本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。
8月18日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、緑環境景観マネジメント研究科の山本 聡(やまもと さとし)教授です。
今回のテーマは、「地域の自然景観の探索と保全」
山本教授の専門は、「造園学」です。
緑による環境づくりのプロを育成する専門職大学院
山本教授が所属している緑環境景観マネジメント研究科は、兵庫県淡路市に位置する淡路緑景観キャンパス内にあり、2009年にわが国で初めて緑環境や景観分野の専門職大学院として開設されました。植物を中心とした「緑環境」に着目し、安らぎと活力に満ちた緑豊かで自然と調和した都市や地域を、地域住民や行政、企業などの多様なステークホルダーとともに実現していく、景観形成に関する具体的な理論と技術を持つ高度専門職業人を育成しています。
本研究科は、緑環境と人間活動との関係を分析し、管理方法を考案・適用できる保全管理の専門家を育成する「保全管理領域」と、デザインを考案し、その活用プランを策定できる専門家を育成する「活用デザイン領域」、政策を立案し、その実施のための施策を市民と協働で展開する専門家を育成する「施策マネジメント領域」の3つの専門領域から構成されています。山本教授は「本研究科では『緑の環境で形成される景観などを、緑の環境も含めてコントロールしていく』ということを研究・実践しています。景観だけでなく、まず環境を守るという保全の部分と、都市内にある公園や庭などの緑地空間を維持管理する方法の研究、あるいはそういうものを都市計画やデザインするなどして創出していくといったことを総合的にしている研究科です」と紹介しました。
景観保全に関する講義の様子(市民講座での研究成果の活用)
自然環境・景観を保全していくために
緑地には様々な機能があり、これまでにも生物の生息空間としての機能や景観の保全機能、レクリエーション機能等を対象とした緑地に関する研究が数多く行われてきました。近年は、人間のストレス緩和といった視点からの研究も増えているといい、緑地が人間に対してどのような効果をもたらすのかを把握することが求められているといいます。
こうした中、山本教授は主に公園や里山などの緑地で構成される景観を対象に、その景観を把握する際の人間の視認行動(どこを見ているのかといった視線の解析など)や、人間の反応特性(体内で起こる現象の結果としてのストレス緩和など)について研究しています。「私自身は、農村などの地域にある『人が見る景観』をどう守っていくのかについて研究しています。自然景観は、長い歴史の中で形成されてきたものである一方で、人による手入れや活動が行われずにそのまま放置されると、どんどん変わっていく側面があります。それらをいかにわれわれが普段見ているような景観として担保し、維持していくかということに関わる基礎的な部分を研究しています」。
視線の把握実験の例
自然が作り出した曲線を残し、『棚田らしさ』を守る
日本各地にある農村部と呼ばれる地域では、棚田の景観を見ることができます。しかし、過疎化や都市化などにより、棚田をはじめ、田んぼそのものの減少が進んでいます。一方で、棚田が持つ伝統的景観としての価値が見直されつつあり、棚田の環境保全機能とともに伝統的景観を保全しようとする試みが行われているといい、山本教授は視線解析装置を用いた棚田の景観評価を行っています。「棚田というと、ノスタルジックなイメージをお持ちの方が多いのではないかと思います。造成した田んぼに比べると、非常に自然風に感じられると思いますが、私は『人間が棚田を見てどのように感じているか』という研究をしています。具体的には、まず見るという部分で、視線を把握できる機械を使って人間が棚田のどこを見ているのかを明らかにします。解析装置で人の視線を見てみると、棚田の畦(あぜ)の部分、特に『田植えの時期の水を張った棚田を上から見るのが非常に良い』という結果が出ています。棚田の写真集を見てみると、大半が上から撮影された写真です。中でも特に『水が張ってあり、畦の地形のカーブが見える時期の写真』が多いことに気づいていただけると思います。多くの方々が棚田に対して『地形の等高線が折り重なったような眺め』を求め、そういう景色を棚田と認識されているのだと思います」と山本教授は解説します。
※畦…水田と水田の間に泥土を盛り、水が外に漏れないようにしたもの。
等高線に沿った緩やかな曲線を示す棚田景観
また、造成をして四角い形になった棚田の景観評価を行った際には、異なった結果が出たといいます。「造成をして四角い棚田にすると『どこを見るのが良いのか』と、目が泳いでしまうようです。四角い棚田からは『棚田らしさが感じられにくい』と言うことができると思います。棚田は小さな田んぼなので作業効率が非常に悪く、作業効率を上げるためにどうしても造成というものが入ってしまいますが、そのときに少し曲線を残すことで『棚田らしさ』を守りながら作業効率を上げられるようにしていくことも大事ではないかと考えています」と山本教授は提言します。
放棄された棚田の例(視線が定まらない)
地域にある景観資源を活かす
さらに山本教授は、良好な景観を安心して楽しむには、対象となる景観を整備するだけでなく、「その景観を観る場所」の探索や整備が必要であると話します。その取組の1つとして、山本教授は淡路島内に存在するヤマザクラの群生地の景観調査を行っています。「淡路島の里山には、多くのヤマザクラ群生地がありますが、奈良の吉野山のヤマザクラのように名所としてあまり知られていません。その原因を考えたときに、『ヤマザクラの群生がある山』はたくさんありますが、『それを観る場所』が少ないことが分かってきました。地域の方々はヤマザクラを見ることのできるスポットをよく知っておられ、季節になると見に行かれたりしますが、少し地域から出てしまうとヤマザクラを見ることのできる場所が分かりづらくなります。景観を観る場所のことを『視点』といいますが、そういう場所を作れないかなと考え、今島内を探索しています」と取組を紹介しました。
併せて、学生が他の花木の景観についてこのような探索を行い、その成果として、道路から対象の花木の景観を楽しむことのできるスポットを紹介したパンフレットを作成した例を紹介しました。山本教授はこうした『景観を観る場所』の探索が、新たな観光スポットの創出につながることを期待しています。
ヤマザクラの群生(明確な視点がない場所)
ヤマザクラの群生(視点が存在する場では追加の植栽で名所化も)
また現在、淡路島では管理放棄などによる竹林の増加が大きな問題になっており、竹林の拡大によって里山景観が変化しつつあるといいます。山本教授は、「放置竹林をなんとかしないと、二次林と呼ばれる昔ながらの里山がどんどん竹で覆われていき、里の景観が変わってきます。さらに、今増えている竹(主にモウソウチク)は元々中国から導入されたもので、人間が自然の中に持ち込んだものであり、人間がかなり影響を及ぼしているということにもなってきます。コナラ林やクヌギ林など、カブトムシをはじめとしたいろいろな生物がいたところが竹藪になってしまうと、どんどん生態も変わってくるので、本来の環境を守っていかないといけないなと思っています」と危機感を抱いています。
山本教授は問題の解決に向けて、まずは地域住民の方々に放置竹林が増えているという状況に目を向けてもらうきっかけとなる活動が必要と考え、各種フェアなどで淡路島の竹で制作したオブジェを展示するなどして、竹の利用を提案する情報発信活動を行っています。
※二次林…伐採や火災などにより森林が破壊された後に、自然に生じた森林のこと。
イベントでの竹を用いたガーデンの制作(学生や地域の会社との協働)
良好な景観のさらなる保全・再生・創出に向けて
近年、山本教授は学生とともにVR(Virtual Reality:仮想現実)を用いた景観評価に関する実験を行いました。VRは人工的に作られた360度の三次元空間が現実であるかのように体験できるものです。実験内容はモンタージュ手法で作成した画像をVR内で表示し、被験者の方々に公園の緑地空間をVRで体験してもらい、公園の樹木の植栽方法について評価してもらうというものです。その結果、VRでは写真の平面的な評価に比べて立体的な評価が高く出る可能性があることや、現実空間の評価よりも若干低くなる傾向があることなどが明らかになったといいます。
今後の展望について山本教授は「従来の技術と新しい技術との融合により、保全手法の高度化を目指しています。また、様々な手法を用いた研究・実験を通して、各手法による効果計測の精度を高め、景観と人間の生理的反応との関係性を明らかにすることによって、都市部や農村部の良好な景観の保全・再生・創出の方策を検討していきたいと考えています」と話しています。
※モンタージュ手法…映画の技法で、視点が異なる複数のカットを組み合わせてひとつの連続したシーンを作る手法のこと。ここでは、静止画を扱うためフォトモンタージュ手法として異なる素材を画像内に合成する手法(コラージュ)としている。
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・緑環境景観マネジメント研究科
・兵庫県立淡路景観園芸学校
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