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「自然から学び、自然を楽しみ、そして自然と共生する」自然・環境科学研究所30周年記念シンポジウム(第21回知の創造シリーズフォーラム)

2月23日(木・祝)、神戸国際会館において、「兵庫県立大学自然・環境科学研究所30周年記念シンポジウム 第21回知の創造シリーズフォーラム『自然から学び、自然を楽しみ、そして自然と共生する~自然・環境科学研究所のこれまでとこれから~』」を開催しました。

 

自然・環境科学研究所は、自然及び環境の総合研究を行い、学術の発展と「自然に調和した人間社会」の創造に寄与することを目的に、自然史学から環境計画までを統合し、人と自然の共生のあるべき姿を探究する自然・環境科学の研究機関として、1992年に開設しました。兵庫県内の5つの地域、三田市、豊岡市、丹波市、佐用町、淡路市において、博物館をはじめ、生物多様性の保全、恐竜をはじめとした動物化石の発掘、コウノトリの野生復帰、緑環境の創出、野生動物の管理、天体観測など、大学教員が兵庫県の基幹プロジェクトを担う県立の社会教育施設や研究機関の研究員を兼務して、実務と研究を結びつけた取組を行ってきました。このスタイルは、研究所の開設当初から「大学による地域貢献の新しいモデル」として注目されており、現在も全国的にユニークな取組として知られています。

本シンポジウムは、自然・環境科学研究所の開設30周年を記念して、また、本学の研究活動の成果を広く公開する機会として毎年行っている知の創造シリーズフォーラムの第21回としても位置付け、これまでの成果を報告するとともに、これからの展望について議論する機会として開催し、当日は会場とオンラインあわせて約200名の方が参加されました。

 

はじめに、太田勲学長による開会の挨拶がありました。太田学長は、研究所のこれまでのあゆみを紹介し、「自然・環境科学研究所は、兵庫県が設置した文化・研究施設をベースとして教育・研究を展開しており、研究拠点も県下各地に分散している。そういう意味で、全国で例を見ない大学の社会貢献の形を形作っている研究所であると自負しているところである。今後も地域と連携して、この研究所が一層発展していくことをお願いしたいと思っている。また昨年、本学はSDGs宣言を発した。その先頭に立つのが本研究所であり、宣言を発するにあたってリードしたのも本研究所である。安全で平和な社会の実現と、世界の幸福と福祉のため、これまでの教育・研究活動をますます発展させていって欲しい」と述べました。

 

続いて、自然・環境科学研究所の太田英利所長による主催者挨拶がありました。太田所長は挨拶の中で「これまでの30年、非常に多くの分野をまたいで、教育・研究活動に邁進してきた。これだけの分野をカバーする守備範囲が広い研究所は、他にないのではないかと考えている。われわれは、学問としての研究を発展させ、その研究成果を個々の問題解決をはじめ、県民の問題解決、行政的な問題解決に向けて応用させてきた。このような一連の流れを築くことができたのは、みなさまの支援と各教員の奮闘のおかげであると考えている」と感謝の言葉を述べました。

 

環境省自然環境局局長の奥田直久氏から、来賓祝辞をいただきました。

 

基調講演

基調講演では、総合地球環境学研究所所長の山極壽一氏を講師にお迎えし、「ゴリラに学んだ自然の仕組みと人類の進化」と題してご講演いただきました。ご講演では、今年で45年目を迎えられたゴリラの研究に関するお話を中心に、ゴリラの食料となっている植物の進化における動物との関係性や、ゴリラとチンパンジーの違い、人類の進化などについてお話いただきました。

 

話題提供

基調講演後は、自然・環境科学研究所の5つの分野の教員による話題提供がありました。

まず、自然・環境科学研究所(自然環境系)の高野温子教授から「人と自然をつなぐ科学 博物館という場を活かす」と題して、自然・環境科学研究所の沿革や研究内容の紹介、兵庫県立人と自然の博物館における過去5年間の成果、今後の取組について講演がありました。高野教授は、特に若い世代に向けて、自然環境に関心を持ってもらえるような取組や普及活動が必要であることについて言及し、今後の取組として、「博物館が所有する200万点を超える本物の実物の資料について、本物にしか持ちえない魅力・迫力を活かした展示をすることが大事と考える。また、小学生から高校生が学校行事で来館するというメリットを最大限に活かした普及教育を行っていきたい」と話しました。

 

次に、自然・環境科学研究所(森林動物系)の横山真弓教授からは、「人と野生動物との共存をめざす科学」と題して、兵庫県における野生動物をめぐる課題や野生動物管理について、2007年に設立された兵庫県森林動物研究センターの紹介、当センターで行われている研究内容について講演がありました。横山教授は、センターに所属する研究員が行政の部局と同じ目標に向かって勤務していることについて、野生動物管理の分野では、他にはないユニークなケースであることを紹介しました。また、センターの強みの1つとして、日々蓄積しているデータに基づいて、社会科学的な視点から獣害対策にアプローチする取組を実施していることを挙げました。最後に横山教授は「森林動物系では、これまでも、これからも徹底したモニタリングを続けていきたい。そして、データに基づいた対策・効果の検証を行い、必要な対策については科学的に判断し、兵庫県の獣害対策等の計画に落とし込んでいく。また、大学院の教育、多様な人材育成を続けていきたい」と話しました。

 

続いて、自然・環境科学研究所(宇宙天文系)の伊藤洋一教授からは、「宇宙は一番大きな自然」と題して、「太陽はどのようにして光っているのか」「指輪の材料はどこでできたのか」についてと、兵庫県立大学西はりま天文台における研究について講演がありました。講演は、会場及びオンラインの参加者の方々も参加できる形で進められ、伊藤教授は、三択クイズや計算問題の出題を挟みながら、水素の核融合によって太陽が輝いていることや、ダイヤモンドや金、プラチナがどのようにしてできるのかについて紹介しました。また、伊藤教授によるユーモアのある講演に対して、会場から笑いが起きる場面もありました。

 

自然・環境科学研究所(地域資源マネジメント系)の大迫義人教授からは、「コウノトリ野生復帰プロジェクト-レジデント型研究者の苦労と喜び-」と題して、兵庫県但馬地域で展開されているコウノトリの野生復帰の現状と、豊岡市に定住して研究を行っている地域資源マネジメント研究科の教員(レジデント型研究者)の、コウノトリの野生復帰の推進における様々な苦労や喜びについて講演がありました。大迫教授は、野生復帰プロジェクト推進のための官民学の連携と実践の重要性を指摘し、レジデント型研究者について、「研究者は地域住民に対し、野生復帰に関する研究成果を共有し、プロジェクトの目標であるコウノトリと共生する地域づくりを目指した取組を実践してもらうため、もっと寄り添う必要があるのではないか」と話しました。

※レジデント型研究者…研究のフィールドである地域に定住して、そこで生活し研究を行う研究者のこと。

 

最後に、自然・環境科学研究所(景観園芸系)の豊田正博教授からは、「心地よい緑の景観が人を癒す-3分間のネイチャーブレイク-」と題して、景観園芸系、淡路緑景観キャンパス、キャンパスの四季ごとの美しい風景、バイオフィリアについて紹介がありました。講演では「3分間のネイチャーブレイク」と題した体験が挟まれ、参加者は、しばし鳥のさえずりに耳を傾け、癒しのひとときをもちました。豊田教授は、このたびのコロナ禍の影響で、植物を室内に置いたり、公園に行く人が増えたりしたことや、人はストレスフルな境遇に置かれると、無意識のうちに安全で安心できる自然を求め、ストレス回復を図ろうとすることなどを紹介し、「私たちは、自然に生かされ、自然とともに生きることで健康になれる」と話しました。

※バイオフィリア…「バイオ」と「フィリア」を掛け合わせた造語。生命愛。人は生まれつき、自然、動物、植物との結びつきを好むという概念。

 

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、太田所長がコーディネーターを務め、パネリストを山極氏、高野教授、横山教授、伊藤教授、大迫教授、豊田教授が務めました。太田学長をはじめ、会場及びオンラインの参加者の方からも質問が寄せられるなど、活発な討論や意見交換が行われました。

 

最後に、樋口芳樹副学長から閉会の挨拶がありました。樋口副学長は「自然・環境科学研究所は、本日のシンポジウムのタイトルにもあったように、これからも『自然から学び、自然を楽しみ、そして自然と共生する』ということを目標に、未来への持続性を一番大切にして研究をし、その研究に基づいた教育と社会貢献をしていくことに努力していくので、みなさまの温かいご支援とご協力を今後とも賜るようお願いしたい」と挨拶し、盛会のうちに終了しました。

 

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