本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。
5月19日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、理学研究科の藤井 拓斗(ふじい たくと)助教です。
今回のテーマは、「原子核の周りの電子の特性を探る」
藤井助教の専門は、「物性物理学」です。
ドイツの研究所から再び母校の研究室へ
藤井助教は本学理学部及び理学研究科の卒業生で、在学中は現在も所属する電磁物性学講座の研究室で研究を行っていました。物質理学研究科(現:理学研究科)博士後期課程を修了して博士号を取得、その後ドイツに渡り、黒体放射を説明するプランクの法則を発見したことで知られるドイツの物理学者マックス・プランク(Max Karl Ernst Ludwig Planck,1858-1947)の名前を冠するマックス・プランク固体化学物理研究所で研究員として2年間勤務し、日本に帰国。昨年4月から本学で教員として教育・研究を行っています。ドイツにおける研究スタイルについて藤井助教は「ドイツでは、かなりの大人数で研究に取り組んでいました。日本では、1つの研究室、あるいは2、3ほどの研究室が1つになってプロジェクトを進めていくという具合なので、1つの研究に関わっている人数がだいぶ違っていました。また、ドイツでは日本人が持っていない視点などを取り入れることができ、とても勉強になりました」と振り返ります。
ドイツ マックス・プランク研究所の所属グループでの合宿のときの集合写真
電磁波を使って原子核を見る
藤井助教は、医療検査で利用されるMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)の元の原理である核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)を用いて、次世代の低消費エネルギー材料として注目されているトポロジカル物質から、「光の速度で動くという特性を持った電子を探す」というような、物性(物質の性質)に関する研究を行っています。核磁気共鳴とは、強い磁場の環境に置かれた原子核に電磁波を照射し、その原子核が、照射された電磁波に共鳴する現象のことをいい、物質内部の電子の振る舞いを調べることができるといいます。「原子核にラジオで使われているような電磁波をメガヘルツ単位の振動数で照射すると、その核が持っている磁石のような性質の部分が共鳴し、応答をします。私たちは、その応答を見るということになります。原子核は周りの電子から影響を受け、エネルギーを受けているわけですが、その電子の動きによって原子核に与えられるエネルギーが変わってくるので、その原子核を見たときの応答も、周りの電子の状態によって見え方が変わってくることになります」と解説しました。
※MRI…放射線を使用せずに、強い磁石と電磁波によって体内の水素原子を画像化する検査
こうした研究は基礎研究と呼ばれ、成果が出るまでに相当の年月を要するといわれていますが、藤井助教は本研究において、解明に向けて少しずつ前進していると話します。「私たちのグループが行っている研究の1つに、黒リン(P)に関する研究があります。リンは、一般にマッチに使われている赤リンや黄リンなど、中学校の教科書に載っているようなものですが、その親類にあたる黒リンには半導体と呼ばれるような電気を流しにくい性質があります。この黒リンに、加重でいうと数トンくらいの圧力をかけると、『光の速度で動く電子』が現れるのではないかという理論の予測のようなものがあり、それを追いかけて実験研究を重ねたところ、『黒リンと呼ばれる黒色のリンの中には、圧力をかけると光の速度で動く電子が存在する』ということを明らかにすることができたという成果があります」と紹介しました。
超伝導マグネットを利用し、磁場を試料に作用させるために必要な液体ヘリウムを充填している様子
ヘリウムガスを学内で循環・回収・凝縮して再利用-低温センター
番組内で藤井助教は、研究で利用して液体から気体になったヘリウム(He)を液化して再度利用できるようにする設備・兵庫県立大学理学部低温センターが播磨理学キャンパス内にあることを紹介しました。ヘリウムは、藤井助教が行っている研究に欠かせないものですが、地球上に存在している量は極めて少なく、大変希少なものだといいます。さらに、近年世界的な供給不足に陥っており、価格も大幅に高騰し、産業や医療など様々な方面で大きな問題となっています。「ヘリウムガス自体は、日本で採れることはほぼないので、海外から輸入されたものを使うことになります。本学にある設備は、ヘリウムガスを圧縮して液体にする設備なのですが、ヘリウムガスは希少で高価なものなので、基本的に大学の中で利用したら、循環させて繰り返し使うことになっています。液体ヘリウムは、利用したら蒸発してガスになります。そのガスを回収して、設備で圧縮して液体に戻して、また利用するというサイクルになります。液体ヘリウムの沸点は-269℃です。-269℃以上になったら気体になってしまうので、液体で置いておこうと思ったら-269℃に冷やしておかないといけません。こうした設備が学内にある大学は結構限られており、公立大学では珍しいのではないかと思います」。
兵庫県立大学理学部低温センターの外観
続けて藤井助教は、「私たちが行っている研究は、基本的に非常に低い温度の環境下で測定をする必要があるのですが、電子は周りの気温や温度から熱エネルギーを受けると、かなり速く動いてしまう。そうすると、原子核の周りの電子がどのように動いているのかというのが乱雑すぎて見えにくくなってしまいます。そのため、ヘリウムを使って温度を下げ、周りからの熱エネルギーを減らして電子の動きをある程度遅くすることで、見やすくしています」と研究過程におけるヘリウムの役割の重要性について説明しました。
ヘリウムの液化に必要な設備の一部。左の容器に液体ヘリウムを700L程度貯蔵
次世代の低消費エネルギー材料・トポロジカル物質に期待
藤井助教が研究しているトポロジカル物質は、2010年頃から研究が盛んに行われ始めた新しい物質で、従来の絶縁体や金属、半導体とは異なる新たな研究分野の1つになっています。黒リンもその一種であるといわれ、研究者の中で注目されているといいます。将来的には、量子力学の原理により情報処理を行って複雑な計算を行う量子コンピューターの材料や、スマートフォンやパソコンなどの電子デバイスに搭載できるような低消費エネルギーの材料として使われるようになることが期待されています。藤井助教は「例えば電流を流した場合、電子が電流を受け取って動くのですが、電子は周囲にあるいろいろなものから邪魔されながら動いているので、そこでエネルギーのロスが起こります。一方、『光の速度で動く電子』は、周囲から邪魔をされない状態で動けるので、エネルギーのロスが少ない。障害物競走と単純な100m競走を走る違いと同じようなもので、エネルギー消費がほとんどないので、低消費エネルギーの材料として活躍するのではないかと考えています」とトポロジカル物質が持つ可能性に期待しています。
番組の最後に藤井助教は「成果が出たり、自分でなにかと物事を考えたり、学生と議論したりするなど、基本的に毎日が楽しいです」と日々の研究生活が充実していることを紹介しました。
所属研究室で実験を行う学生と議論している様子。写真右の青い装置が超伝導マグネット
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・兵庫県立大学理学部・理学研究科
・兵庫県立大学理学部物質科学科 電磁物性学講座
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