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「データサイエンス教育について考える」 人工知能学会シンポジウム BigDataDX2022を共催しました

12月18日(日)・19日(月)の2日間にわたって大阪府立国際会議場で開催された一般社団法人人工知能学会主催「人工知能学会シンポジウム BigDataDX2022~BigDataとDXが拓く研究開発とビジネス、人材育成のフロンティア~」に、本学の情報科学研究科と社会情報科学部が共催しました。

 

現代社会において、デジタルトランスフォーメーション(DX)がビジネスや社会、これまでのパラダイムを大きく変えつつあり、研究開発の現場、行政、ビジネスの実務においても、ビッグデータとDXによる変化が生まれてきています。ビッグデータとDXによって新しい価値が創出され、今後もそれが加速していくとみられています。本シンポジウムは、ビッグデータとDXによる各分野での事例紹介や研究報告に加え、基調・招待講演とパネルディスカッションにより、今後、大きな可能性を持つ研究開発とビジネスのフロンティアについての展望を明らかにすることを趣旨に開催されました。

 

本シンポジウムの2日目の12月19日(月)に行われた「データサイエンス人材セッション」に、本学の産学公連携推進本部DXサポートセンター長で、情報科学研究科・社会情報科学部の笹嶋宗彦教授がコーディネーターと講演者を兼ねて登壇しました。様々な社会活動がデジタル化され、あらゆる業種にAIが導入され始め、我が国もデジタル社会の「読み・書き・そろばん」を「数理・AI・データサイエンス」であると定め、高等教育を受ける全ての学生が文理の区別なくデータサイエンス教育を受けられるようにするための教育機関認定制度が始まりました。さらに、2025年度入学者選抜(一般選抜)における大学入学共通テストでも新たに「情報Ⅰ」の導入が予定されています。このような状況に対応すべく、社会人から大学、高等学校まで、様々なレベルで新しいデータサイエンス教育が始められています。そこで、「データサイエンス人材セッション」では、行政や企業、教育機関でデータサイエンスの教育現場を支えている方々から、現場の実情や工夫されていることなどをお話いただき、今後の展望についてパネルディスカッションを行いました。

 

講演

講演1では、兵庫県企画部統計課 統計分析官で本学の産学連携・研究推進機構の芦谷恒憲特任教授から、「兵庫県における地域データを用いた政策課題分析の事例と課題」と題して、統計分析加工事業の概要、分析ワークシートの概要、統計普及事業の概要、統計データ活用に向けて実施されていることについて講演がありました。芦谷特任教授は、政策に用いられるデータに関する相談を受けるケースが多い中、データによっては使いにくいデータがあり、利用に結びつかないケースがあることが課題となっていることを取り上げました。そのため、統計データの加工や分析方法を普及するために、セミナーや出前講座を開催していることや、データを加工・分析するためのスキルを身につけるには、セミナー等を受講するだけでなく、実際に自身でデータに触れて実践してみることが大切であることなどを紹介しました。

 

講演2では、本学の社会情報科学部でも講師としてご指導いただいている滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター特任講師で、株式会社帝国データバンクの大里隆也氏が登壇され、「帝国データバンクにおけるリカレント教育と大学との実践的データ処理教育の連携」と題して、お話いただきました。東日本大震災を契機に、企業ビックデータの活用が求められるようになり、企業のデータホルダー企業である株式会社帝国データバンクで、ビッグデータを活用するための商品開発や企業ビッグデータを用いた経営課題解決提案を行っていることなどについて紹介がありました。また、社内の人材育成の一環として、レベル別にデータ前処理リテラシーやデータ前処理に関する研修を実施されていることや、高度なスキルを持つ人材については大学院に派遣するなどのリカレント教育を行っている事例について紹介がありました。

 

講演3では、本学の笹嶋教授が登壇し、「実践的データサイエンティスト育成のためのPBL演習について~社会連携型教育のご紹介~」と題して、社会情報科学部のなりたち、我が国が目指すデータサイエンス人材育成について、社会情報科学部におけるデータサイエンティスト教育、実践に軸足を置く理由、社会情報科学部で開講している講義「PBL演習1」について講演を展開しました。笹嶋教授は、自ら課題を発見し解決するためのスキルを持つ実装力のあるデータサイエンティストを育成するために行っている社会情報科学部における教育活動の紹介の中で、学生には、早期にデータサイエンティストとしての哲学を学んで欲しいと考えていることや、課題を解決するには、課題の本質を見極め、分析する力を身につけなければならないことから、本学では学部1、2年生に必修科目として実企業の実データを用いた課題解決型演習(PBL演習)を実施したり、多くの企業と連携して、実践的な講義や演習を必修科目として実施したりしていることなどを紹介しました。最後に笹嶋教授は、「データの分析をすることが仕事ではなく、世の中の課題を解決することのできる人材を育成したいという願いを込めて、教育活動を行っている」と述べました。

 

講演4では、神戸大学附属中等教育学校数学科教諭で、神戸大学数理・データサイエンスセンター客員研究員の林兵馬氏から、「高等学校における統計教育-統計・DS教育の充実を目指して-」と題して、我が国におけるAI戦略、高等学校における統計教育の現状、仮説検定内容の教科書指導の導入事例、フォーマルな仮説検定とインフォーマルな仮説検定、総合的な学習・探究の時間と統計学習、神戸大学数理・データサイエンスセンターとの連携について、お話いただきました。林氏は、中学・高校でもAI戦略を意識してリテラシーレベルが充実した生徒を育てることがまずは大事で、それらがあってこそ、応用基礎、エキスパート人材の輩出に寄与すると考えられていることや、現在の高校1年生から大学入学共通テストに「情報Ⅰ」が加わることになり、現場の教員の方々も指導に悩まれていること、実際に教育現場で取り組まれているDS・統計教育の事例について紹介されました。また、林氏は、高大連携についても言及され、高大連携・接続を進めるための必要条件として、高校と大学の双方にやる気とメリットがあること、統計教育での成果を拡大し、普及できるよう展開していくことが大事であると話されました。

 

講演5では、雲雀丘学園中学校・高等学校数学科・情報科教諭で、JDSSP(Japan Data Science in Schools Project)高等学校データサイエンス教育研究会主査の林宏樹氏から、「高等学校DS教員のためのコンソーシアム構築と教科『情報』におけるDS教育実践事例」と題して、高等学校における教員のための「データサイエンス教育研究会」と、普通科における「データサイエンス教育」「データサイエンス実践事例」の紹介について、お話いただきました。林氏は、高等学校でデータサイエンスに関する内容を含む教科や探究活動が増加している一方、多くの教員は、DSの指導経験がないのが現状であることから、高校教員同士で指導方法を共有し学び合う場としてJDSSP高等学校データサイエンス教育研究会を立ち上げられました。今回の講演では、その成果の1つとして、「情報Ⅰ」における授業実践事例を紹介されました。

 

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、中学・高校、大学から一般向けに行われているデータサイエンス教育の現状と課題について議論が行われました。コーディネーターの笹嶋教授や会場の参加者から登壇者に向けて、データサイエンス教育やデータサイエンス人材の育成に関する質問がありました。パネリストからは、企業内におけるデータサイエンティストの価値を高める活動を行う必要性があることや、実際にデータに触れて少しずつでも経験を積むことが大人も子どもも大事であること、データを根拠に話ができるようになることで第三者から信頼を得られるようになるといった回答がありました。

笹嶋教授からは、「基礎的な理解の浸透と、トップ人材の育成の両方が必要と考える。機械学習やAIの活用にしても、最近はインターネットにも教材が出ているので、それらを利用すれば、ある程度のことはできるようになるが、飛び抜けた技術を身につけるには、数学に関する深い知識が必要になってくる。一方で、中学・高校の先生方の取組を通じて思うことは、中高生は、非常に吸収が速いので、早い時期からデータサイエンス教育を施していくと、トップ人材が出てくるのではないかと客観的に感じている。本セッションのような機会でつながりを持ちながら、いろいろなレベルの中学生から社会人のリカレントまで、様々なデータサイエンス教育の問題を共有しながら、裾野を広げつつ、トップ人材もその中から見つけてきて育てていくといった形で、どちらか片方ではなく、両方が必要と思う」と話し、本セッションを結びました。

 

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