本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。
12月7日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、環境人間学部の森 寿仁(もり ひさし)講師です。
今回のテーマは、「科学的な視点でスポーツを『みる』『考える』」
森講師の専門は、「運動生理学、トレーニング科学」です
選手から研究者へ
森講師は、「スポーツ科学の知見をもとに効果的なトレーニング方法を考える」をテーマに、より良い心身の発達と生き方を追究する環境人間学部人間形成系において、教育・研究活動を行っています。研究対象は、子どもから若年・中高年者、アスリート、スポーツ愛好家と幅広く、皆がスポーツを通して幸せ(well-being)になるために必要なことは何か、また、どのような方法があるのかについて研究を通して考えているといいます。研究分野は、身体が良い方向に変わること、あるいは、身体を良いレベルで維持することをめざす「トレーニング科学」が主たる分野で、効率のよいトレーニング方法について研究しています。
ゼミでの実験手法の練習
森講師自身は、元々は陸上競技の中長距離走の選手でした。駅伝に参加したり、陸上競技場内にある1周400mの走路「トラック」を使って行われる800m走や1500m走といった中距離走の競技に出場していた森講師が、スポーツ科学に関心を持つようになったきっかけは大学時代にあるといいます。「私自身は、元々、部活動を受け持ち、子どもたちを指導して育てるような高校の体育の先生になって、好きな体育を教えられたら良いなと思い、体育大学に進学しました。しかし、私自身が怪我をすることが多かったこともあり、『身体のことやトレーニングのことをもっと知らないといけない』と考え、いろいろな勉強をしているうちに研究者を志す道に少しずつ進んでいっていました。スポーツ科学、特にトレーニングの方法について興味があったので、トレーニングにまつわる研究を長年続けている形になります」と、森講師は語ります。
森講師の高校生(選手)時代
スポーツを科学的に「みる」
今から30年ほど前まで、中学校や高校の運動部活動において、「部活動中に水を飲んではいけない」などといった、いわゆる「スポーツ根性論」のもと指導が行われていたことがありました。こまめに水分補給することが推奨されている現在の部活動での状況と当時を比較すると、大きく変化しました。その背景には、1990年代からのスポーツ科学の進歩との関連があると、森講師は話します。今年の11月から12月にかけて開催されていたFIFAワールドカップカタール2022では、日本-スペイン戦でのVAR判定が話題になりました。新しい技術や科学が取り入れられたことで、人の目だけで判定を行っていた頃はアウト判定とされたものがセーフ判定になったり、セーフ判定とされたものがアウト判定になったりと、「スポーツ根性論」も含め、スポーツを科学的な視点で「みる」ことによって、それぞれのパフォーマンスにおける「本来あるべき姿」が見えるようになってきたと、森講師はいいます。
スポーツ科学が進歩する過程においては、研究者と、指導者や選手といった現場の当事者との考え方の行き違いもあるといいます。森講師は「研究者側の人間と、現場側の人間が話をしたときに『研究者は現場のことを分かっていない』『現場の人は研究のことを分かっていない』というミスマッチが起こり、お互いがいがみ合うようなことが最近でもよく起こっています。しかし、『現場でも科学をどんどん取り入れていこう』『研究者も現場のことをどんどん取り入れよう』と、『お互い歩み寄ろう』という意識が少しずつ生まれてきており、それによって、ここ5年以内くらいの間に、スポーツ科学がさらにもう一段階上のレベルに上ったんじゃないかなという印象を持っています」と感慨深げに話します。
前方モニターに表示される地面に伝わる力を見ながらのランニング
「トレーニング」は、「train=電車」にingがついた現在分詞形
トレーニングというと、日常生活の中でも「もう少し体を動かした方が良いのではないか」といった会話がなされることがありますが、森講師は、トレーニングを効率よく行う方法を考えるにあたり、「トレーニング」という言葉そのものの語源から考えてみると良いと話します。「トレーニング(training)は、『train』にingがついた現在分詞の形になります。『train』は、英語で日本語訳すると『電車』ですよね。電車の何がトレーニングと関連しているのかというところから考えてみると、電車に乗ろうと思うときというのは、まず目的地がありますが、目的地だけがあっても電車に乗れるわけではなく、自分の現在地が分からないと電車に乗れない。現在地と目的地が分かれば、どの電車に乗れば良いのかが分かる。それらをトレーニングにあてはめてみると、どのような自分になりたいのかを想像し、現状の自分を把握することになります。『なりたい自分になるために、何をどうしたら良いのか』という『電車』を選ぶことが『トレーニング』になる。効率の良いトレーニングというのは、ただ単に『速くなりたい』だけではなく、いつまでに、どのくらいのタイムを出したいのか、どのくらいのスピードを出せるようになりたいのかという具体的な目標があって、その上で現在の自分の状態を考える。その一連の過程がトレーニングというものだと考えています」と、森講師は「トレーニング」の語源を紹介し、自分にマッチしているトレーニングを選択することが大切であると話します。
トレーニング科学を日常生活で活かしていくために
森講師が最近取り組んでいる研究の1つに低酸素トレーニングがあります。低酸素トレーニングというと、長距離選手が海外の高地に行ってトレーニングを行い、マラソンの大会で好成績を収めたというニュースを耳にする機会があるとおり、「低酸素トレーニングは長距離選手が行うもの」と考えられていました。最近は、短距離選手や球技の選手にも良いのではないかと考えられるようになり、海外でも低酸素トレーニングに関する様々な研究が行われるようになりました。マラソンにおけるトレーニング環境については、日本の山は険しく、場所を広く取ることが難しいことから、現在も日本人選手は海外の高地に出向いてトレーニングを行うことが多いようですが、国内でも類似の条件下でトレーニングを行うことのできる施設の整備が進められています。
また、近年は、ダイエット効果をはじめ、血圧や血糖値を下げる効果など、低酸素トレーニングがメタボリックシンドロームや生活習慣病の予防・改善に効くのではないかという研究結果が出ているといいます。低酸素トレーニングを行うことのメリットとして、膝への負担が小さくて済むといったことがある一方で、吸入する酸素の濃度の影響で気分が悪くなるなど、体調が悪くなってしまうこともあることから、知識のない一般の人が日常生活に低酸素トレーニングを取り入れることは、まだまだ難しいといいます。そのため森講師は、低酸素トレーニングをより効率的に、効果を高くできる方法や、社会実装に向けての研究を進めていくこととしています。
ウォーキング中の代謝測定
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