6月17日(火)、神戸商科キャンパスにおいて、NHK神戸放送局と本学の共催でNHK解説副委員長の飯田香織氏を講師にお招きしてのNHK大学セミナーが行われました。


NHK大学セミナーは、NHK(日本放送協会)の番組制作者や出演者が全国各地の大学に講師として訪れ、講師の方の専門性を活かした講演を行うイベントで、本学では2016年度に姫路工学キャンパスで実施されて以来、2度目の開催となります。
今回は、国際商経学部の学生を対象に開講している専門教育科目「マクロ経済学Ⅰ」の講義の一環として行われ、265名の学生が受講しました。

セミナーの開催にあたって趣旨説明を行う「マクロ経済学Ⅰ」担当教員の国際商経学部の大住康之教授
当日の様子
飯田氏は1992年に記者としてNHK入局、京都放送局に配属され、警察や医療などを担当された後、1996年に報道局経済部に異動されてからは一貫して経済畑を歩まれ、財務省や金融庁、経済産業省などを担当されました。2010年から2014年には経済番組「Bizスポ」「Biz+」のキャスターとして番組に携わられ、2017年に渡米、ロサンゼルス支局長として主に政府系振興財団の取材をされました。2019年に報道局経済部副部長に就任され、その後、朝のニュース「おはよう日本」や、夜の「ニュースウオッチ9」、土曜日の夜のニュース「サタデーウオッチ9」の編集責任者を担当。2022年に報道局ネットワーク報道部長に就任、2024年からは現職の解説副委員長として、テック、環境・エネルギー、国際経済の担当をされており、これまでにイーロン・マスク氏やレディー・ガガ氏など、国内外の企業経営者や閣僚等を取材された経験が多数あります。
本セミナーでは、「トランプ関税の衝撃」と題して、今年1月にドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任以降、日本も含めてほぼ全世界を対象に次々と打ち出している関税措置『トランプ関税』とはどのようなものなのか、また、その本質などについてお話しいただきました。

講演の中で飯田氏はトランプ大統領について「トランプ大統領は自分のことを『タリフマン(関税男)』と呼んでいる。40年ほど前から関税に対して非常にこだわりを持っており、日本に今よりも経済力のあったその当時、『日本の自動車にもっと関税をかけろ』といった発言をしていた、筋金入りの『関税男』である。今回が米大統領2期目で、2017年から2021年の1期目の際にも主に中国を対象に輸入関税を導入していた。米国大統領選挙期間中で非常に印象的だった言葉に、『辞書の中で私が最も美しいと思う言葉はタリフ(関税)だ』というものがある。本当に関税のことが好きなのだなと思った」と話されました。なお、2025年7月現在、日本にとっては4月3日に発効された自動車への25%の追加関税の措置の影響が最も大きく、この自動車関税を何とかしたいとの意向のもと、連日、政府によるトランプ政権への交渉が続いています。
また、トランプ大統領が関税措置を打ち出す狙いについては、まず、アメリカの製造業を復活させることにあるとし、その他に、トランプ大統領が嫌う「巨額の貿易赤字」の解消、トランプ大統領が「大きくて美しい1つの法案」と呼び、目玉政策とする大型減税「トランプ減税」のための財源確保の2点を挙げられました。さらに飯田氏は、バンス副大統領やルビオ国務長官、トランプ大統領らに対して関税強化を進言した保守系シンクタンク・American Compassのチーフエコノミストのオレン・キャス氏にインタビューされた際のコメントを取り上げられ、「典型的なアメリカ人の収入が伸びていないので、家庭を持てる暮らしができるようにモノづくりを復活させたいと仰っていた。また、Tシャツや靴下をつくりたいわけではなく、半導体や自動車など、付加価値の高いモノづくりをアメリカで復活することによって、アメリカの一般の人の生活を豊かにしたいというのがキャス氏たちの言い分である」と話されました。

トランプ関税の本質については、トランプ政権のキーマンであるベッセント財務長官の10年来の友人の齋藤ジン氏と、地経学研究所経営主幹で株式会社経営共創基盤取締役マネージングディレクター・M&Aアドバイザリーの塩野誠氏にインタビューされた際のコメントを取り上げられました。齋藤氏は「トランプ大統領は関税の率にこだわっているのではなく、むしろ大統領2期目は『新自由主義を壊してくれ』というメッセージで、国際通商体制、国際経済体制の破壊を有権者が求めているから、こうした高い関税を課している」といった見立てをされていること、また、塩野氏については「今求められているのは『自立性』と『不可欠性』で、『自立』は経済的・エネルギー的・社会保障的という意味の自立を指し、『不可欠性』は民主主義・自由主義国家・その他の諸外国に『日本って必要だね』と思われること。これまでは、なあなあでやってきたが、今回はチャンス。このあともなあなあでやったときに、さらに劇的な危機が来たときに耐えきれないのではないか」などと話されていたことを紹介されました。

最後に、飯田氏はVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代をどう生きていくのかについて言及され、「変動性については、米中関係、関税政策、為替相場など世界経済がますます揺れ動く時代になっている。国家も企業もみなさん個人も、柔軟な戦略と即応力が求められるのではないかと思う。不確実性については、トランプ関税や生成AIなど何が起きるか分からない。国家も企業も個人も、不可欠性=かけがえのなさが必要と思う。複雑性が増している中では、政治・経済・安全保障・テクノロジーが密接に絡み合う時代なので、複雑な構造を読み解く俯瞰力が求められると思う。曖昧性についても、正解が1つではない時代であり、どの選択肢にもリスクも可能性もある時代なので、自分なりの判断軸と行動力が必要と思う。そのため、ニュースに接して、世界の動きに関心を持って、自分なりの視点を持っていただきたい」とし、「おそらくみなさんの世代が、『これから日本が何で食ってくのか』を真剣に考えないといけない。日本がアメリカのように製造業を復活させるのか、あるいはデジタルで頑張るのか、ほかに選択肢があるのか、ぜひそういったことも考えながら勉強を続けていただければと思う」と話され、講演を締めくくられました。
なお、講演中には、飯田氏が出演されている番組「みみより!解説」において4月8日(火)に初回放送された「トランプ関税 なぜ次々と?日本への影響は?」の動画の上映や、飯田氏から学生に向けてテレビの視聴に関する質問をされる場面がありました。また、講演後には質疑応答の場も設けられ、学生からの質問に対して丁寧にお答えいただくなどしました。


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