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工学研究科の大学院生が世界的なAIコンペティション「RSNA 2024」で金メダルを獲得

このたび、先端医療工学研究所所長で工学研究科の小橋昌司教授の研究室に所属する工学研究科博士前期課程電子情報工学専攻2年生の高島直也さん、永澤朗さんらが参加するチームが世界的なAIデータ分析プラットフォーム「Kaggle(カグル)」で開催されたコンペティション「RSNA 2024 Lumbar Spine Degenerative Classification」において、全1,874チーム(93か国14,754人登録、2,423人参加、23,203件提出)中11位に入賞し、上位0.7%のチームに贈られる金メダルを獲得しました。

左から高島さん、永澤さん

 

Kaggleとは、世界各国の企業・政府・教育機関等と、データ分析や機械学習に携わる世界中のデータサイエンティストやエンジニアをつなげるプラットフォームで、米国・サンフランシスコに本社を置くKaggle社が運営しています。中でも企業や政府等がコンペ形式で課題を出し、その最適モデルを競い合うコンペが行われていることでも知られ、その数や種類は多岐にわたっています。
今回、高島さんと永澤さんが参加したコンペ・RSNA 2024は、北米放射線学会(RSNA:Radiological Society of North America)が米国神経放射線学会(ASNR:American Society of Neuroradiology)との協力により開催しているものです。

 

5つの腰椎変性疾患を分類・検出し、重症度をAIで予測する精度を競う-RSNA 2024概要

本コンペの内容は、腰椎MRI画像(Sagittal T1、Sagittal T2/STIR、Axial T2)を用いて、5つの腰椎変性疾患(左神経根狭窄症、右神経根狭窄症、左椎間関節狭窄症、右椎間関節狭窄症、脊柱管狭窄症)の椎間板レベル(L1/L2、L2/L3、L3/L4、L4/L5、L5/S1)それぞれについて、重症度を正常/軽度、中等度、重度の3段階に分類して検出するという、「脊椎の状態を診断する放射線科医の診断をシミュレートする画像診断AI技術・プログラミングコードを開発し、これらを予測する際の精度を競う」というものです。

※神経根狭窄症(しんけいこんきょうさくしょう)…神経根は脊髄から左右に枝分かれしている細い神経のこと。ここの部分が圧迫される病気
※椎間関節狭窄症(ついかんかんせつきょうさくしょう)…背骨は椎骨と呼ばれる骨が積み重なってできている。椎間関節は上下の椎骨の間にある関節のこと
※脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)…脊柱管は背骨の中にある神経の通り道のことで、この脊柱管の通り道が狭くなり、神経が圧迫される病気

小橋教授の研究室にある腰椎のモデル(指指している箇所(黄色の細い箇所)が神経根、椎骨と椎骨の間にある緑色の箇所が椎間関節(椎間板)、黄色の太い箇所が脊柱管)

 

精度をより高めていくために-コンペ中の取組

本コンペは、2024年5月16日(木)から10月8日(火)までの145日間にわたって行われました。期間中は毎日2回までプログラミングコードをKaggleに提出することができ、都度速やかにKaggleによってプログラミングコードの画像診断の精度について評価が行われ、公式サイト上にスコアが掲載されました。
高島さんと永澤さんは、コンペ開始日の5月16日から取組を開始しました。Kaggleから与えられた3次元画像の腰椎MRI画像は、2次元の画像に換算すると約13万枚分に相当するといいます。この13万枚の画像をAIに学習させ、プログラミングコードをつくってテストを行い、Kaggleにプログラミングコードを提出。公式サイトに掲載されたスコアを確認して、さらに精度の高いプログラミングコードにするために作業するというサイクルを最終提出期限の10月8日まで何度も繰り返したと2人は話します。

※MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)…非常に強い磁石と電磁波を用いて体内を任意の断面で撮影し画像化する検査。

Kaggleから与えられた3次元画像

 

2人は本コンペに取り組むにあたって役割分担したといい、高島さんは機械学習モデルを、永澤さんはKaggleから与えられた腰椎MRI画像の前処理を担当しました。「私たちがこのコンペに費やした時間は少なくとも500時間はあると思います。日々の研究活動をしながらコンペに参加していたこと、また、コンペ関連でしなければならない作業が多く、2人とも同じことをしていると時間が足りないので最初に役割分担を決めました。そして、作業に取りかかり始め、『とりあえず1回提出してみよう』ということでKaggleに初めてコードを提出できたのがコンペ開始日から10日後でした。その時点ではかなり精度の低い状態でしたが、そこから段々精度を上げていきました」。

 

参考:高島さんと永澤さんが工夫したこと

➀まず、レベル毎に椎間板の領域を自動抽出する機械学習モデルを作成

今回のコンペ課題における関心領域は椎間板付近であったため、L1/L2~L5/S1までのレベル毎に椎間板領域の抽出を行なう。
※関心領域…データ全体の中で特に注目して分析や処理を行いたい特定の部分

 

➁自動抽出した椎間板の領域をもとに重心と重み付き平均二乗誤差から直線を引き、重心座標と直線から一片4cmの正方形を切り取る。
※重み付き平均二乗誤差…予測値と実際の値の誤差を二乗し、各データ点の重要度(重み)を掛けた誤差の平均

最終的な脊柱管狭窄症座標予測

 

➂与えられた画像をそのまま用いるのではなく、➀➁の説明でレベル毎に切り取った画像を用いて機械学習モデルを訓練する。この工夫で飛躍的に精度が向上。

右側がレベル毎に切り取った画像

機械学習モデルのコード(一部)

 

また、本コンペでは1チーム5人までチームを組むことができます。最初は2人で取り組んでいましたが、途中から2名の方に加わっていただいたといいます。「一番良いスコアはゼロで、これはあくまで理論値です。私たちのチームの最終的なスコアは0.410で、優勝したチームは0.388だったので、ある程度の差があります。われわれの肌感ではスコアを上げるのが結構辛かったです。100m走のミリ秒単位の改善をするような感覚でした。ある意味、人間の限界点のようなところがあり、参加者の皆がそれにどんどん近づいていて、最終順位になると、皆近いスコアで固まっていました。その中で、未知のデータに対してしっかり精度を出すためにどうしていくかというところも最終段階では考えていかないといけない。コンペ開始から4か月は2人でしていて、まずまずの良い順位につくことができました。そこから金メダルを獲るために、医師をされながらAI研究もされている方と、画像系エンジニアの方のお二人にチームに加わっていただきました。Kaggleをしている方なら誰もが知っているような凄い方たちで、技術的なことはもちろん、問題の本質を捉える能力を一部吸収できた気がして貴重な経験になりました」と話します。

 

Kaggleによる最終評価及びランキング付けは、参加者らのチームがそれぞれ提出したものの中から2つ選択したものによって行われます。2人の参加するチームは、より精度の高いプログラミングコードを追い求めて取組を続けた結果、最終提出期限の2日前に初めて金メダルに届くスコアを出すことができたといい、最終評価には締切前日に提出したものを選択しました。「私たちは一番良いものを選択できていたので良かったと思います。金メダルの射程範囲内だったのは2日前からなので、最後の2日間に怠けていたら金メダルは獲れませんでした」と振り返ります。
最終的に全1,874チーム中、上位0.7%にあたる13位までが金メダルを、上位5%が銀メダル、上位10%が銅メダルを獲得し、高島さんと永澤さんが参加するチームは11位入賞、金メダルを獲得することができました。なお、今回金メダルを獲得したチームとして、ソニー株式会社や世界的な半導体メーカーであるNDIVIAのエンジニアなどが名を連ねています。

最終順位。RSNA 2024 Lumbar Spine Degenerative Classification公式サイトより

 

日々の研究を活かし、コンペでの取組を研究に活かす-コンペ参加の背景

本コンペに参加した理由について高島さんは「これまでにKaggleのコンペティションで銅メダルと銀メダルを獲得したことはありますが、金メダルを獲得したことはありませんでした。金メダルには特に価値があり、データサイエンティストとしての実績につながります」と話し、永澤さんは「来年4月から就職することになっており、AI関連の部署への配属を希望しているのでその一助としたいというのがありました」と話す一方で、元々高島さんは腹部のX線画像から便とガスの領域をAIを用いて自動抽出するという便秘診断の支援に関する研究と、小児脳のCT画像からの年齢予測に関する研究を、永澤さんは頭部のCT画像から脳内出血の出血量や位置などを自動抽出し、拡大の予測等に関する研究をしており、本コンペの内容が日々の研究と直結していたという背景もあります。高島さんは「元々している研究でも自分たちでコードを書いて機械学習モデルを構築するのですが、コンペの取組を通して、そこのレベルが上がったと思います」と語り、永澤さんも「コンペ期間中に医用画像を見ていた時間はかなりの時間になります。研究で医用画像を扱うにあたって私は医師からしたら素人ですが、画像の見方や、医用画像のDICOMファイルには画像だけでなく、画像に紐づいたいろいろな情報が入っており、これら諸々の情報の使い方のスキルも上げることができたのではないかと思います」と話します。

 

目標に向けて取り組むということ-今後の展望

最後に、高島さんは「期間中はずっとこのコンペのことを考えながら日常生活も送っていたので精神面・体力面の両方でかなり厳しいものがありましたが、同じ研究室のメンバーがチームメイトであるという強みを活かしながら、最初に定めた『金メダル獲得』という目標を最終的に達成することができて良かったです。このコンペに出る前の私たちには、金メダルを獲れる実力はほぼなかったと思います。でも、『目標は高くあろう』と本気で金メダルを獲りたいと思っていました。自身の人生では今まで最初に明確な目標を立てて完遂する経験が少なかったので、大きな成功体験になりました。来年4月からは博士後期課程に進学して、来年以降も工学研究科に所属することになりますが、引き続き医用画像に関する研究を続けて、『医療×AI』の分野に貢献できればと思っています。そして、在学中にもう一度金メダルを獲得してKaggle Masterになりたいです」と述べました。
また、永澤さんは「時間に関してはとてつもなくかけましたが、それでも到達できるか分からない中で自分を信じた結果、実ったことが良かったと思います。体力とメンタルの2つが一番大事です。今後については、来年4月から就職しますので、研究室にいられる期間はあと4か月程度しかありません。限られた期間でできるだけ研究を頑張り、研究室でご指導いただいた小橋先生や藤田先生に恩返しができればと思っています」と話しました。

※Kaggle Master…Kaggleコンペでは決められた条件を満たすと「Grandmaster」「Master」「Expert」「Contributor」「Novice」の称号が与えられる。金メダル1枚と銀メダル2枚の獲得が「Master」昇格の条件。2024年10月24日時点で、「Master」は全世界で2,138人(うち、282人が日本)

 

2人の指導教員である小橋教授は、「金メダル獲得おめでとうございます。研究もよく頑張っていますが、コンペはそれとは違う難しさ、世界中の人と競争する厳しさがあると思います。2人がそれに打ち勝ち、金メダルを獲得できたことを非常に誇らしく思っています。さらに他組織の方とチームをつくり、成績を向上できたことは、これからの社会の中でのチームビルディングの良いOJTになったと思います。今後さらなる発展を期待しています」とメッセージを贈りました。

左から藤田大輔助教、永澤さん、高島さん、小橋教授

 

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