5月25日(日)、大阪府立国際会議場(大阪市北区)において、本学及びJDSSP(Japan Data Science in Schools Project)高等学校データサイエンス教育研究会主催「一般社団法人人工知能学会・一般社団法人日本統計学会公認 全国中高生AI・DS探究コンペティション2025」の最終審査会が開催され、本学の社会情報科学部・情報科学研究科の笹嶋宗彦教授が大会実行委員会委員長及び審査委員長を務めました。
中高生が探究活動・課題研究の成果を発表し、大学の研究者と直接コミュニケーションできる場を提供
JDSSPは、国内各地の高等学校でデータサイエンスをもとに教育を実践している教員同士が、教科の垣根を越えてデータサイエンスの指導方法等について研究等を行っている研究会です。昨今、数理・データサイエンス・AIに関する教育が盛んになってきており、中学校及び高等学校では探究活動や課題研究が活発化している一方で、中高生が研究成果を発表できる場が限られていることや、一般社団法人人工知能学会や一般社団法人日本統計学会においても、中高生などの若い世代を対象とした人工知能やデータサイエンス関連分野の人材育成に力を入れられていることから、昨年度より人工知能学会と日本統計学会の支援を受けて、本学とJDSSPの共催で本コンペティションが開催されるようになりました。
2回目の開催となる今年度は、昨年8月からコンペティションに係る作品の募集が開始され、AIの学問分野では、データサイエンス、数理科学、確率・統計、生物学、哲学、画像・音声・言語メディア処理、ロボット、機械学習などの様々な分野の作品や、AIフロンティアを推し進める基礎研究や周辺分野で開発されたAI技術を活用した探究活動の成果の作品などを幅広く募集したところ、全国各地の中高生から参加人数70名、作品数36件の応募がありました。
応募作品には、ChatGPTやAIテキストマイニング、AI音声読み上げなどの、高校生が活用しているアプリや機器を使った研究や、メタバースを使った研究、シミュレーションによる分析などの作品がありました。また、それらの研究には、オープンデータやアンケート調査、外部での実証実験、音声感情認識AI、機械翻訳AI、自然言語などから、高校生らしい工夫がされた方法で収集したデータが活用され、さらに、研究を進めるにあたり活用された分析手法には、相関分析や機械学習モデル構築、重回帰分析、パス解析など、それぞれの研究テーマに合った分析方法が使われていました。
※AIテキストマイニング…大量のテキストデータから自動的にカテゴリ分け・自然言語処理し、重要な情報を抽出すること。
※相関分析…2つ以上の要素間の関係性を分析する手法
※重回帰分析…複数以上の関連のある要因が特定の結果にどの程度影響するかを数値化して将来の予測をする統計手法の1つ。
※パス解析…複数の変数間の関係がどのようになっているのかを明らかにする統計手法の1つ。
今年1月の募集締切後に行われた一次審査では、「AIやデータの利活用」と「創造性」の2点を評価の観点として、学識者により書類審査とポスター作品の審査が行われ、最終審査に進出する参加者が決定されました。
最終審査会の様子
最終審査会は、2025年度人工知能学会全国大会(5月27日(火)から5月30日(金)開催)の会場を利用して行われ、5組の参加者が対面で、1組の参加者が事前収録による動画で参加しました。
はじめに笹嶋教授が開会の挨拶をし、「2回目の開催となる今回は、応募作品数が前回の2倍になり、全国から36作品応募いただいた。その中から6チームが本日の最終審査に進まれた。一次審査では、みなさんから提出していただいたポスターにより審査をさせていただいたが、最終審査では、みなさんの研究の中身で、より強調したいところを限られた時間内ではあるが存分に発表していただき、それらについて審査させていただきたいと思う」と述べました。
次に、一般社団法人日本統計学会からの挨拶として、同学会統計教育委員会委員長で実践女子大学の竹内光悦教授が挨拶され、「まず、ここにおられるみなさんは、もうすでに素晴らしい。そのことに自信を持って、元気よく発表していただければと思う」と話されました。
続いて、一般社団法人人工知能学会からの挨拶として、同学会理事で名古屋工業大学の櫻井祐子教授が挨拶され、「これまでたくさん様々な準備をされてきたと思うが、ぜひその準備の成果を短い時間ではあるが、頑張って見せていただきたい」と話されました。
なお、最終審査は制限時間10分以内のプレゼンテーションと質疑応答により行われ、笹嶋教授、竹内教授、櫻井教授と、JDSSP会長で東北大学の石井裕基特任教授と人工知能学会企画委員(コンペ担当)で電気通信大学の原田慧教授が審査を行いました。
各プレゼンテーション後に設けられた質疑応答では、審査員から発表者に向けて質問等がなされ、活発なディスカッションが展開されました。
6組の参加者によるプレゼンテーション後には参加者同士の交流の機会が設けられ、研究内容について質問したり、感想や意見を述べ合うほか、連絡先を交換し合う参加者も見受けられました。
表彰式
最終審査後、審査員による審査が行われ、各賞の受賞者が決定しました。表彰式では各賞の授与後にプレゼンターを務めた審査員から受賞者に向けての講評及びコメントがありました。
審査員から各受賞者に向けての主なコメントの概要
・今後、私たちは生成AIとともに生きていかなければならないが、高校生ならではの視点から自己開発型という形である種の提言がなされ、われわれ人工知能の研究者としても、いろいろと考えさせられる発表だった。
・非常に身近なところにある問題に目をつけ、それらを少しでも解決しようと自分たちでシステムを考えて製作し、何度も検証実験を繰り返すなど、実現に向けて取り組んでいたところが素晴らしいと思った。
・少し荒い部分もあるかも知れないが、自分なりにできる範囲でいろいろとトライし、頑張ってしっかり取り組まれ、ある程度究められていたところが良かった。
・社会的に影響の大きいテーマの研究に取り組まれているので、さらに良い研究となるよう、統計の手法等をこれからどんどん学んでいただいて、そういうところに寄与できるよう今後の活動を期待している。
・最終審査に残った作品は、どちらの作品も自分たちでしっかりデータを集めてこられていた。一方で、最終審査では実現性の観点からも審査させていただいた中で、この点についてはどのチームも何かしらの問題があり、完全に実用化するのは難しいというところで審査員の中で意見が一致したが、その中でも実用に近い状態まで進めてこられた2作品を優秀賞とさせていただいた。
最後に、笹嶋教授が閉会の挨拶をしました。笹嶋教授は「今回、高校生の探究活動というのは、良い意味で『ここまで進んでいるのだな』ということをわれわれも知ることができ、関心したと同時に、人工知能の一人の研究者として驚きもした。われわれもこういう高校生がこれからどんどん大学に入ってこられるということを踏まえたカリキュラムを作らないといけないし、教育もしっかりしていかないといけないと感じた」として、「みなさんは今日の審査会を通じて先生方とのつながりができたと思う。また、この先みなさんが参加できるデータサイエンスに関する行事等はいろいろあるので、積極的に参加していただきたい。今日の結果は通過点なので、ぜひこれからも何年も研究に携わっていただき、AIのことも好きになって関わっていただければと思う」と述べました。
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