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「環境文学から自然や世界を見つめる」環境人間学部 高橋 綾子 教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

5月4日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、環境人間学部の高橋 綾子(たかはし あやこ)教授です。

 

今回のテーマは「環境文学」

高橋教授の専門は、「アメリカ文学・文化、環境文学、アメリカ現代詩、日米の災害詩」です。

 

環境文学とは

環境文学は、文学や物語の中で、人と自然・環境がどのように関わっているかに注目する学問で、「自然との関係」「環境との関係」に特化した分野です。

環境と人間の関係にフォーカスした読み解き方である「環境文学批評」の手法を学び、アメリカの歴史、文化、文学を理解することを通して、人間が自然をどのように捉え、どのように向き合ってきたのかを研究していきます。

講義中の様子

 

環境文学は、人間と世界、環境との関わりを追求している

環境文学は、世界中の環境汚染に関する問題が1960~70年代にかけて起こり、環境意識が高まっていく中で出てきた文学・研究ジャンルで、確立されたのは1990年頃といわれています。

元々は、アメリカなどの英語圏の国から始まった学問ですが、宮沢賢治さんや、熊本県の水俣病の石牟礼道子(いしむれ  みちこ)さんの作品等、日本にも以前から環境文学が存在しています。

「環境汚染を告発した作品を捉え直しましょう」というものが多いですが、宮沢賢治さんの作品では、動物との関わりや、世界との関わりがメインになっており、「環境文学は、環境汚染だけでなく、人間と世界、環境との関わりを追求していると言える」と高橋教授は語ります。

 

環境文学に関心を持ったきっかけ

元々自然が好きで、近隣の山をハイキングしたり、植物の名前に興味があるなど、自然への関心が高く、文学も好きだった高橋教授は、環境文学がご自身に合っていたといいます。

子どものときから馴染み深い宮沢賢治さんの作品をはじめ、アメリカ文学では、アーネスト・トンプソン・シートンの「シートン動物記」や、環境文学として一番大切な本と考えられている本であるレイチェル・カーソンの「沈黙の春」を勉強し直すなど、環境文学という言葉だけを聞くと難しい印象を持つ方もいらっしゃるかも知れませんが、私たちのまわりを取り巻くすべての環境が対象であると考えてみると、初めて勉強される方にも入りやすい分野かもしれません。

レイチェル・カーソン『沈黙の春』書影

 

災害を文学的に解釈

高橋教授は、近年、東日本大震災の災害詩と環境文学にも着目し、研究を進めています。

東日本大震災発生時、高橋教授は新潟県にいました。新潟県には、隣県の福島県から避難されている方がたくさんいらっしゃったそうです。そのような中、高橋教授は、「自分が研究していることで何かできないかな」と思いを巡らし、「災害を文学的にどういうふうに解釈できるだろうか」と、災害に関わる詩や短歌を書かれている方の作品を読み進めていく中で、ともに福島県で被災された、詩人の和合亮一さんと歌人の本田一弘さんの作品を知りました。

和合さんも本田さんも、震災後も故郷の福島から離れませんでしたが、「故郷にいながら故郷を失った苦しみ」を詩や短歌で表現していました。慟哭の苦しみの中で生まれた災害詩の言葉には、心の中に深く入っていく感情があるといいます。

和合亮一『詩の礫』書影

 

本田一弘『磐梯』書影

 

文学を通して地球環境のためにできること

高橋教授は、2022年3月に著書「アンビエンス ― 人新世の環境詩学」を出版しました。本のタイトルになっているアンビエンスとは、「取り巻きのもの」という意味で、「環境について考えることは、環境を取り巻いているものとの関係をどう考えるか」であることから、アンビエンスをタイトルに用いられました。著書では、「詩人が人間と環境との関係をどのように捉えて詩にしてきたか」に焦点をあて、アメリカと日本の詩人8人を取り上げ、一人ひとりを論じたものになっています。

高橋綾子『アンビエンス ー 人新世の環境詩学』

 

環境文学の詩の分野では、日本よりもアメリカの方が、活発に研究がなされています。アメリカ現代詩では、ダイオキシンの汚染や水不足、山火事を題材にした詩を書いている詩人がいます。これらの詩から、「私たちは、どうやって生きていったら良いのか」を考えさせられるとともに、環境文学は、SDGsにもつながってくるといいます。

 

高橋教授は、今後の研究の展望として、「現在、ロシアとウクライナの問題に直面している中で、今後は、環境文学の観点から、大きな国と小さな国、その他の地域が抱えている問題を深く見つめ、どうしたらサステナビリティをこの地球上で共有できるのかという視点で文学研究をしていきたい」と話していました。

 

 

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教員出演 ラジオ音源 ← 放送内容はこちらからお聴きいただけます

環境人間学部

くらすペディア「災害詩を通して世界とつながる」

 

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