このたび、兵庫県立人と自然の博物館自然・環境再生研究部 主任研究員で兵庫県立大学自然・環境科学研究所の中濱直之准教授が、公益財団法人松下幸之助記念志財団「第33回松下幸之助花の万博記念賞 松下幸之助記念奨励賞」を受賞しました。
公益財団法人松下幸之助記念志財団は、パナソニックグループの創業者である松下幸之助の志を受け継ぎ、未来のリーダーを支える公益財団法人として設立されました。同財団では、リーダーの国際的研究活動等を支援することを目的に「助成・顕彰プログラム」を実施されており、同プログラムの1つに、「松下幸之助花の万博記念賞」の運営があります。松下幸之助花の万博記念賞は、1990年に大阪鶴見緑地で開催された国際花と緑の博覧会(通称:花の万博)を後世に伝えるために、財団法人松下幸之助花の万博記念財団(現:(公財)松下幸之助記念志財団)により、1992年に創設されました。「自然と人間との共生」という花の万博の基本理念の実現に貢献する、優れた学術研究や実践活動および社会貢献活動を顕彰することを目的としており、中濱准教授が受賞した松下幸之助記念奨励賞は、注目すべき業績を上げつつある個人またはグループに贈呈されるものです。
中濱直之准教授(中央)
保全遺伝学を専門とし、主に絶滅危惧種の保全遺伝学的研究を行っている中濱准教授は、博物館標本から遺伝情報を得るという新しいアプローチを開発し、野外調査と組み合わせることによって、絶滅危惧種の保全や減少要因の解明において顕著な成果を上げ、保全遺伝学研究の分野を大きく進展させたことや、生物の魅力や保全の重要性、研究成果を発信することで社会へ大きく貢献したことが評価され、今回の受賞に至りました。
また、中濱准教授は、2月1日(土)にリーガロイヤルホテル大阪(大阪市北区)で行われた贈呈式および講演会において、「故きを温ねて新しきを知る-博物館標本を活用した生き物の保全研究-」と題し、講演しました。
今回の受賞を受け、中濱准教授は「このたびは、栄えある賞をいただき、審査員の皆様、財団の皆様をはじめ、関係する皆様に心から厚く御礼申し上げます。また、恩師の先生方、共同研究者の皆様、研究遂行に際しお世話になった全ての皆様と、これまで支えてくれた家族のおかげで受賞できたものと、心より嬉しく思っております。ありがとうございました。私は、子どもの頃からよく博物館に遊びに行っていたこともあり、博物館に多数収蔵されている生物標本に大きな興味を持っていました。学生時代には、次世代シーケンサーの普及もあり、標本中の遺伝情報から過去の情報が分かるということを知ったときには大いに興奮したことを覚えています。実際に自分で研究してみると、当然そんな簡単なものではなく、四苦八苦するわけですが…。研究を始めた12年前と比較すると、多くの共同研究者のおかげで研究を進展させることができました。現在は、絶滅危惧種の保全をするうえでは非常に重要なツールとなっています。それらを駆使して今後も研究活動と、さらに技術の普及にも邁進していく所存です」と話しています。
※次世代シーケンサー…生物のDNA配列について、これまでの技術と比較して大量かつ高速に解析することが可能な技術のこと
また、受賞対象となった研究の今後の方向性と展望については、「このたび、博物館に収蔵される生物標本の遺伝情報を利活用する“Museomics(ミュゼオミクス)”という手法を駆使して絶滅危惧種の保全遺伝子研究をしました。近年急速に数を減らしている絶滅危惧種の場合、元々どの程度の遺伝的多様性や個体数がいたのかについて、現在の情報のみで推定するのはとても困難です。そこで、標本の遺伝情報を活用して過去の遺伝的多様性や個体数を推測することにより、いつ、どの程度、減ったのか。また、場合によっては、なぜ減ったのかの原因なども推定することができます。絶滅危惧種の保全対策を考えるうえで、こうした情報は欠かせず、現在は昆虫や植物、鳥類など、幅広い分類群においてミュゼオミクスの研究を展開しています。一方で、標本中のDNAは劣化が激しいことから、どうしても解析コストが高くなってしまいます。1サンプルにつき数万円かかってしまうことも珍しくありません。そこで現在は、いかに安価で簡単に標本の遺伝情報を活用するかについて、技術開発を行っています」とコメントしています。
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