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「家族看護とは?病気や障がいをもつ子どもたちが地域で生活するための支援」 地域ケア開発研究所 本田 順子教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

12月15日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、地域ケア開発研究所の本田 順子(ほんだ じゅんこ)教授です。

 

今回のテーマは、「家族看護とは?病気や障がいをもつ子どもたちが地域で生活するための支援」
本田教授の専門は、「在宅ケア・家族看護」です。

 

人々のいのちと暮らしのサポートを目的とした看護学専門の研究所

本田教授は神戸大学大学院医学系研究科を修了後、神戸大学医学部附属病院の小児病棟で看護師として勤務し、その後、大学教員として学部生や大学院生の教育に携わりながら、小児看護や家族看護に関する研究を行ってきました。本学には2019年に着任し、2023年4月から本学の附置研究所の1つである地域ケア開発研究所で教育・研究を行っています。
地域ケア開発研究所は、2004年に地域の特性に合わせた健康教育及び健康状況の発信拠点として、また、国内外の災害や国際援助に関わる研究ネットワークの拠点として開所しました。「災害看護」「国際地域看護」を担当する広域ケア開発研究部門、「公衆衛生・地域看護」「在宅ケア・遠隔看護」を担当する地域ケア実践研究部門の2部門4領域体制で、2023年に明石看護キャンパス内に開設されたデジタルヘルスケア・センターや看護学研究科の教員等との連携のもと、「ケア」のこころをもって、地球環境の変革期における人々のいのちと暮らしをサポートする研究所を目指しています。

地域ケア開発研究所主催の公開講座で看護職を対象とした災害時のシミュレーション教育について講義・演習をしている様子

 

本田教授が籍を置く在宅ケア・遠隔看護領域は、Society5.0の時代を迎え、新たなテクノロジーが人々の生活に変化を及ぼしていることに加え、医療及び看護が病院等から在宅・地域へと広がりを見せている現状を踏まえ、「地域の特性に合わせた看護ケアシステム等の構築・開発にかかる研究を進め、その成果を広く社会に提案し、人々の命と暮らしをサポートする」という研究所設立時からのミッションの重要性がますます高まっているとして、体制強化のため2023年4月に設置されました。本田教授は本領域において、医療関連機器の研究開発等に取り組んでいる先端医療工学研究所等との連携強化を図りながら、地域における看護ケアのイノベーションにつながる研究等を進めています。

兵庫県立はりま姫路総合医療センター、先端医療工学研究所等と連携し、最新の高機能シミュレーター(写真)を用いて医療人材育成に関する研究をしています。

上記の研究について、フィリピンで開催されたThe 8th Asia Pacific Congress of Paediatric Nursingで講演した際の様子

 

患者さん本人だけでなく、周りの家族も看る-家族看護とは

本田教授が専門とする『家族看護学』という言葉を聞くと、病気になった家族を家庭内で看病するというイメージを持ちがちですがそうではなく、『家族看護学』は家族社会学や家族療法、家族心理学といった学問と看護を融合させてできたような学問であると本田教授は話します。本田教授が家族看護を専門とするようになった背景には自身の実体験があるといいます。
「例えば、小児看護の分野で『子ども』というと、実は幅が広く、産声を上げて生まれてから思春期くらいまでを指すのですが、小さなお子さんであれば、自分で治療の選択ができないですし、自分のこともお世話ができないので、お母さんやお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんの皆がその子どものお世話をすることになり、兄弟も影響を受けることがあります。小児看護の分野だけでなく、認知症の高齢者がいるご家族であれば、認知症の方もサポートが必要です。元々私がこの家族看護に興味を持ったのは、自分の家族が病気や疾患を持っていて、『その人だけでなく、家族もすごく大変だな』という実体験があったので、家族看護という分野を知ったときにとても魅力を感じ、『家族も看護してもらえるのかな』と思ったことがきっかけでした」。

医療依存度の高いお子さんとご両親と撮影した1枚です。(WEB等での掲載許可をいただいています)

 

様々な家族の在り方がある中で

「自分の看護師としての経験上でもそうでしたが、家族看護の勉強を進めていくと、やはり家族というのはとても影響を受けるので、『医師や看護師をはじめとした医療者は、患者さんだけを診ていたらいけない』と感じました。患者さんというのは、家族の中で生活をしていて、同居か否かなど、いろいろな家族の形はあると思いますが、みなさん家族なり親戚なりがいらっしゃると思います。そのなかで家族看護は、『この患者さんは家族の中でどういう役割をしていたのかな、ご家族はどういうふうに患者さんをサポートしているのかなということも考えながら、患者さんの看護をしていかないといけない』とする学問です。例えば、子どもの患者さんの治療方法を選択するというのでも、ご家族がどういうふうにそれを選んでいくのかというところのサポートが必要であると思います。特に、がんの告知も日本では本人よりも家族が先に聞くという文化もありましたが、欧米では本人に告知することが当たり前の文化です。ですので、『これが正しい』という答えはありませんが、『家族をどのようにしてサポートしていくのが一番良いのか』というものを学問として探究しています」。

また、本田教授は家族看護における課題について言及しました。「家族も昔の大所帯ではなく、核家族であったり、一世帯あたりの子どもの数が少なくなっていたり、独居の方もいらっしゃるというところでマンパワー不足ということもあるので、医療者がどのように家族を捉えて、どのようにサポートしていくのかについては、家族看護における重要な課題であると思います。また、コロナ禍以降、病院における入院患者の方と家族の面会が1回あたり15~30分以内になるなど面会時間が短くなっており、患者さんだけでなく、医療者も家族に会いにくい状況になっています。看護師は面会のときにお話を伺うなどして家族に関わりを持ちますが、医療者側からも家族が見えない状態になっており、家族看護を専門とする私たちは、面会時間が少ない中でもどのように家族に関わっていけば良いのかと、コロナ禍以降とても考えるようになっています」と本田教授は解説しました。

 

家族の中で一番良い選択ができるようサポート-家族支援専門看護師

看護における家族支援の重要性が高まりを見せる中で、本田教授は『家族支援専門看護師』と呼ばれる看護師の方々が活動されていることを取り上げました。家族支援専門看護師(Certified Nurse Specialist in Family Health Nursing)は、2008年に公益社団法人日本看護協会によって特定された分野で、病院をはじめ、訪問看護ステーションや教育機関等で活動されており、患者と家族がひとつの方向に向かってその家族らしく歩めるよう支援されています。本田教授は「家族自体が多様化している中で、患者さん1人では療養もできなければ、治療も難しいものがあります。やはり必要なときには家族に集まってもらってお話を伺ったり、何か大きな意思決定をしないといけない、治療を選択しないといけないというときには、そこに医療者が間に入って支援をします。家族1人ひとり意見も様々なので、知識を提供するなどして、家族の中で一番良い選択をしてもらえるような関わりをするというところに、私たちは専門性を持っています。家族支援専門看護師は、教育課程を持つ大学院修士課程を修了して、日本看護協会による専門看護師認定審査に合格しなければなれないということもあり、どこの病院にもいらっしゃるという状況ではありませんが、兵庫県立病院の中には家族支援専門看護師がいらっしゃる病院もあります」と紹介しました。

学生に向けて、家族支援に関する講義をしている様子

 

加えて本田教授は、家族支援専門看護師の今後について言及し、「この家族看護というものは、多くの大学でも教えている科目で、私自身も本学や神戸大学で家族看護の教育に携わっており、一般の病院や兵庫県立病院の看護師の方に向けて家族看護の講義もしています。一方で、近年は在宅ケアといって、医療費の高騰により入院期間がどんどん短縮されている現状があり、大きな病気をお持ちの方でも訪問看護を取り入れて自宅で療養される方が増えてきているので、家族支援の専門家のニーズはこれから増えてくるのではないかと思います」と述べました。

 

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