本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。
5月3日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、理学研究科の小簑 剛(こみの たけし)准教授です。
今回のテーマは、「光による半導体の機能制御」
小簑准教授の専門は、ナノフォトニクス、プラズモニクスです。
あらゆる機械になくてはならないもの
小簑准教授は、兵庫県赤穂郡上郡町に位置する播磨理学キャンパス内にある理学研究科で、有機物でつくられた半導体の構造に関する研究をはじめ、光に関係する工学であるフォトニクス、プラズモン(金属中の自由電子の集団振動)を利用した技術で金属の中の電子と光を合体させるような技術であるプラズモニクスに関する研究を行っています。
小簑准教授の研究対象となっている半導体は、電気を通す「金属」と、電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持った物質で、「電気の流れやすさ」が金属と絶縁体の中間程度であることから様々な機械に使われており、普段私たちが使っているパソコンやスマートフォンにも多くの半導体が入っています。米中の摩擦などの要因により世界的に不足しているといわれる半導体ですが、今やあらゆる機械になくてはならないものとなっています。
※有機物…炭素を含む化合物
発光の様子、スペクトル、光がどこに存在するかを調べる装置。
50年以上前の古い装置や最新の装置を組み合わせて自動測定が可能な独自の計測システムを開発した。
半導体は、一般的にシリコン(ケイ素:Si)などの原子でできています。原子とは、物質を構成する眼には見えない非常に小さな粒子で、化学の分野では最小単位とされており、大きくは陽子・中性子・電子の3つで構成されています。このうち、陽子と中性子を合わせたものを原子核といい、この原子核の周囲を電子が飛び回っています。電子は、とても小さな粒子で、電気を帯びています。電気には、プラス(+)とマイナス(-)がありますが、電子はマイナスの電気を帯びています。実体があるものであり、眼には見えませんが可視化することは可能であるといいます。小簑准教授は、「原子は非常に小さいものですが、われわれの身の回りにある物『物質』は眼に見えますよね。なぜ物質が眼に見えるかというと、原子核が集まっているからなのですが、なぜ原子核が集まれるかというと、電子が原子核と原子核を結びつける糊のような働きをするからです。原子核はプラスの電気を持っているので、それだけが集まると反発してしまいますが、電子がその仲立ちをすることによって、原子核が集まれます。そうすると物質が形作られるので、例えば、アルミニウムの原子核が集まれば、われわれの目の前にあるアルミニウムができますし、ケイ素の原子核が集まればケイ素ができます」と解説します。
原子核の間に電子が存在することで原子核の間に結合が生じる。
光で半導体の電子を元気にする
小簑准教授は、半導体に含まれる電子を「元気にしたい」といいます。「半導体も物質ですので、電子が含まれます。半導体に含まれる電子を元気にするには、いろいろな方法がありますが、私は光を使って元気にします。物質が光を吸うと、そこに含まれる電子が元気になります。言い方を変えると、エネルギーが高くなります。金属にも同じようなことが言えて、金属に光のエネルギーを与えて電子を元気にしますが、その寿命、電子が元気でいられる時間は非常に短いです。1兆分の1秒とか、1,000兆分の1秒などですが、半導体を使うと10億分の1秒ぐらいまで長くすることができます。だから、まず寿命の長い元気な電子をつくってあげるというのが最初の段階です。その上でエネルギーの高い電子を化学反応や物理現象に応用したいと思っています。その電子をそのまま利用するのであれば、例えば、何かしらの分子に電子を与える『還元』という化学反応に使えますし、あるいは、何らかの分子から電子を引き抜くと『酸化』という反応になります。半導体の中で元気にした電子は、元にあった位置から少し離れた場所に移動しているので引き抜くことができます。そうすると、引き抜かれる電子を持つ分子からすると、これは『酸化』になります。このような化学反応にも応用できますし、元気になった電子が、元の状態に戻るときに光を出すことがあるので、『発光』として何かに使うこともできますし、元気な電子を他の物質に流せば、太陽電池に応用することもできます。これらの研究は現在も盛んに行われている研究ですが、私の研究はこれらにスパイスを加えるようなことをしています」と小簑准教授は語ります。
励起状態が生み出す酸化・還元 (電流も含む) および発光。電子のエネルギーにはゆらぎがある。
脱炭素社会の実現への貢献も視野に
「電子の元気さ」にはバラつきがあるといい、小簑准教授が行っている研究のポイントはここにあるといいます。「バラつきがあると、統制する側としては扱いにくく、統制しづらいです。電子の元気さをお金に例え、仮に『あなたに100万円をあげます』というシチュエーションがあるとします。『100万円を好きに使って良いよ』と言われたら、100万円のものを買うという人もいるかも知れませんが、自然の中では、『100万円の中で100円のものをたくさん買いなさい。1,000円のものも、100円のものよりも少し少なめに買いなさい。1万円のものも、さらにもう少し少なめに買いなさい』というように、安いものをたくさん買いなさい、『小さい元気さ』にたくさん使いなさいというふうに神様はルールを決めてしまっています。私は、神様がつくったそのルールを破りたいんです」と言葉に力を込めます。
「『100万円をもらったら、100万円をそのまま使う』ことができるようにするために、半導体と金属を使って、髪の毛の太さ程度の小さな箱をつくります。この箱の中に光を入れて閉じ込めると、光が半導体と金属に含まれる電子と合体します。すなわち、半導体の電子を元気にした状態で箱に閉じ込めることになります。そうすると、1つの元気さしか持たない状態をつくることができ、その後の使い道が決めやすくなります。それが、今回のテーマにもある『制御』、機能の制御ということになります。光のエネルギーをまず半導体の電子の元気さに置き換え、その後、水を分解して水素と酸素をつくろうとする際に、その反応をスムーズに起こすために利用するといったことに応用できるのではないかと考えています。日本は、海洋国家です。光のエネルギーを使って海水を酸素と水素に分け、その中から水素を取り出すことができれば水素ガスになるので、エネルギー源にすることができるようになります」と小簑准教授は、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現への貢献も見据えています。
研究中の光を閉じ込める箱と将来的な水平展開を見据えている水素生成技術への応用
自分で新しい原理をつくるということ
小簑准教授は、2018年4月に本学に赴任してから研究テーマを一新し、現在行っている研究に取り組むようになり、独自性の追求を図っています。それだけに失敗や挫折もあるといいますが、それでもその道を進む歩みを緩めることはありません。「研究をするのでも、生活をするのでも、面白くて役に立つような仕事、生活をしたいのです。半分は面白さなんです。面白さを仕事のことで置き換えると、テクノロジープッシュ、自分の持っている技術を推し進めていく、あるいは、誰かから依頼されたことをするデマンドプルで進めてしまうと、どうしてもレッドオーシャンを呼ぶことになります。競合他者が多いです。それよりも、自分で原理をつくり、将来のビジョンもつくって研究を進めるのであれば、ブルーオーシャンを泳げることになるので、少々辛くても1から研究したいと思い、今の研究をしています」と小簑准教授は瞳を輝かせて話しました。
※レッドオーシャン、ブルーオーシャン…ビジネス用語で、レッドオーシャンはある市場や業界において競合が多く、激しい競争が繰り広げられている状態を指し、ブルーオーシャンは未開拓で競合が存在しない、あるいは極端に少ない状況を指す。
学生への装置説明の様子。装置の使い方よりも原理の説明に重点を置いている。
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