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「デジタル技術が医療・看護現場をどう変えるか~メタバースに集おう~」 兵庫県立大学同窓会けやき会主催の講演会が開催されました

5月14日(日)、明石看護キャンパスにおいて、看護学部の前身である兵庫県立看護大学の1期生で現在は神戸大学医学部附属病院看護部教育担当副看護部長として活躍されている、けやき会会長のウイリアムソン彰子氏による講演会が兵庫県立大学同窓会けやき会の主催で開催されました。

 

兵庫県立大学同窓会けやき会は、同窓生相互の親睦を図るとともに、同窓生の進歩と母校の繁栄発展に寄与することを目的に、兵庫県立看護大学の1期生が輩出された1997年に発足し、現在に至ります。けやき会の名称は、明石看護キャンパスのシンボルとして開学時から学生とともに成長を続けてきた欅並木が由来となっています。

けやき会では例年、看護学部の学部祭である「欅まつり」の開催に合わせて、講演会及び総会を開催しています。2020年からは新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために対面形式ではなくオンライン形式で開催されてきましたが、今年は対面とオンラインを併用して開催され、在校生・卒業生・教職員を対象に行われました。

ICTを看護の教育現場へ

政府により緊急事態宣言が発令された2020年4月7日以降、社会生活におけるあらゆる面で状況が一変し、私たちは様々な苦難に対する対応に迫られました。看護の教育現場においても新型コロナウイルスの影響を受け、医療機関や地域施設での臨地実習の中止や縮小を余儀なくされました。このような事態の中、IT(Information Technology:情報技術)、VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)といったICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)が急速に進歩し、これらの技術を使うことで、実際に対面で会わなくても人と人とがつながることが可能となりました。

本講演会では、看護の教育現場でIT、AR、VRをいち早く導入して活用されていたウイリアムソン氏から、「デジタル技術が医療・看護現場をどう変えるか~メタバースに集おう~」をテーマに、医療や教育の現場でICTをどのように活用できるかについて話題提供がありました。

感染症の影響を受けない実習環境の整備-模擬カルテを制作

ウイリアムソン氏が勤務する神戸大学医学部附属病院では、2020年4月の緊急事態宣言発令後、いち早く入院患者への面会の禁止が決定されました。ウイリアムソン氏は、「年間延べ6,000人を超える学生の実習受け入れを予定している中、立ち入りの再開の目途がない。学生が院内に入れないことを前提に、実習をどう対応するか」という課題に迫られました。そこでウイリアムソン氏は、感染症の影響を受けない実習環境を整備すべく、自宅や学内でも臨地で実習しているときと同じように患者の情報を得ながら看護計画の展開方法を臨床指導者とのカンファレンスを通じて学ぶことのできる、インターネットで学生と指導者をつなぐ模擬カルテのプログラムを制作されました。模擬カルテのプログラムは、プログラミングが得意な学内の他学部の大学院生に制作を依頼、2か月弱で初版のプログラムが完成し、2020年6月からこのプログラムを使用してのオンライン実習が開始されました。2020年10月に学内のイノベーションファンドを獲得、大学院生が制作したプログラムをベースにセキュリティが高いプログラムの制作をプロの業者に依頼され、現在はその際に制作されたプログラムを使用されているといいます。さらに、2021年度には文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択され、その研究費を使って模擬カルテの追加の教材として、遠隔から学生が看護・病態関連図を作成しながら共同学習できるプログラムアプリと、バーチャル空間の中で急変対応のトレーニングをする教材を開発されました。2022年度には外部の関係機関から研究費を獲得され、現在も模擬カルテの教材開発の研究を続けられています。

ウイリアムソン彰子氏(手前の機材でリアルタイムにホログラム化できる)

 

模擬カルテのプログラムに組み込まれている事例は、神戸大学医学部附属病院の34名の看護師の方々が総動員で準備されたものを使用されています。模擬カルテの特徴は、学生がどこからでもアクセスできること、学生が記録を提出したり、アンケートに回答したり、指導者とやりとりするなど、指導者と学生の双方向性を重視していることなどが挙げられ、夕方に1時間ほどオンラインでカンファレンスを行う機会を設けられていました。しかし、患者に直接会うことができない、学生が個々で学習しているという課題があったため、VRの教材を開発されたといいます。開発されたこれらの教材を使用しての実習の効果について、実習に参加した学生のアンケートでは、看護過程の展開に関する項目の達成度が高かった一方で、術前・術中・術後に関する項目の達成度が低く、「実際に現場を見ないと分かりにくい」との意見があったことから、ウイリアムソン氏は「システムで解決するところもあるのではないか」と考え、教材を改良されていることを紹介されました。実習の満足度についても、「従来の臨地実習に参加していた学生と比較すると、オンラインで参加していた学生も『満足度は下がっていない』という結果が出ている」と紹介されました。

VRを使用したトレーニング

VRの教材は、急変対応を経験していない新人看護師を対象とした実習で使用されているといい、ゴーグルの着用の仕方、メタバース空間への集合の仕方が分かれば自宅からでもトレーニングに参加することが可能であるといいます。講演会では、実習で使用されているメタバース空間内での急変シミュレーションの映像が流され、実際にどのようなトレーニングが行われているかの紹介がありました。その中で、VRを使用した実習では「末梢に触れることが難しい(循環・冷感・湿潤)」という課題があり、解決に向けて研究チームで検討されていることにも言及されました。

実際に実習で使用されているVRの映像

 

本講演会では、メタバース空間を使って行われた、けやき会歴代会長5名による座談会の映像の上映や、最新のVRのトライヤル技術を使った実証実験も行われました。「現在もオンラインで患者と医師が会話をすることは可能だが、この技術の社会実装が実現すれば遠隔診療が可能になる。ただ、こういう技術ができてくるということは、アバターやホログラムの取り扱いをどうするかという倫理の面も考えていかなければならないと思う」とVRの可能性と課題について言及されました。
ウイリアムソン氏は、「私たちは、コロナ禍で大変な3年間を過ごしたが、失ったものばかりではなく、得たものもあったように思う。教育についても、多くの資金、研究費や補助金がついたことで、環境を整えることができた。VRもコロナのことがなければ、ここまで加速度的に取り組むことはなかったと思う」と話されました。
※アバター:ゲームやインターネット上で自分の分身として表すキャラクターのこと。
※ホログラム:物体の3次元像を記録した立体写真のこと。

最新のVRトライアル技術を使った実証実験の様子。
ウイリアムソン氏は実際には別の場所に居ながらも、スクリーンに映し出されているメタバース空間上に設けられた会場の教室内では、点線で囲んだ位置(扉の横)に居る状態になっている。

必要は発明の母

最後にウイリアムソン氏は、「私がこの3年間でつくってきた教材も、必要に迫られ、追い込まれてつくった教材で、『Necessity is the mother of Invention.必要は発明の母というのは、まさにこのことだな』という状況だった。兵庫県立看護大学・兵庫県立大学看護学部が私たちを育ててくださった意義は、『これからの看護のために何が必要なのか』ということをそれぞれのフィールドで活動している卒業生たちが見つけ、それをまた、卒業生のネットワーク・輪を拡げながら議論し解決していくことで、それらを実現できれば良いなと思っている。その中で、けやき会の活動も非常に重要なものになってくると思っている。みなさんも、けやき会のネットワーク、同期会のネットワークを保っていただき、また、みなさんと顔を合わせられる日を楽しみにしている」と講演を結ばれました。
講演会の最後に、看護学部長の工藤美子教授と本学の副学長でもある坂下玲子教授からの参加者に向けたメッセージ動画が上映され、本年の12月23日(土)に明石看護キャンパスで開催が予定されている兵庫県立看護大学・兵庫県立大学看護学部開学30周年、地域ケア開発研究所開所20周年合同記念式典での再会を願い、閉会となりました。

 

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