9月26日(木)、姫路商工会議所(兵庫県姫路市)において、兵庫県立大学価値共創シンポジウム2024実行委員会主催「兵庫県立大学価値共創シンポジウム2024~連携から共創へ 地域社会に新たなイノベーションを~」が開催されました。
本学は、地域における知の創造拠点として科学技術から社会科学、看護、自然環境に至る幅広い分野で先端的学術情報を全世界に向けて発信しています。
社会価値創造機構では、このような全学の知的資源を地域社会・産業界のイノベーションに役立てていただく活動の一環として、毎年姫路地区と神戸地区で交互に兵庫県立大学「知の交流シンポジウム」を開催してきました。
今年度は、大学の研究シーズ発表の場として開催してきた「知の交流シンポジウム」を、連携から共創をテーマとした「価値共創シンポジウム」と改称して、「~連携から共創へ 地域社会に新たなイノベーションを~」をテーマに、姫路商工会議所において開催しました。
当日は、本学の教員・学生をはじめ、製造、メーカー、金融などの業界・業種の企業の方々や行政の方々など約350名の方にご参加いただきました。
はじめに、兵庫県立大学価値共創シンポジウム実行委員会委員長で副学長兼社会価値創造機構の畑豊機構長から開会挨拶がありました。畑機構長は挨拶の中で本機構の統合及び名称変更のいきさつを取り上げ、「社会価値創造機構の英語表記(Institute for Innovation and Social Value Creation)にはイノベーションという言葉が入っている。これは機構の名称を変更する際に髙坂学長から『イノベーションという言葉を入れないと、英語では何のことか分からない』と指摘されたことにある」と紹介しました。
また、大学・企業・地域の価値を向上させるために本機構のミッションは3点あるとし、「私は『基礎研究』『応用研究』という概念は実際にはないと思っているが、基礎研究から企業の方々と産学連携をし、ともに社会価値を創造していきたいというのが1番目にある。2番目に、産学官共創による社会課題の解決ということで、本機構では2024年度から産官学金連携で兵庫県播磨地域の新産業創出を目指す『はりま新産業創出エコシステム』を立ち上げました。地域から社会課題を洗い出し、地域を活性化させることのできるような取組を実施していきたい。3番目に、すでに社会情報科学部で企業と一緒にPBL演習という授業を実施しているが、産業界と合同で人材育成を行っていきたい考えている」と述べました。最後に畑機構長は「企業・行政等のみなさんの知恵とご協力をいただいて、本学を10年20年残れるようなサバイバルな大学にしていきたいと思っているので、本シンポジウムでみなさんからその方法を示していただければ非常にありがたい」と述べ、挨拶を結びました。
次に國井総一郎理事長から挨拶がありました。國井理事長は30年以上続いたデフレが脱却しつつあり、またコンプライアンスの観点から新しいことに取り組みにくくなっている昨今、企業は経営戦略を大きく転換する必要があると指摘し、「今こそ企業と大学による『連携から共創』が必要である。具体的には企業と大学が共同研究・共同開発をして、誰もしたことのないことをすることが一番重要だと思っている。2つ目には、本学が得意としているデータサイエンスやIT分野を中心に、企業の社員のリスキリングをしていきたい」とし、「産学連携というものに対して、『実際にやるのは非常に難しいもの』と感じている。企業と大学が徹底的に突っ込んだコミュニケーションをしながら実践していく必要があるが、まずはお互いにリスペクトすることが必要である」と述べました。
続いて、髙坂誠学長から挨拶がありました。髙坂学長は「世界で厳しい競争が行われている今、われわれアカデミアと産業界が一緒になり、また行政もそれを支え、現在よりも上の新しい水準で取組を進めていかないと、これからの時代に勝ち残っていけないのではないかと危惧している。このシンポジウムが、産学官が一緒に進めていく新たな機会になればと思う」とし、「われわれは今、兵庫の学生が『この大学で学びたい』と思うような、特徴のある尖ったものをつくり出していけるような改革を推し進めている。大学も企業も皆で一緒に変わり、新しい社会価値を創造していくべきである。大学の存在意義は人々の暮らしを豊かにし、人々の幸せをつくり出すこと。それは企業も同じだと思うので、足並みを揃え、大学と企業が1つになって邁進し、新しいものをつくっていきたい」と述べました。
価値共創講演
午前に行われた価値共創講演には、本学の教員4名が登壇しました。
まず、本学の水素エネルギー共同研究センター長で工学研究科化学工学専攻の嶺重温(みねしげ あつし)教授が「水素によるグリーンイノベーションと社会価値創造~県立大での水素社会実現に向けた取り組み~」と題し、本センターの強みを中心に講演しました。
現在、日本の電力は化石燃料を利用した火力発電が中心となっていますが、化石燃料の電気エネルギーへの変換効率が悪いことや、化石燃料の使用によるCO₂の排出が大きな社会問題となっている一方で、将来のエネルギー構造の担い手として期待される水素や、広い意味での水素(化石燃料に依らない燃料)、また、これら再生可能エネルギーを十分に活用するための使い勝手の良い蓄電池の開発が必要であるなど様々な課題があります。これらの課題解決に向けて、本センターにおいて、工学的なアプローチによって電気化学デバイスの効率を極限まで高め、発電効率の高い高温燃料電池をつくる研究や、文理融合アプローチでCO₂資源化に関する研究を行っていることなどを紹介しました。また、基礎研究にも力を入れていきたいとし、「日本の企業の方々とともにつくっていきたいと思っているので、興味をお持ちの方がおられたらぜひ一緒にやらせていただきたい。そして、当センターでは企業・行政との連携を強化しており、3者一体となって水素社会の実現に向けていろいろな活動ができればと思っている」と言葉に力を込めて話しました。
工学研究科材料・放射光工学専攻の伊藤省吾(いとう せいご)教授からは「高耐久型・低価格・大面積のペロブスカイト太陽電池の作製~印刷プロセスによる新エネルギーの創成を目指して~」と題した講演がありました。
伊藤教授は過去30年間、印刷プロセス太陽電池の研究開発を行ってきました。そのモチベーションの源について伊藤教授は「1990年代、学生のときにアフリカで異常気象によって非常に多くの難民が発生し、難民の子どもたちがお母さんの腕の中でどんどん亡くなっていくのを見て『これはいけない。絶対に太陽電池が必要だ』と思ったことにある」と紹介しました。当時から太陽電池はありましたが、使用されていたシリコン太陽電池は非常に高価で、リサイクルするのが難しく、その多くが埋め立て処分されていました。また日本の場合、埋め立て処分のために毎年東京ドーム2個分の山を探さなければならないことなどから、持続可能な社会の実現のためにリサイクルできる太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」が必要であり、かつメンテナンスも重要であることを伊藤教授は強調しました。そのほか、ペロブスカイト太陽電池に関する研究論文が世界中で4000本発表されるなど注目を集める中で、伊藤教授の研究室は「カーボンを使用した多層多孔質電極ペロブスカイト太陽電池」を研究している日本国内唯一の研究室であり、世界でも数少ない研究室であることや、ペロブスカイト太陽電池のつくり方が分かる動画を上映するなどしました。
社会情報科学部・情報科学研究科の笹嶋宗彦(ささじま むねひこ)教授は「データサイエンティストに求められる価値の共創と豊かなデータの循環について」と題し、我が国におけるデータサイエンス人材育成の現状や、社会情報科学部とデータサイエンス教育について、笹嶋教授自身が考えるデータサイエンティスト像について講演しました。
笹嶋教授は所属学部や研究科の総意ではなく私見であると前置きした上で、データサイエンティスト像について述べ、「データサイエンスは新しい学問分野であり、さらにデータサイエンス系学部のカリキュラムについては、IT及び経営の専門人材を育成する学部としてはそれぞれ情報工学系の学部、経営系の学部に専門科目の数で劣っている」とし、「どこでデータサイエンティストとしての独自性を出せば良いのかということになるが、少なくとも私のゼミや周りにいる学生には『データサイエンティストの生きる道というのは、とにかく課題解決と社会の改善に焦点をあてて価値を創出することにある。君たちはその価値を創出しないと社会で生き残っていけない』と言い続けている」と紹介しました。そして、「データサイエンティストというのは世の中を良くしていくことが仕事であり、そのためには大量の良いデータと専門家の知識や協力が不可欠である。これらを得られるような好循環をつくるには、『データサイエンティストは現場に価値を提供しなければならない』ということを常に意識し続けないといけない。自分たちの勝手な価値観を押し付けても現場は動かない」と述べました。
高度産業科学技術研究所所長の原田哲男(はらだ てつお)教授は「ニュースバル放射光施設における先端半導体製造のためのEUVリソグラフィー研究~EUV(X線)で半導体が作られる時代の放射光研究~」と題し、半導体の性能向上とEUV、ニュースバル放射光施設、EUVリソグラフィー研究、次世代のBeyondEUVリソグラフィーについて講演しました。
講演の冒頭で原田教授は、ChatGTPや英語の翻訳アプリ、自動運転の実用化などAIの発展によって生活が急速に変化し、大きな転換期を迎えているとし、「半導体の振興というのは、日本ないし世界の近未来にとって社会問題の解決に不可欠であり、半導体を各国で生産するのは安全保障上のこととよく言われるが非常に重要な問題である」と指摘、「世の中は半導体の集積回路によって変わっていっていると言っても過言ではない」と述べました。また、高度産業科学技術研究所が運営するニュースバル放射光施設では、EUV(極端紫外線:波長13.5nm)を含む安定したX線を発生させることのできる9本のビームラインが稼働し、半導体の集積回路の研究開発や材料開発・評価等を行っていることや、EUVの波長を約半分にした次世代のEUV技術・BeyondEUV(BEUV:波長6.7nm)の研究開発を行っていることを紹介しました。原田教授は「BEUVについても、EUVと同様に材料を評価できる装置をつくり、企業の研究開発のサポートができるようにしていきたい。いろいろ整備中ではあるが、今年30周年を迎える本研究所・ニュースバル放射光施設を今後ともよろしくお願いしたい」と呼びかけました。
特別講演
午後に行われた特別講演では、2名の方を講師にお迎えし、ご登壇いただきました。
また講演前には清元秀泰(きよもと ひでやす)姫路市長からご挨拶をいただき、「兵庫県立大学、姫路商工会議所、姫路市の3つのそれぞれの目指すベクトルを統合する形で産官学の連携が前に進んでいることを大変光栄に思うとともに、未来に向けて大きな一歩を歩み出しているということを実感している」などのお言葉をいただきました。
まず、特別講演Ⅰとして、姫路商工会議所会頭で山陽色素株式会社取締役会長の齋木俊治郎(さいき しゅんじろう)氏から「姫路播磨から世界へ 産学連携の歩み」と題して、山陽色素株式会社の概要、姫路の産業の歩み、経済・社会・技術の動向、当地の動向と姫路商工会議所の取組、今後の展望についてご講演いただきました。
特別講演Ⅱでは、本学の前身である姫路工業大学の卒業生であり、現在はタテホ化学工業株式会社代表取締役社長の栗栖裕文(くりす ひろふみ)氏から「技術にこだわり、グローバルニッチ企業へ」と題して、タテホ化学工業株式会社の歴史、タテホ化学工業株式会社の商品の中心となっている酸化マグネシウムや、ニッチ戦略についてご講演いただきました。
価値共創パネルディスカッション
価値共創パネルディスカッションでは、本学の教員をはじめ、兵庫県、産業界、信用金庫の方々にパネリストとしてご登壇いただき、「~産・官・学・金から価値共創への期待~」をテーマに、産官学金それぞれの立場から見た価値共創への期待と人材育成について討論が行われました。
はじめに、モデレーターを務めた社会価値創造機構新ビジネス育成センター長で工学研究科の河南治(かわなみ おさむ)教授が『はりま新産業創出エコシステム』の取組内容等を紹介し、「大学というところは、論文を執筆したり何かしら期待感のあるデータが出てきた際に発表するなどの『アウトプット』をしてきたが、これからは社会にどう還元するか、どう成果を出すかという『アウトカム』をすることが求められるのだろうと考えている。その『アウトカムを出せる人材を育成する』ことが社会実装支援になる。今まではよく『産学連携』といったが、産学連携では『アウトプットを出すこと』が大きな目標だった。これからは『アウトカムを出す』ために、産官学金の4つの連携によって社会実装を支援し、共創をして価値をつくるということをやっていきたい」と述べました。
パネリストとして登壇した工学研究科長の藤澤浩訓(ふじさわ ひろのり)教授は人材育成について言及し「大学の強みは、失敗が許されることである。学生には『実験で失敗しても良い』と伝えている。失敗から学べることはたくさんある。それに、学生から話を聞いて『それで上手くいくのかな』と思うことも、実際にやってみたら『すごく花開いた』という例もある。社会に出てから、企業等で失敗することはいろいろな問題があるかと思うが、大学では失敗の体験をして欲しいと思っている。教員がしている研究も100のうちどれだけものになるかというと、おそらく1つか2つ程度で、その中からいくつかの新しいものや価値が生まれてくることを期待されていると感じている」と述べました。
はりま産学交流会会長で龍野コルク工業株式会社代表取締役社長の片岡孝次(かたおか こうじ)氏からは、龍野コルク工業株式会社の概要や取り扱われている製品等についてお話しいただきました。大学との産学連携によって開発された製品について言及され「このように事業がつながってきたのには、産官学金の連携があってのことだと考えている」と話されました。
兵庫県産業労働部新産業課長の前川学(まえかわ まなぶ)氏からは、水素等の新エネルギーやスタートアップについて、兵庫県の関連施策についてお話しいただきました。前川氏はスタートアップに対する期待が高まっているとし「スタートアップ支援は産官学金のいずれもが一致して共創し、皆で支援をするというシステムをつくって行うことが大事である」と話されました。
姫路信用金庫事業支援部長の合田大道(ごうだ だいどう)氏からは、姫路信用金庫の概要や本学との歩み、産学連携の取組等についてお話しいただきました。合田氏は産学官連携に金融機関が加わることについて「研究したものが商品化され、ハード面を含めて実現可能性を考えたときに資金計画も重要である。金融機関が研究開発に参画することで資金面の対応がスムーズになる。しかし金融機関は研究開発における専門的・技術的な知識等が不足している。この課題解決のために金融機関は今まで以上に産学官の連携を強化することが必要になる」と話されました。
来場者の方々からも共同研究による社会実装やスタートアップ、今後の価値共創に必要なもの等に関する質問やコメントが寄せられ、盛んな意見交換の場となりました。河南教授は「パネリストの方々のご意見から、人材育成に関する共通認識の重要性について共通意識があるように感じられた。パネルディスカッションでは時間の関係で踏み込んだ話ができなかったが、この後の懇親会等でディスカッションの続きができればと思う」と話し、パネルディスカッションを締めくくりました。
最後に、社会価値創造機構の豊田紀章(とよだ のりあき)副機構長から閉会挨拶があり、「本シンポジウムは本学最大の学際発信の場となっており、本学の最新の研究成果を発表させていただいた。先が見えない中で企業あるいは大学が生き残っていくためにイノベーションを起こしていくことが求められている。大学としても産学に加え、県や市町村、あるいは学問領域や所属団体の枠を超えた共創が不可欠であると考えている。大学の使命には研究・教育の他に社会貢献がある。この使命を達成すべく、地域の皆様をはじめ、日本や世界の発展に貢献できるよう努力していく所存である」と述べ、本シンポジウムを結びました。
ポスター発表
ポスター会場では、価値共創講演、科学技術後援財団研究助成課題、SPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)受給博士後期課程課題、ものづくり、情報通信AI・loT、ナノテクノロジー、エネルギー、バイオサイエンス、フロンティア、環境、ライフサイエンス、社会基盤、ビジネス、DXの14の分野に関する本学の研究シーズの紹介ポスターや、企業・金融機関・関係機関等の紹介ポスター、特別講演者ポスターの計105点の展示がありました。会場内では、ポスター発表者と来場者の間で質疑応答やコメントが交わされるなど、活発な交流が行われました。
また、学生のポスターを対象に「価値共創シンポジウム2024優秀ポスター賞」を設置し、専門外の方にも分かりやすく説明しているポスターを来場者に投票していただきました。投票結果をもとに審査会で受賞者を決定し、シンポジウム後に開催された交流会で授賞式を行いました。
価値共創シンポジウム2024 優秀ポスター賞受賞者
本シンポジウムがきっかけとなり、より一層本学と産業界、行政の方々が結びつき、新たな社会価値を創出していけるようになることを願っています。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
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