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「半導体微細加工技術が切り拓く世界」高度産業科学技術研究所 渡邊 健夫教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

3月6日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、高度産業科学技術研究所の渡邊 健夫(わたなべ たけお)教授です。

 

今回のテーマは、「半導体微細加工技術が切り拓く世界」
渡邊教授の専門は、「物理学」です。

 

太陽光線の400倍~1,000万倍強い放射光で見る

渡邊教授は、世界的な科学技術拠点が集積している播磨科学公園都市(兵庫県赤穂郡上郡町光都)内に位置する高度産業科学技術研究所(LASTI:Laboratory of Advanced Science and Technology for Industry)で、本研究所極端紫外線リソグラフィー研究開発センター長として、半導体微細加工技術である極端紫外線リソグラフィー(EUVL:Extreme ultraviolet lithography)の基盤技術の研究を行っています。渡邊教授のグループは、世界の中でも半導体関連の技術開発をリードしており、現在のiPhoneやiPad等には、渡邊教授のグループが開発した技術が使われています。

(左)1998年~2001年にかけて開発した世界初の3枚非球面鏡から成るEUV用露光装置、(右)ニュースバル放射光施設での実験の様子

 

高度産業科学技術研究所は、1994年に設立された本学の附置研究所で、光科学技術を中心とした先端的研究を推進するとともに、兵庫県下企業等との共同研究により新産業技術基盤の創出を図り、産業支援を行うことを目的としています。このため、本研究所は国内の大学が保有する軟X線領域では最大規模となる放射光施設「ニュースバル」を有しており、産業利用と基礎研究の両輪で運営しています。ニュースバルで用いられている軟X線領域の放射光は、物質との反応性が高く、高輝度で、太陽光線(可視光)の約400~1,000万倍明るいことから、今まで人間の目では見えなかったものを見ることができ、物質3の構造や電子状態の観察をすることができます。現在、9本のビームラインが稼働しており、その内3本がEUVリソグラフィー専用のビームラインとして運用されています。

 

物理学を専門とする渡邊教授が半導体に関する研究に関心を持つようになったのは、大学院後期博士課程物理学専攻在学中だったといいます。「半導体関連の研究を始めるまでは素粒子の実験をしていました。当時の指導教員に怒られそうですが、『物理の根源を探る』ということで実験をするのは良いけれども、『あまりにも大きなお金を使って、いつまで経っても分からない』というところに私自身は疑問に思い、ずっと加速器の近くにいたこともあり、『加速器を使った応用研究をしたいな』と思ってこの世界に入りました」と渡邊教授は語ります。

※加速器…電気を持った電子や陽子などの荷電粒子を、電磁力によって加速させる装置のこと。

(左)ニュースバル放射光施設の外観写真、(中)ニュースバルのEUVL研究用ビームラインBL03、(右)ニュースバルのEUVL研究用ビームラインBL09とBL10

ニュースバルとSPring-8の放射光スペクトルの比較

1cm角の半導体の中にトランジスタ1,000億個入っている

そもそも半導体とはどのようなものなのかについて渡邊教授は、「トランジスタというものを聞かれたことがあると思いますが、トランジスタとは、基本的に信号を増幅する『増幅回路』になっています。例えば、ステレオのアンプは、小さな信号をスピーカーに流すときに大きな音にしないといけない。要するに、大きな音にするために信号の増幅をしている。このような働きをするのが増幅回路になります。スマートフォンの心臓部にあたる1㎝角の半導体の中にはトランジスタが1,000億個入っています。それだけの数が入っていないと動画の処理ができないし、みなさんが使っているLINEやいろいろなSNSのアプリの動作を処理することができません。アプリを使うときに反応や動きがちょっと遅いなと感じられることがあると思いますが、おそらくアプリの機能がどんどん高くなって、処理速度が追い付いていないからです。LINEの処理速度を上げないといけないとか、メモリーや動画など、そういったところのものを処理するには半導体の性能を上げないといけないというところが課題になっています」と紹介しました。

実際にスマートフォンに使われている半導体チップ(MPU)の写真

半導体は国家安全保障や経済安全保障上非常に重要な技術

半導体は、スマートフォンやタブレット、家電製品など日常生活で使用する電子機器から、自動車などの大きな乗り物にも使われ、私たちの日々の生活において欠かせないものとなっていますが、半導体の歴史をさかのぼると、元々は国家安全保障のために開発されたものであると渡邊教授は語ります。「半導体は、アメリカの物理学者であるウィリアム・ショックレー(William Bradford Shockley Jr.、1910-1989)が最初に開発しました。その後、旧ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリン(Yurii Alekseyevich Gagarin, 1934-1968)が人類初の宇宙飛行を成功させ、宇宙船で『地球は青かった』と言ったというのがありますが、そのときにアメリカが『これでは国防がままならない』と、ショックレーが開発したトランジスタを使って半導体チップをつくろうということになりました。それは『宇宙に宇宙船を飛ばして軌道計算させる』というところに必要だということで、国防に絡んでチップを開発したというのが始まりです」。

現代社会においても、半導体は国家安全保障や経済安全保障と結びついています。渡邊教授は「例えば、敵の航空機にミサイルを落とすには、いわゆるロックオン、照準を合わせる必要があります。カメラで相手を認識して、相手との距離や速度を測り、それらに対してミサイルを撃ち込む。トランジスタがたくさん入ったチップは、こうした計算をする武器として使われています。日本の場合はそうではなく、平和利用のために開発していますが、日本は1980年代後半に世界の50~70%のシェアを取ってきました。その後の日米半導体協定の影響などによりシェアを落としていきましたが、こうした状況でも日本はしっかりと世界についていきながら、きちんと技術を伸ばしていくという戦略が必要ではないかと思います」と解説しました。

番組収録の様子

髪の毛の5,000分の1の線幅を目指して-半導体微細加工技術

半導体チップの製造における最も重要なものとして、渡邊教授が研究している半導体微細加工技術が挙げられるといいます。微細加工技術とは、読んで字の如く「半導体回路の配線の線幅を細かく小さく加工すること」を指します。渡邊教授は「何を細かくするかというと、半導体チップの中に入っている回路の線幅を細くします。回路の線幅を細く狭くすることによって空間ができるので、そこにトランジスタを新たに置くと集積化が可能になり、さらに処理速度の速いチップができます。そのため、例えば、新しいスマートフォンを買うと電池も長持ちするようになりますが、これは消費電力が下がるということです。そして、チップ1個あたりの全体の価格が上がりますが、トランジスタ1個あたりの製造コストは下がり、新しいものが売れると半導体メーカーが儲かる仕組みになっています。同時に、みなさんが使うSNSやアプリは、もっと使いやすくなり、処理速度も上がるので機能を高めることができる。例えば、アプリに翻訳させると『前のアプリよりも、きちんと翻訳できているな』と実感として湧くと思いますが、それは、AIの力を使って処理速度を高めているからです。そうしないと、ユーザーのみなさんは不満に思われる。そういうところで、半導体微細加工技術は製造の一番重要な技術として、われわれは大学にあるニュースバルという放射光施設を使って研究開発に取り組んでいます。現在の線幅は、大体髪の毛の3,000分の1ですが、それを5,000分の1以下の配線線幅を可能にする次世代極端紫外線リソグラフィー(Beyond EUVL)という技術の開発を行っています」と説明しました。

渡邊教授がスタジオに持参したEUVリソグラフィー用半導体回路写真焼き付け装置。
右上に30cmほどの大きさのシリコンウエハ、左上に半導体回路原版、左下手前にシリコン(Si)の原石。その他、USBやスマートフォンに使用されている半導体チップなどがある。

日本における半導体の未来

2022年、経済産業省の補助金と日本の大手企業8社の出資により、Rapidus(ラピダス)株式会社という新しい半導体メーカーが設立されました。また、先般、熊本県に台湾の半導体会社の工場が開所され、世間でも話題になり、日本の半導体産業に明るい兆しが見えつつあります。
こうした中、半導体に関心を持つ学生が増えているといいます。「5年ほど前だと、あまり人気がなかったのですが、現在は国家安全保障と経済安全保障上、半導体の量産を始め、アメリカや日本、ヨーロッパ、韓国、台湾も『補助金を出します』という状況になっている。このため、現在は半導体ブームになっているので、『半導体の方に進みたい』という学生がどんどん増えてきています。また、卒業・修了後は、半導体の製造を担う企業や半導体の材料を扱う企業、製造の際に使用する装置を扱う企業などへの就職を希望する学生が増えています」とし、「日本には半導体製造工程の全体に亘っていろいろな企業があります。また、ソフトウェアとハードウェアを含めて半導体を駆使した各種サービスを展開している企業があります。そうした企業全体が儲けることのできるシナリオを中長期的な計画のもと実施することで日本の半導体は復興できるし、そうすることで学生も『こういうことだったら自分もやってみたいな』と想うと思います。また、半導体産業の復興によって、日本の経済も復興できると考えています。日本の経済が復興すると、それなりの人件費をそこで払えるようになっていくので、好循環に持っていくことができます。われわれが微細加工の研究を、ニュースバルで進めている理由はそこにあります。日本の経済安全保障をしっかりとしたものにすると。ただ、自分の国だけでなく、海外との連携の中で進めていく話であると思うので、バランスをどのように取っていくのかが今後の課題かなと思っています」と渡邊教授は話します。
番組の最後に渡邊教授は自身の夢について取り上げ、「私の夢は量子デバイスをつくることです。例えば、食事をしながら仕事のことを考えるなど、われわれは同時にいろいろなことができます。そういうことができるのは脳です。脳の中には金属配線がなく、全部有機でできています。半導体チップに使われるフィルムを有機材料といいますが、これを配線にして、脳に近いデバイスに結びつけられないかなと考えています。人間の体の感覚に近いデバイスが開発できれば、莫大な電力を使わなくて済むようになり、脱炭素社会及び持続可能な社会実装に備えることができます。そういったところに、この微細加工技術を使うことができるのではないかなと考えています」と語りました。

学生たちと一緒に研究している様子

 

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