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「コミュニティから考える減災復興とまちづくり」 減災復興政策研究科 澤田 雅浩准教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

9月6日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、減災復興政策研究科の澤田 雅浩(さわだ まさひろ)准教授です。

 

今回のテーマは、「コミュニティから考える減災復興とまちづくり」

澤田准教授の専門は、「都市計画、都市防災」です。

 

都市計画から防災・減災へ

澤田准教授は、自然災害による被害を減らすことや、被害を受けた状況から、暮らしとまちの再生・新生を実現するために必要な、継続的な環境改善運動としてのまちづくりプロセスのあり方について実践を通じて探究する「防災復興計画」や「防災・減災まちづくり」の教育・研究活動を行っています。また、現在、神戸市中央区の港島地区(ポートアイランド)の地区防災対策委員会アドバイザーとして、港島地区における防災・減災の取組をサポートする活動を行っており、2022年度には、この活動をもとに執筆した論文で、2022年度地区防災計画学会論文賞を受賞しています。

澤田准教授と神戸との関わりは、2017年に本学に減災復興政策研究科が開設されたときから始まります。澤田准教授は広島県出身で、大学進学の際に首都圏に移り、都市計画を専門に勉学・研究を行っていました。その中で、1995年に神戸で阪神・淡路大震災が発生、震災を機に「災害が起きた後に、どのようにしてより良い街をつくるのか」「安全だけでなく、皆の暮らしを考えた上で、より良い街をつくるにはどうしたら良いか」といったことが常に頭の中にあったといいます。その後、2000年に新潟県に移り、長岡造形大学で教育・研究活動を行っていた2004年、当時「災害はほとんど起こらない」と言われていた新潟で、最大震度7を観測する新潟県中越地震が発生しました。街に甚大な被害をもたらし、澤田准教授も被災しました。

新潟県中越地震翌日の自宅の様子

 

被災地は人々の力によって復興していく

比較的大都市で大きな被害を受けた阪神・淡路大震災や1999年に台湾で発生した921大地震、トルコで発生したイズミット地震と、中山間地域で発生した新潟県中越地震とでは、被災後の街の雰囲気は異なるものであったと澤田准教授は話します。それでも新潟の街は、少しずつ復興に向かって進んでいたといいます。「新潟では、桃源郷のような里山の中、もしくは中山間地域に被害がありましたが、地域の方々がすごく強くて、その土地に根ざして暮らしている。人口が減って過疎化が進んでいると言われていますが、『良い復興はあり得る』『助け合いによって、災害の被害を小さくすることはできる』ということを新潟ですごく勉強させてもらって、それが今取り組んでいるポートアイランドの防災・減災の活動に活かされているのではないかと思います。そういう意味では、新潟での経験は大切なものであると思います」と澤田准教授は語ります。

旧山古志村での集落再建のための現地ワークショップの様子

 

ポートアイランドでの防災・減災の取組をサポート

澤田准教授が地域の方々とともにポートアイランドでの防災・減災の活動に取り組むようになったきっかけは、2013年にさかのぼります。「2013年に『地区防災計画制度』というものが創設されて、その延長線上で『地区防災計画学会』が設立されました。この学会は、研究者だけが集まるというよりは、『地域で活動を頑張っている人たちもなるべくたくさん集まって意見交換しよう』という運営がされており、年に1度の大きな大会にも参加されています。あるとき、ポートアイランドにお住まいの方で防災に関心を持って取り組んでいらっしゃる方が大会に来られて、おそらくそこで名刺交換をしていたのだと思います。神戸に移住してから2、3年目の頃にその方から電話があり、『ポートアイランドで防災の取組を始めるので相談したい』ということで、今もお付き合いしている地区防災対策委員会の方々が私のところへ訪ねてきてくださったのが最初です」と振り返ります。

ポートアイランドにお住まいの方々と活動を行うようになった澤田准教授は、島内にある全11のマンションの全世帯を対象としたアンケート調査を実施しました。結果からは、多くの有効なデータを集めることができたといいます。さらに、アンケートの結果に加え、各マンションに関する情報を集めて「各マンション防災カルテ」を作成し、全世帯の方々に共有したところ、マンションごとの違いや似ているところ、相互補完的に実施すると良さそうなことなどが見えてきたといいます。

地区防災対策委員会と協働して作成している地域版お助けガイド

 

ポートアイランドでの防災・減災の活動には、老若男女、ポートアイランドができたときからお住まいの方、最近引っ越されてきた方、大学生、企業や団体の方など、様々なバックグラウンドを持つ方々が一丸となって取り組まれています。「これも私、関心するところですが、1980年代にポートアイランドで暮らし始めた方々が、いわゆる定年等でお仕事をお辞めになられて、地域で過ごす時間が長くなったときに『いろんなことをやってみよう』『防災も大切な取組の1つだ』と、とても前向きな形で取組を始められた。多くはマンションの管理組合の中で完結しますが、阪神・淡路大震災のときに橋が通れなくなって孤立したなどの経験から、『みんな困ったとき、島全体は一蓮托生だ』のような思いもあったのかも知れません。ですから、マンション単体だけでなく、皆で取り組むことにそれなりの意味があると考えられたのではないかと思います」と澤田准教授は語ります。

※ポートアイランドは、阪神・淡路大震災発生時、甚大な被害を受けた。大規模な液状化現象が発生し、また、ポートアイランドと神戸の市街地を結ぶ神戸大橋が大きく損傷、自動車による通行は不可能となり、ポートライナーも運休となったことから島は孤立する事態となった。

月1度の地区防災対策委員会

 

お互いを尊重し「それ、良いね」と言える環境

また、澤田准教授は、ポートアイランドの防災・減災の活動が、前向きに行われている要因について「島内には、11のマンションの管理組合が存在しているので『11管理組合11色』のような感じになると思いますが、お互いを尊重できるところがすごく良いなと思っています。『1つのルールを決めて、全部こういうふうにしましょう』『マニュアルを決めて、こうしなければならない』という発言がない。『ここのマンションはこうだけど、うちのマンションはこう。でも、ここのマンションでしているこの取組は面白いから、うちでもしてみよう』というようなやりとり、『お互いの取組を尊重しつつも上手く活かす』という雰囲気がみなさんの中にあって、『この場が楽しい、良いなと思っていらっしゃるのだろうな』と感じられる雰囲気があります。まちづくりをするには、いろいろな方法がありますが、なんとなくベクトルが揃っていて、それぞれのやり方を尊重できて、人がしていることを見て『あ、それ面白いね』『良いね』と言える環境であると、場が盛り上がっていく。それと、このような前向きな場であれば『こういうことをしてみたい』と言うと、周辺の小中学校の先生が関わってくれたり、行政の方や消防署の方も来てくれたりする『来やすい場』になると思います。それが、ギチギチしている環境だと、例えば、学校の関係者が参加した際に地域の方々から文句のようなことを言われたら『もう二度と行きたくない』ということになることがありますが、ポートアイランドの地域の方々は、ウェルカムの精神で『みなさんに、こういう協力をしてくれたら最高ですけどね、まあ、できなくても構いません』のような雰囲気があるというのがすごく良いなと思うし、みなさんのこれまでの生活の蓄積なのか、自助や共助で、ある程度お互いを信頼しているような雰囲気があるのではないかなと思っています」と話します。

オンラインも含め、毎回多くの参加者とともに議論を進める

 

活動の成果を他の地域でも真似してもらいたい

澤田准教授は、ポートアイランドでの防災活動の成果を、都市部のまちづくりにおける防災・減災の取組のロールモデルの1つとして、他の地域でも活かせるのではないかと考えています。「ポートアイランドでの防災活動は、私自身も関わりながら勉強していますが、この活動の成果をいろいろな形で他の地域でも真似してもらいたいし、マンションだけでなく、ニュータウンなどにも通用するような考え方・取り組み方ではないかと思い、実践しつつ、研究も含めて関わらせていただいています」。

番組の最後に澤田准教授は、「これからの日本は、残念なことに人口減少や高齢化によって資源や財源が減ると言われていますが、そうではないのではないかと思います。『今まで眠っていた資源のようなものを、もう一度整理して組み立て直すと、こういうことができる』というのが、ポートアイランドの取組であったりすると思うので、そういった今まで雑に見ていたものをもう少し丁寧に見ていくことで、『身の丈に合うけれどサステナブル、かつ、暮らしやすくて豊かに暮らしていけるという環境がつくれる』といったことを、研究や地区防災計画に加味していくようなことができればと思っています」と今後の展望を語りました。

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減災復興政策研究科

 

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