このたび、高度産業科学技術研究所の渡邊健夫特任教授・名誉教授が「令和6年度兵庫県科学賞」を受賞し、12月19日(木)に兵庫県公館で表彰式が行われました。
兵庫県科学賞は、県民文化の高揚、科学技術の向上、スポーツの振興及び明るい地域社会づくりに貢献された方々の功績を称えて兵庫県から贈られる四賞(文化賞・科学賞・スポーツ賞・社会賞)の1つで、科学技術の研究に熱心な方で、研究の成果が科学技術の向上に著しく貢献したと認められる方や、研究者であり、研究のための機械・手法の開発や組織・制度・施設の整備などに顕著な成果をあげ、間接的に科学技術の向上に貢献したと認められる方などに授与されるものです。
渡邊特任教授は、ニュースバル(NewSUBARU)放射光施設において、次世代半導体微細加工技術である極端紫外線リソグラフィー(EUVL:Extreme ultraviolet lithography)の基盤研究を進め、2001年に当時世界最小の線幅を有するレジストパタンの形成に成功するなど、近年の先端半導体デバイスの実現に貢献したことが評価され、今回の受賞に至りました。
左端が渡邊特任教授
渡邊特任教授は、1993年からシャープ株式会社中央研究所で半導体微細加工技術であるX線縮小露光技術(現 極端紫外線リソグラフィー技術)の基盤技術開発を進め、1996年に姫路工業大学(現 兵庫県立大学)高度産業科学技術研究所に着任しました。以降28年間、本研究所においてEUVLの基盤研究に従事し、それらの研究成果についてこれまでに272編の論文により発表してきました。また、1998年より、通商産業省及び経済産業省から国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて再委託を受け、約21年間にわたって4つの国家プロジェクト(ASET、EUVA、Selete、EIDEC)を先導してきました。加えて、国内外の企業のべ約320社と共同研究を行うなど、渡邊特任教授はEUVL基盤研究全般(露光装置、フォトレジスト・フォトマスク(ペリクルを含む)・光学素子(これらの評価・分析を含む))において基礎研究から実用研究まで幅広い視野を持ち、特に企業との共同研究を通して半導体分野における放射光の産業利用で世界的にも重要な役割を果たしてきました。
その結果、EUVL技術は2019年からスマートフォン向けの7nm世代の半導体デバイスの量産技術に適用され、2020年からはiPadやiPhone用の5nm世代の半導体デバイスの本格的な量産に貢献することができました。半導体は、回路の線幅を微細にすることにより、半導体デバイスの高集積、高速処理、低消費電力、製造コストの低減を実現できるメリットがあり、IoTデバイスやウエラブル端末の高性能化をけん引しています。さらに、近年はデータセンターをはじめ、生成AI向けに先端ロジックデバイスや先端メモリに数多く使用されており、LINE、Facebook、X、Instagram等のSNSの普及を支えています。
他方、半導体は国家安全保障や経済安全保障上、重要な技術であることから、日本の半導体復活に向けて2021年11月10日に経済産業省の支援のもと、2nmロジックデバイスの量産を目的にRapidus株式会社が設立され、この半導体デバイスの製造にもEUVL技術が使用されることになっています。
スマートフォンに組み込まれている最先端半導体デバイス
併せて、渡邊特任教授はEUVL基盤技術開発に欠かすことのできないニュースバル放射光施設の整備にも尽力してきました。同施設は、光科学技術を中心とした先端かつ独創的な研究を推進するとともに、放射光の産業利用を通して社会に貢献することを目的に高度産業科学技術研究所が運営しています。
2000年1月の供用開始以来、大型放射光施設「SPring-8」(理化学研究所運営)の線形加速器がSPring-8と同施設の両方の電子ビーム入射器として運用されてきましたが、2020年をもって運用が停止され、SPring-8はX線自由電子レーザー施設「SACLA」(理化学研究所運営)を入射器として使用することになったため、5年間で同施設専用の入射器を整備することとなり、渡邊特任教授は2016年に高度産業科学技術研究所の所長に就任して整備に携わりました。
この新入射器(1.0 GeV)によるニュースバル放射光施設の運転は、2021年4月から開始し、その結果、放射光の強度が17%、実験効率についても17%向上しました。また、同施設独自の運転計画の策定が可能となったことから、産業利用の利便性が一層向上し、放射光利用の促進につながりました。
※放射光…電子を磁場で軌道を曲げることで、強度の高いX線を生成できる。このX線が放射光である。
※入射器(電子線形加速器)…放射光である軟X線(10keV以下のエネルギーを有するX線)を生成するために必要な電子をニュースバル放射光施設の電子蓄積リングに供給するための機器。
このたびの受賞を受けて、渡邊特任教授からコメントをいただきました。
兵庫県科学賞の受賞に際して
このたびは、伝統かつ格式ある兵庫県科学賞の受賞に際して、関係者の皆様に厚く感謝申し上げます。
私は、1996(平成6)年1月1日に旧姫路工業大学(現 兵庫県立大学)高度産業科学技術研究所に半導体メーカーを経て助手に着任以降、大学が保有するニュースバル放射光施設で半導体微細加工技術である極端紫外線リソグラフィー(EUVL)の研究を推進して参りました。これまで、4つの国家プロジェクトを約21年間、そして、国内外の企業等と数多くの共同研究を推進する中で、EUVL技術が16nm(ヒトの髪の毛の約3,000分の1)の回路線幅7nm+を有するロジックデバイスの量産技術に用いられるに至りました。昨今、生成AIでは処理能力の高い半導体デバイスが要求されており、次世代EUVLの半導体微細加工技術は半導体チップを3次元に実装するChiplet技術とともにさらに重要な位置づけとなっています。
※Chiplet(チップレット)技術…従来は1つのチップに集積して作っていた大規模な集積回路を、複数の小さなチップに分けて製造し、それぞれを組み合わせることで大規模化して1つのパッケージに収める技術。
半導体微細加工技術について
ここで、半導体微細加工技術を以下のとおり簡単に紹介します。半導体デバイスにはメモリ、ロジック、センサー、パワー半導体があり、これらにはシリコンウエハ上にトランジスタ等の電子回路が集積されたもの「半導体チップ」があります。例えば、最新型のiPhoneやiPadには僅か10mm角の半導体チップの中に約160億個のトランジスタが作り込まれており、このチップの中の回路の線幅を微細にするのが半導体微細加工技術です。回路の線幅を微細にすることでトランジスタの個数を増やすことができ、各種データの処理能力の高いデバイスの製作が可能になり、生成AIなどに利用されます。
今後は、ヒトの髪の毛の直径50,000分の1以下の回路の線幅形成が要求されています。これまでの各種知見の元で日本の半導体復権を目指し、現在取り組んでいる次世代EUVLの学術研究を、国家安全保障や経済安全保障上非常に重要である半導体技術に活かしていけるように、その学術研究を推進して参る所存です。
・兵庫県立大学高度産業科学技術研究所
・兵庫県立大学高度産業科学技術研究所 ニュースバル放射光施設
渡邊特任教授(番組出演当時は教授)が2024年3月にラジオ関西番組に出演し、半導体微細加工技術について取り上げた際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。
・ケンダイツウシン「半導体微細加工技術が切り拓く世界」高度産業科学技術研究所 渡邊健夫教授
COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.