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「贈りもの(純粋贈与)と生命保険」 政策科学研究所長 田中 隆教授

本学ではラジオ関西との共同企画で、教員が取り組む先進的・特徴的な活動を広くPRするために、毎月1回本学の教員が、ラジオ関西番組「水曜ききもん」にてパーソナリティと対談形式で紹介しています。

 

6月7日(水曜日)放送の「水曜ききもん こちら兵庫県立大学です!」に登場するのは、政策科学研究所長の田中 隆(たなか たかし)教授です。

 

今回のテーマは、「贈りもの(純粋贈与)と生命保険」

田中教授の専門は、「保険論、リスクマネジメント論」です。

 

脱炭素社会の「未来」をデザイン-政策科学研究所

田中教授が所長を務める政策科学研究所は、5つある本学の附置研究所の1つで、70年を越える歴史を持ち、神戸商科キャンパス内に位置しています。本研究所では、脱炭素社会の構築を基盤とした豊かな未来を創造していくことを大きなテーマに掲げています。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で複雑化しているエネルギー問題や、気候変動といった世界が抱えている大きな問題の解決に向けて、ユニバーシティという場で、文系・理系という区分に捉われずに様々な分野・領域を融合させ(文理融合)、有機的につないでいきながら、シンポジウムの開催をはじめとした研究活動や、社会に向けて政策提言を行っています。また田中教授は、政策科学研究所の所長という顔を持つ一方で、自身の専門である保険論とリスクマネジメント論に関する研究を続けています。

6月7日の放送された番組内で、6月16日に開催された兵庫県立大学政策科学研究所シンポジウム「メタネーションがある未来」を宣伝

 

見返りを求めることのない贈りもの-「純粋贈与」

今回のテーマにある「純粋贈与」という言葉は、普段の日常生活の中ではなかなか聞き慣れない言葉ですが、逆に、身近ではごく当たり前のように展開されていることだと田中教授は言います。「純粋贈与とは、『見返りを求めない贈与』ということになります。私たちの生活の場面でいうと、例えば、お中元やお歳暮には見返りが伴っている。『貰ったら何かお返ししないといけないな』と思いますよね。これは贈与交換といいます。もう少しお話しすると、飛騨の合掌造りは、20年から30年に1度、茅葺き屋根の茅を替えないといけない。あの作業は、地域の方がお互いに労働力を供出して、助け合ってされています。それは1つの美しい例ですが、自分の家の屋根を葺いてもらったら『次は〇〇さんの家をやらないといけないな』という風に考えると思います。純粋贈与にはそういったものがなく、見返りを一切考えずに贈るということです。今の世の中に存在する多くのサービスは、お金と交換して行われています。加えて、ビジネスの場では損得を考えて活動しないといけない部分がありますが、そういう風に仕事中は損得を考えて行動している人が家庭で子どもを育てている場合に、おそらく、子どもがどんな風に育とうが、親として『できるだけ学校に行かせてやろう』とか『美味しいものを食べさせてやろう』とか、子どもには全然見返りを求めることなく与え続けると思います。これらの行為が、まさに純粋贈与です。いつも身近で展開していることなので、当たり前すぎて気づかないかも知れない。逆に子どもは、純粋贈与を与え続けてくれている親に本来的に一番信頼を寄せている。純粋贈与があるから信頼が成り立つ。だから、純粋贈与が一番展開しているのは、家族の中なのかなと思います」と田中教授は説明します。

 

「最も愛情深い目的で利用され、最もドライな商品」

現在、我が国では様々な保険に関する商品が販売されています。その中で生命保険、とりわけ死亡保険に純粋贈与との関係性があると田中教授は話します。「死亡保険は『最も愛情深い目的で利用され、最もドライな商品である』と私は考えています。要するに、自身が亡くなったら保険会社から受取人に対して保険金が出るわけです。死亡というのがトリガーになっているので、加入者本人はお金を受け取れませんが、自身が亡くなったあとの家族(受取人)のことを考えて加入しているので、『最も愛情深い』と言うことができる。保険金がなくても、家族のために頑張ってきた親が亡くなった後、おそらく子どもは『今まで頑張って育ててくれた』と感謝すると思います。このこと自体、純粋贈与にあてはまりますが、さらに保険金も遺されていたとなると、『言葉にならない』という感覚になるのかなということです」と、田中教授は保険金には加入者への受取人からの感謝の気持ちなどの様々な想いが込められていると言います。

 

信頼できる人の基底になっているもの

田中教授は、生命保険に加入する際の選び方のポイントについて「消費者側としては、できるだけ選択肢を持って、自分の生活スタイルに合った商品で、かつ今の自分の経済力の範囲内で選択して無理せずに加入することをおすすめしたいと思います」と話します。さらに、対面販売の場面で直接関わりを持つ保険会社の営業職員等の方々が、信頼できる人柄であるかどうかについても言及し、「『この人、信頼できるのかな、できないのかな』というのを見極める方法としては、加入について相談している際に何でも聞いたら良いと思います。『何でも聞く』ということは、販売側にとって聞かれると面倒なことが入っていることもあると思いますし、それで全然結構です。そこで、販売側に得にならないことでも誠実に対応してくれる生命保険募集人は、一番信頼できると思います。単に、自分の得になるために売っている人よりは、明らかに信頼性は高いかなと思います」と、信頼できる人の言動の基底になっているものは、やはり純粋贈与の考え方であることを田中教授は強調します。

 

美しい「在り方」の核にあるもの

番組の中で、例えば、お店で商品を購入した際に店員が購入者を見ないで他の方向を向きながら「ありがとうございました」と言うなど、日常生活の中で「あなたは本当に心からそう思って言っていますか」と言いたくなるような場面があることについて話題があがりました。田中教授は「学生には、色々な場面において『その人の言っていることと行動とを見比べたら良いのではないか』と伝えています。『すごい立派なことを言っているけれど、なんだか行動は逆だぞ』といった具合に、行動にはその人の本心が出ます。一言でいうと、『純粋贈与の要素が入っていない』ということになりますが、おそらくマニュアルで決められているなど、『決まりだからしている』のだと思います。『相手に対する気持ちはない』と言えば、ないですね。その一方で、一期一会などは、純粋贈与の典型的な例の1つです。次に会う機会はほぼないわけで、見方を変えると『適当に扱っても良い』という考え方も出てきます。次に会う機会はないという状況でも、その瞬間を最大限にもてなそうという気持ちを持って行動することは純粋贈与です。よく、『美しい人』や『美しい行動』、あるいは『愛情深い』『人間性が溢れている』『真心』『武士の心』といった肯定的な表現がありますが、おそらくこれらの中心、核にあるものは純粋贈与かなと思います」と語ります。

現在、単身者が増加傾向にあり、生命保険を取り巻く状況が変わりつつあり、また、あらゆる場面で純粋贈与の考え方が崩れてきているように感じられる現代社会においても、家族の中には厳然と純粋贈与の考え方が残っていること、そして、純粋贈与の考え方は、いつの時代でも普遍的に必要なことであり続けると、田中教授は強調しました。

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兵庫県立大学政策科学研究所

国際商経学部

社会科学研究科経営学専攻

 

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