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国際シンポジウム「ウクライナ危機後の米中関係と日本-東アジアの安全と国際秩序の行方-」を開催しました

3月1日(水)、ホテル阪急インターナショナルにおいて、本学及び日本経済新聞社共催による国際シンポジウム「ウクライナ危機後の米中関係と日本-東アジアの安全と国際秩序の行方-」を開催しました。

 

国際シンポジウムは、日本政治外交史を専門としている本学の五百旗頭真理事長の呼びかけにより、関西経済連合会から後援を得て日本経済新聞社との共催で2019年から開催しています。国際情勢などの世界的なテーマについて、第一線で活躍されている識者の方々に議論いただき、関西から発信することとしています。新型コロナウイルス感染症の影響により、一昨年と昨年はオンラインでの開催となりましたが、今年は、会場とオンラインを併用しての開催となり、会場とオンライン合わせて約1,000名の方に参加いただきました。

 

ロシアのウクライナ侵攻から1年が経過し、事態は未だ収束の兆しが見えていません。その間、国際秩序の再構築を目指す日本や米国をはじめとした民主主義国と、中国・ロシアなどの権威主義国の対立が鮮明になり、さらに現在は、米中関係の改善も難しい状況となっています。このような中で、今回のシンポジウムでは、国際危機はどうなるのか、また、日本に求められる役割についてはどうあるべきかについて、講演及び討論が行われました。

 

はじめに、日本経済新聞社 常務執行役員 大阪本社代表の新井裕氏から開会挨拶があり、続いて、関西経済連合会 会長の松本正義氏から来賓挨拶をいただきました。

 

基調講演

基調講演では2名の方にご登壇いただきました。

日本国際問題研究所 理事長の佐々江賢一郎氏からは「ウクライナ危機後の米中関係と日本」と題して、ご講演いただきました。講演の中で佐々江氏は、米国の専門家が執筆した「プーチン敗北の3つのシナリオ」に関する論文を紹介され、第1にロシアが敗北を認め、ウクライナが示す和平協定で交渉すること、第2にロシアが侵略戦争を続け、最悪のケースとして核の使用に踏み切り、そこでNATO軍が加勢し勝利すること、第3にロシア国内で反乱あるいは革命的事態が起こり、プーチン政権が崩壊するといったシナリオが描かれていることを紹介されました。佐々江氏は「戦況がウクライナに相当有利になった段階でウクライナを説得し、ロシアの立場を少し持ち上げた内容で和平交渉に持っていくという、第1のシナリオの内容に修正を加えた形が望ましいのではないか」と話されました。米中関係については、元の関係に戻すことは厳しいと示され、政治体制競争の面では、まず米国が現在の国内における深刻な分断を克服して民主主義を立て直すことと、米国が民主主義の実践の手本を世界に示す必要があるとし、「最終的に米中を含めた安定的な地域的秩序をどのようにつくっていくかについては、日本の構想力と実践力が問われる。外交的対話を積極化する中で、米中双方に日本のビジョンを示していくことが重要ではないか」と話されました。

 

国際関係論を専門とされているプリンストン大学 教授のジョン・アイケンベリー氏からは「Does the Liberal International Order have a Future?(リベラルな国際秩序に未来はあるか?)」と題して、安定的な秩序をつくるためにどのような源があるのか、民主主義は復活できるのか、国際的な制度における協力関係は今後どうなっていくのか、ウクライナ侵攻はリベラルな国際秩序の終わりを示しているのか、または秩序を刷新するための1つの契機となるのかといった長期的な観点からご講演いただきました。アイケンベリー氏は、「ウクライナ侵攻が示していることは、民主主義世界の打たれ強さ、強靭さである。われわれにとっても驚きだった。今回のロシアによる侵攻に対抗する形で、G7の各国間で協力体制が生まれた」と話され、「リベラルでオープンな社会を広げていくことが大切である。多国間の協力、パートナーシップのもと、新たな国際秩序のビジョンを生み出すことにつながると思う」と述べられました。

※G7(主要国首脳会議)…フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国及び欧州連合(EU)の首脳が参加して毎年開催される国際会議のこと。

 

パネルディスカッション

基調講演後は、5名のパネリストの方々にお話いただき、五百旗頭理事長がモデレーターを務めました。

 

まず、ロシアの軍事を専門とされている東京大学先端科学技術研究センター 専任講師の小泉悠氏から、ウクライナ戦争は必然であったのかをテーマにお話いただきました。小泉氏は、SNSやインターネットが普及した現代社会において、現在のロシア軍とウクライナ軍の戦い方は大昔の戦争のようであり、また、ロシア軍のウクライナの人々に対する仕打ちについても、中世の戦争のように感じたと話されました。今回の事態から日本が受けるべき教訓としては、戦争がなくなることはないことと、大国が核抑止を否定し侵略に及んでもできることはないことの2点を挙げられ、「実際に侵略が始まってしまったら日本としてできることは限られるが、核抑止力の強化という方向に舵をきることが最大の戦抑止になるのではないか」と話されました。ウクライナ戦争については、ウクライナにとって好ましい形で収束することは非常に難しいとし、欧州がウクライナをどこまで支援できるかがカギになると述べられました。

 

日本経済新聞社 常務執行役員で論説委員長の藤井彰夫氏からは、40年近く国際経済問題を関わってこられたジャーナリストの立場から、グローバリゼーションがどのように変わってきたかについてお話いただきました。藤井氏は、グローバリゼーションについて「東西冷戦後に共和・社会主義国と民主主義国の国境の垣根が限りなく低くなり、企業が世界で最も低コストで効率的・最適な立地で生産を進め、主に中国などのマーケットに売り込んでいく形で、米国が主導して日本や欧州の企業のグローバル化を進めていったが、2016年に米国大統領選でトランプ氏が当選し、英国がEUを離脱したあたりからグローバリゼーションが大きく変異してきたのではないか」と話されました。今後のグローバリゼーションの先がどうなるかについては、グローバル化が完全に終わるのではなく、変異した形で続いていくのではないかとの見解を述べられました。また、ロシアへの経済制裁については、「有効であるかどうかについては議論があるところで、各国とも悩みながら行っている状況である」とコメントされました。

 

東京大学大学院総合文化研究科 教授の川島真氏からは、中国がどのような世界観を持ち、どのような外交史を持っているのか、また、その諸問題についてお話いただきました。講演の中で川島氏は、台湾について触れ、ロシアによるウクライナ侵攻直後に台湾で行われた世論調査で「『今日のウクライナは、明日の台湾である』と思うか」との問いに対して「思う」と回答した回答者は26%、「思わない」と回答した回答者は6割を超えていることを紹介されました。川島氏は「台湾の人々は、現在、中国が武力を高め、台湾に対して軍事演習を通して威嚇したり、輸入制限によって経済圧力をかけるなど、台湾に圧力をかける段階にあり、これらの圧力でもって効果がないと中国が判断した先に軍事侵攻があると考えているのではないか。また、台湾の人々の感覚にも注意しないといけないのではないか」「中国としては、武力を使わないで台湾側からなびいてくるようにしようとしてくると考えられる」と述べられました。

 

早稲田大学Center for International Education(CIE)教授の中林美恵子氏からは、米国と中国の関係についてお話いただきました。中林氏は、米国の中国に対する姿勢がここ数年で劇的に変わってきたと指摘されました。また、「米国といえば民主主義国の手本という立ち位置であったものが現在は全く異なっており、学生に聞いても『米国の民主主義を勉強したい』という声はそれほど多くなく、時代の変化を感じるとともに、米国の中でも、中国の大国としての存在感を感じる時代がこんなに早く来るとは予想されていなかった」と紹介されました。バイデン政権については、中国に対してある程度厳しい対応をしなければならない状況の中で、米国国内の動向と国民の感情との間のバランスを取ろうとしていることや、必ずしも新しい米国を体現するために登場した政権ではなく、「つなぎ」の政権であると指摘され、「次の大統領選挙は、世界の秩序を占う意味で非常に重要であり、もし全く新しい人物が出てきたら、今後の世界秩序に大きく関わるような、世界のリーダーになる可能性もあるのではないか」と述べられました。

 

京都大学大学院法学研究科 教授の中西寛氏からは、日本の安全保障や防衛についてお話いただきました。中西氏は講演の中で、日本は抑止力や防衛力を強化する必要性のある状況を迎えていることを挙げられ、防衛政策についても多くの発想の転換が必要であり、そのためには全般的な国力の見直しが必要で、その中で防衛力・軍事力を身につける必要があると話されました。Diplomacy(外交)、Intelligence(情報)、Military(軍事)、Economy(経済)の4つの要素が対外政策をする上での国力で、日本の場合は、Diplomacy、Intelligence、Economyのアップデートをしてバランスを取る必要があると指摘され、「われわれの将来について、未来の選択肢を増やすためにDiplomacy、Intelligence、Economyの要素を強化していくことが、安全保障の課題として改めて重要であると考えている」と述べられました。

リベラルデモクラシー(自由民主主義)の在り方については、「リベラルデモクラシーは、世界中のどこでも通用するものではないと言えるが、だからといってダメということではない。本来は幅のある様々な要素を含めた膨らみのあるもので、21世紀の非西洋社会において、どういうふうに提供するかという観点が重要ではないか」と話されました。

 

今後の日本の役割についてパネリストの方々からは、人々の生活や産業を守るための支援を行うことや、G7とアジアの橋渡し的な役割を果たすことが必要ではないかといった意見がありました。五百旗頭理事長は、「日本はウクライナ危機が起こったあと、米欧日の結束が戻ってきたことを鮮明にした」と秩序を守るために筋を通したことを強調しました。また、日本がウクライナに行える支援としては、地雷除去や創造的復興を挙げ、「『生き様に則ったよき役割』を果たせば良いというところなのではないか」と述べました。リベラルデモクラシーについては、人間がつくり出した制度の中では優れているものとし、「全体を大事にする中で、1人ひとりの人間を大事にするという認識を持っているものは、リベラルデモクラシーだけではないか。死なせてはならないものではないかと思っている」と述べました。

 

最後に、本学の太田勲学長が閉会挨拶し、「私どもは教育機関であるため、緊迫した現場の中に直接入っていくことはできないが、教育機関として、教育をしっかり行い、リベラルデモクラシーというものを本当の意味でつくっていく。そのためには、幅の広い見識と高い倫理感を持った人材を育成していく必要がある」と大学が持つ役割について述べました。

 

関連リンク

当日の国際シンポジウムの様子を下記のリンク先からご覧になれます。

・兵庫県立大学 公式チャンネルUniversity of Hyogo

国際シンポジウム(ウクライナ危機後の米中関係と日本-東アジアの安全と国際秩序の行方-)

 

 

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