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「電力先物取引について理解を深める」 兵庫県立大学政策科学研究所が中心となって企画した国際公共経済学会2022年度春季大会のシンポジウム「電気料金高騰への対応」を開催

3月4日(土)、兵庫県民会館において、兵庫県立大学政策科学研究所と関西学院大学産業研究所の共催で、第11回国際公共経済学会2022年度春季大会のシンポジウム「電気料金高騰への対応」が開催され、会場とオンラインあわせて約110名の方が参加されました。

 

現在、電気は市場において取引がなされていますが、電力市場は多様な形態で存在しています。その中で、再生可能エネルギーの比率が高まると、これらの市場において価格が高騰するため、リスクヘッジとして法人のみが参加できる電力先物取引のニーズが増大することが見込まれています。政策科学研究所では、電力先物取引の活性化に寄与することにより、電力の総合的な市場設計等に寄与していきたいと考えています。そこで、本シンポジウムは、電気料金高騰による企業破綻を食い止めるべく、電気料金高騰の原因をはじめ、理解が困難とされる電力先物取引について知ることのできる機会として、「電気料金高騰への対応」をテーマに行われました。

※電力先物取引…将来のある時点までの電力の売買価格を予め指定しておき、その時点では電力そのものの受け渡しは行わず、金銭の授受のみで清算する取引。

※リスクヘッジ…将来起こりうるリスクを予測し、それらを回避、低減できる対応や備えをしておくこと。電力市場では、先物取引を活用することでリスクヘッジを行うのが現実的であるとされている。

 

はじめに、情報経営イノベーション専門職大学学長で、国際公共経済学会 学会長の中村伊知哉氏から学会長挨拶がありました。

 

次に、太田勲学長から開催校挨拶がありました。太田学長は、挨拶の中で「当面の電気料金高騰にどう対応するかに加え、少し先の未来を考えたときに再生可能エネルギーというものが、非常に重要なものになってくると考える」と述べ、政策科学研究所ではエネルギー政策を基盤にした政策提言を行っていることや、工学部や理学部、水素エネルギー共同研究センター、高度産業科学技術研究所などとともに、文理融合で脱炭素社会に向けたエネルギー政策を見据えた技術開発を行っていることを紹介しました。

 

第1部 講演

基調講演では、2名の方にご登壇いただきました。

基調講演1では、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会 取引制度企画室長の東哲也氏から、「電気料金の高騰とその対応について」と題して、電力の小売料金についてと電力の卸価格について、大きく2つのパートに分けてお話いただきました。東氏は、昨今の燃料費の上昇を背景に、大手電力会社の各社とも電気料金の値上げ幅が大きくなっているといい、昨年11月から本年1月にかけて、3割から4割ほどの値上げについて各社から申請があったことを挙げられました。関西方面については、関西電力からは電気料金の値上げ申請は行われておらず、現時点で関西方面の生活者への直接的な影響はないと話されました。電気料金の高騰への対策としては、「『電気・ガス価格激変緩和対策事業』として、政府から事業者に対して補助を行う形で電気料金及び都市ガス料金に対する値引きを行っており、家庭用では1kWhあたり7円、月に400kWhの電気を使用する家庭であれば、2,800円の値引きがされていることになる。ぜひ一度、明細書で『こういった形で値引きがされているのか』というのをご確認いただきたい」と述べられました。

※kWh(キロワットアワー)…1kW(キロワット)の電力を1時間(h)消費したときの電気量のこと。

 

基調講演2では、国際公共経済学会前会長で、関西学院大学経済学部の野村宗訓教授から、「電力改革による競争が招いた弊害と求められる今後の政策」と題し、事業者や利用者の観点からお話いただきました。野村教授は、2016年の電力小売部門の全面自由化以降、電気料が上昇傾向にあり、課題解決に向けて方策を考えなければならない段階にあることを指摘されました。野村教授は、持続可能なエネルギー政策を実行するために、競争促進の限界の認識、料金凍結措置などの公的介入、社会政策的な観点からの消費者保護、イノベーション実装型の発電投資促進策、国際連係線を利用した広域経済圏の確立の5点について考える必要があると提言されました。

 

続いて、4名のパネリストの方々に講演いただきました。

まず、本学の政策科学研究所の中村稔特任教授からは、「最近の国際情勢と物価動向について」と題した講演がありました。講演の中で中村特任教授は、エネルギー問題を今後どのように考えていけば良いのかについて取り上げ、1970年代に2度発生したオイルショックの際に原油価格が約11倍に跳ね上がったときのことや、2011年の東日本大震災が引き金となって発生した福島第一原子力発電所事故などの過去の教訓を活かしながら、火力や水力、原子力、再生可能エネルギーといった様々な方法を組み合わせて発電させるエネルギーミックスを、それぞれのエネルギーが持つメリット・デメリットを踏まえ、バランスを取りながら行っていくことが大切であると述べました。

 

株式会社東京商品取引所 代表取締役社長の石崎隆氏からは、「わが国における電力先物市場」と題して、お話いただきました。石崎氏は、「取引環境を整備して、会計制度の問題や先物取引の理解促進を図っていくことが非常に重要だと考えている」と話され、事業者を対象にこれまで200回近くスクールを開催し、先物取引の必要性について少しずつ理解が進んできていることを紹介されました。最後に、取引を増やしていくにあたり重要なこととして、「エネルギー関連企業も含めて、経営トップ層に先物マーケットについてよく理解していただくことが重要である。先物というと、どうしてもマネーゲームという批判もあるが、それ自体はリスクヘッジを通じて価格の安定に寄与するものだと考えているので、こういったところの働きかけをしていくことが必要だと思っている」と話されました。

 

EEXグループ日本代表の高井裕之氏からは、「“Japan Power”as a Global Commodity ~グローバルな先物商品としての日本電力~」と題し、EEXの日本における3年間の歩みと現状や、欧州の知見を持ったグローバルな電力先物市場についてお話いただきました。EEX(European Energy Exchange)とは、欧州を中心に展開するエネルギー取引所のことで、ドイツでは1998年に電力自由化を行い、2001年に電力先物市場がつくられたといい、ドイツを中心とした欧州では、現物の電気とは切り離して、金融的な電気を取引する市場が発達していることを紹介されました。また、日本がコロナ禍に入る前に「日本での電力自由化にあたり、先物市場をつくっていきたいので、ドイツの知見を貸して欲しい」と経済産業省の担当者がドイツのEEXを訪問されたことを機に、2020年1月に日本への参入を決定されたことについて触れられました。高井氏は、「単に先物市場をつくるだけでなく、現物を含めた広義のマーケットを電力に携わるすべてのステークホルダーと一緒につくっていくというのがわれわれの企業理念『Building Market Together』である。ぜひ、EEXのマーケットに関心を持っていただきたい」と講演を結びました。

 

東北電力株式会社常務執行役員の土方薫氏からは、「なぜ電力会社が市場に向かうのか」と題して、電力会社における現在の姿についてお話いただきました。土方氏は「電力会社というと、保守的で何もしなくても儲かっていると思われている方が多いのではないか」と話を切り出されました。東北電力株式会社の場合、かつては新潟県と東北6県に電力を供給すれば良く、競争もなく、どれだけ電気を供給すれば良いのかも分かっており、電気料金についても消費者から一定の理解が得られていたといいます。ところが、2016年からの電力自由化によって、電気を購入する消費者も電力需要量も一定ではなくなり、過去の経験に基づいて電力供給を行うようになってから、需要と供給のバランスを取ることか難しくなり、様々なリスクが増え、リスクコントロールをしなければならなくなったことや、年間8,760時間かけて需給最適化を行っている現状などを紹介されました。

 

第2部 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、討論者の電源開発株式会社(J-POWER)顧問の内山正人氏から4名のパネリストの方々に向けて質問をされ、活発な議論が行われました。パネルディスカッションの中で中村特任教授は、リスクとの向き合い方について取り上げ、「日本には『リスクはできるだけ避けるもの』という風潮があるが、リスクをどのように取っていくのか、不透明なものに対してどのようにチャレンジしていくのかというマインドを持った取組を、国内でもっと増やしていかないといけないのではないか。特に学生も含めて若い人には、リスクをどうマネージしていくかということが、今後ますます大事になってくるということについて理解を深めて欲しいと思っている。それは、現実の社会のリスクをどのように最小化し、安定的に動かしていくのかということを考えるための手段の1つになる」と述べました。

 

最後に、政策科学研究所長の草薙真一教授から閉会の挨拶がありました。草薙教授は、「電気料金高騰への対応」というシンポジウムのタイトルについて、現在まさに電気料金の高騰が進んでいる状況であるとし、「電気に関しては、新しい燃料が出てきており、それらはまだまだ使われていないが、それらでもって、しっかりとした自信と確信を持って未来を変えていくことができれば良いなというふうに気持ちを新たにすることができた。また、極めて洗練された市場で電気が取引されることが大事である。電力・ガス取引監視等委員会がしっかりと監視する中で、取引が増大していくことと思う」と述べ、本シンポジウムを結びました。

関連リンク

兵庫県立大学政策科学研究所

関西学院大学産業研究所

国際公共経済学会

 

日本取引所グループの公式サイト内に、草薙教授による「日本の電力市場」「電力先物取引によるリスクヘッジ」に関する解説が掲載されています。下記のリンク先からご覧になれます。

JPX日本取引所グループ公式サイト「電力市場価格のリスクヘッジを可能にする電力先物とは」有識者へのインタビューコラム

 

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