記事検索

  • 学部・組織・所属

  • 記事のテーマ

  • 記事のタイプ

「医療安全の向上に資する機器開発のための医産学連携プラットフォーム設置記念シンポジウム」を開催しました

11月16日(木)、アクリエひめじにおいて、先端医療工学研究所主催、兵庫県立はりま姫路総合医療センター、日本医工ものづくりコモンズ、神戸リサーチコンプレックス協議会の共催で「医療安全の向上に資する機器開発のための医産学連携プラットフォーム設置記念シンポジウム」を開催しました。

 

医療機関には多くのリスク要因が存在し、医療安全の向上が最重要課題となっています。そこで、先端医療工学研究所では開設2年目を迎え、新しい医産学連携の取組として包括連携協定を締結している兵庫県立はりま姫路総合医療センターとともに、この11月に「医療安全の向上に資する機器開発のための医産学連携プラットフォーム」を新設し、医産学官が連携したオープンイノベーションにより、医療安全の向上に資する機器開発に取り組むこととなりました。本シンポジウムは、これを記念し、また、一緒に機器開発に取り組んでいただける医療機関、企業、大学を募ることを目的に開催されました。

 

シンポジウムの様子

はじめに、畑豊副学長による開会の挨拶がありました。畑副学長は「このプラットフォームは、兵庫県立はりま姫路総合医療センターにお世話になりながら実施するもので、大学からは本学と名古屋大学、藤田医科大学、大阪大学、企業からはオルバヘルスケアホールディングス株式会社、シスメックス株式会社をはじめ、数社にメンバーとして入っていただいている。本日は、さらに医療機関、企業、大学にこのプラットフォームに参加していただきたいという趣旨でシンポジウムを開催させていただく」とシンポジウムの開催趣旨を紹介しました。

 

続いて行われた基調講演では、4名の方々にご登壇いただきました。

まず、兵庫県立はりま姫路総合医療センター 院長補佐(医療安全)の酒井哲也氏から「医療事故・インシデントの現状-当院事例の分析と取り組み-」と題してお話しいただきました。講演の中で酒井氏は、兵庫県立はりま姫路総合医療センター内における医療事故及びインシデント(ヒヤリ・ハット)事例の直近1年間の報告件数と、兵庫県立はりま姫路総合医療センターと全国の医療機関における事例の内容別および職種別の報告件数割合を紹介され、全体的に医師からの報告件数が少ないことについて言及されました。その理由について酒井氏は、医学部での医療安全に関する教育は2001年以降から始められており、現在、医療機関内で若手医師を指導する立場にある医師が医療安全に関する教育を受けていないことや、多くの医師によるエラーが他職種の職員によって未然に防がれ、結果として医師自身のミスと認識されていないことなどを挙げられ、「医療安全に対する考え方を少しでも変えていくことが、私たち医療安全部の使命と考えている」と話されました。医療安全の向上に向けての具体的な取組としては、人に頼らなくてもよいシステムを導入し、機械により判断を行うことで医療事故につながるようなヒューマンエラーを減らす取組が進められていることを紹介され、「ヒューマンエラーを前提とした機器の開発が必要であると考えている」と話されました。

※インシデント(ヒヤリ・ハット)…医療の過程で誤りがあった、あるいは誤りが発生しかけたが患者に影響を及ぼすことなく、医療事故に至らなかった事例のこと。

 

次に、オルバヘルスケアホールディングス株式会社 代表取締役社長の前島洋平氏から「医療機器販売業からみた医療安全の現状と課題」と題して、医療安全と医療機器、医療機器販売業参加型医工連携、医療安全のリスク分析についてお話しいただきました。前島氏は、「医療機関には様々な方が働いておられ、様々なニーズがある。そのような状況の中で医療機器を開発していく上で何を考えていくのかについては、効果や汎用性、実現可能性、市場性、さらにはビジネスとして成り立つのかといったことを考える必要がある」と話されました。最後に前島氏は「医療機器開発の原点は、医療現場のニーズと課題を解決することで、医療安全については、現状・現場の課題を把握する必要がある。医療安全のリスク分析なども有効に活用していくことが求められるのではないかと思う。医工連携では、各プロセスで効率的に様々な支援を活用し、連携することが重要である。本プラットフォーム事業の今後の発展性に期待している」と話され、講演を結ばれました。

 

シスメックス株式会社中央研究所 所長の佐藤利幸氏からは「医療機器開発における医療安全への取り組み」と題し、医療機器開発メーカーとしての医療安全に対する様々な取組について事例を交えながらお話しいただきました。佐藤氏は、シスメックス株式会社の本業である検体検査の領域における医療安全に関する取組で、特にお客様の安全・安心のためにどのような取組がなされているかについて言及され、「お客様への安心とは何かというと、今2つ考えている。1つは、われわれの出す結果が信頼できるものであるかということ。もう1つは、われわれの装置を使う医療従事者の安全をどう担保するのかということである。この2つを追及し続けて辿り着いたのが、今の最新の装置に採用している『フルオートメーション化』である。検査の過程すべてを装置で行うことで、結果の信頼性を担保し、医療従事者への安全を担保する。こういった観点ですべての装置の機器開発を進めている」と紹介されました。最後に佐藤氏は「このプラットフォームが医療機関、大学、産業を結びつけ、さらなる医療安全に資する価値をつくり出すことを期待している。シスメックスも、いろいな形で貢献したいと思っており、検体検査部門で価値を創出していくように努めていきたいと思う」と話されました。

 

経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室長の渡辺信彦氏からは「国内外の医療機器産業の現状について」と題してお話しいただきました。渡辺氏は講演の冒頭で「まさしくわれわれが『ぜひやっていただきたい』と考えていることを1つずつ、この姫路の地で実現していただきたいと考えている。われわれとしても、できる限り支援をさせていただきたいと考えている。この講演でお話しさせていただくことをぜひ活用いただいて、開発を進めていただきたい」と話されました。医療機器開発について経済産業省が期待していることとしては、日本国内における医工連携を踏まえてのイノベーションやスタートアップの展開をはじめ、ソフトウエアを使った医療機器の開発、医療従事者の業務の効率化や負担軽減につながる医療機器の開発などを挙げられました。最後に渡辺氏は、経済産業省で医療機器産業のビジョンを議論する研究会を立ち上げられていることを紹介され「研究会では、イノベーションの促進、さらにその国際展開といったものについて、どのようなものが必要になってくるのかといったことを議論している。残念ながら、日本の医療機器産業としての市場が大きく成長していくのかということに関しては、どうしても人口減少といった社会情勢を踏まえて考えれば難しいのではないかと考えている。国内のイノベーションをどのようにして活発化させるか、そのイノベーションを最終的にどのように儲けにつなげていくのかというところが大事なのではないかと考えており、議論を進めているところである」と話されました。

※スタートアップ…先進的な技術やアイデアを強みに、短期間で新しいビジネスを創出し、圧倒的な成長率で事業を展開する企業のこと。

 

基調講演後、プラットフォーム構築の趣旨説明と医療安全に関するアカデミアシーズの紹介がありました。

まず、先端医療工学研究所の小橋昌司所長から「医療安全の向上に資する機器開発のための医産学連携プラットフォーム構築の趣旨説明」と題して講演がありました。小橋所長は講演の冒頭で「医療安全の向上というものを考えたときに、『医療』と『工学』にはまだまだ大きな乖離があり、エンジニアが新しい機器をつくったとしても、実際にそれが医師の方々に使っていただけるのかというのがある。真の医療ニーズに対応できない、ミスマッチの大きな原因は、本当の現場を知らずにものづくりをしているところがあるからだと分かった」と指摘、さらに「病院が所有しているインシデントレポートには機微な情報が含まれるなど、情報の公表・共有にあたっての課題がある。複数の企業が共有できる急性期・リハビリ期・回復期・慢性期といった全てのタイプの病院のインシデントデータベースの構築・運営、そして、異文化融合によるオープンイノベーションによって、独創的な発想が必要と考える」とし、プラットフォームの設立に至った経緯を紹介しました。プラットフォームの仕組みについては「多様な規模・タイプの医療機関に多く参加いただきたい『医療安全病院コンソーシアム』では、医療機関がお持ちのインシデントレポートをご提供いただいたり、インシデント情報や環境情報の収集支援機器のモニタリング、われわれが集めていくビッグデータをもとに医療安全を向上させる仕組みを一緒につくっていきたいと考えている。ものづくりの企業やアカデミア、医療機器販売業等の方々に入っていただきたい『医療安全研究開発コンソーシアム』では、インシデントレポートに加えて、電子カルテなどの医療情報や、インシデント発生に至る患者の行動などの情報を収集し、これらのデータベースを活用して新しい医療機器を開発していくというものである」と紹介しました。最後に小橋所長は「これらは、医療安全を向上させるために病院と企業が一緒に活動するという場をアカデミア(本研究所)が提供させていただくというものである。これにより、独創的な機器開発を進めていければと考えている。そして、このプラットフォームのユニークなポイントは、インシデントレポートのデータ収集のみでなく、病院の情報と連携して、インシデント発生に至るプロセス自体の観察を可能にすることで、根本的な医療安全向上を目的にしているところである」とプラットフォームへの参加を呼びかけました。

 

先端医療工学研究所の八木直美准教授からは「IoMT・AIを活用した医療安全に資する機器・システム」と題して、医療工学の研究シーズである「チューブ抜去モニタリング」「エッジAIによる離床行動予測」の内容について講演がありました。そのうち、AI画像信号処理に関する研究について八木准教授は「人工知能、画像処理、信号処理、統計処理などにより、医療の質、安全性を高めるための医師の診断治療の支援、個別化医療、予測医療を推進している」と医療安全向上に向けての研究であることを紹介しました。

 

本学看護学部の築田誠講師からは「人工呼吸器装着患者を安全にケアしていくためには ~看護師の確認だけでは守れません!~」と題し、看護師が人工呼吸器装着患者に対して実際にどのような管理・看護を行っているのかについて講演がありました。築田講師は、人工呼吸器装着患者に関するヒヤリ・ハットやインシデントは看護師が起因となっている事案が多く、看護師が細やかに人工呼吸器装着患者のケアを行うなど「原始的な方法で患者を守っているのが現状である」と紹介し、「安全に機械やチューブの管理をするために多くの時間と労力を要している。工学や情報学の力を借りて、遠隔監視や呼吸状態と生体モニターの連動、そして、異常が発生する前に知らせてくれる異常アラームを開発するなど、人工呼吸器装着患者の安全管理と看護の質の向上を目指したいと考えている」と述べました。

 

本プラットフォームに参加いただいている藤田医科大学医療科学部の西垣孝行准教授からは「医療安全向上のための異分野融合(デザイン思考とアート思考)」と題した講演がありました。西垣准教授は「ファインプレーを写真で集める」ということを医療従事者に勧めていると述べ、「医療安全にはSafetyⅠとSafetyⅡの2種類あり、SafetyⅠというのは、顕在化された問題を解決していくというものである。SafetyⅡというのは、誰かがファインプレーをしてくれたからトラブルに発展しなかったものである。大事に至らなかったときというのは、誰かがファインプレーをして止めてくれている。そのファインプレーをしたときに、いつ、誰がどんなファインプレーをしたのかという記録がほとんど残されていないので残していこうというものである」と紹介され、「ファインプレーをたくさん起こしている人を表彰してあげるというような文化をつくっていくと、医療現場の問題がもっと見えてくる」と話されました。

 

最後に、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの木下芳一院長から閉会の挨拶がありました。木下院長は「起こったインシデントの原因について考えを巡らせると、医師や看護師、看護助手がインシデントを起こさないよう注意すべき点がどんどん増えていく。ものすごい数のチェックリストができて、毎日ものすごい数のチェックが行われているが、それでも起こってしまう。それはなぜか。インシデントレポート・事故調査報告書に書かれることでは情報不足だからだ。もっと正確な多くの証拠を集積していく必要がある。このような情報を集積するために、いろいろな企業の方やアカデミアの方から技術を出していただいて、より正確な情報を収集し、それらをきちんとデータベース化して未来の利用ができるようにする。何が原因で起こったのか、どういう状況で起こったのかというのが明確になるようにしていく。その目的でつくられているのが今回のプラットフォームではないかと思っている。このプラットフォームで多くの方にご協力いただき、多くの情報が集まり、医療事故が起こる実態を改善するための医療機器や医療器具の開発が行われることを期待している」と話されました。

 

COPYRIGHT © UNIVERSITY OF HYOGO. ALL RIGHTS RESERVED.