記事検索

  • 学部・組織・所属

  • 記事のテーマ

  • 記事のタイプ

「地震に強い建物を模型とシミュレーションで体験しよう!」 減災復興政策研究科 ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へKAKENHI~を開催しました

8月6日(火)、神戸防災キャンパスにおいて、「令和6年度ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI『地震に強い建物を模型とシミュレーションで体験しよう!』」を開催しました。

 

安全で安心なまちづくりのために丈夫で壊れない建築物を

「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」は、大学や研究機関において「科研費」(KAKENHI)により行われている最先端の研究成果に、小中学生・高校生のみなさんが直に見て、聞いて、触れることで科学の面白さを感じてもらうプログラムで、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費事業の一環として、全国の国公私立大学や大学共同利用機関、高等専門学校等の研究機関で開催されています。
このたび減災復興政策研究科で開催された本プログラムは、中学生・高校生を対象として、「地震に強い建物を模型とシミュレーションで体験しよう!」をテーマに、大地震の際にも建物が壊れないよう設計時に注意していることや、地震に強い建物について講義や実習を通して総合的に理解を深めることを目的に行われ、当日は兵庫県内外の19名の中学生・高校生が参加しました。なお、本プログラムは、環境人間学部環境デザイン系と神戸大学大学院工学研究科建築学専攻の協力を得て実施されました。

 

大学院ならではの学びを参加者へ-開講式

はじめに開講式が行われ、本プログラムの実施代表者である減災復興政策研究科長の永野康行教授による開会の挨拶とオリエンテーション、科研費に関する説明がありました。挨拶の中で永野教授は参加者に向けて、「配付したテキストの白紙スペースには好きなことや気づいたこと、学んだことをメモして欲しい」と呼びかけ、「みなさんにとって『大事だな』『ポイントだな』と思うことや学びになることは様々だと思います。特に、普段みなさんが中学校や高校でしている板書というものをここではしません。基本的にお話しすることが多いので、『大事だな』と思うことはぜひメモを取ってみてください。今日のプログラムが終わる頃には、配付したテキストがみなさんにとって自分ならではのテキストとなり、また、みなさんがそれぞれの学びを達成していたら良いなと思っています」と、自らメモを取ることや思考のプロセスを残すことの重要性について述べました。

 

また永野教授は、いつ頃から科学に興味を持ち、なぜ地震や建築の研究をしようと思ったのかなど、自身のことについて取り上げました。永野教授は「私自身のことをみなさんの年頃から振り返ってみました。中学時代から数学と物理に興味があり、さらに中学校の技術の授業で行われていた製図の学習や計算することも好きでした。その後、進学した高校で行われた自己分析をするプログラムでは『建築の設計士に向いている』という回答がありました。『そうか、向いているのか』と思い、どういうところでそれらを学べるのかを調べたところ、大学の工学部に建築学科というものがあることが多いと分かったので、大学の工学部に進学することに決めて、工学部で建築を学びました」と紹介しました。

さらに永野教授は、大学卒業後に進学した大学院修士課程で今まさに行っているような『コンピューターを使って、地震のときの揺れの計算をする』という研究をしていたと述べ、「どういう研究かというと、地震のときになぜ建物は揺れるのでしょうか。揺れているのは建物ではなく、あくまで地面です。では、地面が揺れているのになぜ建物が揺れているのかというと、建物が地面とくっついているからです。なので、地面が揺れると建物が揺れる。ここからが問題で、建物が揺れると、実は建物は地面を揺らし返しています。このような現象を相互作用といいます。一般的な建物を設計するときには考えませんが、こうしたことが大切な建物、例えば原子力発電所のようなとても硬くて丈夫な施設は耐震を考えることが大事で、こうしたものを計算して予測するという研究をしていました」と自身の研究内容を紹介しました。
その上で永野教授は「今日はここに多くの大学生や大学院生、研究者がいます。その方々とお話しする機会もあるので、『どのようにして大学の学部を選んだのか』『なぜ研究者になろうと思ったのか』など、みなさん多様かと思いますので、ぜひ聞いてみてください。参考になることが多いのではないかと思います」と呼びかけました。

 

地震に耐える建築について学ぶ-講義

続いて永野教授により行われた講義「地震に耐える建築」では、「減災復興学とは」「地震に耐える建築」「中小地震に対する設計方針」「大地震に対する設計方針」「地震に耐える構造要素」「建築士の種類」について取り上げられ、実大実験の様子を撮影した映像の上映や、大地震が起きた際の建築物の地震力への耐え方を体感する『柔剛建築体操』を交えながら講義が進められました。

 

実大実験の様子を撮影した映像の上映

 

2人1組で行う柔剛建築体操

最後に永野教授は、地震に耐える構造要素は壁であると述べ、本プログラムの後半で壁に関する講義を行うことを予告し、本講義を締めくくりました。

 

建築模型を用いた震動台実験で地震時の建物の揺れを学ぶ-体験型講義

次に神戸大学大学院工学研究科建築学専攻の向井洋一教授が登壇され、「建物の揺れを観察しよう」をテーマに、地震により建物に生じる揺れの特徴を理解することを目的とした体験型講義が行われました。
まず、模型などに地震と同じ地面の揺れを与える実験装置「震動台」を用いた実験が行われました。

 

固有周期がそれぞれ異なる複数の振動模型に対して、地面の揺れの周期を変化させながら振動を与えたときに、それぞれの振動模型がどのように揺れるのかを観察しました。
※固有周期…建物の特性で定まる固有の速さで振動する周期のこと。

神戸大学大学院工学研究科からお借りした実験装置「震動台」
番号やアルファベットが振られているものが振動模型

 

実験後、参加者は配付された「振動模型による実験キット」を各自で組み立てて振動模型をつくり、模型の動きを観察したり、振動模型の剛性や固有周期を計測するなどしました。
※剛性…建物に水平に働く力に対する、変形のしにくさを表す量のこと

 

振動模型の組立をはじめとした各実習時には、減災復興政策研究科の大学院生や環境人間学部の学生、教員が参加者をサポートしました。

講義の中で向井教授は、実験や検証などを行う際に出るエラーや誤差について言及され、「大事なことは様々な方法で答えを見つめていき、それらのエラーを確認した上で正解はどうなのか、あるいは精度はどうなのかと考えていくことが大事です。今回の実験で正解とピタッと合っていたら『すごいな』ということで、おそらく大体は合うと思いますがピタッとは合わないと思います。もし、あまりにも誤差があるという人は、ぜひこのキットを持ち帰って、自分でじっくりと正確につくってみて、正解にほぼ合うように精度を上げて、腕を磨いていただければなと思います」と参加者に向けて語りかけました。

 

強い骨組みを模型で実際に作ってみる-実習➀

実習➀では、神戸大学大学院工学研究科建築学専攻の水島靖典准教授が登壇され、どのような骨組みが強いのかを理解することを目的とした実習が行われました。

 

模型製作の実習を始める前に、水島准教授から建物を構成する部材(パスタ)の動きや、これから製作する模型の骨組み「トラス構造」について説明がありました。
※トラス構造…梁(はり)等の部材を三角形の組合せで作られた骨組みのこと

 

説明後、参加者は5つのグループに分かれて、骨組み模型(パスタブリッジ)の製作に取り組みました。なお、各グループはそれぞれ異なる構造の骨組み模型を製作しました。

 

骨組み模型の完成後には、各グループで製作した5種類の模型に重りを吊るして強度を調べる耐力実験を行いました。参加者は、実験を行う前に各自どのタイプの模型が一番強いのかを予想してから実験に臨み、実験後は結果について考察しました。

水島准教授は実験後の考察で、建物の耐力については力学的な要因と施工の誤差で結果が変わるとし、「計算の問題集には巻末に答えが書かれていますが、そうした答えがない場合に頼りになるのは、みなさんに体験してもらった『こちらの方が弱そうな気がする』というような勘と経験です。あとは最後に施工といって自分でつくってみるということが非常に重要です」と話されました。

 

木造建物の壁量計算を行い、地震に強い建物について学ぶ-実習➁

実習➁では再び永野教授が登壇し、木造建物の壁量計算をする実習が行われました。

参加者は、地震力および風圧力に対して必要な耐力壁の長さを求める計算や、耐力壁の配置や壁倍率を考える実習に挑戦しました。
※耐力壁…地震や台風などにより水平方向からかかる力に抵抗するための力を持つ壁のこと
※壁倍率…建築基準法で定められた耐力壁の強度のこと。筋交い(柱と柱の間に斜めに入れて建築物を補強する部材)の種類を変更すると壁倍率も変わる。

実習の中で永野教授は、建物の外から受ける力としては、地震だけでなく台風も脅威となることから、地震と台風の両方に対して必要な耐力壁の長さにすることが大事であると強調し、「みなさんは地震の方が怖いと思われているかも知れませんが、自然現象で脅威となるものは必ずしも地震ばかりではありません。建物によっては壁が大きければ風圧力が大きくなり、実は地震はあまり怖くないということがあります。台風の方が大変という場面もあります」と解説しました。

 

おわりに

実習後には、本プログラムに参加した大学院生や学生が参加者に向けて自己紹介をしたり、参加者からの質問を受け付けるなど双方向のやり取りをすることのできる場として、クッキータイム・ディスカッションの時間が設けられました。最後に修了式が行われ、永野教授から参加者1人ひとりに本プログラムの修了証書「未来博士号」が手渡されました。永野教授は「このプログラムが、みなさんの次なるステップや考えに役立ててもらえれば、実施代表者としてこの上ない喜びです」と挨拶し、プログラムを締めくくりました。

 

参考 本プログラムのテーマと関係する科研費の研究成果
【 協創的構造設計法による新しい設計支援システム 】
研究期間:2012年度~2014年度
研究種目:挑戦的萌芽研究
研究概要:実際の建物性能との関わりを最重視した構造設計という「人間の行為」における論理化を大きな目的としている。ここには、設計者の判断という従来では説明されてこなかった部分も含まれている。本研究は、構造設計の様々な場面(フェーズ)における構造設計者の意思決定を真の意味で支援し、構造設計される架構のいっそうの高性能化をはかるための「協創的構造設計法」を構築することを目的としている。ここでの「協創」とは、構造設計者(人)と設計支援システム(計算機)が「協力して創生する」ことを意味している。

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24656326/

 

【 建築物の構造解析と避難解析との双方向評価によるキーエレメントデザイン 】
研究期間:2016年度~2018年度
研究種目:基盤研究(B)
研究概要:大地震の発生時に建築物の中から全ての利用者(滞在者)が負傷せずに安全に退避できるように、正確なシミュレーションに基づく避難計画が重要である。一方、人的被害や避難障害は、直接的には建物に付属する什器や内外装材(非構造材)等の損傷に起因している。ところが、非構造材の挙動はバラつきが大きく、数値モデル化した損傷シミュレーションを行っても現象を正確に予測できない問題がある。そこで、本研究では、非構造材の損傷リスクを構造解析と避難解析による双方向視点から相補的に評価し、人的被害回避のための非構造材のキーエレメントデザインを提案する。

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H03124/

 

COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.