9月26日(金)、神戸商工会議所会館(神戸市中央区)において、兵庫県立大学価値共創シンポジウム2025実行委員会主催「兵庫県立大学価値共創シンポジウム2025~連携から共創へ 地域社会に新たなイノベーションを~」が開催されました。

本学では、社会価値創造に向けた全学の知的資源を産業界・地域社会に向けて発信することにより本学のプレゼンスを積極的にアピールするとともに、産学公金の共創による社会実装を促進し、地域社会に新たなイノベーションを創出することを目的に、毎年姫路地区と神戸地区で交互に「兵庫県立大学価値共創シンポジウム」を開催しています。
今年度も昨年度から引き続き「~連携から共創へ 地域社会に新たなイノベーションを~」をテーマに開催し、当日は、本学の教員・学生をはじめ、製造、メーカー、金融などの業界・業種の企業や行政の方々など約330名の方にご参加いただきました。


はじめに、兵庫県立大学価値共創シンポジウム実行委員会委員長で副学長兼社会価値創造機構の畑豊機構長から開会挨拶がありました。畑機構長は、昨今のAIの進展や地球温暖化による異常気象が顕著であることを指摘した上で、「本シンポジウムの特別講演Ⅰでは、株式会社神戸製鋼所執行役員の木澤様から、GXの意義である環境対策・経済成長の両面について、特別講演Ⅱでは協和株式会社代表取締役社長の野澤様から、いろいろな不確定な要素がありながらも市場の動向に合わせて工場を展開させる戦略について、特別講演Ⅲでは理化学研究所計算科学研究センターの近藤様から、現在のAIの最先端技術等についてご講演いただく。その他、本学発のスタートアップ企業の紹介や、本機構が力を入れている『はりま新産業創出エコシステム』と、昨年開設した『新長田ブランチ』について紹介させていただく」と本シンポジウムの内容について紹介しました。

次に、國井総一郎理事長から挨拶がありました。國井理事長は少子化等の影響で大学を取り巻く環境は厳しい状況にあるとし、「企業も大学も今こそ大事なことは、本シンポジウムのテーマにもあるように、『連携から共創へ、地域社会に新たなイノベーションを起こすこと』である。産学連携は何十年も前から言われていることであり、言うのは簡単だが実際にやるのは非常に難しいものと思っている。互いの利権に突っ込んだ本音の議論をして、分かり合えることが必要だと思う。本シンポジウム終了後には交流会も開催するので、さらなる交流を深められればと思う」と述べました。

続いて、髙坂誠学長から挨拶がありました。髙坂学長は、情報科学技術の急速な進展、グローバル化の中での世界各地で起こる紛争の激化、AIの発達に伴う教育現場や企業における変化への対応、地球温暖化による異常気象、少子高齢化による人口構造の変化といった現代社会における課題に言及した上で、「これらの時代の本流にわれわれはどのように立ち向かっていくのか。神戸の、姫路の、兵庫の、日本の輝きを取り戻すにはどうしたら良いのか。再び世界をリードする役割を担うにはどうしたら良いのか。私たちの周りには、多くの産学公金、そして、地域の方々がおられる。世界の人々が手を携えてのみ、それらが可能となるのである。私たちはグローバル社会における多様性の豊かな可能性を信じ、壁をつくらない。このシンポジウムが、次の時代を切り拓く契機となることを期待している」と述べました。

価値共創講演(大学発スタートアップ)
午前に行われた4件の価値共創講演(大学発スタートアップ)には、本学での研究成果等をもとに起業し、本学発ベンチャー企業として事業を展開している方々が登壇しました。
まず、株式会社先端化学研究所(本社:神戸市中央区)代表取締役社長の岡本和也氏から、「ペロブスカイト太陽電池と水素燃料電池の普及に向けて」と題してご講演いただきました。岡本氏は、工学研究科材料・放射光工学専攻の伊藤省吾教授らとともに、株式会社先端化学研究所を立ち上げ、未来のエネルギー源として期待される「ペロブスカイト太陽電池」と「水素燃料電池」の実用化・量産化等を目指して研究・開発を進めています。
ペロブスカイト太陽電池については、ガラス基板を使用した、安価で安全な多孔質カーボンを電極に使用する独自の製法を確立するとともに、現時点で20年保証が可能な耐久性を有し、リサイクルも容易に可能なものを開発していることから、今後は2028年から2029年あたりの量産開始を目指し、変換効率の向上とセルの小型化、本学内及び兵庫県内で実証実験を進めていくと紹介しました。岡本氏は「『太陽の光が源となって、兵庫県立大学の先端化学がクリーンな社会をつくる』という会社を目指している。社会に貢献できるよう成長していきたい」と話しました。

情報科学研究科教授で株式会社計算科学研究所(本社:神戸情報科学キャンパス内)CTO(最高技術責任者)の鷲津仁志教授からは、「みなさまの研究開発を計算化学で伴奏する“研究ベーシスト”型ベンチャー」と題する講演がありました。
鷲津教授は、分子シミュレーションに関する研究を展開しており、これまでにも幅広い分野の企業との共同研究や、自身の研究室への社会人の受け入れを積極的に行うなどしてきました。一方で、企業から「単に分析してほしい」「公表できない材料の扱いについて教えて欲しい」といった技術的なニーズを求められることがあったことから、2022年4月に株式会社計算科学研究所を創業し、企業等を対象に分子シミュレーション計算・解析や、分子シミュレーション技術指導、データ科学に関する技術指導などを行っていることを紹介しました。鷲津教授は「本学のベンチャー制度では、本社が教授室ということでランニングコストが低く済み、大学の施設が使用可能なことや、教員としての業務と切り分けた上で開発作業を学内で実施できる環境があるといったメリットがあり、こうした本学の方法は全国的にも中規模大学のロールモデルになりえるのではないかと思う」と話しました。

pAlr Mind,lnc.(株式会社ペアマインド 本社:神戸市中央区)代表取締役の船越丈寛氏からは「現役学生起業家が挑む 兵庫県立大学発ベンチャー~学生起業のリアル~」と題する講演がありました。
船越氏は、本学社会情報科学部4年生のときに円谷友英教授の研究室で行っていた意思決定理論及びAIに関する研究等を生かして、画像AIや意思決定支援システム、インテリア設計AIの開発などを行う事業を立ち上げ、2025年3月に兵庫県立大学発ベンチャー企業として認定され、本学の現役学生の起業としては初の事例となりました。その後、情報科学研究科に進学し、今秋から米国のコロラド大学大学院に進学されました。講演の中で船越氏は会場内の学生に向けて、「起業して一番良いことは、普通は経験できないことが経験できることである。自分で新しい事業を立ち上げて、本当にさまざまなことを経験することができた。大変なこともたくさんあるが、楽しみながら取り組んでいる。また、学業と事業の両方で結果を出せるように両立させることが大事だと思っている。学業を疎かにすると、専門性・優位性がない事業になってしまいがちで、自身の身辺でもそういう方はあまり上手くいっていないという事例を実際目にしている。専門性・優位性があれば何でも上手くいくということではないが、ある方が事業としては上手くいきやすいのではないかと感じている。起業に限らず、何事にも挑戦することが大切で、私たち学生にとっての挑戦は、兵庫県立大学で学んで勉強したことや経験したことを形にすることであり、怖いことは失敗や周りの目を気にして自分が本当にしたいことに挑戦できなくなることだと思っている」と語りました。

工学研究科電気物性工学専攻准教授で株式会社YSH総合研究所(本社:兵庫県姫路市)代表取締役の岡好浩准教授からは「キャビテーションプラズマ殺菌水で実現する持続可能な農業~食糧の安定供給と化学農薬削減の両立を目指して~」と題する講演がありました。
プラズマ応用工学を専門とする岡准教授は、化学農薬に依存しない持続可能な農業の実現を目指して、2025年3月にキャビテーションプラズマ技術を活用した殺菌水の製造・販売及び殺菌水製造装置の開発・販売を行う株式会社YBH総合研究所を立ち上げました。このキャビテーションプラズマ技術を用いて普通の水に特殊なプラズマ処理を施すことにより、植物病原菌に対して98%以上の阻害率を示し、かつ、人や環境に対して安全な強い殺菌力を持つ水にすることが可能であるといいます。岡准教授は「関係の方々にこの技術をより知っていただき、広めていくことで社会実装を実現したいと考えている。そして、安全安心な持続的農業を実現し、『食糧の安定供給』と『化学農薬の削減』をこの殺菌水で同時に解決し、すべての人に安全安心でおいしい食物を好きなだけ食べられる世界を目指したいと思っている。これらの実現のために、ぜひとも企業や行政、大学のみなさまにご支援・ご協力いただきたい」と話しました。
※プラズマ応用工学…プラズマ(気体・液体・固体に並ぶ、物質の第4の状態)に関する技術やその有効利用等について研究を行う工学分野の1つ。

価値共創講演(産学公連携)
午後に行われた2件の価値共創講演(産学公連携)には、本学社会価値創造機構に所属する教員が登壇しました。
学長特別補佐(学際研究担当)、新ビジネス育成センター長、工学研究科の河南治教授は「はりま新産業創出エコシステム~産官学金連携ではりま・ひょうごから新産業を産み出そう~」と題し、社会実装に強い武器となる本学の最先端研究施設をフルに活用して、行政・産業界・商工会議所・金融機関と連携したエコシステムの組織力により兵庫県播磨地域の新産業育成・地場振興を目指す「はりま新産業創出エコシステム」(2024年度立ち上げ)の取組等について講演しました。
講演では、「スタートアップ人材育成シリーズセミナー」や「大学ラボツアー」を実施するなど、人材育成や起業支援について段階に応じた活動を重点的に行っていることを紹介しました。また、2年前から兵庫県の主催で実施されており、河南教授の研究室をはじめ、本学工学部も出展している小・中学生を対象とした出前授業「ひょうご科学塾」について言及し「このイベントは、高校生ではなく、文理選択前の小・中学生にできるだけ早い段階で理工系に興味を持ってもらい、地元企業を身近に感じてもらえるよう実施しているもので、本日参加されている企業の皆様にもぜひ参画いただければと思い、紹介させていただいた。また、みなさまの周りで小・中学生がいる方に参加についてお声がけいただきたい」と述べました。

工学研究科教授で社会価値創造機構の武尾正弘副機構長は「新長田ブランチの挑戦~地域課題解決への貢献と新たな価値創造~」と題し、2025年1月に新長田キャンパスプラザ(神戸市長田区)5階に開設し、4月から本格稼働している社会価値創造機構の神戸拠点「兵庫県立大学新長田ブランチ」の概要や取組等について講演しました。
武尾副機構長は、新長田ブランチのミッションとして「プラザ内の他の教育機関(兵庫県立総合衛生学院、兵庫教育大学)との連携による教育の質の向上に向けた取組の実施」をはじめ、「本学の教員・学生の起業や大学発スタートアップ支援」「地域の課題解決に向けた取組」「企業との共同研究の促進や経営の支援」「企業向けリカレント講座等を通した地元人材のスキルアップ」「地域交流を通じたまちの賑わいづくり」を掲げていることや、これまでに新長田ブランチで実施した取組、また、開設以降、兵庫県・神戸市・神戸市長田区といった行政の方々や新長田まちづくり株式会社、地元商店街の方々にご協力いただいていること、本学の学生も地域交流活動に参画するなどして活発に交流を図っていることを紹介しました。

特別講演
特別講演には、3名の方を講師にお迎えし、ご登壇いただきました。
また、講演前には、公益社団法人兵庫工業会会長の三宅俊也氏からご挨拶をいただき、「この意義深い取組に参加できることを大変光栄に感じている。2008年に第1回が姫路で開催されてから今年で第18回を数える歴史のあるシンポジウムである。兵庫工業会としても、地域産業の発展、技術革新の役割を担い、産官学金連携をしながら持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいく所存である」などのお言葉をいただきました。

特別講演Ⅰには、本学の前身である神戸商科大学商経学部の卒業生でもある株式会社神戸製鋼所執行役員の木澤尊彦氏から「鉄鋼業におけるGXの動向について」と題して、神戸製鋼所の会社概要、鉄鋼業の現状、鉄鋼業のGXに向けた課題、ビジネスチャンスの考察についてご講演いただきました。

特別講演Ⅱには、木澤氏と同じく神戸商科大学商経学部の卒業生でもある協和株式会社代表取締役社長の野澤重晴氏から「市場の変化に応じ、工場をグローバルに展開」と題して、会社概要、取扱製品一例の紹介、ハイポニカシステム(水気耕栽培)の特徴と事業、バイオプラスチック事業、工場の海外展開の経緯についてご講演いただきました。

特別講演Ⅲには、理化学研究所 計算科学研究センター 次世代計算基盤開発部門部門長の近藤正章氏から「富岳NEXTプロジェクト始動:HPCとAIの融合に向けたプラットフォームへ向けて」と題して、現在運用されているスーパーコンピュータ「富岳」についてや、スーパーコンピュータ「富岳」の次世代の新たなフラッグシップシステム(開発コードネーム:「富岳NEXT」)開発プロジェクトについて、コデザインの推進とエコシステムの構築などについてご講演いただきました。
※コデザイン(Co-design)…ハードウェアとソフトウェアの設計を、開発の初期段階から協調設計すること。

最後に、社会価値創造機構の武尾副機構長から閉会挨拶がありました。武尾副機構長は「現在、日本は国内外ともに不安定な要因を持ち合わせている状況にある。さらに、日常的に自然災害が多発するという困難が続いている状況でもある。こうした中で、大学は一体何ができるのかと考えたときに、直接的には何もできないが、科学技術を磨くこと、いろいろな問題に対応できる優れた能力を持つ人材を育成することの2つに尽きるのではないかと思う。また、本学には、放射光や統計の研究のように、非常にユニークな研究が多数あるので、本機構を中心に、まずはこれらを各研究者・学生に磨いてもらえるよう支援していくとともに、みなさまとの交流接点を持ち続けるために、本シンポジウムを引き続き開催していきたいと思っている。引き続きのご理解・ご支援と、本学の今後の活動に対する叱咤激励、忌憚のないご意見を賜ることをお願いしたい」と述べ、本シンポジウムを締めくくりました。

ポスター発表
ポスター会場では、価値共創講演、科学技術後援財団研究助成課題、SPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)受給博士後期課程課題、ものづくり、情報通信AI・loT、ナノテクノロジー、エネルギー、バイオサイエンス、環境、ライフサイエンス、社会基盤、ビジネス、DXの13の分野に関する本学の研究シーズの紹介ポスターや、企業・金融機関・関係機関等の紹介ポスター、特別講演者ポスターの計103件の展示がありました。会場内ではポスター発表者と来場者の間で活発な交流が行われました。
また、学生のポスターを対象に「価値共創シンポジウム2025優秀ポスター賞」を設置し、専門外の方にも分かりやすく説明しているポスターを来場者に投票していただきました。投票結果をもとに審査会で受賞者を決定し、シンポジウム後に開催された交流会で授賞式を行いました。






本シンポジウムでの交流が、より一層本学の研究シーズと産業界、行政の方々のニーズを結びつけ、社会の課題解決等に向けた新たなイノベーションを創出するきっかけとなることを願っています。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
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