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「現代の植物分類学者はどんな研究をしているか?」 自然・環境科学研究所 高野 温子教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

10月4日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、自然・環境科学研究所の高野 温子(たかの あつこ)教授です。

 

今回のテーマは、「現代の植物分類学者はどんな研究をしているか?」

高野教授の専門は、「植物分類学」です。

 

植物分類学者の仕事

植物分類学者というと、今年の4月から9月に放送され、俳優の神木隆之介さんが主演を務められたNHKの連続テレビ小説「らんまん」を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。高知県出身の植物学者である牧野富太郎博士(1862年-1957年)を、主人公のモデルとして描いたストーリーで、牧野博士は日本の植物分類学の基礎を築いた第一人者として知られています。ドラマでは、主人公を演じていた神木さんが野山を駆け回って植物を採集し、植物のデッサンを描き、標本を作る姿が描かれていましたが、牧野博士と同様に植物分類学を専門に研究を行っている高野教授も、牧野博士と同じようなやり方で研究活動をしているといいます。「ドラマの中で神木さんが一生懸命あちこちに行って、植物標本を採って、自宅に標本を積み上げるといったことをされていました。自宅に積み上げはしませんが、博物館の中には標本が積み上がっています。デッサンも、ドラマのように『絵を描きまくる』というようなことはしませんが、必要に迫られれば描きます。新種を記載するときなどは、自分で頑張って絵を描きます。新種に関する論文を書くときには、その論文の中で新種とされる植物が『これまでに知られているどの植物とも違う植物である』ということを示すために絵を描く、あるいは写真を撮るというルールがあります。牧野博士のようなすごい絵は描けませんが、『これが新種だよ』ということが最低限伝わる絵を描きます。写真を使う方もいらっしゃいますが、写真では、見せたいところがきちんと写るときと写らないときがあります。絵を描くことの利点は、画力が必要になりますが、自分が見せたいところをしっかり見せられるように描けることではないかなと思います」と高野教授は話します。

植物調査の様子(兵庫県最高峰 氷ノ山にて)

 

植物が辿ってきた歴史を明らかにする

現在、本学の附置研究所である自然・環境科学研究所に所属する教員として教育活動を行いながら、兵庫県三田市にある兵庫県立人と自然の博物館で主任研究員として研究を行っている高野教授が植物の研究に携わるようになったきっかけは、学生時代にあるといいます。進学した大学の学科に所属されていた当時の先生方が、植物を研究されている先生と、DNAを使用しての研究をされている先生であったといい、高野教授は、屋外に出ることが好きだったこと、また、高野教授が大学生だった頃に植物分類学にもDNAを使った研究が入ってきていたことから、植物分類学であれば、外に出て植物採集をすることができ、実験もできると考え、植物の研究の道を選択したといいます。

大学院生時代、マレーシア・サラワク州ランビル国立公園のウォークウェイにて

 

植物分類学とは、植物を体系的に分類・整理する学問で、やはり前出のドラマでも描かれていたように「今、目の前にある植物は何なのか?」という問いかけから始まります。そこから、個々の植物について研究し、生物多様性を理解し、また、現在では、DNAの解析を行うことによって、植物の進化の道筋を追いかけることができるようになりました。DNAの解析は、牧野博士が生きた時代にはなかったことですが、高野教授は「牧野博士をはじめ、明治時代に入ってからの植物分類学者が『日本にはこれだけの植物が生息しているんだよ』ということを明らかにしてくれた上に、われわれの今の研究があるので、そういう意味で私たちがしている研究は、積み重ねというか、新たな基礎を積み上げていっているというところかなと思っています」と高野教授は語ります。

牧野富太郎博士が採集した植物標本(ミヤコザサ)

 

最先端技術が植物の名前の判定をサポート

高野教授は、兵庫県産維管束植物やショウガ科植物、シソ科植物の分類学的研究を行う一方で、環境省レッドリスト調査員としての活動や兵庫県における特定外来生物対策の実践型研究と政策提言及び人材育成の推進、植物標本デジタル化の推進、生物系標本庫(植物)の資料整理とデータの公開など、様々な活動を行っています。その中で高野教授は昨年度、他の博物館や大学、民間企業との共同研究により、スキャナーやカメラを使ってデジタル画像にした標本の画像を教師データとしてAI画像認識システムに与えて学習させ、「この植物は何々の標本である」と植物の名前を回答することのできる「植物の種名判定システム」を開発しました。このシステムについて高野教授は、「採集してきた植物標本は、博物館の標本として登録する作業が必要で、『この標本は、どこどこで採ってきた何々という植物の標本です』というデータを入力しないといけません。人と自然の博物館には現在、未整理のものも入れると約60万点の植物標本があります。私たちも60万点の標本を全て暗記できるわけではありませんので、データを入れていくという作業が必要ですが、これまでは全部手作業で入力をしていました。あまりに多いので手作業では追い付かず、システムを開発することにしました。このシステムによって、従来よりも約3倍のスピードでデータ入力ができるようになりました」と紹介しました。

※維管束植物…シダ植物と種子植物のことを指す。これらの植物は、水・ミネラル・光合成産物を植物体全体に輸送するための器官である維管束を有していることから維管束植物と呼ばれ、茎・根・葉など分化した器官を持つ。

※教師データ(teaching data)…機械学習の際に利用するデータを指す。

現在、高野教授が研究しているシソ科タツナミソウ属植物 写真はデワノタツナミソウ

 

多くの標本があるからこそ研究に活かすことができる

また、高野教授は、博物館に収蔵する標本の価値や存在意義、重要性について発信する活動にも力を入れています。「『らんまん』でも取り上げられていましたが、たくさんの標本がないと、今、目の前で見ている植物が新種かどうか分かりません。『新種を見つける』というと、未開の地に1人で乗り込んでいくといったことをイメージされる方も多いと思いますが、実際、新種が見つかるのは標本庫の中の方が多いです。なぜかと言うと、植物標本庫というのは、標本を似たものの順番に並べてあるので、多くの似た標本と比較することができ、そうすると『この植物は他のものとは違う』という違いが見えやすいということもあって、『これは新種だ』と確信が得やすくなる。野外に未開のジャングルに行って、見たこともない植物を採ったとしても、それが本当に新種かどうかというのは、博物館に帰ってきてから調べないと分かりません。だから、標本庫というのは、そういう意味もあり、標本をたくさん集めて、みなさんの研究に使っていただけるようにしています」と高野教授は言葉に力を込めました。

番組の最後に高野教授は、小さなお子さんが植物に興味を持つためのきっかけのつくり方について取り上げ、「私は子どものときに『葉っぱがツヤツヤしてきれいだな』と思ったことが植物に興味を持つきっかけになりましたが、葉ではなく、花か実がある植物から入ると良いと思います。もし、小さなお子さんが花か実に興味を持ってそうな素振りがあれば、ご両親などは『この花、何かな?』といった具合に問いかけてあげてみてください」とアドバイスを送りました。

収蔵庫で植物標本を調べる

関連リンク

教員出演 ラジオ音源 ←放送内容はこちら

兵庫県立大学自然・環境科学研究所

兵庫県立人と自然の博物館

 

高野教授が共同研究によって開発した植物の種名判定システムに関する詳細については、下記のリンク先からご覧になれます。

AI画像認識システムを用いた植物の種名判定システムを開発(兵庫県立人と自然の博物館公式サイト)

 

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