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理学研究科 藤木幸夫特任教授が「日本学士院賞」受賞者に決定しました

このたび、理学研究科生命科学専攻の藤木幸夫特任教授が「日本学士院賞」を受賞することになりました。日本学士院賞は、明治43年に創設され、学術上特にすぐれた論文、著書その他の研究業績に対して贈られるもので、日本の学術賞としては最も権威のある賞です。

 

藤木特任教授の専門は、農芸化学・生化学で、今回の日本学士院賞の受賞対象となった研究題目は「ペルオキシソームの創生機構と欠損症研究によるオルガネラ病概念の確立」です。藤木特任教授は、脂質の分解や合成など様々な代謝機能を担う細胞小器官(オルガネラ)であるペルオキシソームに関する卓越した発見をしました。ペルオキシソームの形成異常細胞変異株を多数樹立し、ペルオキシソーム形成に必須な数多くの因子(ペルオキシン)を発見、ついで原因不明のペルオキシソーム欠損(形成不全)症の病因遺伝子を網羅的に解明することに成功、さらには、モデルマウスを用いてペルオキシソーム欠損症の病態発症機構も明らかにしました。また、ペルオキシソームの過酸化水素分解酵素であるカタラーゼが、酸化ストレス下には細胞質へ集積して細胞死を抑制するという極めて重要な機構を発見しました。一連の研究成果はペルオキシソーム欠損症を遺伝子、分子および個体レベルで解明し、オルガネラ恒常性とその破綻によるオルガネラ欠損病という新しい概念を創生し、生命科学分野へ大きな波及効果を生み出しました。藤木特任教授の業績は、この分野の開拓者として国際的に高く評価されています。

※ペルオキシソーム…脂肪酸の分解やリン脂質の合成、物質酸化反応に伴う過酸化水素の生成と消去など重要な代謝機能を担う直径0.1~1 µm(マイクロメートル)のオルガネラ。

※細胞変異株…遺伝子変異を有しクローン化された細胞株。

※ぺルオキシン…多くのペルオキシソーム欠損性チャイニーズハムスター卵巣(CHO)変異細胞株に対し、ペルオキシソームの形成に必須な相補遺伝子を探索し、単離されたこのオルガネラの形成因子の統一名であり、最初にペルオキシンPex2(PEX2 cDNA)が発見された。これを基に、原因不明の先天性難病と認知されていたZellweger症候群などペルオキシソーム欠損(形成不全)症の最初の病因遺伝子(PEX2)が単離された。

※カタラーゼ…ペルオキシソーム内に存在し、ペルオキシソームの主たる代謝系を担う酸化反応により生成する過酸化水素(H2O2)を分解する酵素。

※細胞死…細胞死には、アポトーシス(積極的細胞死)とネクローシス(細胞壊死)の2種類がある。アポトーシスは多細胞生物の細胞で増殖制御機構として、遺伝子によって制御されている。

※オルガネラ恒常性…オルガネラは、細胞内構造の区画化に基づく高度に発達した機能を有し、恒常性が維持されている。また、オルガネラ自体を構成する生体分子や内包される酵素・タンパク質のみならず、オルガネラ間の相互作用や細胞内輸送に関わる分子群により細胞や生物機能の恒常性を担っている。

九州大学理学研究院生物科学部門藤木研究室に、Basel大学BioCenter教授Gottfried Schatz博士 (ミトコンドリア研究の大家)の訪問を受け、研究室内の一部のメンバーを紹介、密な議論をしていただいた (1999年12月、右から2人目が藤木特任教授)。

 

九州大学理学研究院生物科学部門藤木研究室の日本分子生物学会年会 (1999年、福岡)での院生、研究者の発表に対し、来日されたMunich大学生理学研究所教授Walter Neupert博士 (ミトコンドリア生合成研究の大家)に熱のこもった議論をしていただいた (1999年12月、後列左から3人目が藤木特任教授)。

 

藤木特任教授は、博士の学位を取得後、米国のコーネル大学に留学、その後ロックフェラー大学で今回の受賞対象となったペルオキシソームに関する研究に携わるようになりました。2021年9月に本学の特任教授に就任し、今日に至ります。なお、2015年に日本生化学会 柿内三郎記念賞、2019年に西日本新聞社 西日本文化賞学術文化部門、2021年に武田科学振興財団 武田医学賞、2022年に藤原財団 藤原賞を受賞しています。

コーネル大学でのタンパク質化学の研究を通して、教科書で知り、憧れであったロックフェラー大学ノーベル化学賞受賞者Stanford Moore教授と親交を持つことができ、同大学のいくつかの研究室をご紹介いただきました。

 

今回の受賞の知らせを受けて、藤木特任教授からコメントをいただきました。

 

ペルオキシソームの研究を始めることになったきっかけについて

「植物リパーゼの構造と機能」の研究で学位を取得後、米国のニューヨーク市にあるコーネル大学医学部に留学しました。テーマ「脳下垂体性線刺激ホルモンFSHの構造と機能の解明」に従事し、いくつかの重要な新しい知見を発信することができました。これらタンパク質化学研究と並行して以前よりタンパク質の生合成にも興味を持っていましたので、「オルガネラの形成機構の解明」を目指して、すぐ隣のロックフェラー大学のノーベル生理学・医学賞受賞者Christian de Duve教授研究室に移籍しました。そこで始めた細胞内小器官ペルオキシソームの研究が、同大学Günter Blobel教授をはじめ、多くのオルガネラ生物学分野の研究者との交流も加わり、現在につながっています。

 

このたびの受賞対象となった研究成果によって、今後期待されることについて

時間および空間軸で捉えたペルオキシソーム生合成と障害の詳細な分子機構の解明が、期待されます。また、ペルオキシソームで生合成が開始され小胞体で完了するエーテルリン脂質、プラスマローゲンは生体膜抗酸化作用のほか、脳・神経や免疫など高次生命機構を維持するため、極めて重要な役割を持つと考えられています。現代超高齢化社会においては、特に加齢による脳機能障害は克服すべき喫緊の重要な課題の一つであり、プラスマローゲンの恒常性維持機構に関する研究の大きな進展が期待されます。

 

今後の展望について

細胞や生物機能の恒常性を担い、高度に発達した機能を有するオルガネラの恒常性の維持とその破綻によるオルガネラ欠損病という新しい概念に基づき、オルガネラ自体を構成する酵素・タンパク質のみならず、オルガネラ間の相互作用や細胞内輸送に関わる分子群の解明と基本原理の構築が待たれます。

 

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