本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。
1月3日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、地域資源マネジメント研究科の布野 隆之(ふの たかゆき)准教授です。
今回のテーマは、「コウノトリの野生復帰とイヌワシの保全」
布野准教授の専門は、「動物生態学」です。
貴重な地域資源がある但馬地域が主な教育・研究フィールド
布野准教授は2023年4月から、兵庫県北部・但馬地域の豊岡市に位置する豊岡ジオ・コウノトリキャンパス内にある地域資源マネジメント研究科で教育・研究を行っています。キャンパスが位置する但馬地域は、ユネスコ世界ジオパークに認定されている山陰海岸ジオパークを基盤としており、国内で一度絶滅したコウノトリの野生復帰(再導入)が世界で初めて行われた地でもあります。地域資源マネジメント研究科は、この但馬地域を主な教育・研究フィールドとして、「地域に内在する自然・社会・文化のつながりを科学的に解明し本質的に理解する理論と素養を身につけ、地域資源の発掘・保全・活用を実行できる人材の育成」をすることを目的に2014年に開設されました。豊岡ジオ・コウノトリキャンパスは、コウノトリの種の保存と遺伝的管理、野生復帰のための研究、そして、人と自然が共生するための環境教育を行っている兵庫県立コウノトリの郷公園の敷地でもあり、布野准教授は、コウノトリの郷公園の研究員としても研究活動をしています。
※ジオパーク…地質学的重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・持続可能な開発が一体となった概念によって管理された、単一の統合された地理的領域のこと(日本ジオパーク委員会公式サイトより)
コウノトリの剥製をバックに研究している様子
共存するための解決策を提案していくために
現在、コウノトリやイヌワシといった希少な鳥類の研究をしている布野准教授は、幼い頃、学校から帰ってくると、友だちと一緒に自宅近くの田んぼに行ってザリガニやドジョウ、近年では限られた地域でしか見られなくなった希少種のタガメを捕まえるなどしていたといいます。「元々生き物が好きだったので、そういったものを守っていく仕事ができたら良いなと小さい頃からずっと思っていました」と話す布野准教授は、新潟大学農学部に進学しました。
「新潟大学に入学して保全の研究ができる研究室に入り、当時の教授に『今、日本で一番問題になっている、保全しなければならない生き物はなんですか』と相談しました。すると、先生からは『イヌワシ、クマタカという希少猛禽類の保全が一番大事だ』と教えていただいて、そこから研究対象が鳥に変わっていきました。イヌワシ、クマタカは、山の奥に生息していることもあり、生態やどのような生き方をしているのかが、あまり分かっていませんでした。でも、そういったことが分からないと、どうやって保全したら良いのか分からない。そうした中で、スキー場開発やダム建設、道路建設等が行われ、『保全するのか、開発するのか』という軋轢が生じていました。それらを解消するには、イヌワシやクマタカなど対象種の生態を明らかにして、どうすれば私たち人間と共存できるのかということを提案していかなければならない。それが一番問題になっていると教授に言われ、大学生のときから25年以上研究を続けています。大学院修了後は、兵庫県立人と自然の博物館に就職し、イヌワシやクマタカの研究を続ける中で、『希少な鳥類の保全だけでなく、コウノトリの野生復帰に関する取組も一緒にやっていかないか』というお話をいただき、現在はコウノトリの野生復帰とイヌワシの保全を中心に活動しています」。
イヌワシの生息地に向かう途中の林内。深山のため、登山道などは整備されていない。
地域の方々と一体となって取り組む-コウノトリの野生復帰
コウノトリは、国の特別天然記念物及び絶滅危惧種に指定されている希少な鳥です。国内では1971年に野生コウノトリが絶滅しましたが、その後、1985年にソビエト連邦(現ロシア)から日本に生息していたコウノトリと同じ種の野生コウノトリを6羽寄贈してもらい、この6羽を飼育してコウノトリを生み育て、個体数を増やしていきました。そして、2005年に再び野生に返す取組が始まり、18年経った現在、日本国内における生息数は、約370個体に達しています。今の状況に辿り着くには、コウノトリのエサとなる生き物が生息する水田環境を整える必要がありました。「豊岡市では現在、『コウノトリ育む農法』という環境保全型農業が450ヘクタールの水田で行われています。東京ドームに換算すると100個分の広さに相当します。豊岡のみなさんがコウノトリのために頑張って環境保全型農業をこれだけのエリアに広げてくださったので、エサが増えて、コウノトリが安心して暮らせるようになったのだと思います」と布野准教授は語ります。
但馬の田園に生息するコウノトリ
ニホンイヌワシが暮らしていた環境
長い年月をかけて少しずつ個体数を増やしてきたコウノトリとは逆に、イヌワシは絶滅の危機に瀕しています。日本に生息する二ホンイヌワシは、国の天然記念物及び絶滅危惧種に指定されており、兵庫県内では但馬地域に生息していますが、その数はわずか2ペアとなっています。布野准教授は「かつて、兵庫県内だけで15ペアいたという記録が残っています。1つの県だけで15ペアという記録はかなり多いといわれ、おそらく昔は、但馬地域は日本の中でも密度の高い地域だったことに間違いないようです。兵庫県内の山はそこまで高くないので、人が山の頂上まで管理するという森林管理の文化が全県に広がっていました。いわゆる『里山管理』がさかんに行われていました。イヌワシは、人が山を管理するために木々を切ってできた伐採区域などでノウサギを捕まえて食べていますが、そういった環境が時代とともに衰退してしまった。昔は、人が管理する森林環境が各所にあり、イヌワシの生息を支えていましたが、山の環境が変わったことでエサが獲りにくくなり、その影響で個体数がどんどん減っていき、現在は2ペアしかいないという状況になってしまいました」と説明しました。
イヌワシの行動調査。1日中、イヌワシを観察し続ける。
二ホンイヌワシがかつてのように日本の空を飛び交うようになるまでの道のりは、険しいものがありますが、状況の改善に向けて兆しはあるといいます。布野准教授は「イヌワシの保全に関しては、林業にもう一度元気になっていただいて、里山管理が復活することが一番に挙げられますが、国から森林環境譲与税という森林を対象にした税金が都道府県及び市町村に配布されており、全国規模で森林の管理を見直しましょうという機運が高まっています。この枠組みの中で、林業を活性化させながら希少生物を守る取組を進めることができれば、もう一度林業が元気になり、希少な生き物たちとともに生きることができるようになるのではないかと期待しています」と話します。
イヌワシ生息地を再生するために実施中の里山管理
人と生き物が共存できる環境を目指して
また、イヌワシが多く、林業が盛んな東北地方では、林業の活性化とイヌワシ保全を両立させるための取組が行われているほか、兵庫県においても、県内で2ペアのみのイヌワシを保護・増殖するために「但馬イヌワシ・エイド・プロジェクト」としてチームを設置し、イヌワシのみの保護を目指すのではなく、イヌワシを頂点とする地域の生態系の保護を図る取組が行われています。「コウノトリが里山のふもとに広がる水田の生態系の頂点に君臨しているのに対し、その奥に広がる山間部地域の森林生態系の頂点にいるのがイヌワシです。この両方がきちんと安定して生息できることで、兵庫県の自然環境は平野から山間部まですべてが多様性豊かな地域になっていることになります。私は生き物全部が好きですし、水田環境も森林環境もすべて健全な状態であって欲しいので、両方の研究活動を頑張っていきたいなと思っています」と布野准教授は言葉に力を込めます。
番組の最後に、布野准教授は今後の展望について「コウノトリの方は豊岡市内で順調に増えていますが、彼らを支えるエサがたくさん必要ですので、『コウノトリ育む農法』といわれる環境保全型農業がさらに広がっていくよう応援していきたいと思っています。イヌワシの方は現時点で新しいモデルケースがないので、コウノトリと同じように環境保全型林業のような形で、生き物を増やしながら林業を活性化させていくような枠組みづくりに取り組み、県内から発信していきたいと思っています」と語りました。
ススキ草原の再生事業。ススキ草原はイヌワシにとって大切な狩場。かつて、但馬の山々に点在していた。
COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.