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「植物を介して人と人が関わること -園芸療法のエッセンス-」 緑環境景観マネジメント研究科 剱持 卓也講師

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

11月1日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、緑環境景観マネジメント研究科の剱持  卓也(けんもち たくや)講師です。

 

今回のテーマは、「植物を介して人と人が関わること -園芸療法のエッセンス-」

剱持講師の専門は、「園芸療法」です。

 

全国に先駆けて園芸療法士を養成

剱持講師は現在、兵庫県淡路市に位置する緑環境景観マネジメント研究科で教育活動をしながら、主に兵庫県立淡路景観園芸学校園芸療法課程で、園芸療法士の養成を目指した教育活動や、植物を介した関わりによる人の健康への効果に関する研究を行っています。

兵庫県立淡路景観園芸学校は、1999年4月にわが国で初めて「景観園芸」という学際的学問分野を掲げて開校した教育研究機関で、開校から3年後の2002年4月に、やはりわが国で初めてとなる、公的機関で園芸療法指導者の養成を行う園芸療法課程を開講しました。園芸療法課程では、これまでに268名の修了生を輩出し、兵庫県知事が認定する兵庫県園芸療法士の資格を持った修了生が各地の医療や福祉の現場などで活躍しています。なお、緑環境景観マネジメント研究科は、兵庫県立淡路景観園芸学校の専門職大学院課程として位置づけられています。

園芸療法課程での講義の様子

 

植物の栽培から始まった園芸療法への道

北海道で生まれ育ち、幼少の頃から広大な畑や山々に囲まれた自然豊かな環境で過ごしてきた剱持講師は、大学進学前に1冊の本と出会いました。「大学時代は農学部で学びましたが、ちょうど大学に入るときに、いとうせいこうさんがベランダでの園芸について書かれた『ボタニカル・ライフ-植物生活』というエッセイを読みました。農学部に進学したことですし、『自分もちょっと植物を育ててみたいな』と思い、1人暮らしを始めたのを機に植物を育て始めました。そのときに植物が徐々に大きくなっていく姿や、花が咲くなどの変化を見たときに、すごく嬉しいというか快い気分になり、『植物を育てることは、人の気持ちや暮らしをとても良いものにするのではないか』と感覚的に思いました。その後、大学4年生になったときに人と植物の関係について卒業研究をしました。そして、進路をどうしようかと考えていた頃、当時所属していた研究室で偶然手に取った本に『園芸療法』という言葉があり、『この後、自分が突き詰めて学んでみたいのはこれかな』と感じました。それで調べてみたら、淡路景観園芸学校に園芸療法課程ができて、第1期生が学び始めた時期でした。また、ちょうどオープンキャンパスが開催されるとのことだったので行くことにしました。そこでどんな授業が展開されているのか、どんな場所で学びがあるのかというのを目の当たりにして、『ここで園芸療法を、植物が人にどう影響するのかを学びたい』と非常に強く思い、大学卒業後に淡路景観園芸学校に入ることにしました」と剱持講師は園芸療法士の道に進んだ経緯を紹介しました。

生まれ育った北海道十勝の風景

 

臨床現場における園芸療法

日本における園芸療法は、1990年代初頭に先進国であるアメリカで園芸療法を学んだ人たちによって日本に紹介されたことに始まります。それから30年が経過し、その間、国内でも研修やセミナーが行われたり、医療・福祉施設で取り入れられたりするなどして発展してきました。

剱持講師は、淡路景観園芸学校園芸療法課程を修了後、園芸療法士として精神科病院と介護老人保健施設で合わせて約18年臨床経験を積みました。臨床現場での園芸療法士の仕事について剱持講師は「私は園芸療法課程修了後、精神科病院に勤め、その後、介護老人保健施設でも勤めましたが、園芸療法士としての関わり方は勤める場所によって変わってきます。精神科病院では、作業療法士の方とともに活動していました。作業療法士と一緒に活動をする中で実践する園芸療法は、作業療法の診療報酬として認められるところだったので、庭や畑での園芸活動を精神疾患のある方のリハビリテーションに使っていたというのが精神科病院での実践になります。一方で、介護老人保健施設もリハビリ施設なので理学療法士や作業療法士の方が何名かいらっしゃるので一緒に活動する形になりますが、精神科病院とは異なり、診療報酬を得ることのできる人数が限られるので、施設側のサービスとして園芸療法を提供していました。介護老人保健施設では、認知症の方や脳梗塞後の後遺症で麻痺が残っている方と園芸活動をするのですが、車いすの方や体の不自由な方との関わりになるので、そういった方々に配慮した環境づくりをしたり、植物栽培を通したプログラムを実施したりしていました。私の場合は、いずれも何名かの集団で対象者の方に関わってきましたが、場所によっては、1対1の個別でこうした関わりを行っているところもあります」と紹介しました。

※作業療法士・理学療法士…いずれも国家資格でリハビリテーションの専門職。作業療法士は、身体や精神に障害のある人が心身機能を回復し、日常生活や社会生活に復帰できるよう、日常生活の動作など、生活の中における作業や動作等を用いて訓練・指導・援助を行う。理学療法士は、身体に障害がある人等の身体運動機能の回復や維持・向上を図り、自立した日常生活が送れるよう、医師の指示の下、運動の指導や物理療法を行う。

介護老人保健施設での園芸療法実践場面(花苗を植え付けている様子)

 

特性に合わせる-医療・福祉施設での庭づくり

また、剱持講師は、医療・福祉施設における庭づくりについて言及しました。「私の場合は、精神科病院と介護老人保健施設の両方で環境づくりに携わることができたので、いずれの施設でも、対象者の方の特徴等を踏まえた環境づくりをした上で、園芸療法を提供していました。例えば、精神科病院では、対人的な不安が強い方が多い場所なので、少し周りから視界を遮るような形で生垣を配置し、芝生で一面を緑にしてパッと見た瞬間に『きれいだな』と感じられるような環境づくりをしていました。さらに、少しぼんやりと過ごせる時間を設けられるようにすることで、対象者の方にとって、その時間が病気から少しでも離れられる時間になればと考え、ぐるりと庭を回ってきたところに休憩できるスペースを置くといった場所づくりをしました」。

精神科病院に造成したガーデン

 

「高齢者の方を対象にした庭づくりでは、車いすや杖を利用される方が多いので、勾配がない、平坦な道にしつつ、車いすの方同士がすれ違うことのできる幅をしっかりと確保した配置をしました。あとは、しゃがむ動作が難しいという方が多いので、車いすで庭を巡る際に手を伸ばすとちょうど触れられるくらいの高さに石垣を積み、その場所にラムズイヤーやアサギリソウといった手触りの良い、柔らかな植物を植えていました。また、北海道にある施設だったので、ラベンダーなど土地に馴染みのある植物も用いていました。加えて、特に高齢者施設にいらっしゃる方は、施設内は空調がきいて快適ではありますが、今がいつの季節なのかというのが分かりにくくなってしまうことがあります。また、ご自身だけで屋外に出るのが安全上の問題で難しいことが多いので、庭に出たときに今がいつの季節なのかが分かりやすいよう、季節ごとにいろいろな花が咲く花壇をつくるなど、工夫しながら場所づくりをし、その上で、それぞれの方の特性に合わせた関わり方をしていました」。

介護老人保健施設とサービス付き高齢者向け住宅の間に造成したガーデン

 

まるで犬の毛のようにふわふわとした手触りを持つアサギリソウ

 

日々の暮らしの中に植物を

そして、剱持講師は臨床経験を通して、園芸療法には対象者の方にとって非常に良い効果があることを実感したといいます。その上で、「園芸療法の効果というと、誰に対してどのような関わり方をしたのか、どういうものを使って関わったのかについてバリエーションが無数にあるので、確かな効果を出すことが難しい部分があります。ただ、脳科学などの分野で花を見ると興奮が収まったとか、不安感が催されにくくなるといった研究が少しずつ出てきているので、園芸療法の効果の背景的なものについて明らかになりつつあると思います。元々、園芸療法はベトナム戦争から戻ってきた兵士が心身のリハビリをするときに用いられ、非常に効果があったということで、アメリカで発展し、それが日本に伝わったという流れがあります。このような経緯から考えると、PTSDなどに見られる脳の傷つき(物理的な意味ではなく)に、植物との関わり、また、植物を介して人と関わることが治療になっていくというところに根本があるのではないかと思いますし、園芸療法の非常に核になる部分ではないかと感じています」と剱持講師は述べました。

番組の最後に剱持講師は、今後の展望について「私は、医療・福祉施設での庭の活用というところに研究テーマを置いていますが、健康な方などは『こうしよう』と思えばすぐにでも実行できますが、施設にいらっしゃる高齢者や病院に入院されている方は、自分でそのような環境づくりができません。園芸療法という環境があることで、治療的な効果があると思うので、その辺りのことについて研究して、さらに社会に広めていくことで、自身で環境づくりをするのが難しい方も植物の効果を体験できるようになると良いなと思っています。また、その場所を活用するという意味で、園芸療法士という職種は『その場所において、人の健康に対して植物をどう使うべきか』というところを専門にしているので、その辺りについてもこれから研究を進めていきたいと思っています」と話しました。

関連リンク

教員出演 ラジオ音源 ← 放送内容はこちらからお聴きいただけます

緑環境景観マネジメント研究科

兵庫県立淡路景観園芸学校

 

兵庫県立淡路景観園芸学校園芸療法課程の教育内容等をお知りになりたい方は、下記のリンク先をご覧ください。

兵庫県立淡路景観園芸学校 園芸療法課程

 

 

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