9月22日(金)、神戸商工会議所会館(神戸市中央区)において、兵庫県立大学知の交流シンポジウム2023実行委員会主催「兵庫県立大学知の交流シンポジウム2023~ポストコロナ時代における新たな産学公連携によるイノベーションの創出~」が開催されました。
知の交流シンポジウムは、本学が所有する科学技術から社会科学、看護、自然環境に至る幅広い分野の知的資源を、地域社会・産業界のイノベーションに役立てていただく活動の一環として、毎年姫路地区と神戸地区で交互に開催しているものです。新型コロナウイルス感染症の影響により神戸での対面開催は4年ぶりとなり、当日は、本学の教員・学生をはじめ、製造、メーカー、金融、生命保険などの業界・業種の企業の方々や行政の方々など328名の方に参加いただきました。
はじめに、副学長で兵庫県立大学知の交流シンポジウム2023実行委員会実行委員長で産学連携・研究推進機構の畑豊機構長から開会挨拶がありました。畑機構長は「ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、世界中で様々な問題が勃発しており、国の競争力に関してもこの30年間横ばいであるなど、われわれを取り巻く厳しい環境下であるが、新たな産学公連携によって、なんとかここからイノベーションを創出し、社会実装に向けて頑張っていきたいと思っている。ぜひ、大所高所からの厳しいご示唆やご助言をよろしくお願いしたい」と挨拶しました。
続いて、國井総一郎理事長から挨拶がありました。國井理事長は「われわれ兵庫県立大学が最も力を入れていることは『グローバル化』である。今日、会場にお越しの企業等の皆様はすでにグローバル化を進めておられると思う。ただし、現時点では、企業のグローバル化と大学のグローバル化は、必ずしもマッチングしているわけではない。採用の面でも共同研究の面でも、グローバルの面だけで見ると、なかなか上手くいっていないと思う。大学もグローバル面で実績をあげていかないといけないし、企業の方もグローバルに企業価値を上げていかないといけないので、グローバル化に向けてともに進めていきたいと思っている」と述べました。
次に、髙坂誠学長から挨拶がありました。髙坂学長は「大学を取り巻く環境は非常に厳しい。われわれは、大きなリーダーシップのもと、『世界に負けないものをつくろう』『未来社会が求めるものをつくろう』というような考えのもとで『攻める大学改革』を進めていこうと考えている。大学には、教育・研究以外に重要な役割がある。それは、多様で豊かな未来社会の姿を指し示す、新たな知と希望を生み出すことである。大学は、過去に捉われることなく、未来に指し示す新たな灯台となることを目指して教育を続けていく。今後も温かいご支援や厳しいご指摘をいただけたらと思う」と挨拶しました。
一般講演
一般講演では、本学の全ての学部、国際商経学部、社会情報科学部、看護学部、環境人間学部、工学部、理学部の学部長(兼研究科長)から、今後の本学の発展の方向性に関する講演が行われ、高度産業科学技術研究所の渡邊健夫学長特別補佐(先端研究担当)が座長として進行を行いました。
まず、国際商経学部の友野哲彦学部長が「国際商経学部の紹介と今後の展望」と題して講演しました。友野学部長は、国際商経学部の沿革、教育理念、学部内に設置している3つのコース(経済学コース、経営学コース、グローバルビジネスコース)と、5つの教育プログラム(経済理論・経済政策、金融ファイナンス、社会イノベーション、マネジメント、グローバルビジネス)の内容、主な地域連携事業の活動を紹介しました。講演の最後に、友野学部長は国際商経学部の将来・展望について2点挙げ、「1つは、国際商経学部の完成年度を迎えたことを機に、学部再編後からこれまでに問題点のあったことについて改善を図っており、来年度にはその成果が反映されたものとなる。もう1つは、国際化、デジタル化、ベンチャー、ローカル(地方創生)、災害への対応といったものも課題になっているので、順次対応していくこととして、検討を進めているところである」と述べました。
社会情報科学部の藤江哲也学部長からは「社会情報科学部における教育・研究~実践に軸足を置いた教育の実施と今後の展開~」と題した講演がありました。藤江学部長は、社会情報科学部の概要、2019年入学・2023年3月卒業の1期生の進路、教員組織、教育の特徴、1年生・2年生を対象に開講している課題解決型演習「PBL演習」、研究の内容について紹介しました。その中で藤江学部長は「われわれは、情報科学を実践して経済・経営・サービス・医療・製造・政策などの社会の諸分野における課題解決に貢献していきたいと考えている。特に、われわれの学部としては、データ分析の部分と、アルゴリズムや計算理論などを含む数理情報の部分に強みを持っているので、これらの強みも活かしていきたい」と話しました。また、2019年に本学部を開設した後に、小・中学校、高校でデータサイエンス教育が強化され、全国的にデータサイエンス系学部や研究科の設置が相次いでいることについて言及し「われわれとしては、特徴を持った学部づくりをしていかないといけないと考えている」とし、「今後の展開としては、学部開設5年目を迎えたことから、まずは教育プログラムにおいてデータ分析や数理情報といった強みを全面に出し、情報科学研究科との連携強化を図ること、また、産学連携、共同研究、高大連携の推進を進め、兵庫県ひいては我が国の先端IT人材の育成を目指していきたい」と述べました。
看護学部の工藤美子学部長からは「地域の健康を担うヘルスケア拠点の創出をめざして~看護学部の紹介と今後の展望~」と題した講演があり、看護学部の沿革、取得できる資格、学部設置の趣旨、看護学部で教育を行っている各看護学領域の紹介がありました。講演の中で工藤学部長は、高齢者の急増、晩婚化、少子化、男性の4人に1人、女性の6人に1人が悪性新生物(がん)により死亡しているという疾病構造の変化など、社会情勢の変化によって医療費が高騰している。このため、医療費削減のために医療機関での在院日数が圧縮され、医療機関での療養ではなく、地域や在宅での療養が主になってきていることについて言及し、「病気を抱えながら地域や在宅において患者さん自身で生活できるように、その人が持っているセルフケア能力にアプローチする看護の力が重要になってきている」と指摘しました。看護学部の今後の展望として「看護の力を可視化・発信しながら、データヘルスやデジタルヘルスを基に、健康の維持・増進や病状の悪化予防等のために地域で生活している人々がセルフケアできるよう研究・教育を推進し、地域の人々のwell-beingを支援するためのヘルスケアシステムの構築と、デジタルヘルスケア事業を展開していくことで、医療機関だけでなく、地域の自治体等と連携を強化し、異分野融合・医産学看連携を推進することを主な目標としている」と述べました。
環境人間学部の吉村美紀学部長(兼環境人間学研究科長)からは「SDGs達成に向けた多様性・学際的視点からの教育研究の取り組み~持続可能性のための地域支援と知財化、地球規模の課題解決を目指して~」と題した講演があり、環境人間学部の概要、教育プログラム、教員の研究テーマとSDGsの関連性、環境人間学プラットフォーム、昨年度の環境人間学部特色化プロジェクトテーマと一部の研究内容について紹介がありました。吉村学部長は、環境人間学部における「環境」について「環境人間学部では、『環境と暮らし』という視点から人間学を基軸として、生活環境、社会・文化環境、自然環境といった非常に多層的な環境との関係を考究しながら、学際性を重視した環境人間学を発展させる教育プログラムを推進している」と説明しました。環境人間学プラットフォームについては、「環境人間学部の理念や教員の幅広い専門性を活かし、地域における課題の解決に向けて様々な研究の専門分野からアプローチして支援することを目指している。また、教員だけでなく学生も加わって取り組むことで、地域人材育成の一助としている。さらに、この一連のプロセスを知財化することを目標としており、様々な専門家が協力して実施することで、学際化の実現に向けて努力している。つまり、各教員は自分の専門性を活かした研究をしつつ、多様性・学際性をもって地域の課題にも取り組むというスタンスで教育を進めている」と紹介しました。
工学部の藤沢浩訓学部長(兼工学研究科長)からは「4Xで社会を変える~DX、GX、MX、LX~」と題した講演があり、工学部及び工学研究科の使命、工学研究科教員の守備範囲(研究分野)、外部資金の獲得状況、4X(DX:Digital Transformation、GX:Green Transformation、MX:Material Transformation、LX:Life Transformation)と絡めながら工学部及び工学研究科で実施されている研究内容について紹介がありました。藤沢学部長は「工学部及び工学研究科の使命には、数学や物理、化学などの科学をもとに、人間が使うあるいは人間の役に立つ新しいものや価値を作り出すことがある。それらには、2、3年後にものになるものもあれば、10年20年かかることもあるし、場合によっては、ものにならないまま消えていくようなものもあるが、そういうものが広く含まれているということが、大学で行う研究の特徴の1つである」と紹介しました。そして、講演の最後に「われわれ工学部及び工学研究科には、教員が110名いるので、必ずどこかに必要な知があると思っている。ぜひ、われわれの知と皆様の要求がもっとマッチして連携につながればと思っている。今日は、4Xということでお話しさせていただいたが、DXやGXは切り口だけの話で、工学部及び工学研究科に必要なことは、『社会を変えるための、社会を豊かにするための研究をすること』であるので、われわれの研究を通じて、社会の発展に貢献できればと思っている」と話しました。
理学部の小林寿夫学部長(兼理学研究科長)からは「基礎学理的手法を活かした産学連携研究~物性物理的手法による材料科学目線での産学共同研究~」と題して講演がありました。はじめに小林学部長は「理学部で産学連携というのは、なかなか難しいのではないかと思われる方もおられるのではないかと思うが、コロナ禍が始まった頃に産学共同研究講座というものを立ち上げ、現在も企業と共同研究を行っているので、この一例を挙げて、理学部として、どのような産学連携ができるのかということをお話ししたい」と述べ、本学の連携協定の枠組みを活かして、2020年度から理学研究科物質科学専攻が株式会社ダイセルとともに行っている共同研究講座「摩擦界面現象共同研究講座」の背景、研究構想、現状と成果、今後の展望について紹介しました。講演の最後に小林学部長は「この講座が産学公連携によるイノベーションということの1つの例になればと思ってお話しさせていただいたが、これを機に、理学部及び理学研究科の中での産学連携の話が上手く進んでいくようになればと思っている」と話し、講演を結びました。
特別講演
特別講演では、3名の方を講師にお迎えし、ご登壇いただきました。また、午後からの講演前には、公益社団法人兵庫工業会会長の宮脇新也氏から挨拶の言葉をいただきました。
まず、特別講演Ⅰとして、神戸商工会議所会頭で株式会社神戸製鋼所特任顧問の川崎博也氏から「変化・変革の時代に求められること」と題してご講演いただきました。講演では、「神戸製鋼所という会社」として会社概要や沿革、「カーボンニュートラルへの挑戦」として神戸製鋼所におけるカーボンニュートラルに関する取組をご紹介いただきました。また、会場の参加者に向けてのメッセージとして、川崎氏が2013年から5年間、神戸製鋼所のCEOを務められた際に「企業の成長に変化・変革は避けて通れない」と考えられ、変化・変革に向けて取り組まれた経験についてお話しいただきました。
次に特別講演Ⅱとして、本学の前身である神戸商科大学の卒業生であり、現在は日本新薬株式会社代表取締役社長の中井亨氏から「DXの推進による新たな事業機会の創出」と題して、日本新薬株式会社の概要、製薬業界を取り巻く環境とDX推進の意義、DXの取組と目指すべき姿等について、ご講演いただきました。
特別講演Ⅲでは、中井氏と同じく神戸商科大学の卒業生で、現在は株式会社日東社代表取締役社長でノアインドアステージ株式会社代表取締役の大西雅之氏から「事業の多角化で100周年~製造業からサービス業への変換~」と題して、会社の概要や沿革、事業多角化のポイント、今後の展望についてご講演いただきました。
最後に、産学連携・研究推進機構の豊田紀章副機構長から閉会挨拶があり、「このシンポジウムが皆様にとって、少しでも役に立てれば幸いに思う。大学の使命として、研究・教育の他に社会貢献がある。本学はこの使命を達成すべく、これからも地域の皆様をはじめ、日本や世界の発展に貢献できるよう努力していく所存である」と述べ、本シンポジウムを結びました。
ポスター発表
ポスター会場では、一般講演を行った6学部の紹介をはじめ、公益財団法人兵庫県立大学科学技術講演財団研究助成課題、大学フェローシップ受給博士後期課程課題、ものづくり、情報通信AI・loT、ナノテクノロジー、エネルギー、バイオサイエンス、環境、ライフサイエンス、社会基盤、ビジネス、DXの12分野に関する本学の研究シーズの紹介ポスターや、企業・金融機関・関係機関等の紹介ポスター、特別講演者ポスターの計102点の展示があり、会場内ではポスター発表者と来場者の間で活発な交流が行われました。
また、学生のポスターを対象に「知の交流シンポジウム2023優秀ポスター賞」を設置し、専門外の方にも分かりやすく説明しているポスターを来場者に投票していただきました。投票結果を基に審査会で受賞者を決定し、シンポジウム後に開催された交流会において授賞式を行いました。
本シンポジウムでの交流がきっかけとなり、本学の研究シーズと地域社会や産業界の方々のニーズが結びつき、新たなイノベーションが創出されることを願っています。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
本学研究者の研究内容をご紹介している産学連携・研究推進機構「産学連携研究シーズ2023」をご覧になりたい方は、下記のリンク先をご覧ください。
COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.