2月9日(木)、医療イノベーション推進センター(神戸市中央区)において、本学の先端医療工学研究所と神戸市、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構、神戸リサーチコンプレックス協議会の共催で、「兵庫県立大学先端医療工学研究所 神戸市連携セミナー(神戸医療産業都市クラスター交流会)」を開催しました。
先端医療工学で医療現場と地域産業に貢献
先端医療工学研究所は、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの2022年5月の開院に合わせて、本学が長年にわたって積み重ねてきた医療工学連携の実績を活かし、医療関連機器の研究開発やイノベーションなどに貢献する附置研究所として、2022年4月に兵庫県立はりま姫路総合医療センターと同じ敷地内に開設しました。病院の敷地内に研究所があり、渡り廊下で行き来できる近距離で病院と研究所が連携して医療工学の研究を行う環境は、全国的にも珍しい事例です。
左:先端医療工学研究所(教育研修棟3F)右:兵庫県立はりま姫路総合医療センター
本セミナーは、理化学研究所や大学等の研究機関及び神戸市立医療センター中央市民病院をはじめとした高度専門病院群、医療関連の企業・団体が集積し、先端医療技術の研究開発拠点として新ビジネスを創出する国内最大級の医療産業都市「神戸医療産業都市」(ポートアイランド:神戸市中央区)の発展に取り組まれている神戸市からのお声がけにより実現したもので、今回で5回目の開催となります。セミナーには、医療・看護系大学などの大学関係者の方々をはじめ、病院や行政機関、医療機器、製薬、食品、化学系の企業の方々に多くご参加いただき、会場とオンラインあわせて約130名の方の参加がありました。
セミナーの様子
はじめに、太田勲学長による開会挨拶がありました。太田学長は、本研究所を医産学連携の拠点にしたいという思いから、医産学の関係者がリラックスした雰囲気の中で話をする場として、昨年8月末にイノベーションサロンを研究所内に開所したことを紹介し、「イノベーションサロンに参加されている企業の方々からも、『医療現場の方々から貴重な情報が得られ、いろいろなニーズが集まり、それらを基にしたイノベーションが出てきている』というふうに聞いている。本学としても、この研究所を医療系の中心的な拠点として発展させていけたらと考えている。そのためには、神戸市の神戸医療産業都市に進出されている多くの医療関係の企業とも十分な連携をして、ニーズを吸収させていただいたり、研究所が開発している3つの分野を中心としたシーズを社会実装していくというふうに活かしていっていただけたらという思いがある」と述べました。
続いて行われた特別講演では、神戸市企画調整局医療・新産業本部医療産業都市部科学技術担当部長の西川尚斗氏にご登壇いただき、「神戸医療産業都市の目指す姿」と題して、神戸医療産業都市の概要、主なプレイヤー、主要プロジェクトと成果、将来に向けての展望についてお話いただきました。西川氏は、神戸医療産業都市において、医療機器の実用化が今後の大きなテーマになっていることを挙げられ、「若手の研究者などから出てくるアカデミアのシーズを、企業のニーズとマッチングさせ、それらを神戸で企業とアカデミアの方が一緒になって研究を行える場をつくり、神戸発の医療機器をどんどん生み出していくというところに、今後、力を入れていけたら良いのかなと考えている」と話されました。
西川氏による特別講演後には、先端医療工学研究所による講演が行われました。
まず、先端医療工学研究所の小橋昌司所長から「兵庫県立大学 先端医療工学研究所概要」と題して、研究所の概要に関する紹介がありました。講演の中で小橋所長は、2022年4月の研究所開設以来、隣接している兵庫県立はりま姫路総合医療センターの医師とキックオフミーティングを実施したり、医師を対象に医療工学基礎セミナーを実施するなどして交流を深めていくなかで、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの様々な診療科の医師や看護師などの医療関係者の方々から2023年1月30日時点で82件のご相談をいただき、そのうち10件が共同研究として研究が進められていることを紹介しました。
また、小橋所長は、研究所での研究を、研究の段階で終わらせてしまうのではなく、産業につなげていくことの重要性を挙げ、「本日こちらでセミナーを開催させていただいているが、神戸医療産業都市には多くの企業が進出されている。そういった企業の方々にぜひ研究所にお越しいただき、企業と医療現場、そして、われわれの技術的なサポートがつながることによって、最終的に社会実装につなげていくという新しい形での医産学連携に取り組んでいきたい」と意気込みを述べました。
先端医療工学研究所の藤田孝之副所長からは、「医療ヘルスケア機器分野の研究紹介」と題して、医療ヘルスケア機器分野に所属する15名の教員の具体的な研究内容について紹介がありました。藤田副所長は、「研究所には、画像処理からAI、統計、病院システム、センサ、ものづくり系、バイオなど幅広い研究者が揃っており、多くの病院や企業からご相談を受けている。ご相談いただいたら『このようなこともできますよ』というふうな提案やサポートをさせていただく」と参加者に向けて呼びかけました。
先端医療工学研究所の本田順子所長補佐からは、「産学連携で広がる看護の可能性」と題して、看護介護分野において、どのような研究がなされているのかについて紹介がありました。本田所長補佐は、看護介護分野で行われている研究について、地域住民や病気・障害を持つ方への支援のためのツールの制作や支援に関する研究、看護学生や医療従事者への教育に関する研究、医療システムや制度にアプローチするというような研究の大きく3つに分けられるとし、それぞれのカテゴリーにおける研究内容について紹介しました。現時点で企業や兵庫県立はりま姫路総合医療センターとの共同研究が始まっている研究の内容についても取り上げ、看護介護分野においても異分野融合によってイノベーションが起こりつつあることを紹介しました。
先端医療工学研究所の伊藤美紀子所長補佐からは、「異分野との融合による食・栄養分野の可能性」と題して、食栄養分野の課題と今後の新しい栄養学・プレシジョン栄養学について、食栄養分野の教員の研究内容に関する紹介がありました。講演の中で伊藤所長補佐は、病院の管理栄養士の仕事について、多岐にわたっており、業務量が非常に多いことを取り上げ、「今後、病院の管理栄養士の業務内にAIが入って、業務を行えるロボットができて、管理栄養士の業務が簡便化できれば、業務が軽減された分をより患者に還元できるようなことができればと思っている」と展望を話しました。
※プレシジョン栄養学…個人に最適化された個別化された栄養学。オーダーメイド栄養学。
最後に、副学長兼産学連携・研究推進機構の畑豊機構長から閉会挨拶がありました。畑機構長は、「本学の研究所は、研究所内で行っている研究を、研究や論文の執筆の段階で留めるのではなく、社会課題を解決するために本気になって社会実装させていくという方向で進めていきたいと考えている。みなさまから『これではいけない』というふうなお言葉もいただきながら、この研究所を兵庫県、あるいは日本において有用なものにしていきたいと思うので、ご協力のほどよろしくお願いしたい」と述べ、セミナーを締めくくりました。
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