本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。
1月19日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、国際商経学部・社会科学研究科経済学専攻の和田真理子(わだ まりこ)准教授です。
今回のテーマは、「『弱いつながり』でコミュニティと経済の活性化」
和田准教授の専門は、「経済地理学、都市地理学」です。
都市構造の変化の中で
和田准教授は、地域の特性に応じたコミュニティ経済の創出・再生とまちづくりに関する研究を行っており、中でも、オールドニュータウンやインナーシティなど、人口減少や高齢化が進む地区の再生に関心を持っています。日本では、1950年代から1960年代の高度経済成長期に各地で「ニュータウン」と呼ばれる住宅地の開発が進み、同時に大規模な団地の建設が活発に行われ、「ニュータウンでの団地暮らし」は当時の国民の憧れの的となっていました。しかし、近年は人口減少や高齢化、建物の老朽化、空き家の増加などにより、各地のニュータウンや団地の「オールドニュータウン化」が顕著になっています。
こうしたニュータウンや団地は、和田准教授が所属する国際商経学部がある神戸商科キャンパスの周辺にもあります。神戸市垂水区と明石市にまたがる明舞(めいまい)団地は、第18回オリンピック競技大会が東京で開催された1964(昭和39)年に入居が開始した、兵庫県内で最も歴史のある団地です。坂の多い丘陸地に位置し、団地から明石海峡や淡路島を望むことのできる立地で眺望が良く、公園や街路樹などの緑から四季を感じることのできる環境で、開発当時は入居希望者も多かったといい、ピーク時には4万人近くの住民がいたといいます。しかし、明舞団地も他のニュータウンや団地と同様の問題を抱えており、和田准教授は、2009年から地域と大学の連携により、学生とともに明舞団地の活性化と再生に向けた取組を進めるとともに、地域に『弱いつながり』が生まれることを目指した取組を行っています。
※インナーシティ…大都市の都心周辺に位置する、産業が衰退して建物の老朽化や低所得化が進む地域
明舞団地から望む明石海峡と淡路島
『孤立孤独大国』といわれる日本
和田准教授がこうした活動を行う背景には、深刻な社会問題となっている「団地での孤独死」があるといいます。「日本は全体的に『孤立孤独大国』で、自殺率についてはG7・主要7か国の中で日本が一番高い状況にあります。また、イギリスのシンクタンクであるレガタム研究所が実施している国際調査で、世界各国の豊かさを経済だけでなく、自然環境や教育、健康など9項目を100以上の指標でランキング付けする『レガタム繁栄指数』というものがあり、2023年の調査で日本は全体では167か国中16位と、ある程度良いほうでしたが、『人と人のつながり』に関するソーシャルキャピタルについては、141位というデータがあり、この項目だけ非常に低くなっています。団地やニュータウンでは、孤独死が結構多く、地域とのつながりがないために孤立し、体調が悪くなっても気づかれないケースがあり、地域のつながりをつくるということは、とても重要なことだと思っています」と和田准教授は語ります。
自分の『当たり前』で人の役に立てる喜び
昨今のニュータウンや団地は、高齢者の方が割合としても数としても多く、人間関係が希薄になりやすい傾向があり、孤立が集中する地域になる恐れがあるといい、まちづくりの再生には、孤立化予防が重要なカギになると和田准教授は考えています。そこで、和田准教授はゼミでフィールドワークを行っています。「大学では、ゼミ活動の一環で学生を明舞団地に連れて行き、その地域で活動されている『パートナー』と一緒に活動しています。お祭りの再生を試みたり、子どもの学習を支援するなど、いろいろな形で地域で頑張られている方々のパートナーになって、明舞団地の中で新しいゆるいつながりをつくり出せるような活動を行っています。パートナーというのは、自治会の方々をはじめ、高齢者の方向けに食堂を運営されているNPO団体や、人通りの少ない商店街で何か面白いことをしてみようと活動されている地域の有志の方、子ども食堂を運営されている方、地域の児童館などで、学生が5、6人の班になってそこで様々な活動をして地域の実態を学んだあとに、学生ならではの試みをするという形でフィールドワークを行っています」。
「めいまいサマーフェス」における、和田准教授のゼミが企画した「BON-DANCE」にて
「学生が地域に入ることで、すぐに急激な変化が起こるというわけではないですが、明舞団地は高齢者の方が多いところなので、学生が来るとすごく喜んでくださいます。活動の1つに、自治会とパートナーを組んで行っている『高齢者にスマホ・パソコンを教える会』という教室をしているグループがあります。例えば、家庭の中で、家族がスマホのことで何回も同じことを聞くと嫌がられることがあるかと思います。けれども、高齢者の方が雑談しながら学生にスマホのことを相談されている様子を見ていると、高齢者の方から何度も同じことを聞かれても学生は嫌がることはなく、むしろ、自分が日々当たり前に使っているスマホのことで喜ばれ、人の役に立つことができ、やりがいや社会貢献しているという達成感につながっているようです」と和田准教授は説明します。
「めいまい図書室」の活動の様子
身近な経済活動で結ばれる『弱いつながり』は強い
持続可能な地域社会には、多世代・新旧住民や、様々な組織がつながることが大切で、絆は強い方が良いと思われがちですが、地域のレジリエンスや創造性の観点からは、実は『弱いつながり』が重要だと和田准教授は話します。「距離感があまり近すぎると、硬直性や閉塞性をもたらすことがあって難しいというのがあり、そういったことは日常生活の様々な場面で感じることがあります。地域は『強いつながり』があった方がもちろん良いですが、『弱いつながり』がいくつもあるということが、実は強いのではないかと思っています。1つ、私が思っているのは、経済活動はとても大事だということです。昔は、商店街で物を買うだけでなく、お店の人とのやりとりがあったり、偶然出会った近所の人とおしゃべりをするなどの弱いつながりが、商店街という場にはありました。一方で、商店街は今、多くの場所で衰退しています。そうした中で、最近、弱いつながりをつくる場として注目しているのが、マルシェのような、地域密着のイベント的なものとして週1回や月1回などのサイクルで臨時的な場をつくることです。買い物をする場というのは、必要な物を購入するために人が集まってきます。なおかつ、そこに飲食できる場があり、久しぶりに会った近所の人とおしゃべりをするといったことがとても重要なのではないかと考えています」と和田准教授は言葉に力を込めます。
「男性料理教室」にて
つながっても良い、つながらなくても良い、開かれた気楽な空間を
さらに、和田准教授は「家族をはじめ、いつも決まった人が集まる『仲良しグループ』に代表されるような強いつながりの場は、外部から中に入りづらいものがあります。そのため、何か物を買えるとか飲食できるというのは、割りとゆるく、必要だからそこに行くし、誰でもアプローチしやすい。その場に一緒に飲食できるような『溜まる部分』があると、『別に誰ともしゃべらずに帰っても良いし、誰かに会っておしゃべりしても良い』という、『つながっても良いし、つながらなくても良い』という空間をつくることができます。こうしたお店や飲食店などの経済活動の場があると、ゆるやかに人とつながる場になりやすいのではないかと思います」と述べ、「多様な住民が幅広く参加しやすい弱いつながりで、コミュニティと経済が活性化するまちづくりについてモデル化し、政策提言していけたら良いなと考えています」と話しました。
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・国際商経学部
・社会科学研究科経済学専攻
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