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兵庫県立大学高度産業科学技術研究所主催「ニュースバルシンポジウム2023」を開催しました

3月13日(月)、イーグレひめじで、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所主催による「ニュースバルシンポジウム2023」を開催しました。

 

高度産業科学技術研究所は、世界的な科学技術拠点が集積している播磨科学公園都市内に位置(兵庫県赤穂郡上郡町光都)しており、光科学技術を中心とした先端かつ独創的な研究の推進と、兵庫県下の企業等との共同研究等による新産業技術基盤の創出を図り、産業支援を通して人と環境に調和した社会の発展に貢献することを目的に、本学の附置研究所として1994年4月に設立されました。本研究所は、国内の大学が所有する放射光施設では最大規模となる中型放射光施設「ニュースバル」を有しており、産業利用と基礎研究の両輪で運営しています。ニュースバルでは、物質との反応性が高い軟X線領域の放射光を用いており、高輝度で、可視光の約400倍~1,000万倍明るく、物質の構造や電子状態の観察を可能にします。特に、半導体用超微細加工や次世代電池技術、先端化学分析・構造解析技術、医用の微細加工技術の開発を進めています。また、教育面では、工学部機械・材料工学科及び工学研究科材料・放射光工学専攻に属し、放射光を利用した研究開発を学ぶことができます。

 

本研究所では、1年間の研究成果を報告するとともに、産業界や大学を含めた他の研究機関とのさらなる連携、情報交換、交流の場を提供することを目的に、ニュースバルシンポジウムを開催することとしています。新型コロナウイルス感染症の影響により2019年を最後に開催できない状況が続いていましたが、今年は対面で開催することとなり、当日は学生をはじめ、本研究所に所属する教員と共同研究をされている企業の方々や他大学の教員の方、一般の方など、約120名の方に参加いただきました。

 

はじめに、学長特別補佐で、高度産業科学技術研究所の渡邊健夫所長特別補佐から開会の挨拶がありました。渡邊所長特別補佐は、挨拶の中で本研究所の取組について紹介し、「これから水素社会に向けての取組や、今話題になっている半導体や電池に関する取組の中で、放射光の重要性が増している状況にある。特に半導体については、米中の摩擦などにより世界的に不足しており、米国から日本に対して半導体に関する協力要請があったところである。その中でわれわれは、日本の半導体復活に向けて舵を切っていく必要があり、国家安全保障や経済安全保障の観点からも非常に重要な立ち位置にある。ニュースバルでは、分析、加工、資源・光源の開発と、大きく分けて3つの分野で基礎研究と産業利用による支援をさせていただいている。官民学が一体となってこれらを推進し、日本の科学技術の向上、しいては経済発展のために尽くしていく必要があるという思いである」と述べました。

 

続いて、高度産業科学技術研究所の鈴木哲所長から、「高度研2022年度のあゆみ」と題して、ビーム物理学、放射光ナノ工学、機能性マテリアル物性、ナノマイクロシステム、ナノ構造科学の5つの分野における研究内容について紹介がありました。

 

基調講演

基調講演には、惑星の大気やプラズマについて、飛翔体及び地上からの観測に基づく研究をされている宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 太陽系科学研究系教授の佐藤毅彦氏を講師にお招きし、「『あかつき』の見た金星のウラ側」と題して、ご講演いただきました。しばしば「地球の双子星」と呼ばれる金星は、「宵の明星」「明けの明星」とも呼ばれ、古くから私たち人類に親しまれている惑星ですが、物理観測や惑星探査を行っていく中で金星に対する人類の認識がどのように変化していったのかについてや、金星探査機「あかつき」が打ち上げられた後の研究過程において苦労されたことなどについてご紹介いただきました。講演の最後に佐藤氏は、「世界は、再び金星を目指している。それは、やはり金星と地球は表裏の関係にあるからだと思う。不自由なコロナ禍ではあるが、オンラインを利用するなどして他国の研究者と議論を続けてきた。その中で、国際協力をして『金星のウラ側』を調べていこうということになっている。そのためにも『あかつき』を長持ちさせて、人類に貴重なデータを蓄積していきたい」と話されました。

 

一般講演

講演1では、渡邊所長特別補佐から「ニュースバルにおけるEUVL基盤技術開発の現状と今後の展開」と題して、世界の半導体市場の現状及び今後の予測、EUVLの効果・必要性、EUVLの技術課題、技術課題の解決に向けた取組、BEUVL(Beyond EUVL)の可能性、日本の半導体復興について講演がありました。渡邊所長特別補佐は日本の半導体復興に向けて、「10兆円を投資することと、半導体デバイスを製造する環境と新たなマーケットの創出を図ることが重要であるが、まだまだ多くの課題がマーケットも含めてある」と述べました。

※EUVL…先端半導体微細加工技術であるEUVリソグラフィー(Extreme ultraviolet lithography:極端紫外線リソグラフィー)のことを指す。13.5㎚(ナノメートル)という非常に短い波長の光(極端紫外線)を用いた露光技術。

※Beyond EUV(BEUV)…EUVLで用いられている波長が13.5㎚に対して、波長を約半分の6.7㎚を用いることで、3㎚級の微細加工を目指している。

 

続いて、講演2ではマツダ株式会社 技術研究所 主幹研究員の國府田由紀氏から「マツダの材料分析における放射光の活用とデータ解析による高精度化」と題して、マツダ株式会社の概要、材料MBRの取組、放射光分析活用例について、ご講演いただきました。

※材料MBR…材料モデルベースリサーチ。マツダ株式会社では、価値につながる機能を材料のメカニズムに基づいたモデルによって創出する取組を推進している。

 

講演3では、本学の理学研究科の田中義人教授から、「ニュースバルにおけるレーザーシーディング法を用いたコヒーレント短パルス光の発生」と題して、究極の超短パルスについて、モノサイクルFELの実現方法、進捗状況の概要、コヒーレント光の発生とその評価について、講演がありました。田中教授は、「われわれは、ニュースバルを使って、レーザーシーディングによる短パルスコヒーレント光を発生させることに成功した。今後は、より正確にパルス時間幅を計測できる測定系の開発・製作を進めるとともに、より強いコヒーレント光が発生する条件を探索していく」と話し、「ニュースバルに新しい光を」と力強い言葉で講演を締めくくりました。

※コヒーレント…波動が互いに干渉し合う性質を持つことを表す。

※(超)短パルス光…1つのパルス幅(時間幅)がサブフェムト秒~ピコ秒と非常に短いパルスの光のこと。(1フェムト秒=1000兆分の1秒、1ピコ秒=1兆分の1)

 

講演4では、住友電気工業株式会社 解析技術研究センター先進解析・開発グループ グループ長の飯原順次氏にご登壇いただきました。飯原氏からは、産業界の立場から、放射光利用の意義と中小規模の放射光施設への期待について、「製品開発における放射光活用事例」と題し、住友電気工業株式会社と住友電工ビームラインの紹介、放射光の活用事例として、金属・樹脂材料の結晶性評価、半導体材料の表面・界面解析、非破壊での深さ分布解析について、ご講演いただきました。

 

講演5では、NECネットワーク・センサ株式会社 マイクロ波管本部技術部主任の笠原明彦氏から、「300GHz 帯進行波管の開発」と題して、開発の背景、進行波管(TWT)の概要、300GHz帯FWG形TWT、開発状況、高性能化への取組、RF(無線周波)損失の低減、電子ビーム透過改善について、ご講演いただきました。

※GHz(ギガヘルツ)…周波数や振動数を表す単位で、1GHzあたり毎秒10億回の周波数を表す。

※進行波管(TWT: Traveling Wave Tube)…マイクロ波を増幅する電子管(真空管)の一種であり、小型、軽量、広帯域という特徴から通信やレーダなどの無線システム等に利用されている。

 

特別記念講演

特別記念講演では、今年度末をもって本学を退官された元高度産業科学技術研究所 准教授の庄司善彦氏が登壇されました。「ニュースバルにおける加速器研究と教育」と題して、ニュースバルの性能改善(ビーム寿命)や、加速器の研究(THz光源)といった庄司氏の研究内容の紹介と、大学院で庄司氏が行っていた電子蓄積リング論の講義や、基礎ゼミナール(日本語作文)など、庄司氏の近年の教育活動における取組について講演がありました。庄司氏は、自身が行ってきた教育活動について、学生が楽しく勉学を進められるよう講義の構成を組み立てていたことや、「仕事に就いたときにこれは役に立つよ」といった具合に、「大学や大学院で身につけた知識を役立てている未来の自分」を想像できるよう誘導していたことなどを紹介しました。また、講演の最後には、庄司氏への花束贈呈が行われました。

 

ポスターセッション

本シンポジウムでは、学生及び共同研究者によるポスターセッションが行われ、会場には多くの来場者が訪れ、活発な交流が行われました。

 

ポスターセッションは、本学内外の学生へ研究発表の場としても設けられたもので、学生ポスター賞を設置し、来場者の方に印象に残った学生のポスターを1点選んで投票していただきました。投票結果をもとに受賞者を決定し、シンポジウム内で授賞式を行いました。

左から廣瀬昂祐さん、平川悠人さん、藤本羽海さん、福田剛士さん

 

 

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