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「『MEMS』とセンサ」工学研究科 前中 一介教授 

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

8月2日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、工学部・工学研究科の前中 一介(まえなか かずすけ)教授です。

 

今回のテーマは、「MEMSとセンサ」

前中教授の専門は、「MEMS/センサ工学」です。

 

「マイクロなエレキ」と「マイクロなメカ」を融合してシステム化する技術

前中教授は、姫路工学キャンパスにある工学部電気電子情報工学科及び工学研究科電子情報工学専攻において、MEMS(メムス)技術や半導体(集積回路)に関する研究・教育活動を行っています。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは、半導体技術をベースに育った技術で、「マイクロなエレキ(電気)」と「マイクロなメカ(機械)」を高次元で融合してシステム化する技術のことをいい、近年は特にセンサに利用され、今日のマイクロセンサを支えている重要な技術です。前中教授の研究室では、このMEMS技術を用いて、高度な電子機器やシステムにおける様々な情報・信号の入出力機能を実現する超小型MEMSセンサやアクチュエータ、エネルギーハーベスタなどのデバイス・集積回路について、新技術の提案、解析、試作をするなどの研究・開発を行っています。前中教授は、MEMS技術研究のパイオニアで、黎明期から研究に携わっており、一連の研究がMEMS技術の分野のみならず、ヘルスケア分野にも多大な成果をあげたことや、国内企業等における科学や工業の振興、啓蒙にも尽力したとして、2017年に公益財団法人井植記念会の第41回井植文化賞を、2021年には令和3年度兵庫県科学賞を受賞しています。

※アクチュエータ…入力された様々なエネルギーを物理的な動作に変換する装置のこと。

※エネルギーハーベスタ(環境発電)…周囲の環境にある熱や振動などの僅かなエネルギーを収穫して電力に変換する技術のこと。

試作したMEMSセンサ(ジャイロスコープ)の例。MEMSとしては少し大きめの5mm角厚さ1mm。放射状の線は、配線用のワイヤ(太さ20μm)。丸い部分が回転振動し、コリオリの力で角速度を検出する。時計のようなメカニカル感が醸し出されていませんか?

 

ものづくりの道に進んだ原点

「ないものは作る、壊れたら直す」がモットーであるという前中教授がものづくりの道に進んだ原点は、幼少期にあるといいます。幼い頃からものづくりが好きで、真空管ラジオやアマチュア無線送信機をつくっていたそうです。また、両親には怒られたそうですが、両親に買ってもらったおもちゃを工具で分解していたことも、ものづくりに興味を持つきっかけになっていたのではないかと、前中教授は当時を振り返ります。後年、工学を自身の仕事として考えるようになったことも、ごく自然な流れだったといいます。「ものづくりを始めたことも、工学の道に進んだことも、知らない間にそうしていたという感覚です。ものづくりが好きで神戸市立工業高等専門学校に進学し、その後、豊橋技術科学大学に入学して、『ものづくりが仕事になるような、できれば教員になれれば良いな』と思っていました。ちょうどそこでセンサ関連の分野で助手を探していた研究室から『前中君、どう?』という話があり、助手として勤めることになりました」と前中教授は語ります。

豊橋技術科学大学に勤めて3年後、あまり年齢の違わない学生たちとクリーンルームで。(後列中央が前中教授)

 

高専の学生時代に作ったマイクロコンピュータシステム。中央の写真は、本体に入っている回路基板。ケースの穴開け、基板・電源からキーボードまで手作り。右の写真は、これを使って卒業研究のテーマである「音声合成」をしているところ。

 

電気と人間の世界をつなぎ合わせる

MEMSセンサには、血圧計に使われている圧力センサや、人間の脈を測定することのできる脈波センサなど様々なものがあります。中でも、今や私たちの生活に欠かせないものとなっているスマートフォンは、MEMSセンサが使われている代表的なものの1つで、少なくとも10種類前後のMEMSセンサが使われているといい、物の回転や向きを測定するジャイロセンサ(角速度センサ)をはじめ、物体の速度の変化(加速度)を測定する加速度センサ、通話の機能を担うマイクロフォンなどが使われているといいます。また、複数の集積回路が、これらのMEMSセンサを統合的に制御する「まとめ役」としてスマートフォンの中に入っています。MEMSセンサと集積回路は、一見、似た外見をしていますが、集積回路とMEMSの違いについて前中教授は、「集積回路というのは、『電気信号を入力して、電気信号を出す』『処理をして、電気を電気で出すもの』と考えていただいたら良いと思います。MEMSというのは、例えば加速度や湿度、圧力など『電気以外のものを電気に直す』、これがMEMSのセンサです。逆に、電気を動きや温度といったものに変換するアクチュエータというものもあります。電気と人間の世界とをつなぎ合わせるものがセンサやアクチュエータであるという、MEMSの一番得意なところになります」と解説しました。

様々なMEMSセンサ。大きさは1mm~数mm角という非常に小さなサイズでありながらも高度な性能を持ち、私たちの日常生活においても身の回りに多く存在し、日々お世話になっている。

 

MEMSセンサの歴史

MEMSセンサの歴史の始まりは、1970年代頃に遡るといい、1980年代あたりで著しく成熟し、2000年以降には様々なものがMEMSセンサになったといいます。「日本のものづくりというと、世界の中でも最先端をいっているというイメージがありますが、MEMSセンサの分野でも、1980年代は『日本かドイツか』と言われていました。しかし、現在は残念ながら世界1位、2位という目立ったものはありません。原因は、1986年に締結された日米半導体協定の影響で、集積回路の製造が日本でできなくなってきたことが挙げられます。MEMSも集積回路の装置を使ってつくりますから、集積回路と一緒にMEMSもつくられなくなってきたというところがあります。ただ、そうは言っても、企業は自身の企業の装置用に、あるいは、B to Bという形でMEMSをつくっておられます」と前中教授は紹介しました。

※B to B…Business to Businessの略。企業間取引のことを指す。

 

ものづくりの楽しさを感じ取って欲しい

前中教授は、これからのSociety5.0の社会においても、MEMSセンサは重要なキーワードになると話します。「車に例えると、MEMSや集積回路はタイヤの片輪であり、もう片輪がディープラーニングやAIといったもので、この2つが上手く絡まって両方が発展していくものなのだと思います。ハードの方は、『日本の集積回路は終わった』という話をする人もいますが、『これからまた復活するのではないか』と感じられる動きも盛んになってきています。まだまだ、むしろこれからだという気がしています。元々ものづくり技術が高い我が国で、若い方にもっとこの分野のハードにも興味を持って欲しいと思っています。若い方に、ものづくりに興味を持ってもらうためには、高校生あるいは中学生のうちから物をつくるとか壊すなど、実際にものづくりを経験してもらうというのも良いのではないかと思います。そういった意味で、ロボットコンテストのような、ものづくりコンテストといったものを私たちが企画して開催したら良いのかなというふうにも考えています。また、学生にも『ものをつくる楽しさ』を感じ取って欲しいなと強く思います」と前中教授は言葉に力を込めて語りました。

※Society5.0(ソサイエティ5.0)…仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会のことで、内閣府の第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたもの。

試作したMEMSデバイスを学生たちと一緒に計測している様子

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