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「社会課題の解決に向けたメディア・コミュニケーション」 環境人間学部 井関 崇博教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、毎月1回本学の教員がラジオ関西番組に出演して、先進的・特徴的な活動をパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

10月20日(日)放送の「谷五郎の笑って暮らそう こちら兵庫県立大学です」に登場するのは、環境人間学部の井関 崇博(いせき たかひろ)教授です。

 

今回のテーマは、「社会課題の解決に向けたメディア・コミュニケーション」
井関教授の専門は、「コミュニケーションデザイン」です。

 

暮らしと環境にまつわる様々な学問を幅広く学ぶ-環境人間学部

井関教授が所属する環境人間学部は、世界文化遺産・国宝に指定されている姫路城から北側へ徒歩10分ほどのところに位置する姫路環境人間キャンパス内にあります。環境人間学部では「すべての人に豊かな暮らしと環境を」をコンセプトに、人間にとって最も重要な「暮らし」と、それを取り巻く「環境」に関する教育・研究を行っています。井関教授は「環境人間学部とは、暮らしをどう豊かにしていくのか、そして、持続可能な環境をどうつくっていくのかについて探究する学部です。文系から理系まで多様な学問分野を学ぶことができるところが特徴で、文学や言語学、教育学、心理学、経済学、都市計画、建築、生態学など本当に幅が広く、ある意味何でもできるところです。そして、一番重要なのが、学生は5つの専門教育プログラム(人間形成系、国際文化系、社会デザイン系、環境デザイン系、食環境栄養課程)のいずれかに所属して専門を深めていくのですが、食環境栄養課程以外については、2年生に上がるタイミングで4つの中から選択していくというカリキュラムです。つまり、入試段階では専門を決めなくてもよく、入学後1年間幅広く学んでから専門を選ぶことができます」と紹介しました。
また井関教授は、こうした特徴の背景について「高校3年生までに自分の方向性を決めるというのはなかなか難しいことなのではないかと思います。決められたら良いですが、決められない生徒さんがいてもおかしくない。そういう意味で、入学していろいろ学んでから専門を選べるというのは、本学部の良いところではないかと思います」と述べました。

 

 

「変えたい」と思ったときに変えられる環境がある

環境人間学部には入学当初から「〇〇を学びたい」と考えて入学してくる学生もいます。それでも最初の1年間で様々な学びをし、視野が広がった結果、専門を変更する学生もいるといいます。「はじめに『これだ』と決めたものでそのまま邁進できる人は良いと思いますが、『変えたい』と思ったときに『幅広い選択肢がある』というのは良いことではないかと思います」と井関教授は語ります。
井関教授自身も専門を途中で変更した経験があります。「実は私も、大学入学時は理工学部機械工学科に入りました。ところが徐々に『これは違うな、自分のやりたいことはこれではないな』と3年経って気付きました。そして、大学の転部試験というものを受けて同じ大学の社会科学部に転部し、そこから2年間その分野で勉強したのでトータル5年大学にいました」と明かしました。

 

コミュニケーションの場を「デザインする」

井関教授は現在、コミュニケーションデザインに関する教育・研究をしています。「『社会的なコミュニケーションをより良くしていくにはどうしたらよいのか』を考える分野で、コミュニケーションには2つの意味があり、1つは『人間同士の話し合い』があります。何か物事を集団で決める際には話し合わないといけませんが、その話し合いをどういうふうにしたら意思疎通が取れたり、新しいアイデアが出てきたり、コンセンサスを得ることができるのかは、なかなか難しい問題です」と井関教授は指摘します。

「私が学生だった90年代から2000年代は、環境保護が強く言われるようになった『開発から環境へ』という節目の時代でした。しかし、そこで当然揉めるわけです。今まで開発するはずだったのが『保全しろ』と言われても『今までの計画はどうなるのか』『暮らしはどうなるのか』という話になります。そこで、一度立ち止まって関係する人が集まり、『この地域にとって本当に良いことは何なのか』について話し合う場ができた。そのときに『どう話し合えばよいのか』ということが話題になってきます。『地域のどの立場の人に集まってもらったらよいのか、何をどのような順番で議論していけばよいのか、そのためにどのような情報を集めればよいのか』などを『デザインしていく』ことが求められました。このような文脈の中で、私もタウンミーティングや市民協議会など『地域社会での話し合い』に関する研究をしていました」。

沼津市における無作為抽出市民討議会でファシリテーション

 

話し合いの研究からメディアコミュニケーションの研究へ

井関教授が本学環境人間学部に着任した2009年は、コミュニケーションの環境に大きな変化が起こった年でした。「私は兵庫県に来てからも話し合いのデザインに関する研究を進めていたのですが、地域ではそれとは異なるニーズが高まっていると感じるようになりました。2009年というのは、ちょうどFacebookやTwitter、YouTubeなどのサービスがはじまった頃で、ここからいわゆるSNSの時代が始まります。情報技術の革新によってコミュニケーションの環境が大きく変わり、情報を伝える手段が飛躍的に増えた。同時に、流通する情報量が増えて逆に情報を届けることが難しくなってきました。そういう中で、兵庫県内の自治体職員や住民の方とお話しする中で『地域振興のために様々な場面で情報発信する必要があり、その手段としてのメディアは増えたけれども、どう使って良いのか分からない』という問題状況が見えてきたのです。ちょうど学部教育との関連なども考え、思い切ってメディアコミュニケーションの方にシフトしました」と井関教授は語ります。

ゼミの学生が姫路のNPOを紹介する動画を制作した(2012年)

 

「リアルな体験」を通して伝える-姫路城下巨大鳥瞰絵図展の取組

井関教授が近年特に力を入れている取組の1つに、地域文化を発信するメディアコミュニケーションの実践があります。「私の研究室では3年次に約8か月間かけて動画や冊子つくったり、イベントを開催したりする『メディアプロジェクト』を毎年行っており、私も学生と一緒に取り組んでいます」と、井関教授は最近の事例として2点取り上げました。
1つめは、主に2021年に行われた「姫路城下巨大鳥瞰絵図展」の取組です。この年の前年、民間の研究団体である播磨学研究所(兵庫県姫路市)が姫路城とその城下町に当たるエリアの今の姿を鳥瞰図(ちょうかんず)で描いて後世に残そうと企画し、神戸在住の鳥瞰図絵師・青山大介氏に制作を依頼、2021年7月に「令和の姫路城下鳥瞰絵図」が完成しました。その後、井関教授が研究所と青山氏と連携して、その鳥瞰図を多くの人に知ってもらい、姫路の街に興味をもってもらうような取組として研究室の学生とともに企画したのが「姫路城下巨大鳥瞰絵図展」でした。鳥瞰図を縦8m横6mに拡大印刷し、さらにその上にビニールシートを敷いて鳥瞰図の上を歩いてもらうというもので、キャンパス内の講堂で行われました。「巨大な鳥瞰図の上を歩くという体験は、まさに姫路の街の上空を鳥になって飛ぶような体験で、来場者にはスマホでの撮影・拡散をお願いしました。このようなリアルな体験は非常に強力で、その体験をSNSで広げていってもらう。このようなイベントもメディアコミュニケーションと言えます」と井関教授は言葉に力を込めます。
なお、このときに印刷した巨大印刷版はその後も地域の様々なイベントに貸出を行い、直近では今年の5月25日から3日間、姫路駅北中央地下通路広場で展示されました。
※鳥瞰図…地図の技法や図法の一種で、空を飛ぶ鳥が上空から地上を見下ろしたような視点で描いた図のこと。

姫路城下巨大鳥瞰絵図展の様子

 

新たな活用方法を探る試み-旧制姫路高校学舎再生プロジェクト

もう1つは今まさに現在進行中の「旧制姫路高校学舎再生プロジェクト」があります。姫路環境人間キャンパスには、1923(大正12)年に開学した旧制姫路高等学校(略称:姫高)の校舎が2棟、残されています。旧制高校は大学の準備課程に相当し、卒業生は皆、旧帝国大学に進学するようなエリート養成校でした。現存する本館(現在の「ゆりの木会館」)は1924年に、姫路城下鳥瞰絵図展も行われた講堂は1926年に建築されたもので、国の登録有形文化財でもあり、今年は学舎竣工100周年にあたることから、今年度から2年程かけて様々なメディアコミュニケーションを計画しているといいます。「今は大学の建物の1つなので、一般の方が自由に入ることはできません。本学の学生や教職員も文化財の保存の観点から自由に出入りできる建物ではなく、入学してから4年間一度も中に入ったことがない学生もいます」。

ゆりの木会館

 

「そのため、『在学生がこの100年の歴史のある建物に触れる機会をつくれないか』と私のゼミの学生と企画を考え、今年の7月に昼休みとその次の3限の時間に、昼食を食べたり、おしゃべりをしたりすることのできる講堂開放の取組『講堂×ランチ』を実施しました。そして、その際に利用してくれた学生に『ここで何があったら、また来たいと思うか』というアンケートを実施した結果、『映画が観たい』という回答が多く寄せられました。ゆりの木会館も講堂も大正時代の造りで、とても雰囲気の良いところです。そこで、こうした場に合う映画を上映する機会を今年の12月につくり、その際には地域の方にもお越しいただけるように、現在ゼミの学生が企画『講堂×上映会』を考えています」と井関教授は紹介しました。

講堂開放の取組「講堂×ランチ」

 

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