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「先端医療工学研究所の今後の挑戦」先端医療工学研究所 神戸市連携セミナーを開催しました

10月23日(月)、ANCHOR KOBE アンカー神戸(神戸市中央区)において、本学の先端医療工学研究所と神戸市、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構、神戸市リサーチコンプレックス協議会の共催で「兵庫県立大学先端医療工学研究所 神戸市連携セミナー(神戸医療産業都市クラスター交流会)」を開催しました。

 

産学官医連携によって医療関連産業の発展を

先端医療工学研究所では、医療関連企業をはじめとした企業の方々との交流を通して新たな共創へとつながることを目的に、神戸医療産業都市と連携して本セミナーを開催しています。神戸医療産業都市は、1998年から神戸市のプロジェクトとして始動されたもので、理化学研究所や大学等の研究機関、神戸市立医療センター中央市民病院をはじめとした高度専門病院群及び医療関連企業・団体がポートアイランド(神戸市中央区)に集積し、先端医療技術の研究開発拠点として、医療関連産業における新ビジネスの創出を推進しています。

本セミナーの開催は、今回で7回目を数え、「神戸医療産業都市発のロボティック・バイオロジーと先端医療工学」をテーマに行われました。当日は、医療・看護系大学などの大学関係者の方々をはじめ、医療機器や製薬などの医療関連企業や工学関連企業の方々に多くご参加いただき、対面とオンラインあわせて約100名の方の参加がありました。

 

セミナーの様子

はじめに、畑豊副学長による開会挨拶がありました。畑副学長は「本日のテーマが『神戸医療産業都市発ロボティック・バイオロジーと先端医療工学』ということで、まず、理化学研究所生命機能科学研究センター バイオコンピューティング研究チームのチームリーダーである高橋恒一氏より基調講演をいただき、その後、本学の先端医療工学研究所から4名の教員による講演をさせていただく。今から2時間、どうぞよろしくお願いしたい」と挨拶しました。

 

基調講演

続いて行われた基調講演には、理化学研究所 生命機能科学研究センター バイオコンピューティング研究チーム チームリーダーの高橋恒一氏に登壇いただき、「神戸医療産業都市発のロボティック・バイオロジーの取り組み」と題してお話しいただきました。高橋氏は、現在取り組まれているロボティック・バイオロジーについて「実験をプログラミングしようとするものである」と紹介され、「現在の生命科学の研究現場では、博士の学位を持ったような優秀な研究者が毎日実験室で『ある試験管から別の試験管に溶液を移す』というような単純作業を朝から晩までしている。もちろん大事なことではあるが、8割がたの作業は人がしなくても良いのではないかと考えている」と生命科学の研究現場における課題について言及されました。その上で「現在われわれが目指している『コンピューター上で、プログラムの形で実験を表現する』というロボティック・バイオロジーが実現すれば、これまで1年2年単位で物事が動いていたのを、数週間単位、もしかしたら数日単位でどんどん研究を進められるようなところまで生命科学の進展を加速させることができるのではないか。そこを今われわれは夢として目指している」と話されました。また、今後に向けては、「今一番難しいとされていることに、先端研究現場で生まれた『複雑な実験』というものをどのような産業の現場に移転していくのかというところがある。ロボットを使ってそこのところを解消することができれば、これらを神戸のバイオ産業クラスターの競争力として使えるのではないかと思っている。この神戸医療産業都市の中で、われわれ理化学研究所で基礎研究としてロボット医療を応用しているが、技術的にはかなりパッケージ化し、実用できるところまで持ってきているので、ぜひ皆様にお力添えをいただければありがたいなと思っている」と話されました。

 

兵庫県立大学先端医療工学研究所発表

基調講演後には、本研究所に所属する4名の教員から発表がありました。

 

まず、先端医療工学研究所の小橋昌司所長から「先端医療工学研究所の今後の挑戦」と題して、研究所の開設から1年半が経過し、これまで研究所においてどのようなことをしてきたのか、また、研究所の今後の活動について講演がありました。小橋所長は、現在研究所で進めている新しい医産学連携の取組として、「病院データ2次利用活用によるデジタルヘルス開発の実証環境構築」と「医療安全を向上するための病院インシデントレポート共有プラットフォーム」の2つの研究について紹介しました。講演の最後に小橋所長は「われわれは、産業を医療に結び付けることを目的に2022年4月に医療機関である兵庫県立はりま姫路総合医療センター内に大学附置研究所として先端医療工学研究所を設置した。今後、本日ご紹介した2つの新しい医産学連携の取組を進めていくこととしているので、ぜひ企業の方々、医療機関の方々等にご参加いただき、一緒に取組を推進していきたいというふうに思っているので、皆様によろしくお願いしたい」と述べました。

 

医療ヘルスケア機器分野の遊佐真一准教授からは、「化粧品や医療と高分子のつながり」と題した講演がありました。高分子化学を専門としている遊佐准教授は、高分子の研究を応用して産学連携で開発した化粧品の一種であるサンスクリーン剤(日焼け止め)の研究についてや、医療分野への高分子の利用として遊佐准教授がかねてから力を入れて研究している、抗がん剤などの薬剤をポリマーの微小カプセルなどに閉じ込めて患部へ運ぶことによって副作用を低減させ、さらに患部に到達した時点で外部からの刺激によりカプセルを破壊して薬剤を放出させる「ドラッグデリバリーシステム」について紹介しました。併せて、ソフトコンタクトレンズや人工透析膜、カテーテルなどの医用材料にタンパク質が付着しないようにコーティングするMPCポリマーの研究について紹介しました。最後に遊佐准教授は「今回紹介した研究は、研究費の一部として科研費を使わせていただいたり、企業との共同研究として実施したものであったり、研究室の学生たちがしてくれた研究である。諸関係の方々に感謝したい」と感謝の言葉を述べました。

 

看護介護分野の中西永子助教からは、「優れた看護実践を行う看護師の電子カルテ情報収集パターン-アイトラッキング技術を用いて-」と題した講演がありました。電子カルテは、400床以上の病院で9割以上、一般病院では半数以上で導入されている一方で、「電子カルテには情報が多く入り過ぎていて、どこに何が書かれているか分からない」といった回答をする看護師が全体の約6割いるといわれ、また、若手の看護師の約8割が電子カルテからの情報収集のために勤務始業前に30分以上の時間外労働を行っているといい、各病院で問題になっているといいます。元々エンジニアである中西助教は「電子カルテを見たときに『未だにこのような仕組みを使っているのか』と思ったのが最初の印象だった。『これはなんとかならないのか』と思ったことが、この研究に取り組みたいと思ったきっかけになっている」と述べ、具体的な取組について紹介しました。中西助教は「私たち看護師は、実際に患者を見て触って『脈が乱れているな』『汗をかいているな』と五感を使って診ている。それらをわざわざ『黄疸が出ている』『尿が何ml』などと構造化するデータを人間がつくって電子カルテに収納している。それらは本当の看護の仕事ではない。そうではなく、これからは私たちが考えたことをAIが判断して構造化したデータに置き換えるというような仕組みにしていけたらと思っている」と話しました。

 

食栄養分野の吉村美紀教授からは、「食品物性からみた高齢者用食品の開発」と題した講演がありました。吉村教授は、食品の物性と嗜好性、咀嚼性の関係について研究しており、講演では、主に75歳以上の後期高齢者の身体機能の低下や咀嚼・嚥下機能の低下、低栄養などの栄養管理上の問題の解決に向けた、日本の高齢社会における様々な食に関する取組について紹介しました。吉村教授は、食品に関する実験について、「それぞれの食品について、様々な方法でもって、その食品の物性に合い、できるだけ嗜好性が高く、咀嚼性の良いものを見つけるという方法で行っている」と紹介しました。また、同じような方法で実験を行っても、でんぷん質が多い食品とタンパク質が多い食品とでは結果が異なることがあり、それぞれの食品について逐一実験をしなければならないという課題があることに言及しました。講演の最後に吉村教授は「後期高齢者用の食品開発において、『低栄養の予防』『食べやすさ』は重要な事柄になると思う。一方で、粘りやとろみをつけるなどして食品を柔らかくするために使われる増粘剤には、エネルギーにならないという課題がある。これをいかに高エネルギーにするか、そして、ひとくちの量が減らないよう、食べられる量をもう少し増やすにはどうすれば良いのかということについて、今後さらに研究する必要があると思う。こういった研究を重ねていくことで、『食べやすさ』を後期高齢者の方の低栄養防止につなげていけたらと思っている」と述べました。

※食品の物性…食品の食感や特性(テクスチャー)のことをいう。

※咀嚼・嚥下(そしゃく・えんげ)…食物を認識して口に運び、取り込んで嚙み砕くことを咀嚼、咀嚼したものを飲み込むことを嚥下という。

 

最後に、坂下玲子副学長による閉会挨拶がありました。坂下副学長は「先端医療工学研究所は開設から1年半が過ぎ、臨床の中にある研究所として強みを発揮している。本日は、医療ヘルスケア機器分野、看護介護分野、食栄養分野ということで、非常に幅広い分野のお話を聞いていただいたが、これらは氷山の一角にすぎない。多様な研究者がいるので、今日参加していただいた方には、研究所のサイトをご覧いただき、様々な研究が行われていることをご覧いただけたらと思う。また、研究所として、統一的な内容で研究を進めていけたら良いなということで、小橋所長の発表にもあった病院の電子カルテ等の2次データを使って、デジタルヘルスというものを進めていきたいという方向と、医療事故というようなところを防いでいきたいという大きな2つの柱を持って、2年目、3年目を邁進していきたい」と挨拶しました。

 

セミナー後には、会場内で名刺交換会の場が持たれ、活発な交流が行われました。また当日は、韓国の国営放送局であるKBSによる取材を受け、病院・企業・大学等が連携して最先端の研究をしている医療産業都市の先進事例として、今年の11月末に韓国で放映されることとなっています。

 

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