坂本美憂さん(大学院生命理学研究科博士前期課程1年生)
今年、理学部を卒業した坂本さんは、80名いる同級生のなかで1人だけ3年生のときから教授の研究室で研究支援員として細胞の研究に取り組んできました。校舎の近くの学生寮で暮らし、薬や化粧品をつくる応用研究の下地になる基礎研究の分野で、毎日研究に没頭していました。神戸で開催された細胞生物学会にも参加。選ばれたチャンスをしっかり活かして、自分のやりたいことを着実に積み上げている坂本さんの変化とは。
高校の頃は数学が好きでした。でも、数学を活かした将来の仕事が自分の中で定まらず、それで別の進路を選びました。もともと生き物には興味があったんです。だから農学関係や食品関係などの仕事に就くなら理学部で生命科学を学ぼうと。生命科学科の授業はすごく面白かったです!ただ、受験の選択科目は「生物」じゃなくて「物理」と「化学」だったので知識が追いつかず、わからないことも多くて授業の出だしは結構つまずいていました。直接、先生に聞いたり、友達に質問したりしてなんとか追いつこうとしていました。
特に難しいと思ったのは、細胞核の中の転写や翻訳などです。詳しいメカニズムが現象としてイメージできて、どういうことなのかを理解できるまで時間がかかりましたが、最初のつまずきを取り戻そうと勉強を続けていた成果もあって、成績は少しずつ伸びていきました。そして、私の成長のきっかけになる研究支援員の募集を知ったのは3年生になったときでした。
研究支援員というのは研究室のアルバイトみたいなものです。募集定員は1名でしたが、普段の成績が認められたからか採用していただきました。自分が研究支援員としてしっかり働ける自信はなかったので、迷いや不安はありましたし、手先が不器用で手際がわるく、どちらかと言えば実験に対しては苦手意識がありました。4年生になると学生全員が研究室に配属になり実験に関わります。だから、3年生のうちに苦手なことを克服しようという気持ちで研究支援員に応募したんです。私の人生にとってはかなり大きかったと思います。
本当に自分でも変わったと思うのは、ずっと実験のことや研究のことを考えるようになったことです。ごはんを食べているときもずっと考えていました。考えようと思って考えているんじゃなくて、無意識にずっと考えている。研究支援員になるまでは経験しなかったことです。自分でもこんなに熱中できるものがあったんだなあ、とびっくりしています。私は理学部の学生寮に住んでいて、すぐに研究室に行けるので、夢中になると朝早くから夕方近くまで研究をしていることもあります。
現在は、人の細胞内にあるゴルジ体という細胞小器官の分子機構の解析をしています。実験では自分たちがこうだろうと予測する通りには結果がでないことがよくあります。ときには心が折れそうになることもあります。でも、そのわからない感じがすごく面白いです。研究は1つひとつ地道ですが、少しずつ解明していけている感覚もあるので、探究心を搔き立てられます。研究職なら修士(博士前期)までいったほうがいいと1年生のときから考えていたので、今年、大学院に進学しました。修了までには今取り組んでいる研究の集大成として自分で論文を書いて、学術誌に発表できたらと思います。
学部4年間と修士2年間で基礎研究を合計6年間やることになりますから、将来は応用研究の方で企業に就職して、製薬などの開発職で役に立てるようになりたいですね。スキンケア商品の開発にも興味があります。やっぱり自分の身近にある好きなもので商品をつくってみたいと思います。
坂本さんは見た目は普通の大学生ですが、面接で話してみると、決してぶれない軸を内に秘めていることがわかり、研究支援員に採用しました。大学寮での共同生活の中でそのような気質が育まれたのでしょう。研究支援員採用後の活躍はめざましく、既に論文を2つ書いています。研究室という異質な環境に置かれ、様々なチャレンジの機会を与えられることで魂に火がついたようです。これから大学院に進学して後輩を指導する立場になりますが、学会発表や修士論文の作成など様々なことに挑戦し、大きく成長することを期待します。「ポジションが人を作る」という典型だと思います。新入生の皆さんもチャンスがあれば、躊躇せず挑戦してみて下さい。
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