992年に研究所が開設した当初から「大学による地域貢献の新しいモデル」として注目されており、現在も全国的にユニークな取組として知られています。

兵庫県立人と自然の博物館

 

また、兵庫県立人と自然の博物館(通称:ひとはく)は、国内の公立博物館では最大級の規模で、「人と自然の共生」をテーマとした自然史系の博物館です。設立時から「思索し、行動し、提言する博物館」をポリシーとし、研究活動をベースに資料の収集や収蔵管理、展示、セミナーなどの生涯学習、シンクタンク活動に努め、研究成果を自然環境の保全や再生、地域づくりにつなげる試みを行っています。
人と自然の博物館の特徴の1つに、研究成果をもとにした多様なセミナーの開催があります。これらのセミナーは地域の方々を含めてどなたでも参加可能で、博物館内だけでなく、県内各地で自然観察やまち歩きなどのセミナーも行っており、小さなお子さんから年配の方、親子、専門家向けなど、様々な対象に合わせた各種講座を開催しています。併せて、高い専門性と豊富な資料を活かして、県内外の学校団体等が人と自然の共生の在り方を学べる場としての活動も行っており、学校団体での博物館観覧をはじめ、研究員やフロアスタッフによる「特注セミナー」の開催、学校が希望する分野に応じて研究員を派遣する「館外講演」、移動博物館車「ゆめはく」による「schoolキャラバン」などを実施しています。

移動博物館車「ゆめはく」

 

野生のサクラ・エドヒガン

石田教授は、生物多様性(生態系・種・遺伝子)の保全に向けた活動(研究、教育、普及啓発、行政支援、市民活動支援など)を積極的に推進しています。また、森林や草原といった植物の集団(植生)を研究対象にしており、森林群落の中でも特に照葉樹林・ブナ林・里山林の保全・管理に関する研究や、絶滅危惧植物の保全に関する研究を行っています。

調査の様子

 

絶滅危惧植物の保全に関する研究については、「エドヒガン(江戸彼岸,学名: Prunus pendula f. ascendens バラ科サクラ属)」という日本に自生する野生のサクラの一種で、本州、四国、九州の山地のごく限られたところに分布し、兵庫県、千葉県、東京都では絶滅危惧種または準絶滅危惧種に指定されている植物の研究を行っています。日本に自生する桜のなかでは最も寿命が長く、樹高20m以上、幹の直径1mの巨木になるといいます。日本各地にある巨木・古木の多くは、国や県等の天然記念物に指定されており、兵庫県内にも養父市大屋町に『樽見の大桜(たるみのおおざくら)』と呼ばれる県下最大のエドヒガンがあり、国の天然記念物に指定されています。「桜と聞いてみなさんが想像するのは『ソメイヨシノ』だと思います。ただ、ソメイヨシノはエドヒガンのように野生種ではなく、同じく日本の野生種であるオオシマザクラとエドヒガンを掛け合わせてつくられた園芸品種です。日本全国の各所に植えられているので、みなさんもよくご存じですが、その元となっているエドヒガンは非常に珍しい桜で、なかなか見ることができません。エドヒガンは、ソメイヨシノと違って名前もほとんど知られておらず、各地で絶滅危惧植物に指定されており、兵庫県でも絶滅危惧植物に指定されていますが、実は地域によってはたくさん生育しているところもあります。川西市にエドヒガンの群生地が何か所かあり、その内、川西市の天然記念物に指定されている『妙見の森』『国崎クリーンセンター』など5か所が有名です」と石田教授は話します。

※兵庫県では、絶滅のおそれのある貴重な野生生物や地形・地質、自然景観、生態系の保全を目的として、各分野の最新の現状をまとめた報告書『レッドデータブック』を作成している。エドヒガンは『兵庫県版レッドデータブック2020(植物・植物群落)』においてCランクに、兵庫県川西市に生育する7カ所のエドヒガン群落はBランクに指定されている。

エドヒガンの花

 

オオシマザクラの花

 

ソメイヨシノの花

 

エドヒガンの群生地(川西市黒川地区)

 

エドヒガンを守るために

すでに絶滅危惧植物に指定されているエドヒガンですが、更なる絶滅の危機に瀕していると石田教授は指摘します。「エドヒガンの生育数が減少している要因はいろいろあるのですが、その中の1つに、エドヒガンが生育しやすい環境が減少していることが挙げられます。植物を守るには、その植物がどういう環境に生育しているのか、土壌条件や地形条件、周りにどのような植物が生育しているのかなどをまず明らかにしないといけません。私はそうした基本的な事柄に関する調査・研究も行っています。これまでの調査で、エドヒガンは明るくて、やや湿った土壌条件のところに生育することが分かっています。人が山に入って木を切るなどの手入れをすることで、山の中に『明るくて湿っている場所』がつくられていましたが、そうした営みが行われないようになったために、明るくて湿っている場所というものが、どんどん暗くなっていっています。人と森の関係には、数百年、数千年の歴史があり、そうした自然の絶妙なバランスの上で、エドヒガンはこれまで生き続けてきました」。

山の中で咲いているエドヒガン

 

さらに、石田教授は他の要因についても言及しました。「1つめに、兵庫県内で二ホンジカが非常に増えてきていることが挙げられます。シカは草食動物なので、口が届く範囲の植物を片っ端から食べてしまいます。エドヒガンの幼木も食べられており、今生き残っているエドヒガンのほとんどは、成木(大人の木)ばかりです。シカの増加によって様々な方面で影響が出ているので、シカの個体数を減らさなければならず、兵庫県では年間約4万5千頭のシカを駆除していますが、それでも追いついていません」。

森林の林床がシカの食害によって裸地化した様子

 

「2つめには、最近新しいリスクが発生しまして、クビアカツヤカミキリという環境省から特定外来生物に指定されている昆虫による被害があります。クビアカツヤカミキリは、黒くて大きく、首の周りが赤くなっています。サクラやモモ、ウメなどのバラ科樹木が好きで、そうした樹木に卵を産み付け、その卵がふ化すると、幼虫が木の中に潜り込んで木を食べてしまいます。徹底的に木の内部を食べるので、穴が空いてスカスカになり、木を枯らせてしまいます。薬剤を散布したり、穴に針金を刺し入れたり薬剤を注入したりして幼虫を殺すなどの対策が実施されていますが、1匹のメスが1,000個以上産卵した例もあるほど繁殖力が非常に強く、駆除がなかなか追いつきません。いよいよ被害が本格化すると、その木だけでなく、周りの木も全て伐採し、粉砕処理したり焼却処理したりする必要が生じます。クビアカツヤカミキリの防除対策は、本当に地道な、一筋縄ではいかない作業ですが、日本の伝統的な桜であるエドヒガンと、エドヒガンに依存している生き物を守るためには、このようなことも実施する必要があります」と石田教授は話しました。
※特定外来生物…2004年に制定された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」に基づき、外来生物(海外起源の外来種)で、生態系をはじめ、人の生命・身体・農林水産業への被害を及ぼす恐れがある生物に対し、環境省が指定している。特定外来生物は、生きた個体(卵、種、器官等も含む)の飼育、栽培、保管、運搬、販売、輸入、譲渡し、譲受け、引渡し、引取り、放出、植栽などの行為について原則禁止されている。詳細は下記の関連リンクをご覧ください。

 

COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.