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グローバル時代に問われるものとは/李吉遠 客員研究員

「あなたは“世界市民”ですか?」と聞かれたら、どのように答えますか―。

 

国際商経学部のグローバルビジネスコースには、異なる文化をルーツに持つ学生が多く在籍しています。お互いのことを正しく理解できる環境を整えるため、本学では2020年12月から約2か月間、対照言語学を専門とする東亜大学校(韓国・釜山)の李吉遠教授を客員研究員として招へいしました。

そこで、今回は李先生にお話を伺いました。

李先生は東亜大学校に教授として勤めて33年目となり、対照言語学の観点から日本語と韓国語の研究を行っています。外国語といえば英語が主流であった1970年代の韓国で、いち早く日本語の研究を始めており、特に日本語と韓国語の文法を対照する研究の先駆者として活躍されています。

このたび来日されたのは、実際に日本事情を経験しながら韓国事情と対照すること、そして日本で行われている世界市民教育について研究することを主な目的としています。

昨今のグローバル化が進む社会において、学生に求められることは「世界市民意識を持つこと」と「積極的に意思疎通を図ろうとする姿勢」だと話します。

 

どの国のどんな場所に住んでいても“世界市民”

「あなたは世界市民ですか?」と李先生は問いかけます。「とある都市を想像してみてください。都会に住んでいる人だけが市民ですか?いいえ、田舎に住んでいる人も市民ですよね。では世界市民はというと、世界市民意識を持っていれば、この世界に住んでいる誰もが世界市民になれるのです」

もはや現代は国と国の時代ではなく、個々による相互依存の時代であるといえます。それぞれの人権を尊重し、多様性を認め、平和で共に共存・成長していくという世界市民意識を持つことが求められています。

 

「相手を理解するためには、自分から意思疎通を図ろうとする姿勢が大事であり、それはSNSでも同じです」と話すと、李先生はご自身のスマートフォンを取り出し、画面を見せて下さりました。

そこには、韓国で主流となっているSNS「カカオトーク」以外に、日本で主流となっている「LINE」、中国で主流となっている「WeChat」など、様々なSNSアプリが並んでいました。

「世界市民としてコミュニケーションをとるためには、多くのSNSアプリを活用してほしいと思います。私が学生に授業を行うときは、まずそのことを伝えます。せっかく交流が出来たのに、私はそのSNSをやっていないからあなたと連絡はとれません、で終わってしまうのはもったいないじゃないですか」

李先生のスマートフォンの画面。様々なSNSアプリを活用している

 

“グローバル化=英語”とは言い切れない

本学のグローバルビジネスコースについて尋ねると、李先生は「多国籍の学生が在籍し、ビジネスに関する授業を全て英語で学ぶことができるグローバルビジネスコースは非常にユニークで、居留地などがある神戸市にとても適した教育だと思います」と評価されました。

その上で、グローバル人材になるためには英語以外の他言語も含め、様々なことに関心を持つ必要があるといいます。

「グローバル化に対応するためには、英語以外の言語もそうですが、世界情勢など幅広く関心を持ってほしいと思います。たとえば、現在、我々は変化や革新が求められる第4次産業革命の時代に生きていると言われています。であれば、それに備えてAIなどについても学んでおかなきゃ、となるといいですよね」と思いを述べました。

日本滞在時に閲覧した図書の一部。研究室には専門の言語学をはじめ、様々な分野の図書が並ぶ

 

教員だけでなく学生にも国際交流の場を

本学と李先生との交流は、兵庫県立大学の前身である姫路工業大学の時代まで遡ります。

姫路工業大学と東亜大学校の教員は国際セミナーを通じて交流を深めていましたが、学生同士の交流はありませんでした。そこで、李先生は姫路工業大学との協定締結に向けて動き、その結果、両大学の学生は休学せずとも留学先で単位が修得できるようになったそうです。

このことについて「私は昔から、これからの世の中を担っていく若者こそ大事だという認識を持っています。国際交流は教員だけでなく、学生も参加することに意味があると思います。教員は教育者として、学生をどのように指導していくべきか、常に考えていてほしいです」と強く訴えました。

研究室からも見える国際学生寮棟がお気に入りとのこと

 

阪神・淡路大震災を経験した神戸市で

実は、阪神・淡路大震災が発生した1995年1月17日、日本の外務省に招待された李先生は日本語が堪能な韓国の学生を引率して、8時半頃の飛行機で成田空港へ来ていたといいます。

当時について「私は大阪大学大学院の文学研究科の博士課程を修了しているのですが、毎日通っていたグラウンドも割れたと聞いて大変ショックを受けました」と振り返りました。

日本に来ていた今年の1月17日も、地震発生時刻の5時46分に黙とうをされたそうです。

 

同様に被害を受けた神戸市で、このように生活することになるとは思ってもいなかったという李先生。

「兵庫県立大学とこのように交流ができたことをとても嬉しく思います。なにしろ私は変化や革新が大好きな人間なので。同じ道じゃなく新しい道がいいのです」と笑って話しました。

 

コロナウイルスの影響により行動が大きく制限されてしまい、思うように研究が進まないことも多いそうです。

しかし、本学の学生や教職員へ向けて講演会を行ったほか、韓国では手に入りにくい日本の図書を精読し、テレビで国会中継を見るなど、様々な方法から現在の日本事情を調査しています。

 

 

李吉遠(LEE GIL-WON)東亜大学校 教授
大学生時代に初めて日本語を学んだ後、横浜国立大学大学院 教育学研究科 修士課程、大阪大学大学院 文学研究科 博士課程を修了。日本語と韓国語における対照言語学を研究し、32歳の若さで東亜大学校の教授となる。the Japanese Cultural Society や、the International Society of Korean Applied Linguistics など、数多くの組織で会長等を歴任。
好きな言葉:学んで、考えて、行動する 「学んで考えるだけでは不十分、自主的行動に移すこと!」

 

 

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