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「歴史を胸に一歩前へ」 兵庫県立大学看護学部 創基30周年・兵庫県立大学地域ケア開発研究所 創立20周年 記念事業を開催しました

12月23日(土)、明石看護キャンパスにおいて「兵庫県立大学看護学部 創基30周年・兵庫県立大学地域ケア開発研究所 創立20周年記念事業 歴史を胸に一歩前へ -CNAS 30 & ケア研20-」を開催しました。

兵庫県立看護大学を前身とする看護学部は、1993年4月に国公立では全国で初めてとなる看護系単科大学として開学しました。1997年に大学院看護学研究科博士前期課程を、1999年に大学院看護学研究科博士後期課程を開設し、大学としての役割が果たせる教育体制が整えられました。その後、2004年に県立大学3大学が統合して兵庫県立大学看護学部となり、2023年の今年、創基30周年を迎えました。看護学部の卒業生は、現時点で2,880名、大学院看護学研究科博士前期課程修了生が450名、博士後期課程修了生が60名となっています。

また、本学の附置研究所である地域ケア開発研究所は、1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機に兵庫県立看護大学で行われていた災害看護の実践・研究活動や「まちの保健室」の活動を基盤にし、2004年12月にわが国で初めて看護学に関する実践的な研究を推進するための研究所として開設しました。本研究所は、「社会のニーズに応え、地域の特性に合わせた看護ケアシステム等の構築・開発の研究を進め、その成果を広く社会に提案し、人々の命と暮らしをサポートすること」を目的に、災害看護、国際地域看護、在宅ケア・遠隔看護、公衆衛生・地域看護に関する活動を行っており、今年で20年目を迎えました。このたび、看護学部創基30周年と本研究所創立20周年を記念して、記念式典及び記念講演会を開催しました。

※「まちの保健室」…兵庫県看護協会が地域の関係機関等と提携して行っている地域の健康支援活動。「学校の保健室」のように、一般の地域住民の方々が心や体に関する様々な気がかりや問題を看護職に気軽に相談でき、健康増進できる場となることを目指して行われている。

 

記念式典

はじめに、看護学部の工藤美子学部長と地域ケア開発研究所の増野園惠所長から主催者挨拶がありました。

 

工藤学部長は、挨拶の中で看護学部の歩みや沿革を紹介しました。その中で、看護学部の設置目的について、「医療の高度化や疾病構造の変化によって、看護も急速に複雑・高度化し、資質の高い看護職が求められていることから、様々な分野で活躍できる看護職の育成と、看護学の教育、研究、実践により、人々が安心して健康な生活を送ることができる文化の形成と、学問の発展に寄与することとしている」と紹介しました。また、学部内にがん看護開発センター、臨床看護研究支援センター、周産期ケア研究センター、デジタルヘルスケア・センターの4つのセンターを設置して、リカレント教育や研究活動を実施していることも紹介しました。今後の展望については、「看護の力を可視化・発信しながら、データヘルスやデジタルヘルスを基盤に健康の維持・増進や病状の悪化予防のために、地域で生活する人々がセルフケアできるよう研究・教育を進めていく。デジタルヘルスケア・センターを中心に、医療機関だけでなく、自治体や地域との連携を強化し、異分野融合、医産学看の連携を主な活動として、地域の方々のwell-beingの支援に取り組み、10年かけて人々の健康を担うヘルスケア拠点を創出していきたい」と述べました。

 

次に挨拶した増野所長は、地域ケア開発研究所の開設までの経緯や研究所における研究・実践活動の内容を紹介しました。また、2020年9月に日本学術会議から発出された提言「「地元創成」の実現に向けた看護学と社会との協働の推進」を取り上げ、提言の策定には本学の南裕子名誉教授をはじめ、看護学部及び地域ケア開発研究所の土台を築き、けん引されてきた元教員が委員長または委員として関わっていたことを紹介しました。増野所長は、「この提言で提唱された地元創成看護学の考え方は、本研究所が開設以来大切にしてきた考え方であり、これまで続けてきた取組に共通するものである」とし、「だからこそ今、本研究所の真価が問われている。地元創成看護を具現化する看護学の実践研究所として、いかにその価値を示せるかが試されているときであると感じている。少子高齢化が進む中で、災害や感染症による健康危機に対して、レジリエントで持続可能なヘルスケアシステムの構築や、住民の方の健康等のwell-beingを支えるイノベーションは、待ったなしの課題である。まちの保健室や災害支援等の実践活動を基盤として、地元や人の暮らしの中にある課題を研究テーマとして探究し、シンクタンクとして研究成果を課題解決につなげ、世界に向けても発信していく。そのような研究所として発展していけるよう努力していきたい」と話しました。

※地元創成看護学…地元(home community)の人々(population)の健康と生活に寄与することを目的として、社会との協働により、地元の自律的で持続的な創成に寄与する看護学のこと(日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会「提言「地元創成」の実現に向けた看護学と社会との協働の推進」より)

 

主催者挨拶後、来賓の方々から祝辞をいただきました。

兵庫県総務部長の小橋浩一氏による齋藤元彦兵庫県知事からの来賓祝辞の紹介

 

明石市副市長で明石市長代理の佐野洋子氏による来賓祝辞

 

その後、國井総一郎理事長、髙坂誠学長からの祝辞がありました。

國井理事長は、「時代は大きく変化している。特に高齢化・グローバル化が急速に進む中で、日本は世界一の高齢化推進国である。現在、社会で最も重要な解決すべき社会課題は、介護・看護である。日本だけでなく世界にも目を向け、看護学部の伝統であるチャレンジ精神で、世界の看護学をリードしていただくことを期待している」と述べました。

 

髙坂学長は、「看護学部の創設直後に起こった阪神・淡路大震災では、看護職やボランティアの派遣・配置を行うボランティア調整本部がここ明石看護キャンパス内に置かれ、被災地での支援活動に大きな役割を果たされ、世界に先駆けて災害看護学を打ち立てる大きな契機になったとお伺いしている。本学の誇りである看護学部、地域ケア開発研究所の皆さんが、これからもケアの心でもって、しっかりと人に寄り添い、人の幸せを守り、データヘルスやグローバルウェルビーイングなど、新たな分野でもイニシアチブを発揮して、世界の看護学をリードしていかれることを期待し、応援している」と述べました。

 

記念講演会

記念講演会は、看護学部及び地域ケア開発研究所に縁のある方々を講師にお迎えして行われました。

 

まず、兵庫県立看護大学初代学長で、本学の元副学長である南裕子名誉教授にご登壇いただきました。南名誉教授は「30年というのは、組織を発展させることができ、また、私もこの大学の発展を一緒に見させていただいてきた。一方で、組織というものは30年経ったらだんだん固着し始めて破れなくなるのものだと思っている。今日は30周年という節目に、今提示されている方向性だけではない、新しい方向性も視野に入れてもらいたい」として、将来の社会の動きを見据え、今後看護職に求められることや必要な視点などを軸に講演を展開されました。

講演では、福祉に強い看護職の育成の必要性や、災害看護の領域においては雪の災害への対応を強化する必要性があること、また、急速に進む少子高齢化の裏にある人口減の問題については、看護師を志す希望者や患者が減少していく状況においても、社会に役立つ未来志向の研究をすることのできる研究者を育成していくことの重要性について言及されました。コロナ禍でめざましくなった経済格差と関連のある健康格差については、「私は第二次世界大戦後の貧困を自ら経験している世代であるが、そのような世代は今の現役世代にはない。『貧困を本当に知っている人』になってほしい。今のイスラエルやウクライナのことが、わが身のことになれる地球人になれるかどうか。これが今のCNASの課題だと思う」と話され、世界全体で健康格差の問題に取り組む必要があると指摘されました。

最後に南名誉教授は「ケアは、人と人とが関わって、そこで『私は私であって良いんだ。私は生きていて良いんだ』と気づくのに付き合うこと。相手を主役にしていくことができるケアのエッセンスがあって、そこから健康格差、地球温暖化、戦争や紛争といった世界をケアの専門家が見たときにどういうふうに見えるのか。私は、CNASの学部、研究科及び研究所の教職員のみなさんと、卒業生、修了生、また、関係のみなさんに期待している」と話され、講演を締めくくられました。

 

続いて、WHO協力センターでもある地域ケア開発研究所とつながりのあるWHO健康開発総合研究センター医官の茅野龍馬氏から「変化するグローバルヘルスのニーズとWHOの取り組み:兵庫県立大学との協働・連携への期待」と題してお話しいただきました。講演では、世界の経済状況の変化により世界の平均寿命が延びて70歳を超えた一方、世界全体で出生率が低下し、高齢化が起こっていることや、グローバル時代の感染症対策について言及されました。茅野氏は「『自分が何をして、どこにコミットしているのか』という全体像が見えた方が良い。『世界はこういうふうに動いてきている。その中で、私は何をすべきか。そして、今ローカルでしていることがどうグローバルにつながっているのか』ということを、ある程度の文脈を持って見ることができると、自分のしていることの価値がより多面的に見えるのではないかと思う」とグローバルな視点で課題を捉えることの大切さについて話されました。

 

本学看護学部の卒業生で看護学研究科博士前期課程の修了生でもあり、現在は認定特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会において、在日外国人支援事業担当として国際的に活躍されている山本裕子氏から、「卒業・修了後のあゆみとこれから~国籍関係なく全ての人々が健康に暮らせる社会の実現のために~」と題してお話しいただきました。

山本氏は、本学で過ごした学生時代に外国籍の方の健康問題を卒業研究で扱ったことや、タイの学生とともに学ぶスタディツアーに参加してホームステイをするなどの経験をしたことが、現在の活動につながっていると話されました。現在の活動を通して今後叶えたいことについては、母子保健の場面で、公共サービスとして日常的に医療通訳サービスを活用できる環境をつくることや、多くの看護職の方々とともに、多職種や外国人コミュニティと連携して社会課題を解決することなどを挙げられました。

 

講演会後には、卒業生・修了生・教職員交流会が催され、卒業生・修了生の方々同士、また恩師の教員を囲んで近況を報告し合ったり、思い出話に花を咲かせるなど、楽しい再会の機会となりました。また、会場となった明石看護キャンパス内には、卒業生・修了生・旧教職員からのメッセージの掲示コーナーや、当日の参加者が自由にメッセージを掲示することのできるコーナーが設けられ、足を止めてメッセージに見入る参加者の姿が多く見られました。

 

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