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「小さな水生植物“ウキクサ”と微生物の可能性」 工学研究科 石澤 秀紘助教

本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

6月16日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、工学研究科の石澤 秀紘(いしざわ ひでひろ)助教です。

 

今回のテーマは、「小さな水生植物“ウキクサ”と微生物の可能性」
石澤助教の専門は、「植物と微生物を用いた環境バイオテクノロジー(生物環境工学)」です。

 

化学の力を使って社会を支えることのできる人材を育成

石澤助教が教育・研究活動をしている工学部応用化学工学科及び工学研究科応用化学専攻では、有機化学や無機化学をはじめとする「化学」の力を使って、物質の構成単位である原子・分子を自在に操り、持続発展可能な豊かな社会づくりに貢献する次世代のエネルギーや新しい機能性材料・物質を生み出すことのできる技術者の育成を行っています。特に、医療・健康、エネルギー生産、省エネ、CO2削減、環境保全に関連する化学材料や技術の創生に貢献できる人材を養成しています。その中で石澤助教は、生物機能工学研究グループに所属し、様々な植物や微生物を扱い、それらを活用した環境技術の開発を行っています。「化学変換によって価値の低い物質から価値の高い物質を生み出すことが、応用化学の醍醐味です。生き物も同じことが可能で、例えば、植物も光合成によってCO2からわれわれの食料などをつくったりしています。これも大きく捉えると、化学変化によって価値の低いものから高いものをつくり出していることになります。こうした理由から、応用化学専攻には生き物を扱うグループがあります」と紹介しました。

普段の研究の様子。ウキクサを無菌環境で栽培している。

 

世界で最も成長が速い植物-ウキクサ

石澤助教が研究で扱っている植物は、水生植物であるウキクサ科植物です。水田の水面に浮きながら生息しているとても小さな植物ですが、一般に維管束植物といわれる生き物の中では世界で最も成長が速く、約1~2日で倍々に増えることのできる植物であるといいます。石澤助教は、「『ギネス世界記録』には竹が世界で一番成長が速いと書かれていますが、私としては納得していません。タケノコは、1日で10cm以上伸びると言われていますが、タケノコは自分の力で伸びているわけではなく、地下茎でつながった周りの植物からエネルギーをもらって伸びています。自力で光合成をして速く増えることができるのはウキクサであることが知られています」と強調します。植物の世界では、頑丈で寿命の長い葉を持つ植物ほど光合成が遅くなり、逆に軟弱で短命な葉を持つ植物は光合成や成長速度が速くなるという法則が知られています。石澤助教はこの法則をウキクサに当てはめ、ウキクサの高い光合成速度や成長速度が、水に浮かぶことによって可能になる植物界で最も“軟弱”な葉の性質によってもたらされることを研究で明らかにしています。(https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/1365-2745.13710)

ため池に浮かぶウキクサの様子。アオウキクサやミジンコウキクサなど、4種類のウキクサが共存している。

 

非常に高い成長速度を持つウキクサに、石澤助教は大きな期待を寄せています。「ウキクサは、排水中の窒素やリンといった水質汚染物質を栄養源として吸収し、同時にデンプンやタンパク質が豊富なバイオマス(生物資源)を合成します。そのため、バイオ燃料として、また、食料など『いろいろな材料になるものとして』というのは、環境・エネルギーに関する大きな課題を抱えるこれからの時代にとても大事なことであり、単純に成長の効率が最も速い植物ということで、ウキクサは非常に可能性のある植物だと思っています」。
※バイオ燃料…植物・農作物・食品廃棄物などのバイオマスを原料とする燃料を指す。

 

植物と共生する微生物を活かす

併せて石澤助教は、ウキクサの栽培をさらに効率化するために、植物と共生している微生物にも着目しているといいます。「例えば、私たちのお腹の中にも微生物がたくさん住んでいることは、ご存じの方もいらっしゃると思います。こうした腸内微生物のバランスは、私たちの健康や病気の発生、性格などにも関連していると言われていますが、これとよく似たことが植物の世界でもあり、根や葉に付いている微生物が、実は植物を病気から守っていたり、植物の成長を助けてくれていたりします。ですので、ウキクサと共生している微生物を意図的に人が制御してあげると、ウキクサの成長がもっと速くなったりだとか、もしくは、ウキクサの生態の成分が変わって、タンパク質がもっと豊富になったりするなどといったことができるようになってきています。こうしたことが将来役に立つ研究になれば良いなと考えています」と話す石澤助教は、これまでの研究でウキクサの成長速度を2倍近くに促進する微生物を発見し、これを実際に活用するための研究に取り組んできました。「ウキクサを実験対象として、植物全般と微生物の共生関係を理解していくことで、他の農作物を効率的に栽培したり、病気から守ったりする技術にもつながると考えています」。

石澤助教がタイのレストランで食したミジンコウキクサのサラダ

 

また石澤助教は、ウキクサは大豆並みにタンパク質が非常に豊富であることから、健康、倫理、宗教などの理由から動物性タンパク質を摂取できない方々にとってタンパク源の候補の1つとなっており、人間の食品として販売されていることや、宇宙飛行士の食料(宇宙食)としても注目されていることを紹介しました。

 

マレーシアのジャングルでの研究生活

現在は上記のような研究を行っている石澤助教ですが、学生時代は熱帯林環境学に関する研究室に所属し、その中で1か月間、マレーシアのジャングルの中に篭もって物質循環に関する研究をしていたことがあるといいます。「当時は、今とは専門分野が少し異なり、地球規模で物質がどのように循環し、どのように環境が保たれているかについて広く勉強していました。自然そのままを研究したいと考えたときに、『人の手が今まで歴史上一度も入っていない原生林』がマレーシアにあり、研究をするための許可など事前申請の準備などもいろいろと大変でしたが、ジャングルの中に入れていただいて、その中で植物の葉や土などを収集して、それらをサンプルとして分析し、その中でどういうふうに物質が循環しているのかを調べるということをしていました。ジャングルには、滞在する研究者用のログハウスのようなところはありますが、お風呂やシャワーはなく、大きな桶のようなものに水道の水を溜めて、それを被って体を洗っていました。食事は、ジャングルから車で少し出たところに屋台などがありましたが、日中はずっとジャングルの中に篭もっているので、食べ物はとても限られていました。そのため昼食は、1か月間毎日同じお店に行って、同じお弁当セットのようなものを買って、それをジャングルの中で食べていました」。

マレーシアのジャングルにおける現地調査の様子

 

また、ジャングルの中には、毒蛇や虫などの身の危険を脅かすものも存在していました。「それこそ日本から出るときにいろいろな予防接種を受けました。現地では特にアリがとても怖かったです。アリに噛まれると本当に痛いのですが、ジャングルの中をかき分けて入っていくと、木々を這っていたアリが降ってきたりして大変でした。また、同行者がハチに刺された際は、結構大変でした。こういったトラブルに慣れていらっしゃる方が同行してくださっており、吸盤のようなもので毒を抜くということがありました」と振り返りました。様々な面で非常にハードな環境ではあったものの、ジャングルでの経験は、石澤助教の今の研究生活の支えになっているといいます。「当時、同じグループとしては4~5人で行っていました。でも、世界中のいろいろな研究者の方が同じ場所に集まって過ごしておられて、ご年配の研究者の方も本当に同じ環境で、1日中ジャングルの中を歩き回ったり、お風呂もない環境で過ごされていました。このような過酷な環境でも涼しい顔で研究に取り組む研究者がたくさんいるのを見て、『研究者ってすごいんだな、研究するってこんなに大変なんだ』と思いました。今も大変なことはありますが、『あのときに比べれば』というのはあります」と石澤助教は語ります。

マレーシア滞在時に宿泊していた施設

 

サステナブルな技術に

独立行政法人国際協力機構(JICA)の国際科学技術協力プロジェクトの一環で、短期在外研究員(短期専門家)として、タイでウキクサ栽培の普及に向けた技術指導などの活動も行う石澤助教は今後の展望について、「直近の展望としては、東南アジアなどでウキクサをたくさん栽培して、それを社会の役に立てていくというところを現在進めていますし、もっと先のことでは、植物と微生物の関係はウキクサだけではなく、いろいろな植物、それこそ私たちにもっと身近な稲やトマトなどの野菜にも同じような関係が存在しているので、そうした関係を解き明かしていき、微生物を使って農薬や肥料の機能を一部代替することができるようになれば、非常にサステナブルな技術につながると考えています」と話しました。

タイにける現地調査の様子。ため池一面にウキクサが広がっている。

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教員出演 ラジオ音源 ← 放送内容はこちらからお聴きいただけます
工学部・大学院工学研究科
research map 石澤秀紘(Hidehiro Ishizawa)

 

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