3月6日(木)・7日(金)の2日間にわたり、神戸情報科学キャンパスにおいて兵庫県立大学データ計算科学連携センター及び情報科学研究科の主催で「お試しアカウント付き講習会『富岳』・スパコン超入門」を開催しました。
スーパーコンピュータ「富岳」に隣接し、大学スパコン「rokko」を所有-神戸情報科学キャンパス
データ計算科学連携センター及び情報科学研究科がある神戸情報科学キャンパス(神戸市中央区港島南町・ポートアイランド)は、世界有数の計算能力を誇るスーパーコンピュータ「富岳」を有する国立研究開発法人理化学研究所計算科学研究センター(RIKEN R-CCS)に隣接しており、R-CCSとの関わりも深く、「富岳」を活用した先端的な研究・教育を実施しています。また、本センター及び本研究科には、計算科学とデータ科学の教育研究基盤として大学独自でスーパーコンピュータ(通称:rokko)を有しており、公立大学としては教員・学生がスーパーコンピュータ(以下、スパコン)を利用しやすい環境となっています。
※スーパーコンピュータ…高速な演算機性能と大容量主記憶装置を持ち、大規模な並列計算が利用可能なコンピュータの総称。大学や国公立の研究所、企業など国内の様々な研究拠点に設置されている。
現在、本キャンパス内に設置されている大学スパコン「rokko」(シミュレーションシステム)は、2021年3月に導入された第3世代で、スパコン本体である計算機システムと可視化システムからなり、計算科学とデータ科学の融合により、様々な社会課題を解決する超スマート社会・Society 5.0の実現に寄与することとしている。
シミュレーションシステム
●HPE クラスタ型計算機システム
・CPUノード64 ノード2,560コア
・共有メモリーノード80コア
・NVIDIA V100×8
・NEC VE×82ノード
・高速アクセス用分散ファイルシステム2.9PB
●合計演算性能342.9TFLOPS
データサイエンス初学者を対象とした講習会
昨今、世間ではデータサイエンス教育へのニーズが高まりを見せ、従来からの計算科学をはじめ、社会シミュレーションやビッグデータ解析などの幅広い分野でスパコンが使われていますが、今後スパコンを利用すると期待される大学生や大学院生を対象としたスパコンに関する初歩的な教育は、あまり実施されていない現状があります。一方、R-CCSでは、大学生や大学院生等にまで、「富岳」の利用者のすそ野拡大を試みられています。こうしたことから本センター及び本研究科は、「富岳」や大学スパコン「rokko」を利用することのできる環境を活かし、また、R-CCSと公益財団法人計算科学振興財団(FOCUS)のご協力を得て、本学の大学院生と学部生(定員に余裕があれば教員も受講可)で、『Python』によるプログラミングの基本的な知識と経験を有する、データサイエンスと関連分野の初学者を対象に本講習会を開催しました。当日は、情報科学研究科・社会情報科学部の学生をはじめ、工学部・工学研究科、理学部・理学研究科、環境人間学部、社会科学研究科の学生・教員の24名が参加しました。
1日目の様子
ガイダンス
3月6日(木)の1日目は、はじめに情報科学研究科長の藤原義久教授によるガイダンスがありました。ガイダンスの中で藤原教授は本講習会の流れについて紹介し、「この講習会は、スパコンを全く触ったことのない方や、端末もあまりよく分からない方も受講できるようにしているので、何か分からないことがあれば、説明の途中でも積極的に手を挙げて聞いてほしい。プログラミングする際には、隣の人同士で聞きながらすることも大事なことで、『ペアプログラミング』と呼ばれているが、何か分かったことがあれば相互にシェアするなど、隣の席の人とどんどん話していただきたい」と話しました。
講義・実習「初めてのログインと操作」
続いて、本学の卒業生であり、現在はノートルダム清心女子大学情報デザイン学部(岡山市北区)の柳生光義助教から「富岳・スパコン超入門 スパコンへのログイン、端末操作やLinuxコマンドの基本などについて」と題し、「富岳」と大学スパコン「rokko」への接続の方法をはじめ、「ターミナル」と呼ばれる端末の操作方法、『Linux』と呼ばれるOSに対応したコマンドの簡単な使い方に関する講義がありました。
※端末(ターミナル)…他の機器と通信を行うために回線やネットワークの末端に接続する装置のこと。
※Linux(リナックス)…無料で使用することのできるオープンソースのオペレーションシステムの1つ。
※OS(operating system:オペレーションシステム)…パソコンなどのシステムを動かすために必要な基本ソフトウエアのこと。WindowsやMacOSがその例になる。
※コマンド…ユーザーがキーボードを通じてコンピュータやプログラムに与える指示のこと。
講義は、柳生助教による解説後に、受講者が本講習用に1人1台ずつ貸与されたパソコンを使って実習を行う形で行われました。実習は、2日間ともに操作のペースや理解度など、受講者全員それぞれの状況に配慮しながら進められ、本講義の前半に行われた「富岳」に接続する実習については約1時間かけて行われました。
講義の後半では、ターミナルでの操作や、ファイルを編集するためのアプリケーション「テキストエディタ」での編集方法などの基本に関する解説後、大学スパコン「rokko」への接続と、2日目の講義・実習に向けた準備に関する実習が行われました。実習の中で柳生助教から受講者に向けて「今は練習なので、少し失敗しても取り返しがつくので思い切ってやってみて欲しい」と声をかける場面もありました。
2日目の様子
講義・実習「初学者のためのスパコン利用超入門」
2日目の3月7日(金)の午前中は藤原教授が登壇し、「初学者のためのスパコン利用超入門」と題して、講義を行いました。講義の冒頭で藤原教授は、自身が計算機を使い始めた博士研究員時代のエピソードを取り上げ、「偶然前の席に座っていた人が計算機のことを非常によく知っている人で、いろいろ聞くことができた。彼のおかげでなんとかデータサイエンス系の計算機を使えるようになったが、ときどき彼に『これはどういうふうになっているの?』と質問して、『マニュアルに書いてあるよ』と、ひとこと言われて終わってしまうこともあった。マニュアルに書かれているとはいえ、最初はどこに何が書いてあるのかも分からないもので、例えば、スパコンのスペックを見た際に、そこに記載されている『ノード』『コア』というものが何なのかが分からなければ、これらの何がありがたいのか全く分からない。最初に勘どころをつかんでおくことが大事で、ここが分かれば、あとはマニュアルを見れば分かると思うので、今日はそうした話をメインに進めていきたい」と話しました。
デスクトップパソコンの本体の蓋を開け、中がどうなっているのかをカメラで観察。ファンの下にパソコンの一番重要な部分であり、制御や計算を行うCPU(Central Processing Unit)がある。「自分でパソコンを開けてみたい人は、今の時期は静電気があり、電子部品を触ると壊れる可能性があるので気をつけてください」と藤原教授から注意があった。
また、藤原教授は、「富岳」や大学スパコン「rokko」の利用の際には「スパコン利用の精神」が必要であるとし、「スパコンと普通のパソコンの使い方の大きな違いの1つに、スパコンは四則演算の計算をする『コア』の数が圧倒的に多く、その巨大な計算資源を利用できるという点があり、パソコンでできないことが可能になる。ただし、スパコンは日本国内をはじめ、世界中の人が使っており、非常に多くのユーザーと共有しているものなので、『自分だけのものではない。行列に並んで、順番を待つ』という意識が必要である」と説明しました。加えて藤原教授は、特に「富岳」については年度末という時節柄、非常に混み合っている中で、本講習会においてはR-CCSのご厚意により、計算資源の一部を優先的に占有させていただいていることを紹介しました。
「富岳」見学ツアー
午後には「富岳」見学ツアーが行われ、R-CCSの方々にご案内いただきました。見学ツアーでは、「富岳」ができるまでの歴史などを紹介した動画を視聴後、質疑応答の場を設けていただき、最後に「富岳」を見学しました。
講義・実習「機械学習におけるスパコン利用超入門」
「富岳」見学後には、情報科学研究科の沼田龍介教授が登壇し、「機械学習におけるスパコン利用超入門」と題した講義が行われました。受講者は、沼田教授による解説後、実際に「富岳」または大学スパコン「rokko」にログインして、スパコン上で機械学習フレームワーク「PyTorch」を用いての画像分類の作業を体験しました。
沼田教授は、スパコンで計算する上で大切なこととして「今回のジョブの設定、あるいは他のジョブについても、スパコンでは一度で使うことのできる最大実行時間というものが決められており、実行時間を過ぎると強制終了になる。30分や長くて1日、1週間かかるというものもあるかも知れないが、実際に実行したい計算が予定していた時間内に終わらないことは往々にしてある。その場合は、一旦その時点で計算を終えて状態を保存し、次回、そこからもう一度スタートして計算を継続していくことになる」と説明しました。
最後に沼田教授は、「今日の講習会を通じて、少なくともそんなにプログラムを書かなくても誰でも簡単に機械学習を始められるということを体験していただけたと思う。また、『富岳』や大学スパコン『rokko』といった高性能計算環境があれば、大規模計算も可能となり、大量のデータを使って新たなモデルをつくることもできるので、ぜひプロジェクトを立ち上げて、『富岳』や大学スパコン『rokko』に利用申請していただければと思う。最後に、『よいプロジェクトのために』ということで、簡単に誰でも機械学習ができるようになってきたということは、チープなものになる可能性も高い。問題設定をより工夫するなど、みなさんの独創性が必要になってくる。機械学習を使って、どのようなことをすると、多くの人たちに喜ばれるのか、楽しんでもらえるようになるのかということを考えていただきたい」と述べました。
なお、本講習会で受講者のみなさんに付与された大学スパコン「rokko」及びSSHサーバーのアカウントについては3月末まで、「富岳」のお試しアカウントについては6月末まで使用可能となっています。
・情報科学研究科
・理化学研究所計算科学研究センター公式サイト 「富岳」について
(https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku/)
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